V・Racing♯23 「太陽」
J(さてと、不利になったか....)
Jはステアリングを再度しっかりと握りしめる。
J「スーっ、フゥー.....」
深呼吸したと同時にアクセルを踏み込むJ、タコメーターの針が勢いよく揺れる。
クラッチを切って流れるようにシフトチェンジを行う。
先ほどまでと雰囲気がガラリと変わる、車体の動きや呼吸、そして感情が異様な程静かになっていくのだ。
エンジンや車体の周りを流れる空気は全く変わっていない、しかし確実に何かが、ヤイチの中の何かが切り替わった。
既に180のフロントガラスからS13は消えかけいる。
J(ここからちょっと短めのストレートに入る、そこを耐え抜けば[追い越せる]チャンスはある
ハデなムーブはここでは使う必要が無い。狙いに行くなら、勝負ができる場所は...あの場所しかない....)
オーガ「バランスが悪い?」
リョージ「そう、S13に2JZだとサーキットみたいな所を走るにはバランスが悪いんだ」
ネココネル「どういうこと?」
豆犬が口を開く。
豆犬「工業製品は与えられた役目しか果たせないってこと」
ネココネル「イミワカラン、もちっと噛み砕いて」
リョージ「S13シルビアは直4のSR20を載せることを想定して設計がなされている。
それ以外の、ましてや他社製品を搭載して走らせるなんて想定外中の想定外。
2JZエンジンは元々はトヨタの80(ハチマル)スープラとかに搭載されていた物だ、3000ccの直6DOHCだな
そんなものを載せてどうなると思う?」
豆犬「まず重量配分がおかしくなるな、それと足回りのセッティングや駆動系、ブレーキとかが合わなくなる。」
リョージ「正解!¬(°∀° )¬」
豆犬「エボルトの真似しても下手くそ過ぎて誰も分かんないと思うぞ」
リョージ「直線を一気に走り抜けるドラッグレースならまだしも、ここは曲がりのあるサーキットだ。
実を言うと先生あの女と面識がある、あの女は足回りとかを調整したなんて一言も言っていなかった。
多分だけどセッティングは紅がいじった時のままなんじゃないかな?
それだけであのマシンがあのエンジンの対策をしていないと言っているわけではない、先生一回あの車をじっくり見させてもらった事があるんだけど...
その時見た感じではチューンされた直6を載っけているにしてはブレーキがどーも貧弱すぎる気がした。
いくら伝説のチューナー紅が組んだS13だったとしても当時はSR20の搭載を想定して組まれていた筈だ。
サイズがデカイ分トルクが有って加速はいいけど、シャーシの剛性不足やフロントヘビー化....
問題点が多すぎる。」
豆犬「強さを求めるあまり、諸刃の剣と化した...か...」
カスミ(もっと動け!もっと加速しろ!まだだ、まだ切り札を使う訳にはいかない...!)
ブロックス・スカイラインに突入し、ここぞとばかりにアクセルをベタ踏みにするカスミ。
カスミは薄々相手が自分のテクニックで敵う相手では無いことに気付いていた。
それをこうしてこの車の長所でもあるストレートの速さを生かして少しでも車で差をつけようとしているのである。
カスミ(ザ・ディッパーは狭いブラインドコーナーが続くセクション、下り坂でパワーの差が少し縮まる。
ヤツは多分ここで仕掛けてきただろう。
しかし、今ヤツは遥か後方!今から追い付いくのは不可能に近い、例えここで追い付いかれたとしても、抜くまでには至らない筈...
このまま次の超高速セクションへ突入して完全に振り切ってやる!)
S13はブレーキとアクセルオフを上手く使って、まるでぜんまい仕掛けのネズミの様にブラインドコーナーをスルスルと駆け抜ける。
カスミはルームミラーで後方を確認する。
180のヘッドライトがS13のルームミラーを僅かに照らした。
カスミ(やっぱり距離は幾らか縮まってる....
でもここからは長いストレートしかない、行ける...!)
クラッチペダルを踏みギアを4速へ叩き込む、ボディがミシミシと軋み、あっという間に次のブレーキングポイントまですっ飛んで行く。
左へ直角へ折れ曲がるコーナー、ブレーキを踏んでステアリングを左へ切り込む...が...
カスミ(嘘っ...!何...これ...)
