魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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26日から書き始めました。



FILE #83 蒼海幇vs竜ケ崎 大将戦 ― 後編

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いざ尋常に、勝負致せ」

 

「よしなに」

 

 二人は龍虎の如く睨み合い、お互いに武器を取って構えた。

 梅華(メイファ)は右手で逆刃刀を入れた鞘を握り、低く腰を沈めて居合の抜刀体勢を取る。綾濃の右足は先ほど破壊した。先のように跳んで避ける事は不可能、ならば武器で受け止めるしか防ぐ術無し、と判断した。

 対する綾濃は脇差を抜くと、正眼に構えた。その脚の運びを見て、梅華の眼が鋭くなる。

 

「その構え……よもや、柳生、ですか」

 

 緊張を伴った梅華の呟きに綾濃はフッと微笑んだ。

 『柳生新陰流』――とは剣術の流派の一つである。

 使い手は、世間一般では『柳生十兵衛』が代表例だろう。

 伊賀上野で生まれたこの剣術は、室町時代末期に、剣聖・上泉(かみいずみ)信綱(のぶつな)愛洲陰(あいすかげ)流の一手、『転』(まろばし)を工夫し、『新陰流』と号した。

 上泉信綱に師事した柳生宗厳(むねよし)が『無刀』を開悟し、『柳生新陰流』の祖となったのが、始まりである。

 

 綾濃は忍法の使い手……そして柳生新陰流発祥の地は、伊賀……これが意味することは一つ。

 

「確か、柳生新陰流も、元来は忍法であったと……」

 

 恐らく、先の綾濃の跳び蹴りは、極意『猿飛』を応用した技であろう。

 普通、跳ぶという動作は足を縮めて、垂直に跳び上がる。屈んだ時に、大きな隙が出る。

 だが、『猿飛』は、腰の力で跳ぶのだ。屈む動作無しに跳ぶから、隙が無い。

 

 無論、このような常人離れの動きは、魔法少女でも魔力を使えば可能だ。だが、相手に感知されやすく、動きを読まれやすい。

 やはり、武術の達人でなければ容易にはできない技である。

 

「よくご存知ですね」

 

 綾濃はそこで笑みを消すと、テレパシーで梅華に語り掛ける。

 

(先ほど、貴女は仰っていましたね……。日本では戦後73年間、大きな争いは無かったと)

 

(ええ)

 

(おかしいとは思いませんか?)

 

(…………)

 

 脳に響く声色はとても穏やかだったが、圧倒的な覇気を梅華は感じていた。表情筋が自然と強張る。

 

(確かに貴女の言う通り、日本人は第二次世界大戦における敗北・他国の従属への反省から、争いを()()()()()避ける様にはなっていったと思います。……しかし、それだけで、魔法少女発覚の混乱さえも、抑えられていると?)

 

 それは10年前、アメリカで発生した大事件が原因だ。魔法少女が全世界に認知された、悍ましい事件――

 

(日本では、法律上、警察組織や自衛隊に魔法少女は配属できない。しかし、私のような『山の民』は確かに存在する……この意味が、分かりますか)

 

(まさか)

 

(ふふ……我々は、古来より御国に仕える“忍び”として、あらゆる不穏分子から混乱を防いでいたのですよ。……10年前に関しても、ね)

 

 綾濃の答えに梅華の背筋が冷えた。

 この国は、魔法少女を極秘裏に操り、魔法少女が世間に露呈された状況も想定していたというのか。

 綾濃は語る――――

 『山の民』の魔法少女達……つまり、“くの一”は、日本全国を駆け回り、一般人と魔法少女同士の衝突や、困窮に陥った魔法少女による犯罪行為、絶望による破壊等、社会の混乱を抑えるべく、暗躍していたのだと。

 

(この国は、貴女が今仰ったように……国民個々の“優しさ”によって魔法少女は緩やかに受け入れてもらう……そういう方針なのですよ)

 

 その“優しさ”とは恐怖である。

 先の大戦への忌々しい記憶、長く続いた貧困からなる国民同士の奪い合い――先の見えぬ不安に彩られた日々を二度と繰り返さない為に――という題目で。

 

(何故、斯様の事を(それがし)にお教えなさるのです。純粋な日本人では無い、某に……)

 

(ふふ、貴女は口の堅い方だと、直感で思いましてね)

 

 即座に梅華は首を振った。

 

(よく言われますが……印象での判断は当てになりませぬ)

 

(では問いましょう。何故、貴女は口調や些細な仕草に至るまで、日本人に()()()()()、としているのです?)

