V・Racing   作:海苔 green helmet

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 登場人物

 リク:悪役みたいな主人公。親しい人物とは基本的にタメ口で話す(それなりに口が悪い)。
 身長が低い、160cmちょうど....と本人は言っている。
 実は結構神経質で精神的な障害を抱えている。

 井根:怪しすぎる探偵。
 いつもお面姿でボイスチェンジャーで声を変えているため性別が分からない。
 実はトランスジェンダー。

 リョージ先生(華村 竜仕):物真似が下手(得意技ライントレース エェ...)。
 自分がこうしたいと思ったことは必ず成功させるという信念をもっている。


 V・Racing♯32

 ボクはボクの周囲の人物には井根と名乗っている。勿論偽名である。

 ボクは性別まで隠している。

 理由として挙げられるものは二つ程あるが、一つはボクに正確な性別が存在しないことが挙げられる。

 そう、ボクはトランスジェンダーなのだ。

 

 正体隠すことについては仕方のないことなのだ、ボクの仕事の関係上個人情報を知られると色々とまずいことになる。

 

 仕事と言えば、今ボクの目の前にいるこの二人の男こそが今回の取引の相手である。

 片方は眼鏡をかけていて若く、もう片方は白髪で老いている。

 

 窓際の席に座って相手が話を切り出すのを待っていたがもう我慢が限界だ。

 

 井根「正直計画は順調じゃないですね」

 眼鏡の男「で、では成功する可能性は低いと?」

 

 眼鏡の男は今の言葉を聞いて若干の不安を抱いたようだ。

 

 眼鏡の男「くっ...我々の会社は今二つに割れています。あの事件の詳細を隠蔽しようとする派閥と公開しようと証拠を探す派閥。

 我々には時間が無いのです!どうかなんとかなりませんか!?」

 

 井根「ふぅむ、順調ではないというだけで、成功しないとは言ってはいません。

 そちらの状況も深く存じています、こちらとしても失敗させる気はありません」

 

 眼鏡の男の表情に安堵が見てとれる。

 

 井根「ですが、あまりにもやり方が酷すぎる!」

 

 ボクは木製の机を拳で叩いた。

 

 井根「まだ16歳!たった16歳!

 貴方たちの行った実験で脳にダメージを負っていて、それでもここまで生きてきた命だ!

 本人の同意はあれど、その命をまたもや利用して使い捨てるなど....人でなしにも程がある!

 彼に実の親や兄弟はいませんが、友人や....協力者等..

 彼に何かあれば悲しむ者達は少なからず居るのです!

 もう決まってしまったものをどうこう言うつもりはありませんが、今後こういった犠牲を出すのだけはやめていただきたいです.....!」

 

 力を込めて喋ったもので、少し鼻息が荒くなってしまった。

 老人の方が口を開く。

 

 老人「勿論我々も今後はあのようなおぞましい実験等を行うつもりはありません。そして次なる犠牲者を生み出すつもりもありません。

 ところで彼はどうです?」

 井根「と、言いますと?」

 老人「突然激しく怒りだしたり、暴力的になったりすることはありませんか?

 そういった状態になってくるといよいよということです。」

 

 [いよいよ] その言葉が脳内を駆け巡る。

 

 プロトタイプのVRダイバーはゲームのセキュリティを掻い潜れる代わりに脳への負担が大きい。リミッターすら搭載されておらず、万が一脳が危険な状態に陥ってもシステムが強制的にシャットダウンされることはない。

 

 更に恐ろしいのは危険であるとは分かっていても、それが脳にどのような影響を及ぼすのか、又その影響がどの程度のものなのかが全くの未知数であるという事だ。

 

 本当に自分のやっていることは正しいのか?多くの人の娯楽を奪うのを阻止する代わりに、僅か一握りの犠牲者達の存在を無かった事にする。

 そして阻止する道具として一人の命を危険に晒す。

 嗚呼、自分は何者何だろうな、何の権限があってそんな事が出来るのだろうな....

