そのコースはクラッシュする車が続出し、今はバージョンアップにより走行することがでなきなくなっている。
この物語はその地獄のコースを走り抜けた二人のドライバーの記録である。
キャラクター
片尾 キヨシ(ガスマス君)
15歳
黒いMR-2に乗るドライバー
[現代]を嫌っている。
実は電気自動車会社の社長の息子。
親と仲が悪い
ゼギロネ・ミトン(本名不明)
青いホンダバラードスポーツCR-Xに乗る。
金髪、高身長なアバターを使っている。
ライジングヘルの常連でいつも上位にいるが完走したことはない(ライジングヘル自体完走したプレイヤーが居ない)。
V・Racing番外編[RISING HELL]
パチパチとさっき燃やした設計図が静かに音をたてている、本来なら三日前に燃やしている筈だったのだがまあいい。
電気自動車の設計図..下の階から片尾(親父)が騒ぐ声が聞こえる。
まったく...気分が重い、別のことを考えよう。
野球やサッカー、テニスとかのフィジカルスポーツの良さが俺には全く理解できなかった。
そんなものをテレビで見るよりパソコンで過去のカーレースを観賞する方がずっと魅力的だった。
吠えるエンジン、きしむタイヤ、目にも止まらぬ速さで疾走するマシン。
そして何よりもそのバケモノの様なマシンを紙一重で操るドライバー。
最高の一言につきる。
だけども、これは所詮過去の代物。
今ではモータースポーツと呼ばれる物はEフォーミュラぐらいしかない。
つまらなすぎる。
俺はモーターの音なんかじゃなく、ガソリンが爆発し排気管を通り抜ける音を聞きたいのだ。
今窓の外を見ても、電気自動車が道路を埋めつくし、ドライバーなるものは存在せずオートパイロット(自動運転)に運転を任せる始末である。
俺は今が嫌いだ、出来ることなら某映画のように過去へ行き生(なま)の[モータースポーツ]を見てみたい。
しかしどうせそんなことは不可能だ。
何年経とうがドラ○もんもエ○ット・ブ○ウン博士も現れない。
「お前がタイムマシンを作ればいいじゃないか」と思うかもしれないが、まず俺はモータースポーツを体験したいのであって、歴史的偉業を成し遂げたい訳じゃない。
仕方なく俺はコート掛けに吊るしてあるVRダイバーを頭に装着する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
青い空、穏やかな風が吹き、小鳥の鳴く声が聞こえる。
とても全てがバーチャルだとは信じがたい。
だが、目の前にある光景を見ればすぐにそれが現実でないことが分かる。
赤い小型のスポーツカー、振り返ると他にも色々な車がエンジンをかけスタートを待っていた。
おかしい一人見かけない顔がいる。
新人だな..これから走るコースはかなり辛いから激励の言葉でもかけてくるか。
俺はガスマスクを着けたプレイヤーに話しかける。
ゼギロネ「やあ、新人かい?よろしく俺はゼギロネだ」
ガスマス君「あ、どうもガスマス君と申します
発参加ですよろしくお願いします」
ガスマスクを着けていて表情は確認できないが、声の質感としぐさから愛想のいいヤツだと直感的に理解した。
ゼギロネ「脅かすつもりはないけどこのコースキツイよ、基礎ができてても通じない
それに車がよく壊れる...ここで一体何台潰したことか...トホホ(´ω`)」
ガスマス君「具体的に何台くらいですか?」
ゼギロネ「さぁな~少なくとも5,6台は潰してるよ
ある時なんかフレンドのロードスター借りてここ来たらスピンして危うく大クラッシュ寸前だったよ
あのときは本当に怖いと思ったね、オカシーよねゲームなのにガチでびびるなんて(*´▽`*)」
ガスマス君「ハハハッ、そんなにおかしなことじゃありませんよ、僕だってコーナーで怖いと思うのなんてしょっちゅうですし」
ここでガスマス君の雰囲気が変わった何かおかしい。
ガスマス君「でも、恐怖や痛みなんて、意識しなければどうって事ないですよ...」
ゼギロネ「そ、そういうのはいわゆる恐怖を乗り越えたってヤツなのかな?
そういうのってやっぱ結構重要なのかな?」
ガスマス君「う~ん僕的に恐怖を乗り越える事自体はそんなに重要ではないと思いますよ
問題は恐怖を乗り越え、何をするか..いや、何をすることが出来るか...という事だと思いますよ
まあ、僕なりの考えですけどね(^∇^)」
ゼギロネ「お、おう」
若干寒気を感じた俺は逃げるように自分の車まで戻った。
実況がもうすぐレースがスタートすることをアナウンスする。
このレースはインターネットで配信される、条件を満たしていれば運営からリアルな方の金が貰えるらしい。
カウントが始まる、一つずつ数が減る毎に緊張が高まる、自然とステアリングを握る手や、シフトレバーに置かれた手に力が入る...