 

(…………)

 

 梅華は表情はそのままに、沈黙した。綾濃の口元がより愉快そうに吊り上がる。

 

(日本に来られる前……祖国に住んでいた過去を、忘れたいからではありませんか?)

 

(…………)

 

 梅華は否定せず、沈黙を貫いた。それだけで綾濃を満足させるには十分だった。

 

(図星、ですか)

 

(………………)

 

(ふふ……“今”の貴女は真面目で筋を通す方だ。今はそれで、十分です)

 

「っ!!」

 

 瞬間、梅華は目を見開いた。

 

 

「きゃー! こわーい! 助けてー!!」

 

 

「ッ……!??」

 

「「「「「「!?!?!?!?」」」」」」

 

 突然、目の前で展開された光景に、梅華と、観客全員が混乱した。

 綾濃は突然背中を向けると、女子のような悲鳴を挙げて逃げ出したのだ。

 

「!?……???」

 

 梅華、硬直。

 当然だ。ほんの4、5秒前まで綾濃の形相は戦意充分であった。それが掌を返すように一変。あまりの違和感にビックリ仰天の余り、思考が空白した。

 

(メイ)姉!)

 

「ッ!? ……っ!」

 

 審判の美雨(メイユイ)テレパシー(呼び掛け)で、梅華は眼を覚ました。

 とにかく、敵は背中を見せているのだ。逃してはならないと、慌てて梅華は足を大きく一歩踏み込んだ。

 綾濃は利き足を負傷している為、逃げ足は鈍足。追いつくことは容易い。背中に密着すると、胴目掛けて逆刃刀を勢いよく薙いだ。

 

 が、次の瞬間――――綾濃が消える。

 

「むっ」

 

 一瞬、腰を捻ったように見えた。

 飛翔した訳では無い。目線を下に向けると、自分の足元で綾濃がしゃがみ込んでいた。

 その両手には脇差がしかと握られている。股下に潜り込ませた刃が手首をひねって上を向いた。

 そのまま股間に向かって垂直に斬り上げる!

 

「っ」

 

 梅華の背筋に悪寒が走り、息を飲んだ。

 

「くっ」

 

 考える暇は無かった。梅華はいちかばちかの賭けのつもりで、爪先に力を込めて背後に飛んだ。

 綾濃の脇差がギュンッと音を立てて空気を切り裂き、剣尖が天を仰ぐ。

 寸手のところで回避は成功した。梅華はバク転の要領で、両手を床に付き、体勢を整えた。

 街灯を受けて銀色に瞬く刀身を睨みつけて、梅華は忌々しく呟く。

 

「“逆風の太刀”か……!」

 

 それは、柳生新陰流の極意の一つだ。確か……

 

「股裂き、即ち、金●を狙う技……」

 

「その通り。●ンタマです。戦国時代、多くの武士は鎧を着て戦をしましたが、纏わないのはは股倉だけですから。キン●マを狙う事はつまり必殺となり得ました」

 

 

 

「ちょっとちょっと!! いい大人がデカい声でキ●タマキンタ●言わないでよっ!!」

 

「つ、鶴乃ちゃん……鶴乃ちゃんも言ってるよ~……」

 

 ――――無論、試合を観ていた子供達には大ウケであったのは言うまでも無い……。

 

 

 

「●玉……か」

 

 言うまでも無いが、梅華は魔法少女であり、女性である。●ンタマは無い。

 しかし、どんな人間でも、筋肉の無い箇所は『急所』であり、強い一撃を貰えば『必殺』となるのだ。

 股間に筋肉は無い。

 無論、魔法少女なら魔力によるプロテクトが自然に纏われるが、綾濃レベルの達人から今の一撃を喰らえば、内腑の損傷は避けられまい。やはり筋肉が有る箇所とは受けるダメージが全然違うのだ。

 

「ですが……僭越ながら、一つ、意見申し上げたい」

 

「なんなりと」

 

 綾濃が笑みを浮かべて頷いた。

 梅華の知識はかなり深い。なので、今の“逆風の太刀”に関することだろう、と捉えていた――

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

「“キンタマ”は、アイヌ語だ」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――だけに、意外だった。

 

