V・Racing   作:海苔 green helmet

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V・Racing♯38

 赤と白の縁石をフロントタイヤがかすめていく。フロントガラス越しに見えるマツダスピードアクセラのテールランプが徴発するかのように点滅した。

 エボⅥはカーブの通過スピードで一歩遅れるが、脱出時はJのハイパワーなFRを捻じ伏せてきた右足が真価を発揮し、一瞬でアクセラに並びかける。

 

 J(左足ブレーキを使って上手く回ってる。アンダー傾向の強いFFでも、極めて行けばそんな旋回速度叩き出せるのか...)

 

 エボⅥより若干パワーの劣るアクセラであったが、ブレーキやサスペンションの素性の良さから高い旋回性能を発揮していた。しかし、撃鉄のラフなアクセルワークがトルクステアを引き起こし、それの処理に追われ僅かながらペースダウンが発生する。

 一方で車重とパワーにより、脱出時とストレートにおいて優位に立つエボⅥは、搭乗者が四駆に初めて乗ったことと、ブレーキングにおいてJが撃鉄に対し一歩劣ってしまうことによってバトルを拮抗させてしまっていた。

 

 J「畜生っ!ウザいけど上手い!だからこそ更にウザい!」

 

 道は緩く右へカーブしていく。アクセル全開でインを開けない撃鉄とその相棒のアクセラ。アウト側からパワーで強引に鼻先をねじ込むJとエボⅥ。二台の排気音が重なり、弾丸の如くサーキットを駆け巡る。

 

 J(次でインとアウトが入れ替わる。次でイン側にいるのは俺だけど、結局ブレーキ勝負で負けてちゃこのままタイヤが死んでいくだけだ!何とかしないと!

 曲がりを速く!)

 

 ステアリングを切り込みつつ、ブレーキペダル踏み込む。焦ったJはペダルを離すタイミングを見誤った。スピードが乗り過ぎていたのだ。リアウィングの無いエボⅥのリアが暴れる。

 

 J「!!」

 

 咄嗟の判断でJはエボⅥをドリフト状態へ持ち込んだ。コーナーの通過スピードが以前より落ちる。が...

 

 J(鼻先が..ストレート出口に沿っていく...!?)

 

 ランエボはコーナー出口にて真っ直ぐストレートに沿うようにその矛先を向けていた。アクセラは車体半分前に出ていたが、未だコーナリングを終えていない。

 ドリフトで熱を帯びた4つのタイヤがアスファルトに食らいつく。ワンテンポ遅れてアクセラが加速を始める。

 

 二機のエンジン、八つのタイヤ。唸る。ゲームとは思えない程精巧なエキゾーストは耳を貫き、脳を叩き潰すように刺激する。

 アクセルは全開、床までペダルを踏みつける。エンジンの回転が、タコメーターの針が高回転域へ放り込まれていく。

 そして...

______________________

 

 王子「まっさか引き分けとはねぇ...」

 

 Jと王子はカーショップを後にし、コウジの工場へ転がり込んていた。

 

 J「威勢よく勝負を仕掛た手前お恥ずかしッス」

 王子「良いって良いって、相手の実力も車の性能も馬鹿にならないくらいだったし」

 

 王子は廃タイヤの山に腰掛け、足をパタパタと揺らした。

 

 コウジ「いや、あの、何で二人共当然のように寛いでるの?」

 王子「少なくともコッチの面子は落ちなかったよ!」

 コウジ「無視ぃ!?」

 王子「ちょっと静かにしててくれるかな?お兄さんとお姉さん今お話し中なの」

 コウジ「子供扱い!?」

 

 王子はJの方へ向き直る。

 

