そして新年号公表前。
そんな平成最後のよしりこに向けての前哨戦。
「「ご卒業おめでとうございます!!」」
静真高等学校のスクールアイドル部室にルビィちゃんとマルちゃんの声とクラッカーの音が響く。
3年生になった私たちは今日、この学校を卒業し、3年間の高校生活を終える。改めてこの3年間を思い出すと色んなことがありすぎて上手くまとまらないけど、私にとって人生の宝物になったのは言うまでもない。1つ思ってもいなかったのは3年間、毎年制服が変わったことだろうか。
「うっ、うぅ・・・。ぐずっ・・・みんな・・・!あ゛り゛か゛と゛う゛〜!!」
涙と鼻水を垂らしながら千歌ちゃんがルビィちゃんとマルちゃんに抱きつく。
「うわぁーん!!私もー!!」
曜ちゃんも千歌ちゃんも同じように抱きつく。
「ずらっ!?」
「ピギッ!?」
わんわん泣いている2人につられたのか、最初は驚いていたルビィちゃんとマルちゃんも大きな瞳に涙を溜め、声を出しながら泣き始めた。
ここには私たち以外はいない。Aqours初期メンバーだけ、という粋な計らいを作ってくれた1年生たちには感謝しないと。千歌ちゃんはともかく、こんな曜ちゃんを後輩たちには見せられない。
「はぁ・・・。全く・・・。何やってんのよ」
その光景を1歩引いて見ていたよっちゃんが溜息をつきながら私の横に並ぶ。
「いいと思うよ。私たちらしくて」
「もう・・・。最後の最後まで・・・」
呆れているがどことなく満足気なよっちゃん。
「ねぇ」
「うん?」
よっちゃんは私に顔を寄せ、耳打ちする。
「ちょっと来て」
「え?」
よっちゃんは私の腕を掴んでグイグイ引っ張っていく。
「え!?ちょちょ!ちょっと!?」
「いいでしょ。あんな状態なんでし、気づかないわよ」
「えー!?」
「改めて。卒業、おめでとう」
「う、うん。ありがとう、よっちゃん」
引っ張られて来たのは学校の敷地内の片隅。
「寂しくなるわね・・・」
さっきとうって変わってしゅん、とした顔でよっちゃんは呟く。
「だね・・・。でも、ルビィちゃんやマルちゃんは一緒だし、部活の後輩だっているよ」
「そういう意味じゃ・・・。・・・そうね。梨子さんはそんな感じだしね」
「もー!どういう意味!?・・・って名前で」
珍しく私を名前で呼ぶなんて・・・。何かあるのかも。
「あの、よっ」
「東京」
私の言葉をよっちゃんは遮る。
「東京に行くのよね・・・」
「う、うん・・・。そうだけど・・・?」
「どうしても行くの?」
「うん。音楽の勉強をしたいからね。スクールアイドルを通して自分のやりたいことを全力でやる、っていうことを学んだ。だから今の私がやりたいことを探してみたいの」
千歌ちゃんに誘われて始めたスクールアイドル。最初は私と果南ちゃんを入れた3人に曜ちゃんやルビィちゃんたちが加わって、9人になったAqours。何かを残すために全力で駆け抜けたあの気持ちを大事にしたい。そう思って私は新しい場所で探す。そう決めた。
「・・・そう・・・、決めたのね・・・」
「うん。ここを離れるのは少し、寂しいけど」
「・・・・・・・・・でよ・・・」
「ん?」
その瞬間、よっちゃんは私に抱きつく。
「よ、よっちゃん!?」
いきなりどうしたのか。訳が分からずあたふたしてしまう。
「行かないで・・・。行かないでよ・・・」
泣いていた。体を小さく震えさせながらよっちゃんは泣いていた。
「なんでよ・・・。やりたいことを探すのならこっちでだってできるじゃない・・・。東京になんか行かなくたって・・・。今年も来年も・・・、その先も梨子さんと一緒に居たかったのに・・・。遊びたいのに・・・。私を置いて行かないでよ・・・」
私と離れたくない・・・か・・・。正直嬉しい。泣くほどだし、その言葉に嘘偽りなんてあるわけない。たった1人にそんなにも思って貰えるなんて幸せなことなんだ。でも・・・。
「ごめんね・・・。よっちゃん・・・。もう決めたことなの」
「でも・・・!でもぉ・・・!」
「泣かないで。夏休みや冬休みにはこっちに戻ってくるから。ね?」
頭を撫でながら優しく言うと、よっちゃんは離れ、流れていた涙を手で拭う。
「ほんと・・・?」
「本当だよ。約束」
よっちゃんは下を向いたまま顔を上げようとしない。
「だから顔上げて?ね?」
「・・・決めた」
「・・・うん?」
決めた?何を?
「これ」
「それって・・・」
よっちゃんはいつも密かに首にかけているネックレスを取り出し、私に差し出す。
「梨子さんが誕生日にくれたネックレス。これ、渡すわ」
「どうして?」
「勘違いしないで。預かってもらうだけよ。来年私も東京に行く。それをまた返しに。それまで絶対こっちに帰ってこないこと!連絡も一切、私にはしないでよね!」
「で、でも・・・」
「いいから!」
無理矢理ネックレスを手に持たされる。
「それまで絶対無くしちゃダメよ!」
よっちゃんは後ずさり、腕を後ろで組み、微笑む。
「絶対、行くから。待ってなさいよね!追いついて探し出してやるんだからね!」
「うん、待ってる」
かなり理不尽な言い分だけどそれがいつものよっちゃんみたいで。心地よくて。私は彼女の言うことを信じてやりたいことを探すのもいいかも。
「全く・・・。自分のやりたいことを見つけないといけないのになぁ・・・。やることが増えちゃったよ」
私は少し大袈裟に溜息をつく。
「な、何よ・・・」
よっちゃんは少し狼狽えて、私の様子を気にしていた。
それがおかしくて私はクスリ、と笑う。
「よっちゃんがいけないの」