そして今ついに最後のカウントを終えレースが始まった。
アクセルを踏むとホンダ製の1.6リッターエンジンが唸りをあげる。
前の四台もマフラーから火を上げながら加速する。
ライジング・ヘルのコースは全長約8キロのヒルクライムコースだ、このコースは最初は草原のど真ん中を走るのだが...
ゼギロネ「うわっと!」
前に居たマシンが一台草にタイヤをすくわれスピン、危うく衝突するところだった。
ゼギロネ(くぅ~、このセクションは路面のギャップがスゴいんだよな、[それ]にはまるとマシンがコースから吹き飛ばされる...
俺もそれで何台車ぶっ壊した事だか...)
跳ねるマシンを押さえつけ縦横無尽に駆けるCR-X、その走りは後続のマシンを寄せ付けない。
ここまで彼が速いのには理由がある、それは彼がここを何度も走っているということだ。
普通のプレイヤーなら過酷なバトルとトリッキーなコースに心を砕かれ、自分のマシンが壊れた時点で諦めてしまうだろう。
しかしこの男はむしろこのトリッキーなコースをことのほか気に入り、念入りに走り込んでいる。
照りつける太陽の中穏やかな草原を荒々しく駆け抜けるマシン、この光景は正に圧巻だ。
しかし、そんな平和な草原の風景も終わりを告げる。
ゼギロネ(で、でぇた~、トンネルぅ)
ライジング・ヘル最大の難関はすぐにその姿を現す。
このトンネルこそがこのコースが地獄のコースと呼ばれる由縁なのだ。
ゼギロネ(こっからなんだよな...)
震える手足を気合いで押さえつける....
このトンネルはここからゴールまでずっと続く、中の壁は黒く塗りつぶされ、目の錯覚で実際より狭く見える。
そのうえ路面は荒れに荒れ、うねっている。
そして更に...
ゼギロネ(あの区間までにこいつらを抜かないとマジでヤバい...
行け!CR-X!お前のパワーと空力特性を見せつけろ!)
トンネルの中は風が逃げない、つまり空気抵抗が普段の倍近くになってしまう。
このトンネルセクションは空力特性も良くなければならない。
ゼギロネ(このシケインを越えたら次はキツイ右ヘア、前に居るのはランエボの...Ⅳか、ストレートで差がつかないのはやはりボディ形状の違いか..
右ヘアでいく...)
シケインを軽々とクリアし、ランエボの後ろにつける。
するとCR-Xが異様な加速を見せる。
ランエボ乗り(くそっ、スリップストリームか...
やっぱパワーでは押しきれないか
だが、次のヘアピンでならまだチャンスがある。
ストレートで抜くことは不可能だろうな、俺のエボの後ろにいるからこそそのスピードが出せるんだ!
ストレートで[踏む]事なんて猿でも出来る、走り屋なら曲がりで勝負だろうが!)
左側に寄りアウトインアウトの体制を取るランエボ、しかしCR-Xはその場から動かない。
2台並んでヘアピンに突っ込む。
トンネルの中がブレーキランプの赤い光で満たされる。
両者とも一歩も引かない。
CR-Xが鼻先一つ分前に出る。
ランエボ乗り(クソが!インにつけねぇ!)
ランエボ乗りはステアリングを切るが、路面の荒らさがタイヤを直撃する。
前輪がスリップしてまともに曲がらない、アンダーステアのまま壁に突き刺さり、炎上する。
CR-Xはランエボを躱し、グリップでヘアピンをクリアする。
ゼギロネ(あと2台...ロードスターとセリカ...)
CR-Xは暗いトンネルの中を目にも追えぬ速さで駆けて行く。
しかし、この時前しか見据えていなかったゼギロネはスクラップと化したランエボの横からから、燃え盛る炎の壁を突き破り飛び出す黒いマシンに気づいていなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゼギロネ(よっしゃ!ロードスター撃破、あとはセリカ...それと次の右からあのゾーンだ...)
カーブを曲がり加速に入るゼギロネの目に壁にかかった看板が映る。
[この先工事中]
[この先消灯中]
ゼギロネ(この看板を見る度にゾッとするよ...
ここから先は.....墓場だ...)
