レガリア   作:kuraisu

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あとがき(+α)

あとがき

まず最初に本作を読み切っていただきありがとうございました。

 

前話のあとがきにも書きましたが、なんで同盟の主戦論ってあんなに根深いんだろうなと疑問に思ったのがきっかけだった。そして『リヒテンラーデの孫』を書いている時に、気分転換で同盟側の話も書きたいなと思ったことでとりあえず設定だけ書き込んでたら、けっこうな量がたまったので、一作つくれそうだなと。

ルドルフ大帝の頃の描写やクロプシュトック侯爵領事件での描写から、ゴールデンバウム王朝の軍は敵に対しては虐殺略奪ヒャッハーなクオリティであることから、コルネリアス一世の時代もそうだったのなら絶対主戦論が根深い原因ここだろと思いました。

コルネリアスが率いた軍隊は統率があって精強だったといいますが、だからといって虐殺や略奪をしない紳士的軍隊であるとは限らないわけで……(現実のナポレオン率いるフランス軍とか前半戦は圧倒状態だったヒトラー率いるドイツ軍とか)。

それにラインハルト時代の帝国軍とて、ラグナロック作戦時に双璧が補給が滞った場合、不本意だが現地から物資を略奪して将兵らを食わす可能性について語りあっていたので、優勢だったときはともかく劣勢になったらやむにやまれぬ理由や将兵のストレス発散目的で虐殺や略奪が行われてそうなぁ、と。

とまあ、そんな妄想の産物がこのレガリアです。帝国軍によってひどい目にあった世代は「帝国の脅威の前に無力だった自分達の惨めさを次の世代には味あわせたくない」という優しさから帝国への憎悪を露わにし、子供らにも帝国がどんなに残虐な存在か伝え、憎むべき敵であり倒さなくてはならないのだと教えるのでしょう。感情論といえばそれまでですが、一面では間違いなく真実なのですから。

――そういう観点からいえば、民主主義と自由の精神、そして帝国という脅威の存在は伝えたけども、帝国を憎むようには強要しなかったアーレ・ハイネセンやグエン・キム・ホアら長征第一世代の人たちは聖人かなにかですかね? 奴隷時代にそうとうひどい目にあってきたでしょうし、帝国側から反省や謝罪の言葉があったわけでもなく、帝国を滅ぼしたわけでもないというのに。

たとえ滅ぼしても地球は絶許なフランクールほどではなくても、ラグラン・グループの地球への憎悪・反感と同じようなものを長征グループが帝国に対して持っていても不思議ではないと思うのですが、そういう描写が見当たらないんですよねぇ。長征グループの描写が少なすぎるというのもありますが。

ただ、そんな長征一万光年に参加した人たちの末裔が、ユリアンの祖母みたいな存在になっているのかと思うと歴史の皮肉というかなんというか……

 

以下、自分が同盟側の話書いてみたいなーと思って溜め込んでた設定の数々を整理したもの。ツッコミどころが多いかと思いますが、よかったら読んでみてください。

 

 

 

作中時代の登場人物

+ラザフォード

本作の主人公的ポジションにいた人物。思想的には中立中庸。

自国が今も戦争をしているということを頭では理解していたが、戦争をどこか遠い世界で起きているできことであるような感覚しかなかった。しかしそれはラザフォードに限らず、国境周辺星域以外ならどこでもそうである。

……というより、原作でも自由惑星同盟の市井って戦時色が薄いんですよねぇ。ルドルフの反省から民主主義・自由の精神を尊んでいるからなのかもしれませんが、総力戦体制が敷かれていたとはとても思えないし、戦時にしばしば発生する強権政治もやってなかったようですし。

 

ヴァラーハへの研究旅行で悲劇が未来の歴史に及ぼす影響の大きさを感じ、それを物語風にして一般化したいという思いから歴史小説家を志し、いくつかの著作を発表して大衆人気を獲得する。大学卒業後、流通会社の管理職に就職したがそれでも歴史小説家としての一面は捨てなかった。

二九歳の時に軍隊に徴兵され、激戦地に配属されて三一歳で戦死した。葬式では彼の著作のファンたちが千人近く集まって若すぎる作家の戦死を深く悲しんだ。

 

 

+オギョン

ラザフォードの親友。いわゆるあまり細かく物事考えておらず、直感で鋭いことを言う。ある意味、三人組で一番普通の人間っぽいかも。

思想的には主戦派だが、それは若さゆえのスリルを好む傾向の現れであり、信念の欠片もない薄っぺらなもの。冒険心と好奇心は強く、喧嘩っ早いが、後々まで影響が残るようなことは絶対嫌というタイプである。