 王子「正直一番痛いのはいい車が見つからなかった事だよね〜」

 J「正直さっきまで自分の求めてる車の検討もついてなかったッス。でも今なら自分がどんな車を求めてるのか分かった気がするッス!」

 王子「して、その心は!」

 J「楽しい車!楽しくなければ真剣になれない!」

 王子「ナルホドヨシワカラン!んじゃカーショップ戻ろうかぁ」

 コウジ「あ?車探してんの?見てく?」

 王子「えっここ車売ってんの?」

 コウジ「まあガラクタみたいなのばっかだけどな」

 

 コウジは二人を工場の奥へ連れて行く。工場の奥は汚らしい半透明のビニール製カーテンで区切られていた。

 

 

 コウジ「工場の内装は自分でいじれるようになってんだ。さて、お待ちかね!これが俺の提供できる車達だぜ!」

 

 カーテンを開けた先には十数台の車...いや、数台の車とその他残骸が並んでいた。

 

 王子「何このパイプの塊?」

 

 王子はブレーキとサスペンションの付いたパイプの塊を指差す。

 

 コウジ「スペースフレームさ!本格的なレースマシンが作れる!はずだったんだがなぁ...」

 王子「なんだ?ケミカルXでも入ったか?」

 コウジ「まあ、これはやめとけ。次行ってみよう!」

 王子「げぇっ!隣のはムルティプラじゃん」

 

 そんな会話が3台分続いた後...

 

 コウジ「おっ!次のはマトモだぞ!」

 王子「えぇ...」

 

 そこにこじんまりと収まっていたのは、真っ白な三菱のミニカだった。

 

 コウジ「H47Vの四駆だ」

 王子「軽自動車ぁ!?舐めてんのか?2000ccのツインターボもってこんかーい!

 マジでさ、今まで一個もマトモなのないじゃーん。やめよヤイッチ!りっちゃんの知り合いだからって信用し過ぎてたわ!」

 

 呆れて帰ろうとする王子だったが、それとは裏腹にJの目はミニカに釘付けになっていた。

 

 J「低いっすね」

 コウジ「前のオーナーがジムカーナ用に使ってた。足回りは相当手ぇ入ってるぜ。よし、中を見てみろ」

 

 コウジはミニカのドアを開ける。

 

 コウジ「内装品は殆ど取っ払ってドンガラ状態、そして剛性確保のためにロールケージが組んである。

 勿論フロントにはタワーバーとメンバーブレースが入ってる。」

 J「これなら重量750kg切りも夢じゃないですね」

 コウジ「コイツの車両重量は走行可能状態において733kgだぜ」

 

 Jはミニカを舐めるように見つめる。

 

 J「エンジン掛けていいっすか?」

 コウジ「あ〜、それなんだけどさ」

 

 コウジはミニカのボンネットのロックを解除した。ボンネットがカコンッと持ち上がる。あまりの音の軽さに王子とJは顔を見合わせる。

 嫌な予感がした。恐る恐る開けてみると案の定ボンネットの中は空っぽだった。

 

 王子はJの肩に手を置いて一言「やめとけって」と放つ。

 

 コウジ「まあなんだ、3G83程度なら今日一日あれば手に入る。

 ・・・よし、こうしよう。3回までならオイル交換無料も付ける。どんなオイル選んでも無料だ。タイヤも2セット付ける。」

 王子「甘い言葉に惑わされるななよ〜」

 J「・・・買います!」

 

 王子は額に手を当て[やっちまった]というジェスチャー。コウジは契約成立と言わんばかりにJと握手を交わした。

 

 コウジ「まいどあり!大切に使ってくれよ!

 実はなコイツに前のオーナーがニックネーム付けてったんだ。相当可愛がってたんだろうな」

 王子「なんて名前?」

 

 Jはミニカに触れ、車両状態を表示できるホログラムを呼び出す。

 

 J「ZEKE(ゼケ)?」

 王子「ハッwZEKE(ジーク)だって。ミニカごときに大層な名前もらっちゃってさ

 てか三菱にZEKEとかどんだけ好きなんだよって感じ」

 J「でもいい名前ですっすね」

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