魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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新展開です。


FILE #87 次に向けて

 ――――2018/07/19(日) PM14:00

 

 ――――神浜市神浜町・中央区

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日――――

 

 神浜市役所・地下一階『ミロワール』

 

 

 

 

 解放されているとはいえ、普段はあまり人気の無いこの店にしては珍しく、多くの男女が集まっていた。

 

「……うっ」

 

 その内の一人であり、治安維持副部長の都ひなのが、その顔ぶれを見て思わず息を飲んだ。

 基本的には、魔法少女同士の井戸端会議とか、常連の春径による店長みたまへのナンパ合戦が開催されていたりするのだが。

 今日に関しては、間違いなく違うと断言できる。

 

 治安維持部長・七海やちよ。

 

 調整課長・八雲みたま。

 

 そして、自分。

 

 ―――と、ここまでは、お馴染みの面子である。

 問題は他の連中だった。

 

 

 神浜市警察刑事課警部・塚内直正――――

 

 皇グループ会長・皇 陸翔(りくと)――――

 

 蒼海幇グループ会長・(ワン) 海龍(ハイロン)――――

 

 その秘書、(ヤン) 秘輝(ミーフゥイ)――――

 

 謎の情報屋・春径(はるみち)――――

 

 そして、

 

「オホホホホ……」

 

 不気味な笑い声と共に姿を現したのは、腰の曲がった、ベージュ色のドレスを纏う老婆であった。

 ここに皆を集めた張本人、朝ヶ谷 (こうの)である。

 

「皆様、この度はお忙しいところご足労頂き、誠にありがとうございまし――――た!!」

 

 その姿も束の間!

 鴻が自分の首元に手を掛けて引き上げると、老婆の顔がぺりぺりと剥がれていく。

 内側から素顔を顕したのは、神浜市長・夕霧青佐であった。彼女は老婆のマスクを天高く放り投げると、用意された椅子に座るよう皆に促す。

 

(登場の仕方はともかく……凄いメンバーだな)

 

 完全に圧倒されるひなの。

 彼女自身、魔法少女としては熟練者であり、また副部長として相当の経験を積んでいると自負しているが、このメンバーに囲まれれば、その意気も一瞬で蛇に睨まれた蛙と化す。

 自分は場違いじゃないのか、とつい逃げたくなる程に。

 

(塚内警部や春さんはまだ分かるが……皇グループ会長に、青海幇まで加わるとは。これじゃあまるで神浜市政の陰の首脳会議だな)

 

 このように、神浜市役所には、裏の議会が存在する。

 メンバーは全て、青佐が自らスカウトした者達だ。

 青佐は、度々『年金暮らしの老婆、朝ヶ谷鴻』に変装しては、業務からこっそり抜け出していた。市内を徘徊し、市民の暮らしを直に眺めてきた。

 その中で、彼女の御眼鏡にかなった者(能力の秀でた者、実力を隠し持っている者)を見つけると、正体を明かしてメンバーに加えていた、という訳だ。

 

(まあ、表がもう少しマシなら、こんな真似しなくて済んだんだろうが……)

 

 表とは、神浜市議会のこと。つまり本来の議会のことである。

 青佐は市長だが、決して独裁権は無い。日本が民主主義である以上は、如何に首長が質実剛健で血気盛んな者であっても、議会の承認無くしては動けない仕組みになっているのだ。

 よくメディア等で『〇〇知事は、××市長は独裁者だ~』的な批判を耳にするせいで勘違いされがちだが、実際のところ、そんな真似ができる首長は日本中探してもどこにも存在しないのである。

 

 その市議会に、問題があった。

 議会メンバーは、青佐の市長就任以降は彼女自身の働きもあり、新進気鋭に満ちた若手が増えているが、現状は、旧水名流――つまり、官僚主義・家柄主義に囚われた老獪な狸爺ども――がまだまだ現役役員として幅を利かしているのである。

 そういった連中は、目先の利権のことが何より重要で、市民の未来などちっとも視野に入れていない。

 会議でも青佐の話を聞かないどころか盾突いて難航させたり、家柄だけで自分は偉いと信じ切っているため、一から実力でのし上がった者にパワハラを与えたりと百害有って一利無しである。

 

(そういった連中による滞りがちな政治を動かす為に、裏で集め出したってワケだが……なんだかなあ)

 

 どういう訳か、気が付いたら、物凄い面々が集まってしまっていた。

 最早、神や悪魔が来ようが、この集団を前にしたら土下座して一目散に逃げだすに違いない。

 

「今回から、僕も参加させて頂けるなんて光栄ですよ」

 

「こちらこそ。よろしくお願い致しますわ、皇 陸翔会長」

 

 陸翔が歩み寄り、青佐と固い握手を交わす。

 実は彼も、青佐と同じくここに来るまで変装していたのである。何気に似た者同士の二人であった。

 

「私も、声を掛けて貰えるのは久しぶりだね」

 

「ええ、表にはナイショですけど……ある大きなプロジェクトを考えていましてね。その筋の大ベテランである(ハイ)さんには、ぜひ、アドバイスを頂きたいと思いまして……」

