ヤイチはゆっくりとVRダイバーを外した。手が汗で湿っている。
ミドリ「ヤイッチ...大丈夫?」
ヤイチ「車ならスポイラー割れるくらいで済みましたよ。新人が良い修理工紹介してくれるそうで。」
ミドリ「そうじゃなくてぇ、顔が青ざめてるゾっ!」
リクの手が動き、VR ダイバーを勢いよく外した。
トモユキ「おっ、こちらも起きましたな...て、あれ?なんか顔色悪くね?」
突然リクは自分の鞄まで猛ダッシュし、鞄の中から黒いビニール袋を取り出した。
そして
リク「んっ、んっ、ぼげぇええっ!」
リク以外全員「えーーーっ、まさかの胃袋バックギア!?」
リクはティッシュで口元を拭き、青ざめた顔を上げる。
リク「やはりゲームとはいえ酔いますね、さすがオーバークオリティで定評のあるV・Racing。
実を言うとこれ、吐くのクセが付いちゃって...ん!オエェェェ」
ミドリがリクの背中をさする。
ミドリ「よーし、よしよし。全部吐いちまった方が楽だぜぇ...楽なんだぁ、ぜぇ..」
トモユキ(ちょっと頑張れば最高にエロいセリフになるのになぁ)
ミドリ「キヨっさん今日は新人クンにはもう帰ってもらった方が良いんじゃない?」
リク「そうですね、入部届けは明日出します...」
トモユキ「おい、明日学校無いぞ、今日金曜日」
リク「そうでしっうっ...帰ります~さよ~なら~」
リクは教室からヨタヨタと出ていった。
キヨシ「...よし、行ったな?
なあヤイチ、アイツのセブンのリアになんか貼ってあったの気づいたか?」
ヤイチ「え?そういえばウィングの下になんか貼ってあったような気がしますけど...暗いしほとんど前に出てこなかったから良く見せませんでしたよ。」
トモユキ「ヤイチちょっとこれを見てくれ」
トモユキはノートパソコンの画面をヤイチに向ける。
キヨシ「あれ?とっつぁんそれ俺のセリフ...」
トモユキ「新人のV・Racingでの経歴を調べたんだけど、とんでもない事が分かったんだ」
ミドリ「まず車のスペックから説明した方が良いかもね。だってあのセブン怪しいとこだらけだモン」
キヨシ「よぉし、じゃあ俺が説明してやろっ」
ミドリ「1978年型のRX-7SA22cに....」
キヨシ「えっ?ちょっと!?ミドちゃん?」
ミドリ「RX- 8の13B-MSP をスワップ、最高出力250ps。ボディは軽量化され、990㎏の車重を実現。そしてリアブレーキはドラムタイプからディスクに変更。
その走りは正に極上と言え、コンビニおにぎりを超える一品に仕上がっている。」
トモユキ「最後の要らんかったな!」
ミドリ「おう!」
ミドリはトモユキに向かってサムズアップした。
キヨシ「しかァモォ!ドライバーがまたヤバかった!ほらこれを見てくれ」
ミドリ・トモユキ((コイツ必死だな))
キヨシは机の上に置かれていたパソコンをひっ掴み、ヤイチの顔の前まで持ってきた。
画面にはリクのプロフィールが載っている。ヤイチはある項目に目がいった。
所属チーム:N・E
キヨシ「V・Racingにはゲーム公認の公式チームのという物がある。
入れるのは国内タイムアタックランキングの上位2000名か、または公式チームにスカウトされたプレイヤーのみ。そのチームの一つにリクは入っている...」
キヨシはパソコンを机の上に置き直す。
ヤイチ「あのぉー、このチームって確か今公式チームてっ50チーム有りましたよね?