本作では過激な主張をするまではいっていない主戦派の代弁者として設定した。

 

ヴァラーハへの研究旅行で軍事偏重的過ぎる過激論は好まなくなったが、感情的には主戦派寄りでありつづけた。二六歳のときに徴兵されたが、戦死の可能性を少しでも下げるべく良心的兵役拒否権を行使して衛生兵として勤務。その経験から傷痍軍人に深い同情心を抱くようになり、傷痍軍人援護団体に所属して彼らの生活支援に熱心な人生を送った。なお、相思相愛の恋人を見つけるまで、結局言い出せないまま終わった初恋を忘れられない状態が続いていることに苦悩していた。

 

 

+ファティマ

ラザフォードの親友。情が深く心優しい性根の女性。父親が戦死してから物静かになったので親友二人から気遣われている。父の死に悲しむ自分みたいな子を増やしたくないという思いから、思想的に反戦派寄り。

しかしその反戦寄りな思考は幼さ故というべきか「とにかく戦争をやめれば戦死者がいなくなる」という安直なもので、『すべての宇宙、すべての生命は我らが皇帝陛下の所有物』とどこぞの白色彗星帝国みたいなことを怒号する銀河帝国との戦争をどう終わらせるかということはまったく考えておらず、その点にオギョンは言語化できない疑問を抱いていた。

 

ヴァラーハへの研究旅行で実際の帝国軍の無茶苦茶ぶりを知って反戦という考えに深い疑問をいだくようになり、しばらく苦悩していたようだが、大学生時代には「父親もこの自由の国を守ろうとして崇高な死を遂げたんだ」という結論に辿りつき主戦派に転向する。

有力な主戦派代議員と結婚して夫の政治活動を支える傍ら、主戦派系民間団体の支援に尽力した。その関係で傷痍軍人援護団体にいた親友オギョンとはよく会ったが、彼から時折なんともいえない視線を向けられることを不思議に感じていたが、彼に恋人ができてからそういうことがなくなったので、独り身故の結婚した相手への劣等感の発露だったのだと思い込んでいる。

 

 

+ハルファス

ヴァラーハ星系政府首相。解放記念式典で演説をした。

演説で繰り返し『銀河帝国が過去を反省しないかぎり講和はありえない』という趣旨のことを述べており、実はアネクドート以降の歴代星系首相の『共和国万歳! 帝国を滅ぼせ!』なスタンスと比べると比較的穏健派だったりする。

というか、ヴァラーハだと過去の惨劇を忘れない方針をずっととってきたため、民間レベルまで主戦派の勢いが凄すぎることもあり、反戦派的政治家が星系選挙で勝利することがまずありえない。

広島や長崎で「日本は核武装すべきだ!」とか言っている政治家がいたとして、そいつを県民が知事に選ぶわけがないだろうなレベル。

 

 

 

五〇年前の登場人物

+コルネリアス一世

ゴールデンバウム王朝第二四代銀河帝国皇帝。通称『征服帝』『元帥量産帝』。

先帝マクシミリアン・ヨーゼフ二世を超える皇帝になってみせるぜと自ら指揮を執って自由惑星同盟を滅亡寸前に追い込んだ凄い人。あるいは開祖ルドルフを除いて最高の軍事的天才だったとか原作で称されるのは伊達ではない。趣味は将来有望な軍士官に元帥号を前払いの感覚で無節操に授与すること。

原作ではハッキリしていないのですが、ハイネセン目前まで迫ったということはそこまでの同盟領をほぼ占領下においていた&ラインハルトの時代でも帝国は同盟領の地理をイゼルローン回廊周辺しか把握していなかったということは、そうとう同盟領で抵抗活動激しかったんじゃないかなーと思って本作こんな扱いになった。すまん!