 今度は、綾濃が“虚”を突かれた。

 

 ――――梅華、動く。

 

 雷鳴の如くけたたましい金属音が会場全体を震撼させた。梅華が一瞬の内に踏み込み、神速の居合抜きを綾濃の首筋に向けて放っていた。直撃寸前で、綾濃はかろうじて受け止めた。その表情は、苦々しく歪んでいる。

 

「…………っ」

 

「仕損じたか」

 

 踏み込みに相当の力を込めたのか、梅華の表情筋も強張っておりさながら鬼の形相であった。

 剣撃を受け止めた脇差を握る手をわなわなと震わせながら、綾濃が呻くように漏らす。

 

「……ふふっ、“まやかし”を用いるとは、案外非道ですね」

 

 ――――訳がわからなかった。

 

 綾濃にとって、先の梅華の“下ネタ”は全く予想の範囲外だった。彼女のイメージとは掛け離れた言葉に、ビックリ仰天の余り、思考が止まった。

 それが、大きな隙となった。見切りがあともう一瞬遅れていれば、敗けていた。

 

「兵は詭道なり……故に、剣を用いる我等も又、詭道邁進」

 

 こちらを睨み据えながら、低く発せられた梅華の呟きに綾濃は感心した。

 武道家とは正々堂々、真正面から戦うべし――――世間一般の多くはそう捉えているが、それは誤解である。

 そもそも多くの武道や剣術は元来、“人殺し”の技術である。

 真正面から殴り合い、斬り合っていてはまず勝てないし、こちらが死ぬ確率も高い。

 ましてや相手が集団であった場合に、基本通りの立ち振る舞いは、至極非合理である。

 ならば、如何に敵を欺き、隙を突いて仕留めるかが、鍵となる。

 

 よって、多くの武道の極意や秘伝には、『まやかしの術』が存在するのだ。

 その原理は、至極単純――――いきなり『訳の分からないこと』をするのである。

 いきなり綾濃が悲鳴を挙げて逃げ出したように。先の梅華の“下ネタ”のように。

 訳の分からないものを見せられると、相手は驚く。どうすればいいか、咄嗟に判断できなくなる。気持ちの動揺が大きな隙となり、そこを突かれる。

 

「貴殿もまやかしを用いたであろう。至極尋常。当たり前のことだ」

 

 竜宮綾濃は忍者である。よって、最初から正攻法は通用しないと梅華は考えていた。

 しかも柳生新陰流の使い手だ。

 その剣術にも当然、『まやかしの術』は存在する。『転』(まろばし)が代表例だ――でなければ、名前に“陰”など付けない。

 

(なるほど、()()に勝負致せ、とは……そういうことでしたか)

 

 剣が押し切れないと見るや、即座に鞘に戻す梅華を見据えて、綾濃は嗤う。

 剣士とは詭道たるもの。梅華の言う“尋常”とは、自分も欺くから存分に欺け、という意図であったのか。

 迂闊だった。梅華の精悍なイメージに囚われ過ぎて、言葉を勘違いして解釈していた。正々堂々と来るならば、まやかしは有効、と……。

 思えば、あの時点で、彼女は“まやかしの術”を使っていたのかもしれない。

 

(然れば……)

 

 綾濃は再び脇差を正眼に構えた。梅華の瞳がギンと鋭く瞬く。

 

「貴殿にはまだ秘剣がある筈、存分に示されよ」

 

「フフッ……その言葉、後で後悔しても知りませんよ?」

 

 綾濃が緩やかに笑うと、足元に魔法陣が発生した。固有魔法の発現。

 強力な魔力の反応を感じ取り梅華は天を仰いだ。綾濃が脇差を天高く掲げたのは同時だった。

 数多の星が輝く夜空を、暗雲が覆い始める。

 

「二ノ太刀・“雨”」

 

 天が漆黒に染まったタイミングで綾濃が小さく呟いた――瞬間、観客全員が一斉に目を見張り、耳を塞いだ。

 鼓膜を劈く程の轟音を叩き鳴らす豪雨が擂台(れいだい)に乱舞する。当然、梅華と綾濃の頭から諸に浴びた。だが二大巨頭は、叩き付ける冷雨に痛みも悪寒も感じていない。互いに滾る闘志がそれを忘れ去っているかのように。

 

「………………」

 

「………………っ」

 

 綾濃は脇差の剣尖を天に仰いだまま。

 梅華は天を仰いだまま、じっと待つ――――瞬間、雨粒に紛れて銀色に光る何かが無数に見えた。

 梅華が瞳をカッと見開く!!

