V・Racing   作:海苔 green helmet

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 あの雨の日に彼のすべては崩れ去った...
 彼は既に死んでいた...

 そして彼女の時間もそこで止まってしまった。


V・Racing♯20~WHEN THE SUN GOES DOWN~

     V・Racing♯20「雨」

 

 手にはナイフが握られている。

 目が合うと物凄い勢いで突進してきた。

 

 パーカー女との距離が3m程に縮まった。

 

 ヤイチ(よし、このくらいだな)

 

 俺はこんな状況でも極めて冷静だった。

 自分のすぐ横にあったゴミ缶の蓋をパーカー女の顔面めがけてフリスビーの如く投げつけた。

 

 パーカー女(こんなもの!)

 

 パーカー女は蓋を上手く回避する...が.....

 

 パーカー女「ぐえっ!」

 

 俺の張り手がパーカー女の喉にヒットする。

 

 ヤイチ(蓋で視界をゼロにして近づいて、そして相手が出てきたとこを叩く...

 マンガみたいな技だけど結構使える)

 

 両手をついて持ち直そうとするパーカー女、しかし俺はコイツのナイフを持っている手を足で踏み自由を奪う。

 髪を引っ掴んでこっちを向かせる。

 

 パーカー女は歯を食い縛りこちらを睨む。

 

 ヤイチ「いい加減にしろ....お前はこんなことをする奴じゃないだろ...」

 

 踏み潰した手からナイフを取り上げる。

 

 ヤイチ「果物ナイフだ、本当に殺意があるならもっと大きめで殺傷力がある包丁とかを持ってくる筈だ」

 

 髪の毛を放し手を解放し、ナイフを放り投げ攻撃出来ないようにする。

 

 俺は踵を返し、路地を出ようと歩き出す。

 しかし....

 

 突然背中に違和感を感じた。

 見ると腰...よりちょっと上、左寄りのところにカッターが刺さっている。

 

 ヤイチ「.....な、だから言ったんだよ...

 お前ら姉妹は優しすぎる本当に殺す気ならこんな場所は刺さねぇ......だけどよぉ」

 

 俺はパーカー女に向かって回し蹴りを食らわせる。

 パーカー女ゴミ袋の山の上に着地した。

 

 ヤイチ「さっきも言っただろう、いい加減にしろと

 殺せないなら殺しに来るな......何故[太陽]に執着する?」

 

 ゴミ袋を掻き分け自分の倒れた体を起こす。

 

 パーカー女「はぁ、はぁ、あれは形見なんだ...

 お姉ちゃんが作った最後の車..それが[太陽]なんだ

 他のチューニングカーも全部回収するつもりだ

 私はどこの誰だかわからない奴がお姉ちゃんのマシンを駆ることが気に食わない。

 特にお姉ちゃんを殺したお前がお姉ちゃんの[太陽]のエンジンを使うだなんて最高に気に食わない!」

 

 背中に刺さったカッターを引き抜くと、血が傷口から流れ出すのを感じた。

 

 ヤイチ「お前、見た目も声もアキラさんにそっくりだ、だが一つ似ても似つかねぇ部分がある。

 何処だか分かるか?やり口が汚ぇとこだ

 車の事は車で決着つけようや

 こんな無理して慣れないケンカで解決しようとしなくてもさ、俺はいつでも勝負はうけるぞ」

 

 握りしめた拳をプルプルと震わせ、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

 パーカー女「.....汚い?..どっちがだ?

 お前はお姉ちゃんが邪魔になったから殺したんだ...自分より速いお姉ちゃんが邪魔だったんだ....」

 

 段々と声がはっきり、そして大きくなってゆく。

 

 パーカー女「だからあのモーターを渡したんだ....

 リコールのきてた不良品モーターを!

 警察には何度も説明したが[タイヤ痕などの状況から見て事故だ]と言いくるめられた!

 あんな交差点で事故を起こす訳がない、あれは仕組まれたんだ....

