『統計学と”魔法使い”という生物』著:A.L 作:クローン少女
「それにしても、うるせえな。耳が壊れそうだぜ」
隣にいるアルフォードは顔をしかめてそう言った。
確かに、ガヤガヤといろんな話声が廊下に反響して、スティーブンも少し耳が痛くなっていた。
「きっと、毎朝こんなもんじゃないかな」
ホグワーツに全校1000人は居る。しかも、朝となれば一斉に寮から出て行くのだからごった返すのは致し方ないだろう。
「‥‥冗談言うなよ。俺、耐えられない」
そうアルフォードが悲痛な声を上げたとき、彼の隣を歩いていたアビエスが自分たちと違う方向へ歩いていこうとした。慌ててスティーブンが引き留めようとすると、それより先にアルフォードがアビエスのローブを掴んだ。
「おい、アビエス。そっちじゃねえ、魔法薬学の教室はこっちだ」
「知ってるよ」
「はあ?知ってんだったらなんで、反対方向へ行こうとすんだよ。意味わかんねえよ」
「あの子にペアを頼もうと思ってたの」
「あの子ってだれだよ」
「友だち」
「名前は?」
「知らないよ」
「‥‥それ、友達なのか???」
「うん、そうだよ」
「‥‥あっそ。でも、今は授業が優先だぜ」
アルフォードに背中を押され、むすっと唇を尖らせておさげ頭はむくれた。そして、アビエスは仕方なく自分の横をてこてこ歩き始めた。
なんかこいつ幼いかもとスティーブンは思った。自分よりも頭一つ分アビエスは小さかったし、ふとした時の言動も11歳には見えなかった。まあ、彼は彼で自分の幼さを自覚していないのだが、あのアブラクサスの義妹にしてはアビエスが幼稚過ぎた。
‥‥それに、
まったく、アビエスはどこへ頭を突っ込んだのだろうか。目立たないものの、おさげにはチクチクとした小さな芝生がたくさん刺さっていた。一体、いつ、この時間のない朝に、草むらへ行ったんだとスティーブンはため息をついた。
(僕、本当にこいつの面倒見れるかなあ‥‥なんだか年下みたいだし)
不安を覚えながらも、アブラクサスに頼まれたのもあって、スティーブンはアビエスにクディッチを教えることだけは楽しみだった。
「‥‥たっく、なにやったんだよ、お前」
アビエスが汚れていることに気が付いたアルフォードも、舌打ちをしながら彼女のローブについた芝生を払い落としている。
「なあ、スティーブン」
「何?」
「魔法薬学の先生って、寮監の禿げ頭か?」
「しー、おいっ、馬鹿」
突然の悪口にスティーブンは血の気が引き、思わずおさげを掴んだまま足を止めた。アビエスが悲痛な声を上げたが、彼の耳には届かない。
アルフォードを肘でどつき、スティーブンは彼を睨み付けた。
「そんな呼び方するなよ!」
「べつにいいだろ、禿げてんだし」
「駄目だ!スラグ・クラブに呼ばれなくなちゃうだろ!」
「何言ってんだ。俺はそんなの別にどうでもいい。生徒のことをコレクションとか、きもすぎだろ、あのヨボヨボ。よっぽど自分に自信がないんだろうよ」
そう吐き捨てるアルフォードは心底スラグホーンが嫌いらしい。スラグホーンと聞いただけで、不愉快そうに顔をしかめた。
いやいや、不快なのはスティーブンの方だった。こうしてアルフォードと話していれば、自分までも悪口を言っていると勘違いされてしまうかもしれない。親友の配慮のなさが癇に障った。スラグホーンクラブは自分にとって、チャンスになるかもしれないのに。
頭に血が上ったスティーブンはアルフォードの腹にパンチをくらわした。ウッとアルフォードが顔を歪ませたが、お構いなく彼は声を張り上げた。
「お前が良くても、僕がダメなんだよ。分かってんのか?僕の将来がかかってんだぞ!え?」
「あーはいはい。分かりましたよ、自称天才クディッチ少年君」
「あ?なんだと!お前!今なんて言った!」
「自称、天才‥‥「あ!やったあ!!!」
揶揄うようなアルフォードの声はアビエスの大きな声で遮られた。アビエスは教科書を抱えたまま、これから向かう階段へと走り始める。
「ちょ、待て!アビエス!」
アビエスのローブをつかみ損ね、アルフォードの手が空を切った。
「おい!聞いてんのか、アルフォード」
怒り冷めきらぬスティーブンはアビエスのことを丸きっり無視して、彼の肩を掴んでゆすったが、その手をアルフォードは振り払った。そして、アビエスが走って行った方向をじっと見たまま、怪訝そうに眉根を顰めた。
「おい、お前、あいつのこと知ってるか?」
「は?あいつって誰だよ」
「ほら、今、アビエスが話しかけている奴」
アビエスが走って行った先には、自分よりも小さい少年が居た。少年は突然現れたアビエスに驚いていたようだが、すぐに歩調を合わせて歩き始めた。どうやら知り合いらしい。
