魔法少女いろは☆マギカ 1部 Paradise Lost   作:hidon

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FILE #89 生きて進むために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「深月フェリシアを最初に動かしたのは、この私だ」

 

 

 ――――それが、答えだった。

 膝に置かれたやちよの手が自然と握りこぶしを作り、震えた。

 

「どうして、貴方だったんですか」

 

 鬼神の如き眼を徳江はしかと見据えながら、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「…………」

 

「みかづき荘は、祖母と貴方の思い出の場所でもあったはず……なのに、どうして」

 

 自分の理性の強さをやちよは呪った。

 この時、徳江の胸倉を掴み上げて怒鳴りつければどれだけ気持ちは楽だったろう。

 『治安維持部長』という立場が、暴力を制した。

 亡くなった祖母の気持ちを考えたら、激昂が抑制された。徳江は祖母の友人だったから。

 

「その……(そら)さんのためだ」

 

「なにを」

 

 世迷言を――と、口から吐き出す前に徳江は続けた。

 

 

「君を……死なせたく無かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やちよくん。風に聞いた話だが……君は、死にたがっているそうだね? 天さんにね。お願いされていたんだよ。“君の事を頼む”、と』

 

 

 祖母は亡くなる少し前に、徳江にそう伝えたらしい。

 

 だから、深月フェリシアを利用したのだと徳江は説明した。

 彼女に、みかづき荘を襲わせたのは、やちよに“生きる理由”を与えたかったから。

 矛盾していると、やちよは思った。狂っているとも。一度本気で殴りたかった。頭を叩きつければ、この男は目を覚ますのではないかとさえ。

 けれど、徳江はそうしなければならなかったのだろう。

 やちよの祖母との約束を果たす為にも、自分の為にも、それしか方法が無いと考えたのだろう。

 

 

『これは私の“賭け”だ。傭兵は手ごわかっただろう。

 それが目的だ。みかづき荘が。家族が危険にさらされれば、君は全力で守ろうとするだろう。そして、無事に脅威を退けたとしても、不安は残る筈だ。社会が不安定である限り。同じ事態が二度、三度……もしかしたらずっと続くかもしれないと』

 

『その時初めて、君は生きることを願う筈だと、私は思ったんだよ。

 生きて、家族を、祖母との思い出を守らねば、と、君は強く願うだろう。

 その為にも、仲間が必要だ。今よりもっと多く、より強力な仲間達とのコミュニケーション創りを、前向けに考えてくれる筈だと、私は思ったんだ』

 

『深月フェリシアには感謝している。“常盤ななか”、“蒼海幇”、“蠅を動かす謎の集団”――あらゆるもの達を巻き込んでくれた。黒幕が私であることを、うやむやにするためにね。まあ、君に見破られてしまったのは、至極残念だったが……』

 

 

 

 

「…………」

 

「どうしたの? 七海部長」

 

「いえ……。で、みたま、いろはのソウルジェムの方は」

 

 数時間後、ミロワールにやちよは足を運んでいた。

 そこには、変身したみたまと、同じく変身した状態のいろはが寝台に横になっている。近くには不安そうに見つめるこころもいる。

 

「駄目ね……」

 

「そう」

 

 いろは曰く。

 工匠大祭の日、サンシャイングループ代表、日秀源道を見つけたのだと。

 両親の行方が知りたくて、無我夢中で彼を追いかけた。八坂神社の裏にある林の中で、彼を追い詰めた。

 だが、彼の護衛を務める『コルボ―』という名前の魔法少女に不意打ちを受けた。背中から押さえつけられ、手を踏み躙られた。

 その隣には、『神楽』と呼ばれた鉄仮面の魔法少女もいた。武装のガトリングガンで頭を蜂の巣にすると脅された。

 

「確かにそう言っていたけど、見えてこないのよ」

 

「そう……」

 