 

 

+ツェレウスキー帝国元帥

征服帝の親征に同行した五八人の元帥の一人であり、撤退時に戦死した一五人の元帥の一人という設定のオリキャラ。能力的にはオーベルシュタインとキャゼルヌを足して二で割った軍人というイメージで作者は書いてたので、元帥の地位に申し分のない能力の持ち主であったと思う。

親征時に統括府最高司令官に任命され、占領地における統治の全責任を負い、高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応し、占領地を安定させることに貢献した。しかしアネクドートのレジスタンスの跋扈に対処するために徐々に統治から柔軟性は失われていき、最終的に恐怖政治的な統治を敷いた。しかし臨機応変さは失われることはまったくなかったので、弾圧手法の巧みに用いてレジスタンス苦しめた。

宮廷クーデターが起きた後も主命に従って占領地の維持をはかったが、加速度的に悪化していく戦況から独断で占領地の放棄を決定。コンキスタドール指令を出して計画的大略奪を起こし、これ以上は無理と考えたところで徹底したが、撤退判断が遅すぎたために同盟軍追撃部隊の攻撃で戦死した。

コンキスタドール指令で略奪した資金の莫大さは同盟領遠征で失った国費を僅かばかり補填し、かつ、国境周辺地域の経済崩壊&治安の不安定化で同盟軍の帝国領本土への侵攻を困難なものとするのに一役買った。

また彼は文武両道の人物で、武官ばかりか文官からも信頼されており、未来を嘱望された人物であったことから、彼の死を嘆く帝国上層部の人間は多かった。コルネリアス一世もその例外ではなく、そうした関係からツェレウスキー帝国元帥は忠臣として国葬に伏された。このことが同盟主戦派――特に一番被害がひどかったヴァラーハの民――を激怒させたのはいうまでもない。

 

 

+レオニード・アネクドート

本作の裏主人公、というより、最初はこのキャラを主人公にして話を作ろうとしたけど無茶苦茶長くなりそうだし、原作キャラほぼいない話になりそうだったから、昔語りでいいやと思って変えたので、ある意味では本当の主人公である。

出身が『長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)』に参加した名家であり、自由と人命を尊ぶ民主主義を誇るべきという教育を受けて育った。そのためアネクドートは「民主主義の世界を護るぞ」という理想主義的意志から軍人となり、本人の有能さと実家の権威もあってすっごいスピードで少佐にまで昇進した。

しかし第一次ティアマト会戦で同盟軍は帝国軍に大敗し、同盟政府は国境周辺を切り捨てる決断を下したことに激怒し、有志十数名と共に同盟軍から脱走。故郷ヴァラーハに潜伏し、レジスタンスを結成して抵抗活動を繰り広げた。

目に見える場所で血を流して抵抗活動をしていたことや国境周辺星域を見捨てて撤退した同盟軍との対比、そして長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)に参加した名家出身という貴種性もあって、「自分たちを見捨てずに帝国軍と戦い続けるレジスタンスの指導者、偉大な解放英雄」として帝国軍占領下のヴァラーハの民から崇敬されるようになっていく。

そうしたヴァラーハの民からの限りない賛美の声は、アネクドートの理想主義的で強硬な一面を強め、解放後の選挙でヴァラーハの星系首相に任命された時には「故郷を救うのは私の使命! それを邪魔するのは民主主義の敵!」という主観の強い独善的な正義を振りかざすようになり、民主主義を口で唱えながら帝国軍協力者や反戦派、自身の政権を脅かす政敵を排除する民主防衛共和隊を設置して思想・言論の自由を制限する全体主義傾向が強い体制を確立させ、自身に権力を集中させる独裁者と化した。

これだけなら「権力の甘い蜜で堕落した元英雄政治家」で終わっただろうが、複雑なことにアネクドートは非常に有能な統治者であったので集中された権力を建設的に行使してヴァラーハの再建に尽力し、インフラや福祉制度の配備、経済の発展等々民間生活の向上に余念がない開発独裁体制であったことや、アネクドート本人は星系政府から出る給料の七割を返上して質素な生活を送くるという潔癖さを示したために民衆人気が衰えることがなかった。

しかしヴァラーハが繁栄すれば繁栄するほど増えていく仕事量の膨大さから、アネクドートは徐々に部下の手綱を制御しきれなくなっていき、汚職官僚が蔓延るようになっていき、政権末期には民主防衛共和隊の隊員が個人的に仲が悪いだけの人間に暴行を加えるほど腐敗がひどくなっていた。

アネクドートはそれでも部下の統制を取り戻して独裁政権を維持しようとしたが、統制を取り戻そうとしている最中に重病を患ったこともあって首相を辞任。そして辞任一年後に病死した。

間違いなく名指導者だが、民主主義国家の政治家として問題がありすぎるためにヴァラーハ以外での評価は批判的な見解が多い。いっぽう、ヴァラーハの民の評価は郷土の英雄にして再建の功労者と極めて高く、それらを考慮したヴァラーハ星系政府の公式評価は「功績七分、誤り三分」としている。