 

「覇ッ!!」

 

 梅華は豪雨を降り注ぐ天に向かって、チェーンパンチを打ち込んだ!

 その速度は、門下生の中でも最強の実力者であるだけに、先の美篶(メイイェン)心蝶(シンディエ)が繰り出したものとは比較にならない。正に光速の連続突きが、銀色の雨粒を次々と受け止めていく。

 脇差を天に掲げたまま、綾濃はその様子をじっと見つめていた。

 光景に見惚れて、感嘆の息を漏らす。

 

 

 

「「「「「………………??」」」」」

 

 一方、観客一同は耳を塞ぎながらも、ポカンとしていた。

 雨に打たれながら、天に向かって目に見えぬ程のチェーンパンチを打ち込む梅華の姿は、美しい物があった。しかしだ、一体何をしているのか分からない。

 

 ――――10秒程経ち、雨が止んだ。

 

 

「……えっ?」

 

「ママ……!」

 

「……っ」

 

 いろはが目を見開き、花織が驚き、ななかが目を細めた。

 雨が止んで、梅華は両拳をだらりと下した。握り締めたそこから、鮮血が滴り落ちている。

 掌を解放。

 途端、観客席の一部分では悲鳴が挙がった。

 開かれた梅華の手から、無数の銀色に瞬く何かが、ばらばらと床に落ちる。

 一般人には分かりにくかったが、応援している魔法少女達の目にははっきり見えた。彼女達の肝を抜くには十分。

 それは――――刃物。雨粒に紛れる程に、小型の。

 

「くっ…………!?」

 

 鮮血に塗れる両掌の痛みに梅華が呻く――――暇も無かった。

 綾濃が姿を消している。瞬間、足元が震えた。

 

「っ」

 

 強烈な殺気!!

 驚いたまま下を見ると、既に屈んで脇差を自分の股下に潜り込ませている綾濃が居た!!

 拙い、“逆風の太刀”だ――――

 綾濃が腕をひねり、そして手首をひねる。一瞬で刃が上を向いた。ギュンと空気を切り裂く音が鳴るよりも早く梅華は腰を捻った。

 綾濃の目が見開かれる。振り上げた剣尖は再び何も触れずに、暗天を仰ぐだけで終わった。

 首を上に向けると、梅華の背中が視界に映った。彼女は跳んでいた。“弾み”を付けたようには見えなかった。膝を伸ばしたまま、跳んでいた。

 綾濃が振り上げた剣尖よりも、高く!

 

「……っ」

 

 梅華は距離を取って着地した。必殺の一撃を再び躱すことに成功。しかし、

 

「っ!?」

 

 安堵するにはまだ早かった。ばりばりばりと音を立てて、何かが接近してくる!

 それはなんと、“氷柱(つらら)”であった。氷の剣山が床を走るように次々と出現し、梅華に迫ってくる!

 ――――寸前で、バックステップして梅華は回避する。見切りがあと半瞬遅れていれば全身が氷漬けにされていた。氷柱の先端が微かに右肘辺りを掠め、血が滲み出る。

 

「……一ノ太刀・“月”」

 

 右肘を抑えながら前を向くと、脇差を振り上げたままほくそ笑む綾濃が居た。

 その刀身を見ると、“満月”がくっきりと映り込んでいたので、梅華は暗天を仰いだ。

 綾濃の真上の雲だけが消え失せて、満月が姿を見せている。

 ――――先の“雨”といい、恐らく、綾濃の固有魔法は天候を操る能力か。

 今の技は、刀身に月を映し出す事で、剣技を発した際の風圧に絶対零度を伴わせる、というものだろうか。

 

「驚きました。あの状況から“逆風の太刀”を躱すどころか、“猿飛”まで使うとは……!」

 

 脇差が震えていた。綾濃の表情は喜びに満ちていた。

 梅華の才能への期待、自分に匹敵する好敵手(ライバル)の出現、その歓喜に。

 

「“猿飛”に関しては、見様見真似ですが……それしか確実に躱す術は無いと存じました」

 

