踏台転生者となった男が人生を振り返る10分間 作:Hydrangea
原作:メタルギア
タグ:神様転生 転生 憑依 原作知識無し 一人称 独自設定 原作ネタバレ メタルギア MGSVGZ MGSVTPP
※タグにもある通り、本作は原作に関するネタバレとそれを前提としたストーリーとなっています。ご注意ください
※本作は以前投稿したもののリメイクとなりますが、ほぼ別物となった事もあり再投稿としています
『その生涯を 他者の為に回り続ける歯車として捧げよ』
それが、
愛と平和を説く信仰には縁遠く、一方で日常的に狂気へと触れ、時に自ら被る事でそれをやり過ごす事を生業とする者が、剰え頭部への強い……今尚癒えぬ多くの障害を残す程に強烈な衝撃を以て「思い出した」とくれば、医者であってもまず虚言・妄言の類と考える事だろう。自分自身、仮に誰かから同じ事を打ち明けられた所で、まず「他所をあたってくれ」と思う筈である。
だが、例えそれがどれ程荒唐無稽なものであったとしても、実際にその記憶を持つ自分にとっては紛れも無い事実であり――半世紀以上に渡って積み重ねられてきた歳月をこうして振り返ってみても、やはり明らかな真実でもあるのだろう。
思い返せば幼少期、まだ物心がつくかの頃から既に、彼の言葉の影響はあったのだろう。
何の変哲もない家に生まれ、周囲と同じように育ち、野心や反骨心とは無縁と思われていた”普通の子”がしかし、「この生は自らの為のものに非ず」とでも言うべき聖人じみた考えを朧げながらであっても自ら抱き、やがては生まれの地を単身飛び出すにまで至った。まして当時にあっては、自分達の貧しさを言い訳により弱きを食い物とする事が
尤も、以後数十年に渡り付き合ってきた身にしてみれば、その衝動は福音どころか呪いそのもの。記憶になく由来も判らず、しかしこの身を捕らえて離さないそれは、何をしても満たされる事のない渇きとなって心を苛み続けた。
悪習と袂を別つ為に兵士の道を選んでは後に引けない所にまで進み、その中で「誰かの為に」という渇望を満たす単純な手段として医の術を学んでからは、銃を持つ手で命を救わんともがく毎日。ならば とアプローチを変え、より多くの為自らを捧げるに足る存在を、それに相応しい義を探し求めるも、混迷渦巻く冷戦時代にあっては容易でなく根無し草として流離う日々。
確かに、その過程の中で救えた命もあった。短い間ながらも気の合う仲間に巡り合う事もできた。だが、それらをしても心の奥底から湧き上がる叫びを鎮める事は叶わず、背に負う十字架はその重さを増すばかり。
だからこそ、長き旅路の果てに漸く“答え”へと辿り着けた時は、それからの日々は、何よりも満ち足りたものであった。今度こそ同じものを目指す仲間達と共に大きすぎる理想へ我武者羅に走った軌跡が、その中で幾度となく繰り返した試行錯誤が、時折交わす他愛ない冗談の一つ一つが、全てがまるで宝石のようであった。
夢を見過ぎていた部分もあったのだろう、大きな力を手に入れて舞い上がっていたと言われても否定できない。だがそれでも、生まれも人種も言語も、国境さえ越えて一つ旗の下に戦ったその僅か数年が、今世において最も輝かしい時代の一つである事は疑いようも無い。
だからこそ、それらが一夜の夢と崩れ去った時、行き場を失った想いは憎しみとなって燃え上がった。己すら焼き尽くす程の猛毒でもあるそれは、怒り以外のあらゆる感覚を麻痺させ、視野を狭め、五臓六腑が傷つき腐ってゆく事さえ厭わず、幼き日のそれとは全く異なる衝動を以て傷だらけの身体を突き動かした。
所謂前世とそれに纏わる記憶を取り戻したのは丁度その頃であったが、仮にそれがなくとも、今世における最大の転機はその時期であったのだろう。自分なりの答え などとういう生温いものではない逃れ得ぬ現実として、顔も名前も身分も経歴も、およそ私という存在とそれが築き上げてきた何もかもはあの夜に焼き尽くされた。辛うじて拾った命すら最早自分のものではなく、これより先の再起も復讐も、その果てに見つけた次なる道も……残る人生のおよそ悉くは、真実他者の為に捧げられる事となった。