 

 眼鏡を光らせ、不敵な笑みを海龍に向ける青佐。

 ひなのの眉間に皺が寄る。そんな一大プロジェクトを話す相手が、中国企業家というのは嫌な予感がするのだが。

 

「久々にアレをやるのか。で、範囲はどのくらいだね?」

 

「そりゃもうでっかく。神浜市を作り変えてしまうほどに」

 

「それは面白い! 是非とも協力させて頂くとしよう」

 

 海龍は、龍王の異名に不釣り合いな緩やかな笑みを浮かべていた。

 青佐曰く、海龍とは旧知の仲であり、市長になる前にちょっと世話になったらしい。

 

(ミー)

 

「この楊 秘輝。神浜市長のお願いとあらば、誠心誠意を込めて、尽力致すでごザンス」

 

「よろしくお願いしますね、秘輝さん」

 

 海龍に促され、青佐の前に歩み出た秘輝が恭しく頭を下げる。

 そして……

 

 

「オレも参加させてくれるってことで良いんだよな? ばーさん」

 

 

 不意に奥から聞こえてきたハスキーボイスに全員が目を向ける。

 にっこりと笑顔で、しかし眉間に皺を寄せた青佐がその少女を睨み据える。

 

「何度も言わせないで。ばーさんはやめて」

 

「じゃばばあだな」

 

「まだ52だっつーの!」

 

「いやばばあだろ」

 

「ごじゅうに!!」

 

 市長相手に遠慮なしの発言連発に、他の全員が唖然となった。

 暗がりから姿を現したのは、金髪長身の少女――深月フェリシアであった。

 

「こいつも……?!」

 

「オレも信じらんねーけどな」

 

 思わずギョッと目を震わすひなのに、へへっと微笑を返すフェリシア。

 

「しかし、彼女は元傭兵の筈だが……?」

 

 塚内警部が小声で独り言ちる。

 深月フェリシアは、以前、傭兵業として裏社会を転々としており、『メカニック』と呼ばれる“稼ぎ頭”の一人として畏れられる存在であったと聞いている。

 

「私が推薦しました」

 

 やちよが塚内に小声で返す。

 

「なるほど、そういうことか。以前君は、魔法少女のマル暴的なチームが欲しいと言っていたが」

 

「そのきっかけとなるのが、彼女です」

 

「しかし大丈夫なのかね?」

 

「傭兵は、身の安全が最優先事項です。市長と“私が”この街に居る限り、絶対に不貞を働く事は無いと断言できます」

 

「なるほど、それなら安心だな」

 

 やちよの言葉に塚内は笑って返す。

 

「で、市長さんよぉ……」

 

 そこで、みたまの隣で今まで黙していた浮浪者風の老人・春径が青佐に向けて口を開く。

 

「今回、俺達を集めた目的ってのは一体何だい……?」

 

 酒狂いとは思えぬ、獲物を定めた獣のような、鋭く冷えた視線。

 青佐は一切動じずに、笑顔を向けて、言い放った。

 

「新規の方もいらっしゃいますから、顔見せに。あとは、さっき申し上げた、極秘プロジェクトのことですね」

 

「オレみてぇな口の軽い道楽モンに話したら極秘じゃねえと思うがなあ……まあとにかく、そいつぁ一体なんだい?」

 

「“陽”ですよ」

 

 青佐は屈託なく笑って――しかし、常識的に考えて、異常過ぎる事を言い放った。

 

 

「神浜に“太陽”を創ります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――数時間後、神浜市長執務室。

 

 

「正気を疑いますね」

 

「やっぱりそう思うわよね」

 

 そこにはデスクに座る青佐と、対面する形でひなのとやちよが立っていた。

 心底呆れかえった顔で言い放つひなのに、青佐は自嘲気味な笑みを浮かべていた。

 

「で、その“陽の陣”とやらは教授案件ですか?」

 

「当たり」

 

「非科学的な……」

 

「あらひなの、貴女は今野敏の作品を読んだことはないの?」

 

「いや特には……」

 

「あなたたち魔法少女だって、魔法陣を形成してから魔法を発動させているでしょう? それと同じ事よ」

 

「と言われましても、市中を巻き込む一大プロジェクトとやらが、『風水』(オカルト)というのは……なんだかなぁ、としか……」

 

 妙に声色に熱が入ってる感じの二人に、ひなのは気圧されてしまう。

 故に、はっきりとは言えなかったが、化学者でありリアリストであるひなのからしてみれば、正直な所、馬鹿げた話だと思っていた。

 確かに、この案件は、表の議会で挙げられる筈がない。

 うっかり挙げようものなら、間違いなく旧水名流の連中が暴動を起こしかねないだろう。

 

「……都副部長の気持ちも分かるわ。私も教授と出会う前は、半信半疑だったもの」

 

 

『風水は実にいろいろなことを言い当てる。その方法はちゃんと体系付けられている。まったく同じ手法を人体に当てはめた時、医術にも応用できる。そういうのをオカルト的と考えるのはおかしいと、僕は思う』