目と鼻の先に暗闇が迫る、黒い壁がヘッドライトの光を吸収し視界が狭まって見える。
そして更には道の端には今まで無かった[歩道]が追加されている。
この[歩道]はただでさえ狭かった道幅を更に狭くしている。
もちろん下手に乗り上げたら一貫の終わりだ。
奥の方からぼんやりと光が見える、ゴールが近い訳ではない、そうあの先頭に居たセリカ(ZZT23)だ。
ゼギロネ(停車してる...足回り痛めたか?)
走行不能になったセリカを抜きトップに立つゼギロネは後続も居いないのでペースを落とし完走を試みる。
ゼギロネ(ここからは休めるな、今回は相手が下手くそで良かったぜ)
そう思った矢先だった。
トンネルの中を反響する音に甲高いスキール音が加わる。
ゼギロネ(な、何だ!?)
ゼギロネはバックミラーを覗くがそこには何も映らない、しかし確実にエンジンの音がする。
ヘアピンカーブが迫る、じわっとブレーキを踏んでフロントに荷重を掛ける。
その時...
ゼギロネ(....!?)
ブレーキランプに照らされ一瞬だけソレが見えた。
リトラクタブルの車だ、ライトを消している。
いや、フォグランプはついているが明らかに光量が足りていない。
嫌な予感のしたゼギロネは、この得体の知れないマシンから逃げようとペースを上げる。
次のヘアピン、目を見張るレイトブレーキングで突っ込むCR-Xだったが...
ゼギロネ(ダメだ、離れない!)
ヘアピンの出口は一ヶ所だけ明かりが灯っていた。
オレンジ色の光に照らされその車の正体が明らかになる。
ゼギロネ(エ、MR2!?)
黒い、トンネルの壁に溶け落ちてしまいそうな位に黒いそのMR2は、文字通り影の様にゼギロネのCR-Xにべったりと張り付いていた。
ゼギロネ(落ち着け俺、状況を整理しろ。
このMR2、さほどパワーは無い様だ。
立ち上がりとストレートの伸びで少し差が開く。
このMR2のドライバーの走りはどうやらドリフトが主体らしい、タイヤは長く持たないだろう。
しかし、それはこちらも同じ、いくらさっきまで温存していたとはいえ、やはり駆動方式の違いでタイヤの消耗の仕方が全然違う。
特にフロントタイヤだ、FFは旋回、加速はどちらもフロントタイヤで行う。
一方ミッドシップのMR2は加速は後輪、旋回は前輪と分けられている。
これは後からコーナリングスピードに差ができて来るぞ...
おまけにコイツ...曲がりが異様に速い!)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガスマス君(前のCR-X速い、このコースの特徴をわかった上でのチョイスだろうな。
このコースはコーナーがこれでもかとある、だから所謂コーナリングマシンで挑んだ方が有利だと考える奴が多い。
だが、一つ一つのコーナーが徹底的にマシンのバランスを崩しに来てる、だからFFとかの安定性のある車でここに来るのはむしろ作戦としては正解なんだ
まあ、ある条件をクリアしていればカンケイ無いけどね)
緩やかに左に回り込むカーブを二台のマシンはアクセル全開で走る。
CR-Xは歩道の段差に20cmほど間隔を開けて曲がる、MR2はさっきとは走りを変えグリップで段差にギリギリまで近づけて走る。
二台の差は車一台分広がる。
右に回り込むヘアピンが近づく。
CR-Xは進路を開けない、二台のブレーキランプが激しく点灯する、MR2のランプはすぐに消える。
右方向のGを利用してくるりと向きを変える。
ゼギロネ(おいおい、ブレーキ短すぎだろ)
二台の差がぐっと縮まる。
ガスマス君(ここからだな..)
コーナーを通過するスピードが先ほどよりも確実に上がっている。
ゼギロネ(な、なんだ!立ち上がりで差が開かない、おまけにコーナリングスピードも上がってる。
あっちだけじゃない、コッチのスピードも上がってるんだ!
こ、これは...正直..怖い、メチャクチャ怖い!!)
その後のストレートでまた差が開いたが、やはりコーナーでは差が縮まってしまう、この現象によりゼギロネのモチベーションは徐々に下がりつつあった。
次のヘアピンが迫る、再度ブレーキを踏み込み車体を放り込む。
MR2はハデ車体をドリフトさせコーナーを攻める。
ゼギロネ(?...そうか!解ったぞソレの意味が!