これが全て。個人的な感想も多分に混ざってはいるが、可能な限り客観的に捉えた、「誰かの為の歯車」とされた男が二度目の人生六十余年。
今尚兵士として現役でいられる点を考えれば、五体満足でないとはいえ随分長生きしたものではあるが……それさえ歯車としての役割を果たすべく与えられた時間 というのは流石に考え過ぎだろうか。
けれども同時に、こうして老境の入口にまで至り、酸いも甘いも含んだ旅路を自らの足で踏みしめてきたからこそ見えてくるものもある。一度は掴み、しかし呆気なく零れ落ち、それでも拾い集められたからこそ言える本当の
他者の為に回る歯車、確かにその通りなのだろう。今世で直面した幾度もの節目と転機、その殆どは環境や状況といった外的要因に大きく影響されており、例え洗脳染みた思考誘導などでなくとも、点在するそれらを繋ぎ合わせた結果として見れば、彼の言葉の主が掌上・描いた筋書通りとなっており、自分はその傀儡であったのかもしれない。
だがそれでも、悪徳に頭を垂れ目を瞑る事を認めずに村を飛び出したのも、戦場で尚理不尽な命の安値に抗い続けたのも、夢想めいた義を追い求め放浪したのも――そして、漸く見つけた忠へ身も心も……名前さえ捧げたのも、全ては自らの選択。闘う事を選んだのは、何時だって自分の意志だった。それこそが、私という存在なりの自己表現であった。
その上でこの人生が歯車だというのなら――それも悪くない。
所詮、どこまでいってもこの身は一人の兵士でしかない。しかし、例えどれ程矮小なものであろうと、それが歯車である限り他と噛み合い世界を動かしている。錆び、欠け、風化し、最早私としてはこの世界に存在していないのかもしれないが、その
そうだ、これこそが二度目の生を拾った私が歩んできた、全てを失い全てを得た俺が歩む道。
今の自分はもう、全てを焼き尽くさんとする報復心に憑りつかれた毒蛇ではない。あるがままの人間として自分に、その心に忠を尽くした、尽くす事ができた。ままならぬ事ばかりの生において、これ程の幸せがあるだろうか。
☮☮☮
――重々しい作動音と共に、メッセージを吐き出し終えたカセットテープが止まる。既に準備は万全を期しており、成すべき事も十全承知。今更改めて確認する必要も無い筈だが、こうして聞き返したくなったのは……らしくもない感傷だろうか。
だが、それもここまでだ。今日この日に至るまで、多くの悲しみがあった。耐えがたい痛みがあった。今尚癒える事の無い絶望があった。それでも、割れた鏡へと映る眼差しに一切の迷いは無い。そこに在るのは私であった俺そのもの。返り血で染まっただけの
間もなく先方の予定した時刻。敵方工作員の潜入を逆に利用した情報攪乱作戦、長きに渡り水面下での敵対を続けてきた件の組織との最後の――――そして、私という一人の人間にあっては、その矜持を賭した闘いの始まり。
私は知っている。これから来るのが、単なる“優秀な新兵”などではない事を。世界の裏で暗躍を続ける彼の組織が、その力の粋を集めて造り出した「次世代の兵士」。人間を構成する最小単位たる遺伝子より手を加えられ、優れた
人間のエゴとはなんと恐ろしいものなのだろうか。今より先の時代を知る身でさえ戦慄を覚えずにはいられない術を、人が人を絶滅させかねない時代に産み落としてしまったのだから。
故に、私は誓おう。まだ自分は止まらない、止まる訳にはいかない。
俺達の望み……戦場に生き、戦場でしか生きる事のできない兵士達の解放は未だ道半ばであり、この蜂起を以て漸く旗が上げられる。なればこそ、例え相手が何者であろうと――俺ではない俺の分身であったとしても――打破するのみ。
遺伝子が何だ、兵士としての資質がどうした。強き意志で磨き上げられたダイアモンドの如き輝きは、そんな模造品などに決して負けはしない。
さぁ来るがよい
『……こちらBIG BOSS……………聞こえるか、“ソリッド・スネーク”。
これより潜入作戦N313を開始……
……武装要塞アウターヘブンへ潜入し、最終兵器“メタルギア”を破壊せよ』