N・Eてっチームポイントランキング最下位のチームで負け組で有名なチームだった気がするんですけど....」
キヨシ「あぁ、だが、奴がランキング上位のプレイヤーだということに変わらない。
あと、N・E 舐めん方がええぞ。昔のN・E のリーダーはこのゲームの四天王をも軽々と倒してしまう程の実力の持ち主だった、お前も聞いたことぐらい有るだろう[光速のエイト]の伝説を...」
語る気満々のキヨシは近くの椅子を引き寄せ、舞台役者の大雑把な演技に似た動きで椅子に座る。
キヨシ「二年生の二人も知っているだろ?かつてその名を轟かせた最速のプレイヤー....光速のエイト...」
ヤイチ・ミドリ「 ダ レ ソ レ 知 ら ん 」
トモユキ(ん?これは?)
トモユキはふとパソコンに目をやると、見過ごせない情報が載せられていた。
キヨシ「うそ~ん、知らない?シルバーのRX-8に乗ったバカっぱやい野郎のことぉ?」
トモユキ「お取り込み中失礼するけど、今のN・Eのリーダーリクだって」
ヤイチ・ミドリ・キヨシ「「「はァ!?」」」
三人同時に振り返る。
トモユキ「まあまあ落ち着いて、チームメンバー一人しかいないからでしょうよ」
キヨシ「もうワケガワカラン...明日アイツに何があったか聞いてみよう」
ヤイチ・ミドリ・トモユキ「「「ダカラ明日学校ねぇつってんだろ‼ 」」」
キヨシ(ミドととっつぁん、お前らいつも喧嘩してるけどほんとは仲良いだろ‼)
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その夜
V・Racing内の箱根にて、紺のSA22Cが曲がりくねった道をあり得ない速度で走っていた。
リク(箱根でウォームアップしてから別のコースでもいこうかな...ん?)
ルームミラーにヘッドライトの光が差し込む。
リク(一台来るな...この音はVTEC?....てことは、面倒くさいの来た...)
リクはアクセルを床まで踏みつけ、13Bエンジンの回転を一気にレッドゾーンまで放り込んだ。
リクの後ろにいたのはマジョーラカラーのホンダS2000だった。フロントガラスにはこんなステッカーが貼ってあった。
魔女桜羅(マジョーラ)
S2000のドライバー「ミーケッ‼」
リク(あの娘といると調子狂うんだよなぁ)
S2000はVTECのパワーを生かしてストレートで追い付く、しかし、コーナーではリクとのテクニックの差なのか、あり得ない間隔の開き方をしてしまう。
リクは殆ど全開モードだった。
リク(前より差が開かない、走りの無駄が少なくなってるのか?)
S2000のドライバー(その走りのキレッぷり、やっぱり...やっぱりこの人しかいない!)
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V・Racing内のとあるチューニングショップに銀髪の男が訪ねてきた。
コウジ「これは、これは、珍しいお客さんだ」
店の奥から小豆色の作業着を着た男が出てくる。
エイト「久しぶりですね、鋼二(コウジ)さん....」
エイトは心のこもっていない挨拶をした。
コウジ「お前になんか言おうと思ってたんだけど、何だったか忘れちまったなぁ~、えーと何だっけかな.......あっ、そうだ、てめぇ‼俺が作ったRX-8廃車にしやがったなぁ わざわざてめぇ好みにチューンしてやったのに。一体どういうつもりなんだ?」
エイト「あのマシンは完璧すぎたんですよ...本気を出さなくても、テクニックを使わなくても勝ててしまう。僕はテクニックの使い所を無くしてしまったんです」
コウジ「ほおう、じゃ、今日来たのは引退を宣言しに?」
エイト「いいえ、新しいマシンを作ってもらうために来ました。そこにベースマシン置いてあります」
エイトの指差す方向にはカバーに包まれた小型のマシンが置いてあった。
コウジはカバーを少しめくり、中を見た。
コウジ「ふーん、エンジンは4AGにするとして、足回りには何か注文はあるか?」
エイト「お任せします。あっ、馬力はそこまで上げなくてもいいですよ。」
コウジ「オーケ、一週間後に取りに来い、完璧以上に仕上げてやるよ」
続く
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2020/11/27 改訂版として再編集。