季節はすっかり梅雨時で、いつ降るかも分からない雨に怯えながら、鞄の中に折りたたみ傘を入れ常に持ち歩く毎日。正直うんざりしている。
今日も今日とて雨。屋上で練習している私たちにとっては雨は1番の敵。今日もこの天気のせいで練習はなくなった。
私は学校の玄関から真っ暗な空を睨み、1つため息をつく。
こんなに降るなら千歌ちゃんたちと一緒に帰ればよかったなぁ・・・。
ふと浮かんだ曲のイメージを少しでも早く形にしたいと思った私は、みんなが帰っていく中、音楽室に向かって行った。
曲のイメージはある程度形になったから帰ろう、と思った矢先、外は大粒の雨が絶え間なく降り注いでいた。
「・・・私ってば本当に不幸・・・、なーんてね。よっちゃんに失礼か」
基本的に一緒にいる堕天使な後輩の口癖を少し口にしたあと、ずぶ濡れになることを覚悟し、折りたたみ傘を広げ、雨の中を歩いていく。
うぅ・・・、最悪・・・。もうびしょ濡れだよ・・・。
やはりさした傘はほとんど意味をなさず、私の体を濡らしていく。はぁ、とため息をついた瞬間、突風が吹き、私の傘を強く叩く。
「きゃっ!?」
傘は風でめくり上がり、無残にも骨を折られてしまった。
「もう!!お気に入りだったのに!」
私はやり場のない怒りを原動力にし、バス停まで全力で走り出した。
「あれ?リリー?」
バス停に着くと、そこにはよっちゃんが屋根の下で小さく座って、雨宿りしていた。ベンチもあるのになぜか座らず、ベンチの上にはよっちゃんのカバンが無造作に置かれているだけだ。
「よ、よっちゃん・・・?」
手を膝につき、肩で荒く息をしながらどうしてまだ彼女がいるのか考える。
「どうしたのよ、そんなに息を荒らげて。それにずぶ濡れじゃない」
不思議そうな顔をしながらよっちゃんは私のことを心配している。
「きょ、曲のイメージが、湧いたから、形にしないとって思って、音楽室に・・・」
「そしたら大雨で、傘も壊れて、びしょ濡れのまま走ってきた、と」
私がゆっくり頷くと、よっちゃんはニヤリ、と笑う。
「やっぱりリリーはリトルデーモンの才能があるわ!」
「い、いらないよぉ、そんな才能・・・」
「むっ。まあいいわ。とにかく座ったら」
よっちゃんはベンチに置いていた自分のカバンを取ると、私に場所を開ける。
「ありがとう・・・。ふぅ・・・、疲れた・・・」
ベンチに腰掛け、息を吐くと視界が突然真っ黒になる。
「わわっ!?」
「タオルよ。拭いたら?流石にカバンの中まで濡れてるわ」
顔にかぶったタオルを手に持つ。
よっちゃんはこちらへ顔を見せようとせずに、そっぽを向いたままだ。
タオルと彼女を交互に見比べ、私は思わず笑ってしまった。
「何よ。突然笑い出して」
「ううん。よっちゃんは優しいなって」
「べ、別に優しくなんかないわよ。このくらい普通でしょ」
相変わらずよっちゃんは顔を背けているが、声は明らかに上ずっていて、動揺が見える。心なしか顔も赤くなっている気がする。
「それでなんでよっちゃんはまだ帰ってなかったの?」
それを聞くとよっちゃんはバツの悪そうな顔をする。
「宿題でやってくる範囲間違えて居残りしてたのよ!」
「あ、あはは・・・。相変わらずだね・・・」
「オマケにこんな大雨!やっぱり不幸だわ!」
いつもの決まり文句。
最近はこの言葉を聞くのを楽しみにしている私もいるが、そんなことを言ったら怒られそうだから何も言わないでおく。
「・・・何よ、笑って」
仏頂面のよっちゃんは私を睨む。
「別に〜。やっぱりよっちゃんだな、って」
「本当に何よ・・・」
するとよっちゃんは屋根のあるバス停から外へ出て、大粒の雨を体で受け止める。
「な、何してるの!?風邪ひいちゃうよ!」
「ねぇ、リリー」
私に背を向け、呟く。よっちゃんの声は小さかった。今降っている雨が地面を、屋根を叩く音より。だけどその声はやけに大きく私の耳に届いた。
「何?」
「リリーはヨハネと一緒に堕ちてくれるわよね?」
雨に打たれながら、よっちゃんは振り向くと悲しげな顔で呟く。
多分、今のよっちゃんセリフはこれからも仲良くして、と言う意味だと私は直感する。この雨がもしかしたらよっちゃんの本音を少しだけ顕にしてくれたのかもしれない。
「突然何?どういうこと?」
だけどあえて私はその事に気づかないフリをする。
「そ、その・・・。リリーはリトルデーモンなの!ヨハネと一緒なの!」
恥ずかしくなったのか、よっちゃんは大声をあげる。
「ふふっ。そうだね」
「だから・・・」
「?」
よっちゃんは腕を背中で組むと、優しく微笑む。
「ヨハネとリリーはずっと一緒よ。この契約は絶対に切れないわ」
「・・・うん!」
私も立ち上がり、よっちゃんの隣に立つ。
そういうところだよ。やっぱりよっちゃんはいけない子だよ。
雨なんか気にせず、私たちは手を繋ぎ、この曇った空が晴れるのをただ待ち、見つめ続けた。
山なし、谷なし、オチなしのただ私の妄想でした。
雨の日に2人がこんな話をしてたらいいなー、なんて。