だが、見かけない顔だった。あの少年のことは、今まで、絶対に見たことはない。
なぜって、その少年は一度見たら死ぬまで忘れられないほど、美しい顔立ちをしていたからだ。
少年の後ろ姿を見ながら、スティーブンは理由の分からない苛立ちを感じた。
「知らないな‥‥お前は?」
「ネクタイの色は緑、スリザリンだな」
顔見知りではないということは、純血でないということだ。ダメだ、とスティーブンは今すぐにアビエスを引き戻しに行こうとした。天下のマルフォイ家たる純血貴族がマグル生まれや混血と付き合うなんて絶対にダメだ。
しかし、アルフォードの方はと言うと
「はーん。本当だったんだな。あいつ、"友だち"居たんだ。よかったよかった」
と、呑気に感心していた。その様子にスティーブンは少しイラッとした。
「お前、どんな状況なのか、分かってんの?あいつ、たぶん純血じゃない」
いいじゃないか放っておけよと後ろからアルフォードの声が聞こえたが、スティーブンはそれを無視して、2人の方へ近づいて行った。
「おい、誰だよそいつ」
「スティーブン、そいつじゃないよ。トムだよ」
後ろから声をかけると、アビエスが不満気にそう言った。すると、その隣に居た綺麗な少年がこちらへにこやかに笑いかけてきた。
「やあ、僕はトム・リドル。よろしく」
なんだかその美しい微笑みが、やけに癪に障った。
「聞いたことないファミリーネームだ」
握手にこたえる代わりに、スティーブンは少年を睨み付けた。少年の方は急に向けられた敵意に困惑して、眉を下げていたが、アビエスは明らかに気分を害したようだった。
「失礼だよ、スティーブン」
「違う、アビエス!お前、こんなやつと関わるのやめろよ!どこの誰かも分かんないんだ!こんなことしていたら、お前のお兄様が怒るだろ!」
「そんなことじゃ、アブラクサスは怒らないよ」
彼女のヘーゼルナッツ色の瞳が自分を非難するように見つめている。それがなんだか胸に刺さるようで、余計スティーブンの心は苛立った。
しかし、何か言い返そうと彼が口を開く前に、アビエスは美少年の腕を引っ張った。
「トム、行こう。授業に遅れるよ」
うん、と少年の方は当惑した表情のまま、アビエスに連れられ、教室へと小走りでかけて行った。
なんだ、なんなんだ。あいつ、失礼すぎる。こっちは心配して言ってやってるのに、どうしてそんなに僕のことを睨むんだとスティーブンは下唇を噛んだ。
なんだか物凄くムカムカして、彼はチッと壁を蹴った。
「まあ、まあ、そんな怒んなって」
「触んな」
ポンッと肩に手を置かれ、スティーブンはさっき彼にされたのと同じように、その手を払いのけた。
「‥‥まあ、いいじゃないか、スティーブン。別にアビエスの面倒をお前が見なくちゃいけないわけじゃない」
「お前、マグル生まれを擁護すんのか」
慰めの言葉も無視して、スティーブンは責めるようにそう言った。アルフォードは首をすくめて、別にそういうつもりじゃないけど?と笑った。
「俺自身、マグル生まれと付き合うのは勘弁。だけど、あれはあれであいつの勝手だろ。俺たちがどうこう口を挟むことじゃない。アビエスはマルフォイ家の人間だ。マルフォイ家のことはマルフォイ家の人間が決めることさ」
「マルフォイ家はマグル擁護派じゃない」
すると、いいから俺たちも早く行こうぜ、とアルフォードはスティーブンのローブを引っ張った。
「引っ張んなよ。伸びちゃうだろ」
そう言った途端、授業開始を知らせるチャイムが鳴り、怒っていたスティーブンもすっかり真っ青になった。2人とも慌てて走り出し、ドタドタと階段を駆け下りた。
「お前、どっちにしろスラグ・クラブ無理なんじゃね?」
「うるさい!」
全力で階段を駆け下り、息を切らして教室に入れば、自分たち以外全員席についていた。教卓の前では、こでっぷりとしたスラグホーンがニコニコと人のよさそうな笑みを浮かべて立っていた。
「おお!君たち、ブラックにエイブリーだね。素晴らしい度胸だ。初日から遅刻なんて初めてだよ」
大慌てでぺこぺこと謝って、スティーブンはアルフォードと隣の席に腰を下ろした。
その時、彼はちらりと、アビエスと先ほどの美少年の方を見た。
随分と仲がよさそうである。
軽く舌打ちをして、彼はその不愉快な事実をアブラクサスへ報告することを決めたのだった。
だが、結果として数日後、彼の身に大きな不幸をもたらすことになる。
水曜日って言って、木曜日になりました(*´∀`*)
※最初、アルフォードの名前を間違えて投稿していました汗
多忙のために更新不定期になります。