豆犬「俺そろっと落ちるわ」
リョージ「あれ?最後まで見ていかないのか?」
豆犬「後の展開はなんとなく予想がつくぜ...最後に180が圧倒してS13が勝つ
それじゃそろそろバーイ」
ネココネル「まってぇ~コネルも行く~」
豆犬「いや、同じ場所に居ないよね」
ネココネル「気分だけでも味わいたいのぉ」
豆犬とネココネルはメニューを呼び出しゲームから抜けた。
リョージ「...リア充ウゼェ」
オーガ「そうっスねー(棒)」
タイヤが軋むと同時にアウトへ流されるS13、外側のエスケープゾーンに片輪が落ちるギリギリでなんとか立て直す。
カスミ(まだ一周もしてないのにタイヤがタレて来てる!?予想以上に消耗が早い!)
後方から光が差し込む、180が追い付いて来たのだ。
J(焦ってんな、車を抑え込めてなくて。
タイヤせいじゃ無いんだよなぁ、コーナーへの進入スピードが上がって制御仕切れてない。
要するにテメェの減速不足ってことだ...)
アクセル全開で次のストレートを走る二台、スピードメーターの針は既に頭打ちしている。おそらく200km以上は出ているだろう。
S13はタイヤの消耗をしたせいか速度が伸びない。180が追い付きサイドバイサイドでうねるロングストレートをひた走る。
J(リクさんのアドバイスではたしか...
[格上の敵を相手取った時の対処法は25通りあるんですけど、そのうちの二つを教えます。
さっき説明した通りヤイチさんの180はトルクがある割には以外とバランス型です。戦闘力で困ることはないと思います。
まず対処法その一ですが...諦めましょう。
但しこれは明らかに相手の方が一枚も二枚も上手だった場合の話です。
相手にスキがある場合は、大人げないくらいに相手の弱点を突きましょう。]
アイツ悪役みたいな思考してんな。
取り敢えずやってみたが効果薄いんじゃないか?一瞬モロに弱点が露呈したけど、なんかカバーされたし......まあいいかリクさんも言ってたけどこれはあくまで[対処法]、[必勝法]じゃない。
まっ、もとより勝つつもりもないけどな。)
コンロッド・ストレートを駆け抜け、緩く右に折れるカーブが現れる。
しかし、緩いと言っても難易度が低い訳ではない。200km以上の速度が出ている今の状況では、寧ろ難しい。
減速し、慣性を制御しつつ、それでいて速度をなるべく落とさずに旋回しなければならない。
何故ならJとカスミの脳の中には互いに譲り合うという意志が全く存在していないからである。
度胸の無い方が退く、謂わばチキンレースである。
横目で180の動きを監視するカスミ。
カスミ(どうする!?どうする!?退くか?行くか?
早くブレーキ踏めよ!こっちが調整出来ないじゃないか!
畜生、待っている時間が何十秒にも感じられる..実際には一秒も経っていないのに!)
遂に二人ともギリギリのタイミングで減速を開始してしまう。
S13はインに寄りすぎ、G(グラビティ)に引っ張られアンダーを出してしまう。アウトサイドには180が居る。
Jは自分の方へ突っ込んでくるS13を避けようとせず、それどころか受け止める様にして優しくS13に180のボディをぶつける。
S13はインサイドに押し戻された。
カスミ(今....今一瞬180のボディが炎に包まれた様に見えた!?ぶつける瞬間に...ブワァッて燃え上がった...!)
次の左コーナー、ザ・チェイスに向かう短いストレートを二人はまたアクセル全開で走る。
そして今度は限界までブレーキを酷使するフルブレーキングでザ・チェイスへ突っ込む。
180がインを取る。
カスミ(こうなったら奥の手を使うしかない、ここの立ち上がりで一気にね...)
続く右カーブをクリアした瞬間にそれは起こった。
S13が急激な加速を見せ、180を追い越したのだ。
リョージ「あれっ?何だあの加速!?」
オーガ「聞いてないんですか?あのS13にはニトロキットが積まれているって。
ハムサンドイッチ(プレイヤー名)に連絡しておくよう伝えたのに...」
リョージ「聞いてねぇよぉ~そんな話」
最終コーナー前のストレートで更にニトロを使用するカスミだったが...
突然S13のリアが滑り出した。アクセルの開度を誤りタイヤを空転させてしまったのだ。
パニックで制御不能に陥る。
ジグザグに進みながらコンクリートの壁へまっしぐら。
カスミ(あっ...終わった....)