 みたまは、魔法少女の過去を見ることができる。

 感覚的には、ソウルジェムに触れると、自分の頭の中に、相手の過去の経験が映像となって流れてくる、という感じだ。

 しかし、上述したいろはの出来事は、全く流れて来なかった。サンシャイングループ会長、コルボー、神楽……三人の姿は、影も形も無い。

 

「そんな……!?」

 

 いろはが起き上がり、愕然とした形相でみたまを見つめる。

 

「そんな筈はありません!! 私は確かに見たんです!」

 

 声を張り上げて必死に訴えるが、みたまは首を横に振った。いろはは呆然となる。

 

「な、なんで……?」

 

「私と、一緒だよ……」

 

「こころさん?」

 

 目を見開いたままいろはは声の方を見た。

 寝台脇の座椅子に腰かけ、複雑そうな面持ちを向けるこころが居た。

 

「前に言ったでしょ?」

 

 こころは以前、話した事がある。

 『いろはの両親が、サンシャイングループの社員と思しき集団に、拉致されるのを目の当たりにした』

 その時、彼女は現場を見たが、連中の仲間と思しき魔法少女から不意打ちを喰らい気絶。

 助けることができなかったのだと。

 

「私も、すぐみたまさんに診て貰ったの。今のいろはちゃんと、同じ気持ちで……!」

 

 ソウルジェムに刻まれた、魂の記憶。

 それをみたまが確認すれば、紛れも無い証拠となる。

 現に、調整課からの情報提供により、難事件の数多くが解決された実績があることから、みたま達は警察から高い信頼を得ている。

 サンシャイングループが、どれだけ凄い企業だろうと関係無い。

 誰であっても、犯罪だけは許してはならない――こころは自分の中で猛烈に荒れ狂う怒りを抱えながら、みたまの元へと駆け寄った。

 

「……けれどっ」

 

 しかし。こころはクッと顔を歪め、歯噛みする。

 

「ダメだったの……」

 

「えっ」

 

「こころちゃんの見た事は、ソウルジェムに映って無かったのよ」

 

 みたまが言うと、こころは顔を深く俯かせる。

 当時、こころがみたまに伝えた事は、全てソウルジェムに記録されていなかった。

 サンシャイングループも、連れていかれるいろはの両親も、彼女の魂には一切刻まれていなかった。

 

「そんなわけない!! ちゃんと探して! って――私、そう訴えたんだよ……!? けれど、何回見て貰っても見えなくて……っ」

 

 こころの肩が震え、声は次第に涙声になっていく。

 

「こころさん……。でも、いったいどうしてこんなことが……?」

 

 顔を覆って泣き始めるこころの肩を摩りながら、いろははみたまに問いかける。

 みたまはまたも首を振った。

 

「……詳しい事は、まだ分からないわ。けど、これは幻覚魔法を受けたケースと、ほぼ同じね」

 

「幻覚魔法っ?」

 

 いろははギョッとした。そこでみたまの隣にやちよが並び、問いかける。

 

「つまり、誰かがサンシャイングループに誘拐や暴力の罪を、擦り付けようとしていると?」

 

 それが考えられるとすれば、犯人はサンシャイングループに恨みを持つ魔法少女の筈。

 しかし、やちよの推測にみたまは首を振った。

 

「でも、フェリシアちゃんも見たって言ってたし……話してた事も気になるわ」

 

 それは、少し前に、ここで行われた裏会議の時の事――――

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

「事実で間違いないのね?」

 

「傭兵は五感が敏感なんだ。いつも命がけだから、鍛えてるんだよ」

 

 何も無きゃデスクワークしてるだけのそちらさんとは違う、とフェリシアは皮肉交じりに、やちよに答える。

 

「サンシャイングループ代表、日秀源道……。彼が件の“蠅”を動かし、君を雇ってみかづき荘を爆破しようと目論んだ、というのか……?」

 

 警戒を込めた冷徹な瞳で塚内直正はフェリシアを見据え、確認するように言った。

 