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 泉田「ほ、本当に何も覚えていないんですか?」

 

 泉田の声量が少し大きくなった。

 

 泉田「私戸頭さんと同じクラスだったんですよ。

 あの時に虐められていて、私は戸頭さんに助けられて....」

 

 

 本当に何も思い出せない。何故か分からない、心がすきま風でも吹いたような感覚がある。

 

 リク「ごめんなさい......

 泉田さんとはこの間知り合ったばかりだしですし...

 うーん、何も思い出せないということは、そんな出来事はなかったということなのでは?」

 

 俺はこの話を否定したくなった、なんとしてでも否定しなければと....内側の誰かが叫んでいた。

 

 泉田「そ、そんな!」

 

 驚きと悲しみの入り交じったその表情からは深い絶望が感じ取られた。まるで希望でも失ったかのようだった。

 

 嗚呼そんな表情はしないでくれ。

 内側の誰かさんよ、あんたはたぶん俺の本能なんだろう。自分の本能を裏切ってもバチくらい当たらないよな、いやそんなこと考えているうちに動き出すんだ。

 幸い人を騙すことには慣れている。

 

 軽く親指の爪を噛んで考える像とそっくりのポーズを決める。

 そして突然顔を上げて....

 リク「ん!?あっあのときの!」

 泉田「え?」

 リク「思い出しましたよ泉田さん」

 

 満面の笑みで泉田の方へ体ごと方向を変える。

 

 リク「あのときはゴメンね、まともなフォローできなくて」

 泉田「それじゃやっぱり」

 

 ここから先思い出話をされては困る、そこでコイツの登場だ。

 

 リク「そうそうあのとき確か...」

 

 横目に井根の姿を確認。

 

 リク「ん?あっ、こっちだよ!ゴメンねこの話はまた今度!親戚の姉さんが待ってる、また学校で」

 

 そう言って立ち上がったらあとは競歩の要領でなるべく速く[歩く]。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 家に帰って来て井根の荷物を台所へ運ぶ。

 

 井根「ね、ね、ちょっと聞きたいんだけどさ」

 

 俺がソファーにぐったりと腰かけると、井根が背後から話しかけてくる。

 無言で頷いて「今なら答えられる」と合図を送る。

 

 井根「ボクってそんなに女性に見える?」

 リク「え?」

 井根「さっきさ、君が...彼女?といたとき..」

 リク「おいおいまずそこの認識から間違ってるぞ、泉田はこの間知り合ったばかりでまだそこまで関係はもってない」

 井根「あれあれ~?[まだそこまで関係はもってない]ってぇ?その言い方はそれ以上の関係を望んでるって聞こえるなぁ♪」

 リク「あぁー!ドジ踏んだぁ!....悪かった、話をそらして悪かったよ。頼むから本題へ入ってくれお願いだから」

 井根「いやね本題も君にとっては下らないことかもしれないのだけどもね。

 実を言うとボクにとって性別というのは一種のコンプレックスになっているんだ。だから君がさっきボクのことを女性と言っていたのが少し気掛かりになっている。

 聞かせてくれ、ボクは女性に見えるのかい?」

 

 一瞬だけ沈黙が訪れた、俺は少し間を置いて話すことにしたのだ。

 何故ならその方が少し自分の頭の中を整理できるし、返答を貰っても考える余裕が出来るからだ。

 

 リク「俺はさ、嘘をついたんだ」

 

 更に沈黙する。

 

 リク「あのときはあの娘に嘘をつかなきゃいけない状況だった。だから色々とでっち上げた。

 俺はお前が女だって嘘をついたんだ。ただここで理解してほしいのは....

 今俺はお前を女と言ったことを否定したわけだが、俺はお前のことを男と断言したわけではない。

 俺はお前の性別なんて分からないし、気にしてない。

 よし、下らないアドバイスをしよう。

 お前はお前だ、秘密主義で探偵でビンボー。高校生の家に居候してる位な。おまけに変なテンションで仮装じみた変装をよくする。

 つまり俺が言いたいのは[お前はお前の考える自分でいろ。そしてコンプレックスなんてもの心配事と一緒にそこら辺のゴミ箱にでも投げておけ]あとそうだな...

