正直、また走る気にはなれるのだろうか。
俺がこのゲームで走る理由はアキラさんが死んだ時点で無くなっていた。
何度かあの人から渡されたエンジンを使いこなそうと奮闘した。結果は車体の大破だ。
あのエンジンは返してしまって良かったと思っている。
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J(ヤイチ)は突然後頭部を叩かれた。
J「イテッ!」
王子(ミドリ)「何悲劇の主人公ぶってんだよ。行くぞ!」
サイバーパンク風の町並みに、カラフルなネオン。空中に浮いたディスプレイに表示される広告。そして右を見ても左を見ても、車、車、車。
ここはV・Racing内で車やパーツの取引を行っている場所。特に名称は決まっていないらしいが、プレイヤーはそろってここを[ネオシティ]と呼んでいる。
王子(ミドリ)はすぐ傍に浮かんでいたディスプレイへ手を伸ばした。
王子「マップ機能は...これか」
アイコンをタッチすると、ネオシティのマップが表示された。
王子「おっ、カーショップすぐそこじゃん!
着くまでに欲しい車考えとけよ!」
J(欲しい車か...今更そんなもの..)
足が止まり、またネガティブな感情が滲んでくる。ふいに体が引っ張られた。王子が自分の手を掴んでいた。
王子「行こ!」
半ば引きずられながら足を進める。
J「そういえばトモユキ先輩はどこですか?」
王子「アイツのことだ、どうせ充電しないままVRダイバー持ってきて、今頃情けなく充電器差してるんだろうよ」
自動ドアが開き、マットを踏んで店内に入る。白いタイル張りの床や、照明は、外の雰囲気とはうってかわって透き通るような清潔感を醸し出していた。
店内は商品の代わりに、タブレットが棚に並べられており、これを使って自分で車を探す仕様になっている。
V・Racingでは車両の入手方法が複数ある。まず新車で買うこと。これは高いクレジットを支払う代わりに、状態の良く、全くもって手付かずの車両を入手することが出来る。次に中古での購入。他のプレイヤーが売却したものを安く購入できる。チューナーがプレイヤー同士で売買しているのがこの中古である事が多い。最後にガチャ。設計図を当てて製造して車両を入手する方法がある。
王子「おぉ!見てみて!Z33の中古!」
Jの顔にタブレットが押し付けられる。苦笑い。
J「また日産はちょっとなぁ~...そろそろ別の乗りたいです」
王子「うーん...具体例だしてちょ」
苦笑い。
J「どうせなら今までとは360度違うFF車とか乗ってみたいですね(嘘だ..)」
王子「おけおけ!ヤイッチはパワフルなヤーツ乗り慣れてるから...」
Jは王子の背中を見つめていた。後ろめたさに沈んだ感情で謝罪と言い訳を探していた。
J(解ってる。自分でも解ってる。自分が一番解ってる。
わざと乗り慣れないタイプを選んで、大失敗かまして逃げようとしてるんだ。
励まそうとしてくれている先輩まで裏切って、善意まで踏みにじって。
話せば理解してくれる人だって知っているのに...)
王子「ちょっと何すんのよ!」
どうやら考えに耽っている間に一悶着あったようだ。
王子「人が見てたモンひったくってんじゃないわよ!」
視線を向けると、悪趣味なガラのニット帽を被った男が王子からタブレットをひったくっていた。
???「はいはい、黙った黙った。ピーピー五月蝿いよ
低ランク勢は発言権無いから」
王子「あ"ぁん?いつからそんなルールだっての!」
???「いつからって...」
男はわざとらしく両手を広げた。余裕たっぷりの表情で。
???「ゲームといつ存在が生まれた頃からさ!
ゲームはいつだって弱肉強食。弱者は強者に狩られる。当たり前の事さ....」
王子・J(いや民度よ...)
男は片手でタブレットを弄ぶ。
???「しかし、まあなんだ、これを返して欲しくば、この僕を越える実力があると証明することだね」
王子は呆れたように一呼吸。腕をゆっくりと挙げ、ニット帽の男を指差す。
王子「やだね。勝負しない。」
???「ほお...」
王子「何故だか解る?理解出来てる?いい?その足りない頭フル回転させて1から10まで全部理解しなさい
ワタシにはねぇ、余裕があるの。アンタみたいに躍起になって上しか見えてないのはもう忘れてしまったかもだけど、これはゲームよ。楽しむモノなの。そしねワタシには楽しむ余裕があるの。
わざわざ他人を煽り散らかして、ポイント稼ぐバカとは立ってる土俵(ステージ)が違うの。
いいわ、くれてやるやるわよ」
???「ハーハッハッ、こりゃ失敬。エンジョイ勢の方でしたかぁ」
ニット帽の男は小馬鹿にしたように笑う。取り巻きも釣られてクスクスと笑う。
???「じゃあこの店で買わないなら、他行きなよ
ここは僕らの縄張りだk」
王子「ただッ!!」
王子はニット帽の男の言葉をわざとらしく遮った。
王子「しょーもない理由で他人にケンカをふっかける野郎を、いつまでも調子にのせておくわけにもいかない!
というわけでぇ!ヤイッチあと宜しく!」
J「・・・はあ!?今のセリフ完全に先輩がやる流れでしたよね?」
王子「バカ言え、ワタシにそんな実力があってたまるか
ワタシに主役は張れない。お前ならやれる。」
J「でも、え?でも...」
Jにとっては最悪のタイミングである。モチベーションは落ちるとこまで落ちていたのに、無理矢理バトルをする流れになっている。
王子「つべこべ言わず行ってこんかーい!車ならワタシのエボ使えっての!」
Jは王子にグイグイと背中を押され、ニット帽子の男の前へ立たされる。
???「ふーん」
ニット帽の男はJ品定めするような目付きでジロジロと見ると、取り巻きの方を向き、わざとらしく手を水平にして[まあまあ]というジェスチャーで笑いを取った。
???「ハハハッ、念のため自己紹介をしておこうか
僕は撃鉄。テツとも呼ばれるけどお前にはテツ様って呼んでもらおうかな?ハハハッ」
J「・・・・。はあ、確かにムカつくな。オイ..」
撃鉄「あ?」
J「笑いガスでもキメてるみてぇだな。大して面白くもねぇのに笑い声がしやがる。
なあなあ、マツだかハツだか知らねぇけどよ、イタイのはその名前だけにしてくれや。何も行動言動共にイタイ奴である必要なんざねぇだろ?」
撃鉄「なんだって?」
J「なんだ言語も理解できねぇときたか。まあ確かにユーモアセンス無いんじゃあ、人語を理解する頭も持ってなくて当然か。
俺はJ(ジェイ)。今ので頭にキタのなら、精々俺のナンバーでも追っかけて、目に焼き付けとくんだな!」