ちなみに首相就任後自らに課した故郷再建の使命完遂のためにずっと忙殺されたため、女性からよく求婚されたが家庭を顧みる余裕がないと本人が思っていたこともあって、結婚どころか愛人を持とうとすらしなかった。そのため子息もなく、彼が長征一万光年(ロンゲスト・マーチ)に参加したアネクドート家最後の家主ということになる。

 

余談だが、アネクドートは作者のレジスタンス出身の政治家に対するにわか知識を混ぜ合わせて作ったキャラです。有名どころだとド・ゴール、チトー、毛沢東とか。

それと完結してから思ったことではあるが、贅沢はしてないがルドルフと同種の人間みたいにも思える。ただアネクドートの場合は皇帝に即位する前の終身執政官時代に病に倒れてしまっただけで。もし病に倒れなかったら後継者を育成して独裁体制の永続化をはかったのだろうか。

 

 

 

登場用語

+コルネリアス一世の大親征

作中では同盟視点で書いてるので大侵攻と表現している。

自由惑星同盟がいつから亡命者を差別するような体質になったのか考えた時、同盟領の多くを帝国に占領されたこの時が国民意識の形成につながったのではないかと思う。

初期の頃の同盟は亡命者を歓迎してたことが原作で書かれている以上、変容期があったと思うので。

 

 

+レジスタンス

帝国軍占領地で後方攪乱を行った抵抗組織の総称。実は統一された組織ではなく、大量のレジスタンス組織があったが、占領区統括府のお膝元で暴れまわったレオニード・アネクドートのレジスタンス組織が有名になりすぎたこともあり、その武勇にあやかってレジスタンスの士気高揚をはかるために多くのレジスタンス組織が実質はないが、形式的にアネクドートの最高指揮権を認める形式をとっていた。

同盟軍撤退後も人民生命の守護の為に戦った勇者たちであるとして、レジスタンス出身者は帝国軍占領地の住民から尊敬されることになった。

しかしツェレウスキーが占領政策を恐怖政治的なものに転換した原因がレジスタンスの跳梁跋扈にあり、しかも宮廷クーデターとそれによって生じた隙を見逃さなかった同盟軍の反撃がなければレジスタンスは間違いなく壊滅したであろうことを冷静に考えると、レジスタンスが抵抗活動を繰り広げたために、かえって占領民の生活が苦しくなった側面があったりする。

解放後、レジスタンス出身者の多くが活動地で栄達した。特にヴァラーハではアネクドートの独裁政治を強力に支える中心勢力となった。

 

 

+抑圧的な専制乃至は独裁権力に対する人民の抵抗権行使のための妥当な技術習得及び行使時における諸事項に関する法律

通称、自衛法。六七一年初頭にヴァラーハ星系議会で可決された法律である。

スイスや韓国、旧ユーゴのようにすべての市民に兵士としての能力を身に着けさせる法律。

レジスタンスたちの武力万能主義的な思想の産物と見られがちだが、ヴァラーハ全市民の帝国軍占領時代のトラウマによる産物といったほうがよく、今度帝国軍が占領されても自分で自分の身を守るための力を身に着けるためにヴァラーハの民衆多数がその法案成立を歓迎し、現在でも住民から大規模な反対運動が発生しないことからもわかる。

ちなみにやたら法律の名前が長い理由は、同盟憲章の条文に抵触する恐れがあることをアネクドート以下星系政府中枢が把握していたので、同盟憲章で認められた「抵抗権」の範疇におさまるものであると屁理屈をこねる必要があったため。

 

 

+民主防衛共和隊

六七二年にヴァラーハ星系政府保安部に設置された準軍事組織。はっきりいうと軍隊。

公的には民間防衛組織とされているが、完全無欠の軍隊なので「星系政府が軍隊を持つなんて憲章違反だ!」と同盟中央政府のみならず、ある意味お仲間であるはずの国境周辺星域の星系政府からも批判されたが、とうのヴァラーハ星系政府は「航宙戦力がないから軍隊と定義するには戦力がない」とか「どっかに遠征するための部隊じゃないんだから警察力の一種だよ」とか、いつかの時代の極東の島国のような恐るべき論理で正当化した。