 お前にはまだ選択肢がある、そりゃもう星の数より多いほどのな。変わりたければその選択肢で変わっていけ。」

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 井根と話終わったのち、自室へその体を運ぶ。

 次はヤツと話さなければならない。

 

 自室の鍵を閉めて電気を付けて一声呼ぶ。

 

 リク「マメイヌ」

 

 その幻覚はいきなりパッと現れた。姿は瓜二つだが、カラーリングの違う自分だ。

 

 マメイヌ「何か用か?」

 リク「小学校のころの記憶を寄越せ」

 マメイヌ「はぁ~、そんな記憶は無いんじゃないか?」

 リク「あのとき思い出せなかったのはお前の仕業だろ。」

 マメイヌ「根拠は?」

 リク「お前が意思を強く持とうとすると僅かに頭痛がすることに気がついた、さっきも同じだった。」

 

 マメイヌは僅かにため息をついて、両手で顔を被いながらベッドに座った。

 

 マメイヌ「後悔はしないな?」

 リク「しない。」

 マメイヌ「もうひとつ聞きたい事が...恋の為か?」

 リク「たぶんな。」

 マメイヌ「しょうがない、ほらよ」

 

 マメイヌが指をパチンと鳴らすと、小学校の頃の記憶が甦ってきた。

 

 まだ幼い頃の自分が、雨のなか子犬を抱えて歩いている。

 子犬には首輪は無く、所々泥で汚れている。名前は決まっていて「豆ちゃん」という。

 

 道を進んで行くと何やら声が聞こえてくる。

 どんな内容かはノイズがかかって良く聞こえない、恐らくここは記憶から抜け落ちているのだろう。だがそれらの声には明らかに罵倒や嘲りの言葉が混じっていた。

 

 声のある方へ興味本意で歩いていくと、そこにはあの泉田がいた。幼い頃の姿でもなんとなく分かった。

 

 泉田は複数の同じくらいの年齢の男子達に暴力を奮われていた。髪を引っ張られ、腹に軽く蹴りを入れられ、履いていた靴を水路に投げ込まれていた。

 

 幼い頃の俺は見ていられず子犬を持ったまま駆け出した。

 いじめっ子達が幼い頃の俺の接近に気付き、泉田への暴力の手を止める。

 

 幼い頃の俺は何かを話していた。おそらく止めようとしたのだろう。だがこれは明らかなおとりだった。

 目配せをして泉田に合図を送り隙をついて泉田が抜け出す。

 

 いじめっ子達は泉田に目もくれず一斉に俺に殴りかかってくる。

 

 殴る蹴るの暴行が続いた後押さえつけられ、抱えていた子犬を取り上げられる。子犬は地面に叩きつけられ、金属バットで袋叩きにされた。

 当然子犬は生き残れるわけなく、巨大な血の水溜まりがそこには出来ていた。

 

 場面が変わる。

 

 小学校の教室、幼い頃の俺はいすに座って周りの景色を眺めていた。

 周囲には会話する子や読書をする子がいた。

 廊下から足音が聞こえる、あのいじめっ子達だ。

 

 マジックを持って列の一番前の席にに落書きをしている。

 幼い頃の俺はゆっくりと立ち上がる。自分の座っていた椅子を掲げて静かにそのグループに近づく。

 ギリギリまで近づいて、そして....

 

 ここからの記憶が少しとんでいた。

 だか、何が起こったかは状況を見れば一瞬で理解できた。

 フレームがぐにゃぐにゃに曲がった椅子や床一面に広がった血を見れば何があったか分かるだろう。

 

 

 リク「五、六人か...」

 マメイヌ「全員頭部に強い打撃を食らってた」

 リク「つまり、俺は何だぁ....拾って可愛がってた犬を殺されて....」

 マメイヌ「.......実を言うとここからお前のジンse..」

 

 その時携帯の着信音が鳴り響いた。机の引き出しから携帯を取り出し電話に出る。

 

 リク「もしもし?コージ?......まてまて、全然話が読めない。幻が何だって?抹茶ラテFCの男?」

 

 

 

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