お前は突っ込みでブレーキをさほど使わない。
それはマシンをドリフトさせてコーナーで速度を調整させる為だったんだ。
多分MR2のタイヤは今最高にズルってる。
だから突っ込みを重視させてペースを落とさないようにしていたんだ。
さっき立ち上がりのスピードが上がったのは上がり勾配だったからだ。
立ち上がりで、なおさら上がりなら荷重はリアタイヤにいく、つまりすり減ったタイヤでもFFよりはある程度はグリップを稼げる...
これはマズイぞこれからまた勾配がちょっときつくなる...)
シケインに入る二台、荒い路面に翻弄されながらも華麗に通過する。
ゼギロネ(もう一つ解った事がある、多分あっちは前が見えていない、かろうじて路面の状況が見えるくらいだと思う。
そこを突けばチャンスがある!
多分、突然視界が悪くなればあっちは減速せざるを得ない、おそらく今までのペースは俺を利用して作り上げていた筈。
決めるのはこの先の右の全開!やるとしたらそこしか無い!)
ゼギロネの頭からはさっきまで思考を支配していた恐怖が消えていた。
彼の心は今闘志で溢れかえっていた。
右に緩やかに曲がる全開区間に入る二台。
ゼギロネは歩道との間隔を頭に叩き込む。
ゼギロネ(通過時間は僅か...今だ!!)
ライトを消すゼギロネ、トンネル内は闇に包まれる。
ルームミラーを覗くゼギロネ、そこにはMR2のフォグランプが写っている......
筈だった。
ゼギロネ(い、居ない!?)
左後方が明るくなる。
ゼギロネ(!?...)
この時ゼギロネの走りを安定させていた集中力が突如プツンと切れてしまう。
ハンドル操作を誤ったゼギロネ、CR-Xはそのホイールベースからくるオーバーステアを誘発させてしまう。
歩道に乗り上げるCR-X、耳障りな金属音と共にフロントマスクを壁にヒットさせる。
スピンする。
それをいとも容易く避けるMR2。
黒いマシンは暗闇に消えていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガスマス君(今回は少し面倒だったな~さあてとこのままゴールまで...)
突然ガスマス君の視界が歪む、周りの景色が一気に明るくなる。
そして平手打ちが飛んでくる。
キヨシは椅子から放り出される。
胸ぐらを捕まれ持上げられる。
視界がハッキリしてくる、自分を掴んでいるのが自分の父親だと解った。
親父は自分のことを物凄い形相で睨み付けている。
片尾「おい!また設計図を燃やしやがったな!」
キヨシ「....」
片尾「なんとか言え!この小僧!」
キヨシ「アンタはその小僧のアイディアで一体いくら儲けてるんだ?」
今度は拳が顔面めがけて飛んでくる。
しかし、キヨシは片尾のみぞおちに蹴りを入れる。
たまらず片尾は手を放してしまう。
スキが出来たとばかりに椅子で殴り付ける。
そう、事もあろうか自分の父親を椅子で殴り付けたのだ。
そのまま両手で突き飛ばす。
片尾は棚に激突し、転倒する。
棚の上に置かれていた灰皿が片尾の顔めがけて落ちてくる。
キテレツな叫び声を挙げる片尾、キヨシは自分の携帯を投げつける。
キヨシ「それで救急車でも呼んどけ!霊柩車でもかまわん!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キヨシは地下室にこもっていた。
キヨシ(気分が悪い、イライラもするし、空しくもある....こんな気分は嫌だな。
気分転換しよう...さっきよりももっと強力なのが必要だな)
地下室には冷蔵庫が置いてある、その冷蔵庫の扉を開き金属製のケースを取り出す。
キヨシ「怖くない、怖くない」
ボソボソとそう呟くと、ケース中から注射器を出す。
深呼吸をしながら腕に注射器を刺す。
キヨシは突然クスクスと笑い出す。
気味の悪い笑顔を浮かべながら仰向けに倒れる。
キヨシ「へへっ、へへへっイイネ!
なんもオモシロく無いのに楽しいなあ!
なんつうか虚無感と優越感を同時に体験出来てるような、そんなかんかくだ~
そんなこと不可能なのにな~
はははっ、怖くない怖くない。
兄貴と姉貴が刑務所入っても怖くない怖くない。
母ちゃん死んでも、父ちゃん殴っても怖くない怖くない。
ぜ~んぜん恐怖なんて感じないハハハハハハ....」
ケタケタ、ケタケタと笑う声はその後三日間続いたらしい、だがある時を境にこの笑い声は聞こえなくなった。
これは彼にとっては重要な出来事だったらしい...
終わり
本編も頑張らないと(。_。)φ
誤字等ありましたらお手数ですがご報告お願いしますm(._.)m