 しかし、その術を用いるには、拍子と呼吸を合わせることが必要だ。

 相手の攻撃が思ったより早かったり遅かったりすれば、足を打たれることになる。

 相手の動きにタイミングを合わせることが必要である。

 

「つまり、“逆風の太刀”も一度見ただけで覚えた、ということですか……面白い」

 

 にぃっと綾濃は口の両端を吊り上げた。狂喜が理性を喰らい始める。武者震いが更に大きくなり、天に掲げた脇差がカタカタと音を立てて揺れた。

 暗雲が再び月を覆い隠すと、ゴロゴロと音を立てて発光する。

 観客は一斉に息を飲んだ。綾濃は次に何をするつもりなのか。梅華も、再び逆刃刀を居合腰に構えて身構える。

 

 ――――綾濃に向かって一直線に“稲妻”が落ちた。天に掲げた脇差の剣尖が避雷針となって受け止める。

 

 凄まじい爆音に、観客から悲鳴が聞こえた。

 綾濃の脇差に、膨大なエネルギーが集中した。直後、梅華が目を見張る。稲光を伴いながら、太陽の如く眩く光る脇差を綾濃は鞘に戻すと、梅華をしかと見据えて、腰を深く落とした。

 

「奇しくも、奥義は同じ」

 

「…………!」

 

 ――――居合か。

 “雷”を纏った綾濃の脇差から感じ取れる熱は凄まじく、梅華の額に汗が滲んだ。

 間違いなく、次の一閃が勝負を決める一瞬となるだろう。

 

「耳に挟んだことがあります」

 

「…………」

 

「神浜には“雷神”が居ると。その剣閃は、迅雷の如し」

 

「…………」

 

 梅華は何も答えず、ただ、腰を落として、綾濃をしっかりと見据えていた。

 

「蒼海幇、洪 梅華。……勝負」

 

 綾濃は分かっていた。今まで梅華が繰り出していた“居合”は、本気のものでは無いと。

 必殺秘剣・迅雷斬り――――それを見せて貰う為には、

 

「三ノ太刀――――」

 

「…………!!」

 

 こちらから本気を見せるべきだと。

 稲光を纏う脇差の光が激しさを増した。だが、梅華の目は眩むことなく、寧ろカッと見開いた。

 

「“雷”」

 

 瞬間、綾濃が脇差を抜くと同時に、消えた。

 

「っ!!」

 

 神速で剣を薙いだ時、綾濃は見た。

 梅華が大口を開けたのを。覆っていたマスクが口に入り、思いっきり噛み締める。

 ――――目を細めて、確認。

 あれは“マスク”では無い。

 

「ッ!!」

 

 高密度に圧縮された“ゴム”だ。それがマウスピースの役割を担う。噛んだ瞬間、梅華の形相が再び“鬼”と化した!!

 

 

「覇!!」

 

 

 梅華、吠える。

 彼女の腰元から閃光が走った。綾濃の脇差のように“雷”を纏っていた訳ではない。

 しかし、綾濃や観客一同の目には、白銀に光る刀身が、さながら“雷”の様に見えたのだ。

 

 ――――秘剣・迅雷斬り。

 

 二筋の閃光が、二人の眼前で合致した。

 甲高い金属音とともに青火が散り、金気が流れた。

 

 瞬間――――発光。大爆発。

 互いが剣に込めた莫大な魔力と熱量が、衝突と同時に破裂した。

 擂台(れいだい)が激しく揺れる。爆発の中心から数多の稲光が発生し、擂台中を焼き裂いた。凄まじい勢いで地割れの如き罅が発生する。

 

 

 

 

「ママ――――――!!!」

 

 

 

「「「「「……………………」」」」」

 

 花織が叫んでいた。

 応援席の魔法少女達も、壮絶なる光景にただ圧巻され、全員が言葉を失っていた。

 ただ、固唾を飲んで見守っていた。二人の無事を。そして、信じる者の勝利を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 長らくおまたせ致しました。
 
 書き始めたのは26日だったので、執筆時間そのものは10日程だったのですが、今回の為に、【柳生新陰流】を学ばなくてはいけなくなりまして……

 参考となる小説を読み漁っていたら、ここまで間が開いてしまいました……。
 
 あとはリアルで色々始めたせいで、執筆に割く時間が中々作れなかった、というのも原因の一つですね……。

 また、よろしくおねがいします。
 では。
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