優しき日常に   作:warlus

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3.

先輩とは玄関で別れ、私たちは3人で1年生の教室へ。

少しだけ寂しかったが、流石に毎日の事なので表情には出さない。

信長さんが私たちの教室、1-2の扉を力一杯開ける。

「みなのども!おっはよーーう!!」

その元気いっぱいの挨拶にクラスの方々から「うるせー!」と言った文句だったり「おはよー」と言う挨拶だったりが返ってくる。

「お、おはようございます」

私もそれに併せて勇気を出して挨拶すると、またみんな口々に挨拶を返してくれる。

そして私は教室の一番窓際後ろの自分の席に腰を下ろした。すると、 私の前の席の女子生徒が、私の方に振り返って言葉を掛けてくれた。

「おはよう、マシュ。いい朝だ」

「ええ、おはようございます、アルテラさん。暖かくなってきましたね」

「うん、挨拶は良い事だと習った。毎日挨拶をして返事をしてもらうのは大切だ」

少しずれた言葉を返して、アルテラさんは満足そうな顔で前に向き直ってしまった。

どうやら彼女の中で会話は済んだらしい。

彼女の名前はアルテラ。

褐色の肌に銀色の短髪で、独特な雰囲気を持つ少女だ。

天体観測同好会に所属している。なんでも月を見るのが好きなんだとか。

この個性的なクラスにおいても、少し変わったキャラとして認識されている。

「アルテラさんは、今日の宿題はされてきましたか?」

せっかく挨拶されたので、そっぽを向かれたが会話を試みてみる。

すると、彼女は少し嬉しそうにして、私の方に振り向いた。

「ああ、現国の書き取りと、数学Aの問題だな。しっかりと済ませているぞ、ただ…」

彼女はそこで少しだけ表情を曇らせる。

「ただ?」

「数学の方は少し不安なんだ、どうにも足したり引いたり以上の事はよくわからない。数学は悪い文明だ」

彼女は時々、独自の判断基準で物事を「良い文明」と「悪い文明」の2種類に振り分ける。

あまり計算毎が得意ではないアルテラさんにとっては数学は悪い文明であるらしい。

「それでしたら、ホームルームまでの間に私と問題の確認をしませんか?」

私がそう提案すると、彼女は引き締めていた口元をほっとやわらげる。

「そうか、助かる。マシュは優秀なんだな」

「いえ、私なんか全然…わからない事だらけで人に教えてもらってばかりです」

私はそう言いながらカバンから課題を取り出す。

そう、事実私は勉学においてはそれなりに出来てはいるが、それも色々な人の指導の賜物なのだ。

まあ数学の場合は、ちょっとした個人的な私情により、身に熱が入ってるのは否めないのだが…

アルテラさんが椅子をこちらに向けて、パイプ椅子が地面に擦れてガガガと音を立てる。

そして自分の課題をクリップに挟むようにして持って、私に向き合う。

「うん、それではよろしく頼む、先生」

彼女はそう言って、少しだけ首を傾げて淡く微笑んだ。

 

 

長いようで短いようなホームルームまでの時間は、何かやる事があるとあっという間に過ぎていく。

私とアルテラさんが回答合わせをしていると、自然と人が集まり、みんなでワイワイと課題を確認するような形になった。

「ぬおおおっ!マシュマローー!数学の課題とか一切やっとらんのじゃが!教えて、教えて本能寺!」

と泣きついてくる信長さんとか、

「うー、マシューヘルプミー」

と真っ白な用紙を掲げてくるフランさんだとか、

「悪いマシュ、俺も教えてくれ。にいちゃ…じゃねえや、ガウェインのやつ全くあてになんなくてさー」

と椅子をこちらに持ってくるモードレッドさんとか、ちょっとした勉強会のようになってしまったが、その中で私は、飛ぶように充実した時間を過ごしていた。

結局、ホームルームのチャイムがなると同時に、担任の先生が教室に入ってくるまで、私たちは一つの机を囲んで問題とにらめっこしていた(フランさんはお昼寝モードだったが。いや、時間帯的には二度寝だろうか?)

ガラガラと扉が開き、担任のエレナ先生が入ってくる。

そして教室の片隅に集まっている私たちに目を向けた。

「おはよーってなに、朝から課題の復習?よくってよ、友達と答え合わせをするのはとてもいい事だわ」

そう言って嬉しそうにこちらまで歩み寄ってくる。

エレナ・ブラヴァツキー先生、化学担当の先生だ。

全体的に細身の体と低めの身長で、ぱっと見の印象だと、先生より生徒と言った方が合っているような印象を受けるが、実際に話してその立ち居振る舞いを見てみると、彼女が成熟した大人の知識と知恵に溢れている事がよくわかる。

スリム体型が好みの男子生徒から、強い支持を受けているそうだ。

「ふむ、このメンバーだと、マシュが先生かしらね。ノッブとモードレッドはマシュに泣きついてきたのかしら?」

一瞥しただけでズバズバと言い当てていく先生に、モードレッドさんが堪らず声を上げる。

「ひっでえな、先生。俺たち信用ゼロかよ」

「そうじゃそうじゃ!」

「やあね、信頼してるからこそよ。あ、フラン!貴女はマシュに頼りきりにしてないでちゃんと起きなさい!」

椅子の上でイカダを漕いでいるフランに、エレナ先生が呆れたように声をかける。

「んー、朝は眠いかも」

「眠いかも、じゃ無いわよ、ちゃんと自分で解かなきゃダメよ。

さ、復習もいいけど、そろそろホームルームも始めるから、席に座りなさい」

エレナ先生の声がけで、みんながバタバタと自分の席へと戻っていく。

その様子を見ながら、最後に先生はアルテラさんに声を掛けた。

「アルテラがこういうのに加わるなんて珍しいわね、何かあった?」

「うん、マシュに誘ってもらった。マシュは良い先生だ」

アルテラの屈託のない言い方に、私は思わず赤面してしまう。

そんな私達の様子を見て、エレナ先生は「そう」と言って、嬉しそうに目を細めた。

エレナ先生は、クラスで少し距離をとっているアルテラさんの事を気に掛けているのだ。

 

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