「七海やちよを殺せば3億。殺せなくてもみかづき荘をブッ潰せば半額やるって言われたよ」

 

 フェリシア曰く。

 『日秀源道』と思しき老人が用意した“蠅”は15名。いずれも魔法少女だと、フェリシアは認識した。

 そして、蠅のリーダーは血のような真紅の外套を纏っていて、“紅羽根”と名乗っていた。

 

「彼と彼女達の目的は、一体何だったのか、推測は付くか?」

 

「さあなー? いつだって金持ちはワケわかんねーこと考えてるし。蠅どもも碌なことは喋んなかったよ」

 

 塚内の質問にヘラヘラと白状するフェリシア。

 恐らく、彼が警察だと勘付いているだろうが、緊張の類は、表情からも身体からも伺えない。

 無論、この面子に囲まれた状況では抵抗しても無駄なので、とっくに諦めているのかもしれないが。

 

「で、大金を手に入れたら貴女はどうするつもりだったのかしらぁ?」

 

「ハワイに別荘建ててしばらく遊んで暮らすつもりだったよ」

 

「意外ね。もっと強い火遊びでもするかと思ったけど?」

 

 例えば、『テロ』とか――

 暗にそう込めたやちよの問いに、まさか、とフェリシアは鼻で笑う。

 

「冗談だろ? 傭兵ってのは、ガキの頃から火遊びしかできなかった連中ばっかなんだぜ。金が手に入りゃあ楽で自由な快適ライフを望むのはとーぜんだよ」

 

 逆に言えば、その暮らしを手に入れる為なら、何だってやる――というのが、傭兵の基本マインドなのだろう。

 

 

  

――――

 

 

 

 

 とはいえ、フェリシアは連中の仲間では無いだろう。

 お金と兵隊が欲しい時に、向こうから近づいてきたので、ラッキーと思い利用した――所詮、その程度の関係に過ぎない。

 

「――――念のため、フェリシアちゃんのソウルジェムも覗いてみたけど、やっぱり確認できなかったわ」

 

「そう……。だけど、コルボーに神楽という魔法少女も気がかりね」

 

 やちよの言葉にみたまは頷く。

 

「ええ。早速、調整課のネットワークを探ってみたけど、神浜市にこの名前の子は存在しなかったわ」

 

「外部の魔法少女? だとしても」

 

「ええ。魔法少女はこの神浜市に足を踏み入れた時点で、()()()()()()()()()()()。でもそれができなかった。ということはつまり……」

 

「コルボーと神楽……この二人は魔法少女じゃないのかもしれないと……?」

 

「今は、憶測だけどね」

 

 二人の会話をそこまで聞いて、いろははがっくりと肩を落とした。

 

「結局、今はまだ何も分かって無いってことですよね……」

 

「いろはちゃん……それは」

 

「分かってます。だけど……!」

 

 二人が尽力しているのは、いろはも気づいている。

 宥めるように肩を撫でるこころに、悲痛な眼でいろはは訴えた。拉致された両親のことが、どうしても心配でならなかった。

 

「いえ、一つだけ分かってることがあるわ」

 

「「えっ」」

 

 いろはとこころが同時に目を向けた。やちよが真剣な眼差しをいろはに向けながら、答える。

 

「全てはいろは、貴女を中心に動いている。つまり――」

 

 

 連中の目的は、貴女よ――

 

 

 

  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 という訳で、全ての元凶はオリキャラのジジイでございました。

 要は、みかづき荘襲撃事件は、七海やちよ個人が超気になる人達の思惑によるもの。
 彼らは共謀してませんが、『深月フェリシアという剣』を使って、七海やちよを攻撃する――という選択は、図らずも全員一致してました。
 そうしなければ、やちよの実力を確認できない、と考える者。
 やちよの考えを改める事ができない、と考える者。
 やちよを排除できる方法がそれだ、と考える者――がいたからです。

 かなり面倒くさいことになってしまい、ごめんなさい。
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