『統計学と”魔法使い”という生物』著:A.L   作:クローン少女

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02 半年後

少女がグリンデルバルドの元へ来て、早や半年が経とうとしていた。

 

当初、神経質であまり喋らない寡黙な少女だと彼は思っていた。そのために、あまり話しかけず、黙って笑いかけ、頭を撫でたり抱きしめたりと彼はいろいろと気を使った。

 

組織に売られていた以上、人間不信であることに間違いはないと思っていた。

 

人間不信の子供は大人を信用しない。だが、一度飼いならせば決して裏切らない。

 

そのことを彼はよく知っていた。

 

子供とて、大人を信用したいに決まっている。

 

自分がそれになればよいのだ。

 

事実、この数か月間、彼が愛情を与えれば与えるほど、少女の冷え切った心は次第に溶けて行った。

 

初めのうちは、他人に触れられることに慣れておらず、少女はただ固まっていた。しかし、手をつないで散歩を繰り返すうちに、自ら膝上に飛び乗ってくるほどになった。

 

そして、新しい環境になれるに従い安心したのか、年齢相応の煩さを取り戻していき、今では笑顔で城の中で走り回る始末である。

 

それどころか――

 

 

「魔法使いのお父さん!鬼ごっこしよう!」

 

 

書斎で静かに本を読んでいたグリンデルバルドは、小さくため息をついた。だが、本をパタンと閉じて重い腰を上げた。

 

彼も彼で、柄にもなく毎日少女の遊び相手をしているのだ。そのおかげで、二人は早々と打ち解けた雰囲気になっているが、彼も五十路である。体力の限界に近かった。

 

彼は走り寄る少女を屈んで抱き留めた。

 

 

「アルセーニ、今日は鬼ごっこをやらないで街に出かけよう」

 

 

その言葉に少女は黄金の瞳を瞬かせ、嬉しそうに彼を見上げた。

 

 

「あ!分かったよ。杖でしょ?前に言ってたやつだ」

 

「‥‥ああ、そうだ。お前が魔法を扱えるか知りたいのさ」

 

 

青くさらさらとした髪の毛にキスを落とし、彼はニコリとほほ笑んだ。

 

そう、彼がここまで少女を大事にしていた理由はそれだった。

 

 

”鬼ごっこ”

 

 

先ほど、少女が言っていた言葉であるが、これは普通の子供が行う鬼ごっこではなかった。

 

少女は杖もないままに、数メートル先へ瞬間移動を繰り返し、恐ろしい体力とスピードで城の中を走り回るのだ。これには度肝を抜かれたが、それと同時に彼はしめたものだと喜んだ。

 

三階から一階に飛び降りても無傷であるほど丈夫な体、俊敏な動きに高い身体能力、対象に直接触れずにそれらを宙に浮かせる能力。

 

少女に詳しく尋ねたところ、彼女は痛い注射を定期的に何度も刺されて、長いことそれらの能力を無効化されていたことが分かった。

 

おまけに彼を信用しきっている少女は、自分のことをぺらぺらと話しはじめたのだ。

 

 

『これはね、宇宙エネルギーを借りているだけ。わたしの力じゃないんだ。見えない力は一番宇宙でありふれていて、とっても崇高なものなんだって』

 

 

エネルギーは過去、未来に渡って、途切れることなく繋がっているもので、自分はそれを”視”たり、”扱”ったりできるだけなのだと言った。

 

要は未来や過去を覗き見ることが可能で、その上、宇宙エネルギーの振動を感じることによって人の思考や、動物の言葉も理解できると言った。

 

 

『ほら、わたし、今、同じ言葉喋れてるでしょ。言葉はすぐに理解できるの』

 

 

思考を読めるといわれたとき、グリンデルバルドは俄かに肝を冷やしたが、少女は不思議そうにこう言ったのだ。

 

 

『でも、わたし、ソースォード人以外で思考が読めない人に会ったことなかったよ。魔法使いって、ソースォード人と同じで宇宙エネルギーを借りているの?』

 

 

ソースォード人とは何なのか、と聞けば、少女は少し首をひねり、私たちのことだよと言った。理解不能だが、ここまで少女のことが分かれば充分である。

 

時間をかけて、辛抱強く、彼女がすっかり話してしまうまで、自分はただ待っていればよいのだ。

 

 

 

・・・・・・・・・・

 

 

 

すっかり身支度を終え、グリンデルバルドは上等なスーツ姿の壮年紳士に変身した。お尋ね者の彼が素顔で街を歩き回るわけにはいかない。

 

少女には、上品な黒いレースの子供用ドレスを着せ、腰まで伸びている長い青髪はおさげにした。毛は七変化とでも言っておけば、変に怪しまれなくて済むだろう。

 

さて、と玄関の扉に手をかけ、彼は少女の方を振り返った。案の定、少女は初めてのお出かけに目を爛々と輝かせている。

 

ふいに不安がよぎり、彼はしゃがんで少女と視線を合わせた。

 

 

「アルセーニ、約束してほしいことがある」

 

「何?お父さん」

 

 

こてんと首をかしげて、不思議そうに少女は大きな瞳を見開いた。

 

 

「今日、出かけている間、お前は何を聞かれても黙っていること。名前を聞かれても、アルセーニとだけ答えなさい。フルネームを答えてはいけない。あと、私を呼ぶときはお父様と呼びなさい」

 

「はい。わかりました。お父様」

 

「いい子だ。最後に、これは特に大事なことだが、人前でソースォードという言葉を発しないように。決して言ってはいけないよ。理由は分かるね?」

 

 

諤々と少女はうなずいた。人身売買組織の恐ろしさを少女は一番よく知っている。また狙われたらひとたまりもないのだ。

 

 

「それにしても、お父様」

 

「‥‥ああ?」

 

「何故、そんな変な顔に変えたの」

 

「お父様はな、ちと有名人なんだ」

 

 

ふーんとつまらなさそうに少女は鼻を鳴らした。

 

彼は本名すら少女に明かしていなかったし、自分が闇の魔法使いだとか余計なことは何も教えていなかった。

 

そのせいだろうか。

 

いつの間にか少女は、勝手に自分のことをお父さん呼ばわりしている。

 

 

「さあ、アルセーニ。姿くらましで街へ向かうぞ」

 

「!」

 

 

おいで、とローブを広げると少女は嬉しそうに飛びついた。

 

本で姿くらましを知った時から、少女はずっと楽しみにしていたのだ。

 




はい、時間的に飛びすぎですね。

でも、早足に行きたいので、どんどん行きます(笑)
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