公的に定められていた仕事は有事の際に備えての民間人の避難及び抵抗訓練を行うことである。しかし実態はアネクドートの私兵集団であり、星系政府中枢の意向で反戦派、同盟中央集権論者、帝国軍協力者、解放後にやってきた帝国人への迫害を実施し、アネクドートの政敵を闇に葬る秘密警察的役割を果たしていた。

八〇年代になると権力に胡坐をかいて腐敗して暴走するようになり、ほとんど暴徒の集団と化していた。

アネクドート辞任後に誕生した新政権により、民主防衛共和隊の明文化されない特権は剥奪され、地域ごとの民間防衛組織に分割されて消滅した。

 

 

+惑星ヴァラーハ

作者が考えたオリジナルの惑星――とは言い切れない。

実は道原版の漫画に登場していた惑星で、アルテミスの首飾りが配備される予定だったが、帝国領遠征の損害を補填するために配備が中止されたって描写しかありませんが。

首都の次に配備されるような惑星なんだから前線に近い都市惑星かよほど経済規模の大きい惑星なのだろうかと考え、前者の考えを採用して本作の舞台として設定した。

もし道原版ヴァラーハも本作のような惑星だった場合、「首都にだけそんな高性能な防衛システム設置するなんてまた俺たち国境周辺星域を見捨てるつもりなのか!!」のような文句言いまくって配備権を獲得したものと思われる。

 

本作ではダゴン戦役以前に入植がはじまった惑星であり、一番最初の入植者にアネクドート家もあるが、当時はたまたま偶然イゼルローン回廊を抜けてきた漂流者や宇宙海賊の類を除けば、ほとんど全部長征に参加しているので当時は別に名家というわけでもなかった。

順調に開拓が進んでいたが、ダゴン戦役後に亡命者が大量にやってきたので住民の数が急増。一気に億単位の人口を抱えるようになり、一番最初の入植者たちが地元の名士的な扱いをされるようになる。

コルネリアスの大侵攻で帝国軍の占領下におかれ、統括府が設置されてツェレウスキー帝国元帥の占領地運営の中枢となる。いっぽう、同盟軍から離脱したレオニード・アネクドート率いる一派がヴァラーハでレジスタンスを結成し、抵抗運動を開始。

レジスタンスの跋扈に占領統治は徐々に過酷さを増していき、帝国軍の優勢が崩れて劣勢になってくるとツェレウスキー帝国元帥はコンキスタドール指令を発令。帝国軍の大規模略奪が実施されて同盟全体で一億七千万の人命が失われたが、一惑星で二千万もの人命が奪われたのはヴァラーハだけである。

解放後、抵抗活動を通じて有名になったレオニード・アネクドートが星系首相に就任。制度こそ民主的形式が保たれたが、アネクドートの定めた方針に反対すると私兵集団である民主防衛共和隊に排除されるという独裁的政治手法をとる。アネクドートは人民生活の向上とインフラ整備、経済発展に力を注ぎ、専制国家だったら間違いなく良き領主と称されるような治績を残した。

無論、この権威主義的独裁政治は同盟中から批判されたのだが、ヴァラーハ星系政府は別に民主的諸制度を改変したわけではなく、星系政府の恣意的な法解釈と運用手法で独裁権力を創出したため、民主的な制度的外観は残されていたことと、対帝国戦争における一大後方拠点である立地をたくみに利用してアネクドートは独裁体制を継続した。

しかしこの独裁体制は良くも悪くもアネクドートの個人的才幹によって支えられており、ヴァラーハの再建が進むにつれて彼の目の届かないところで政府諸機構が腐敗していった。そして六八五年に腐敗して諸政府機関への民衆の反発の高まり、そのタイミングでアネクドートが重病を患ったために「病による政権運営の困難」を理由に辞任し、一五年間の地方独裁政権に終止符をうった。

後継の新政権は独裁的権力集中反対を標榜していたこともあって、アネクドート政権の在り方を批判したが、それでも「ヴァラーハ解放・再建の功績はだれも否定できない」としてアネクドートを全否定せずかなり擁護した。というより、民衆人気が凄すぎたので否定したくても否定できなかったというべきか。

またアネクドートが民衆に植え付けた銀河帝国及び反戦派への嫌悪と憎悪は、後継政権もバリバリの主戦派だったこともあって、その点に関しては特に問題視されることはなく、現在に至る。

 

 