 

 

 以上。教授・柊ねむ曰く――

 

 風水というのは実に微妙なものだ。

 例えば、石ころひとつ置くだけで家の運勢が変わったりする。

 神浜市のような、大きな街を風水で見る場合、大地の気の流れを読む。

 基本的には、山から平地に向かって流れ、海に出る気を観る。

 

 ――――こうした流れを、『龍の通り道』という。

 

 つまり、龍の通り道をうまくつくってやることで、家も繁栄し、街も発展する、という訳だ。

 逆にビルが多く建設されている街の場合、龍の道が閉ざされ、エネルギーが入り込まなくなる――つまり、その地は争いが絶えなくなり、活気もなくなり、衰退していくだけになる。

 

(そういえば、慶治町も明京町も、昔と比べたらかなり過ごしやすくなったって聞いてるが……)

 

 かつて、明京町の工匠区では、男尊女卑の風習があり。

 大東区はドヤ街と呼ばれ、浮浪者が溢れかえり、不法移民による麻薬密売が横行していた。

 慶治町の水名区も、家柄主義を絶対視する官僚きどりの町議会議員や実業家による圧政が敷かれており、『水名の生まれなくば人にあらず』という諺まで有ったそうだ。

 

 それらは、青佐が市長就任してから数年後には、かなり改善されていた。

 具体的に彼女が何かをしたという記録は無い。

 

 だが現在、工匠区では女性技術者も奨励され、大東区では貧困者がかなり少なくなっている。不法移民による麻薬密売の噂は聞いているが、それも昔に比べたら小規模に留まっている。

 水名区では屈指の名士であった故・二葉青磁による、改革及び開発事業が精力的に行われたことで、家柄を気にすることなく、純粋に一から努力して実績を築き上げた者が相応の地位に付ける、という『新水名流』が主流となっていた。

 

(もしかしてあれも、風水の力なのか?)

 

 渋い顔を浮かべるひなのの心境を察して、やちよが口を開く。

 

「実際、日本の歴史でも風水は重要視されているわ。徳川家康が幕府を開く際、側近の僧侶・南光坊天海は風水を使って江戸のグランドデザインをしたと謂われている……つまり、江戸時代の200年以上、大きな争いが無かったのは、風水の力によるものだという説もあるの」

 

「つまり、市長はその力の小規模版を、ちょこちょこ使っていたってワケですか……」

 

「ええ、気づかれないように、こっそりと。もちろん、色んな人に協力してもらってね」

 

 苦労したんだから、と青佐は懐かしそうに笑って言った。

 

「とはいっても、この街の『龍の通り道』自体は、まだ完全なものになっていないの」

 

 魔法少女保護特区に指定された神浜市はいまや、世界から注目される街である。

 当然、外部の者を多く受け入れていくためにも、大規模な開発による都市化は必至である。

 既に、東京都の池袋・新宿区クラスの街並みとなった中央区は勿論、他の区もいずれ高層物が群がっていくだろう。

 青佐としては難色を示しているが、これは知事や、国家の官僚クラスの命令でも有り、従わない訳にはいかなかった。

 

「街中で飛び交っている“蠅”も気になるし、行方不明になっている女の子達も心配だわ。海さん達の目を掻い潜って麻薬を売りさばいてる連中の事もね……」

 

 青佐は神妙な面持ちだ。

 これらは高層物乱立により、龍の通り道が遮られたせいで、悪い気が集まりやすくなっているのだ――と、ねむから説明を受けていた。

 

「手おくれになる前に、手を打たなきゃいけないわ」

 

「とはいえ、そんなおかしな……いや、大それたことをどうやろうっていうんですか?」

 

「環いろはさんと、由比鶴乃さん、この二人が鍵よ」

 

「いやだからどうやって……」

 

「奇しくもいろはさんは、大賢者試験を受ける身として、神浜中を回ることになる。由比さんには、特命で動いてもらうわ」

 

「新人には荷が重すぎるんじゃ……」

 

「だから、二人には、プロジェクトの事は教えない。自然に動いてもらって、自然に陣を形成してもらう。そういう流れを私達で作るのよ」

 

「また滅茶苦茶な……」

 

 青佐の言葉を聞く度に、ガックリと肩を落としていくひなの。

 

「まあ由比鶴乃の方は、市長に任せるとしてもだ。環いろははどうするんだ。大賢者試験に落ちたら、元も子も無いぞ」

 

 大賢者に合う為に、いろはは試験を受けるのである。

 試験の内容は、各役所に回って三カ月勤務し、更に実績を上げて担当のチームリーダーと首長に評価してもらわなければならない。

 新人一人っきりでは、心許ないとやちよに指摘する。

 

「だから、助っ人を用意するのよ」

 

「誰をだよ? まさか、お前やみたまが付く訳じゃないだろう」

 

「その為に、あの子も採用したのよ」

 

「ま、まさか……」

 

 やちよがひなのに耳打ち。

 その名を聞いて、ひなのがビックリ仰天したのは、言うまでも無い――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 




これから一部ラストまで突き抜ける予定
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