 私はお前の名前を知らない、お前の情報は殆んど無かった

 お姉ちゃんの物を整理してた時にVRダイバーを見つけ、試しに起動してみるとお姉ちゃんが苦労して作っていた[太陽]がバラバラになっていた

 あったのはシルビアの車体だけ、エンジンが消えていた

 私は藁にでもすがる思いでこの最後の手がかりを頼りに[太陽]のエンジンを持ってる奴を探した

 そのエンジンを持ってる奴がクロスボウだっていう可能性が少しでもあったからそれに賭けたんだ」

 

 パーカー女「正直に言ってくれ、お前がお姉ちゃんを殺したんだろ」

 

 ヤイチ「.....俺も....俺も分からないんだ

 あの雨の日、追ってくるアキラさんを撒こうとしてたとき、ふと後ろで音がしたかと思ったら.....」

 

 生唾を飲み込む。

 あの状況、あの景色を思い出す度に狂ってしまいそうになる。

 

 バイクがひっくり返り横倒しになっていて、白い壁とトラックに血がべっとりと付き、その間に...その間に.....

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 メガネ「いや、それがですね[ライオット]っつう他県のチームが来て、その....襲撃されまして」

 

 ヤイチ「とりあえずソイツを...そこのソファーに寝かせろ

 店長救急箱を用意してくれ、マスク手当てを頼む」

 

 マスク「了解ッス」

 

 メガネの方に向き直る。

 

 ヤイチ「で、アフロは何をされたんだ」

 

 メガネ「走行中にレンチで頭殴られたみたいです」

 

 ヤイチ「....なんでそんなことに」

 

 突然後ろからうめき声が聞こえた、振り返るとアフロが腫れた頬を押さえながら起き上がろうとしていた。

 

 アフロ「こ....こ、ろす......殺す!...ん!」

 

 いきなり目覚め叫んだかと思うと、咄嗟に口に手を当てる。

 ゆっくりと手を下ろすと前歯が抜けていた。

 

 アフロ「く、クソ!ゼッテェ殺してやるあの野郎!」

 

 マスク「はいはい、黙ってこのティッシュ噛んどけ止血できる

 どうしますヤイチさん?俺としてはライオットのアホどもにこっちのシマでの礼儀ってモンを教えてやりたいッスね」

 

 ヤイチ「..念のためバール取ってくる....

 明日だ、明日の朝までに準備は済ませとけ

 集合時間は後で連絡する」

 

 マスク「ライオットにも連絡つけときます」

 

 メガネ「じゃあ僕も念のためちょっと護身用具揃えときます」

 

 緊張で強張りつつもカウンターへ戻ると店主がヤイチの目の前に氷水を置く。

 

 店主「明日は雨だ、タイヤの空気圧も調整しときな

 スベんなよ」

 

 目の前に出された水を一気に飲み干す。

 

 ヤイチ「プハッ....あ"ぁ、おうよ」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 アカリ「お姉ちゃんいつまでバイクいじってるの?

 もう9時だよ~また学校サボるの?」

 

 いつの間にかガレージの床はボルトやナットで埋め尽くされていた。

 

 アキラ「お母さんみたいなこと言わないでよ、それに学校行かなくてもアタシ学年の成績トップ10には入ってるから心配要らないし.....ふん!

 よっしゃ外れたぁ♪」

 

 アカリは訝しげな表情でバイクから外した金属の塊を見つめている。

 

 アカリ「な、なにそれ?」

 

 アキラ「モーター」

 

 アカリ「取ったら動かなくなるんじゃないの?」

 

 アキラ「載せ変えるんだよ」

 

 アカリ「新しいの買ったの?」

 

 アキラ「もろうた」

 

 アカリ「........」

 

 アキラ「何だよその心配さうな顔は?