+自由解放の賛歌

かつてアネクドートらレジスタンスが愛唱した抵抗歌(プロテスト・ソング)にして、ヴァラーハの星系歌。

作詞者は不明であり。唯一わかっているのは、レジスタンスのだれかが作詞したことだけ。そのことから『名もなきレジスタンスの歌』ともいわれることがある。

ヴァラーハでは自由惑星同盟の国歌である『自由の旗、自由の民』と並んで民衆に親しまれている歌であり、ヴァラーハの民にとってこの歌は帝国への怒りを忘れないための歌である。

自由要素どこ?って感じで歌詞が物騒なのは、自由フランスの『自由の歌』を参考にしたため。

いや本当にあの歌の歌詞すごいよ? 「暗殺者よ、素早く敵を殺せ」とかどう考えても悪役の……

 

「たとえいま故郷が鉄鎖に縛られていようとも! 我らは決して専制者の奴隷には戻らじ!」

「父よ、母よ、我らが兄弟姉妹よ! 聞こえないか、天地に轟ろく叛逆の雄叫びが!

同胞たちが流した尊き血が為! 我らの胸に復讐の炎が灼熱の如くに燃え滾る!

英雄的闘争と流血の末、専制者を逐い必ずや我らが故郷は解放されるだろう!!」

「とどまることなく敵を倒し歩み続け、地に伏した同胞の亡骸を踏み越えて進軍を続ける!

永久にぞ輝く銀河の民の自由が為! 全宇宙をひとつに結ぶその日まで!!」

 

 

 

本作の年表

+三一〇年+

ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが銀河帝国皇帝に即位。

+四七二年+ 

アーレ・ハイネセンによる長征一万光年開始。

+五二七年+ 

長征一万光年終了。自由惑星同盟建国。

+五〇〇年代末期+

惑星ヴァラーハへの入植がはじまる。最初期の入植者にアネクドート家の名がある。

+六四〇年+ 

ダゴン星域会戦。同盟軍大勝利。帝国から大量の亡命者がやってきて人口急増。

 

+六六八年+

五月 三度の臣従の要請に対して交渉すらする気がない同盟にコルネリアス一世が激怒。

帝国軍侵攻開始。第一次ティアマト会戦で同盟軍が大敗。国境周辺星域を放棄。

七月 帝国軍がヴァラーハを占領

十月 帝国軍ヴァラーハに占領区統括府を設置。長にツェレウスキー元帥を任命。

+六六九年+

二月 レオニード・アネクドートがヴァラーハでレジスタンス組織を結成。

六月 レジスタンスの跋扈によりツェレウスキー元帥が統治法が融和姿勢から強硬姿勢に。

?? 帝国で宮廷クーデターが発生。

コルネリアス一世、同盟完全征服を諦めるも一定の占領地を確保をはかる。

+六七〇年+ 

初頭 同盟軍の大反撃の勢いが止まらず、ツェレウスキーは占領地の放棄と完全撤退を決める。

二月 統括府がコンキスタドール命令を発す。この命令のために同盟全体で大量の犠牲者が出る。

八月 二一日に同盟軍がヴァラーハを帝国軍から奪還。

?? 選挙の結果、レオニード・アネクドートが星系首相に任命される。

+六七一年+ 

『抑圧的な専制乃至は独裁的権力に対する人民の抵抗権行使のための妥当な技術習得及び行使時における諸事項に関する法律』、通称自衛法が制定される。

+六七二年+

『民主防衛共和隊設置法』が制定される。この頃から星系政府の主導で旧帝国人、帝国軍協力者、親帝国論者、反戦運動家を迫害するようになる。

+六八五年+ 

強権的政治運営に不満を抱く民衆の不満の高まり、そして重病を患ったこともあってアネクドートが辞任。

新政権発足。民主防衛共和隊が解体され、いくつかの民間防衛組織に分裂する。

新政権は強権的統治の改善に努めたものの、それ以外は特に問題視しなかったので自衛法などは継続。

+七一五年+ 

ハルファスがヴァラーハ星系政府首相に就任。

+七二〇年+

本作の時代。ラザフォードら三人組が中等学校の夏休みの課題研究のためにヴァラーハへ。

 

+七三〇年+

ブルース・アッシュビーら七三〇年マフィアが士官学校を卒業。

+七三八年+

ファイアザード星域会戦。七三〇年マフィアの伝説が始まる。

+七四五年+ 

第二次ティアマト会戦。アッシュビー戦死。七三〇年マフィアの伝説が終焉。

+七九六年+ 

アスターテ星域会戦。ヤン・ウェンリーとラインハルト・フォン・ローエングラムによる銀河英雄伝説本編が幕をあげる。

 

 

 

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