しかし突然S13のフロントスクリーンに赤い閃光が走る。いつの間にか壁とS13の間に180が挟まれていたのだ。
180がクッションになったお陰でS13は奇跡的にフロントマスク意外は無傷だった。
が、180は後ろ半分が押し潰され、見るも無惨な姿に成り果てていた。
GTウィングは折れ、ディフューザーは吹き飛び、テールランプは粉々になっていた。
180から降りたJは複雑な笑みを浮かべていた。
S13からもカスミが降りてくる。
J「さてと俺の敗けだ、エンジンは今調べたところ無傷らしい。返すよ。」
カスミは拳を握りしめ歯を食い縛り震えていた。
カスミ「...何で助けた!? 」
J「俺はある人に助けられた、その人に一番近かったヤツがあんなことになってたんだ、助けない訳にはいかないだろ。
それにその[ある人]にはもう恩返しも何も出来なくなってしまったからな、せめてこのくらいはしないと。」
暫くカスミは下を向いたまま動かなくなっていたが、再度口を開いた。
カスミ「いい...」
J「えっ?」
カスミ「返さなくていい...太陽のエンジンは...」
J「何言ってんだ?」
カスミ「だってそうだろう!完全に私は負けていた、実力には明らかに差が出ていた....
こんな負け犬の私に太陽のエンジンを使う資格なんて無いに決まっていr...」
J「黙れ!何が資格だ!何が負け犬だ!
自分を下げてんじゃねぇよ !!! 使いたきゃ使え!それがお前の最終目標だろうがよ、自分から遠ざけてどうすんだよ!
自分の弱さから逃げてんじゃねぇ!向き合って克服しろっ!」
あまりの迫力にカスミは放心状態になっていた。
Jはエンジンのデータを渡し何処かへ消えた。
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トモユキは突然息が苦しくなって眠りから覚めた。
目を開けるとミドリがおろおろした様子で自分の鼻をつまんでいる。
トモユキ「ほほへああおえやておらってふぃい?(起きたからそれやめてもらっていい?)」
部室の中は窓から差し込んでくる夕方の日の光のお陰でオレンジ一色に染まっていた。
更に見渡すと一つ見慣れない光景が目に入る。
トモユキ「ちょっとミド誰あれ?生徒会の方?」
と小声でミドリに訪ねるトモユキ。
部室の入り口のすぐ前で、一人の背の低いメガネを掛けた女の子が部屋の中をキョロキョロと見渡していたのである。
ミドリ「いんやぁ、そ、それがさぁ新入部員らしいんだよねぇ」
トモユキ「は?マジ?こんな時期に?もうすぐ夏休みですが?」
ミドリ「ワタシも変だと思ってたんだけど連れてきたのが顧問だから信じるしかなくなっちゃって
んで、どうしたらいいか分かんなくなってオマエを起こしたってわけ」
トモユキはうーんと唸り、明るい声色で答えた。
トモユキ「オレを起こしてなんになるわけ?」
ミドリ「はぁっ?」
トモユキ「まず第一にオレは雌の相手が苦手だ、それとお前さんにも協力したくない。
このまま放っておいたら面白くなりそうだし、それにオレはだるい!だから寝る!おやすみ!」
トモユキは何処からともなくアイマスクを取り出し、それを着けると、椅子に腰掛け眠り込んでしまった。
ミドリ「えっえっあぁ~そのぉ」
ミドリがフリーズ気味になっていると突然の部室の戸が開いた。
キヨシ「そんな態度なら次の部長候補はミドちゃんかなぁ?」
トモユキ「わぁーっ!たった今悪夢を見たぞ‼
あのウドの大木部長が入り口から入ってきて腐れ女が次期部長だとよ!」
ミドリ「それ夢じゃ無いっぽいです」
この茶番劇を表情一つ変えずに見つめていた新入部員にキヨシがそっと話しかける。
キヨシ「ハハッ、うるさい奴らだろ二人とも授業中はこんなじゃないんだけどね
俺は部長の片尾、キミの名前は?」
新入部員の子はいきなり話しかけられ、少し驚きつつも質問を飲み込み笑顔で答えた。
???「一年三組、泉田 心音といいますよろしくお願いします」
WHEN THE SUN GOES DOWN編END
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