 大丈夫だよ信頼できる奴から貰ったからさ、それよりアカリ明日学校だろ早く寝た方が美容にも健康にも良いよ♪」

 

 強ばっていたアカリの表情が少しだけほぐれる。

 

 アカリ「そうだよね......ええと、おやすみ」

 

 アキラ「グッナイ♪」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 翌日は予想を大きく上回る大雨だった。

 大粒の水滴が機関銃から発射された弾丸の如く地面に叩きつけられる。

 

 軋むドアを開けるといつものチリリンという心地よいベルの音色が耳に触れる。

 しかし店内はなんとも言えない重い空気に包まれていた。

 

 マスクは自分の耳に付けたイヤリングを手で弄んび、その隣でメガネが氷水を片手に貧乏ゆすりをしている。

 

 アフロはというとネイルガンの手入れで周りのことに目がいっていない。

 

 ヤイチ「おい、アフロお前それ人に向かって撃つつもりじゃねぇだろうな」

 

 若干神経質な口調でアフロは返す。

 

 アフロ「ちょっと太めの肉でできた人形(ひとがた)の板には撃ち込むつもりですよ....」

 

 

 ヤイチ「は?使うとしても威嚇に使え、人に撃つな」

 

 アフロ「チッ、ヤイチさんはいいっスよねぇ顔面崩壊させられて無いから」

 

 ヤイチはアフロの胸ぐらを掴み引き寄せる。

 

 ヤイチ「てめぇがキレてんなぁよ~くわかる

 だがなぁその怒りの向けかたがちとおかしいぞ...

 いいかよく聞け人殺しほど最低な野郎は居ねぇ、てめぇはその最低野郎になりてぇのか?

 もう一回じっくり考えろ....」

 

 アフロ「.....確かに人殺しほど最低な奴はいないかもしれない.......だけどライオットの連中にそんな考えが無かったとしたら?

 そんなやつらに囲まれてアンタは生き残れるのか?

 あいつらの一人は俺のことを笑いながらレンチで殴りやがった...とてもそんな考えがあるとは思えない」

 

 アフロはヤイチを軽く突飛ばし、店から出ていった。

 

 マスク「アンタ変わったな、前は....

 前は狂ったように、死んだように生きてたのにな」

 

 メガネ「....ヤイチさんは来なくても良いと思いますよ、何より彼女にこんな事が知れたら.....

 兎に角ヤイチさん、あなたにはもう次が無いはずです、今を大切にしてください」

 

 扉のベルの音が鳴る、何故かその音は今まで以上に頭の中に響く感じがした。

 

 店主「なあヤイチ、お前さん確か格闘家目指してたんだってな」

 

 ヤイチは椅子に腰掛け直す。

 足を組んで少し微笑みながら口を開く。

 

 ヤイチ「懐かしい話が出てきたな」

 

 店主「何で格闘家目指してた奴がこんなのに成り下がってんだ?」

 

 ヤイチ「頑張りすぎだよ、医者に言われたんだ、

これ以上ボコボコにされたらそのうち車椅子で生活するどころか霊柩車に乗ることになるらしいぜ」

 

 店主は顎をさすりながら顔をしかめる。

 

 店主「そんな診断されてんのにあんな走りしてんだ?

 自殺願望でもあるのかよ」

 

 ヤイチ「格闘家としての俺はその診断結果が出た時点で死んだようなもんだ

 ダラダラと墓場に向かうのは御免だ、だからいっそのことパーっといきたくてね

 死ぬのもスリルを味わうのも」

 

 ヤイチはズズッと鼻を啜る。

 

 ヤイチ「だけど、な...なんでかな?

 今は死ぬのが、傷つくのが、傷つけるのがとても...とても恐ろしい....

 どうやら俺はどうしても捨てきれない物が二つできちまったみてぇだ」

 

 椅子から立ち上がりマフラーとゴーグルを身につける。

 

 ヤイチ「鞄はここに置いていく、この中には俺の大事な荷物があるから絶対にいじるなよ....

 俺さ、それ絶対取りに帰ってくるからよぉ」

 

 

 




 明けましておめでとうございます!(おせぇわ!)

 新年になっても後書きはネタ切れです!今年もよろしくお願いします!
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