魔王の親友は転生せし喰種   作:睡蓮

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プロローグ

人の気配が感じられず、静寂に包まれた深夜の路地裏。

普段はそうなのだがその日だけは違った。

東京のような大都市特有の喧騒から遠く離れた路地裏にいる、何かから逃げるようにひたすら歩を進める一人の男。

いたる所がやつれ、擦り切れているぼろぼろの服を着て、何かしらの衝動を抑えるためか奥歯を噛み締めながらも、無数の打撲痕があり、少しでも押せば崩れ落ちるほどまでに衰弱し限界を超えた己の肉体を酷使する。

それは単に生きたいから。

実験として人を脅かす化け物の臓器を移植され同じ化け物にされようとも、己という存在が死んだことにされモルモットとしてより多くの人体実験をされようとも、どのような理不尽があろうとも、生きたいから。

人の誰もが持つ本能からくるその願いを胸に秘めて片方が黒い眼球と赤い虹彩(・・・・・・・・・)に変化した眼で進むべき道を見据えて歩き続ける。

しかし、男の前にもう一人の男が立ち塞がる。

その男は白髪に白いコートを着ていて片手には剣のようなものを持っている。

その様はまるで命を刈り取らんとする死神を連想させた。

朦朧とした意識の中で男は実験施設で散々聞かされたその死神の名を呟く。

 

「有馬……貴将………。」

 

それと同時に死神―――有馬のもつ剣―――クインケからの攻撃を受けて激痛を感じるのと共にその意識を失った。

 

――――――――――

 

―――――――

 

――――

 

ジリリリリリリリリリリッ!!!

 

耳元で聞こえる目覚まし時計の音に眉をひそめながらも少年―――黒羽錬(くろばねれん)は眠気を我慢しつつ目を覚ます。

父の仕事であるゲーム製作の手伝いをしていたせいで寝不足だが学校に行くために洗面所に向かい、顔を洗い、寝癖を直す。

その後、リビングに向かうが、その途中でふと呟く。

 

「………懐かしい夢を見たな。」

 

転生してから十数年。

理由はわからないがあの時殺されたはずの俺は黒羽錬として新たな人生を生きることとなった。

忌々しいことに殺される原因となった能力もなぜか持っていたが生活を送ることに支障がなかったので良かった。

幼少の頃は力のコントロールが難しく、他の子と比べると明らかに異質だったはずなのに、そんな俺でも今世での両親は愛してくれた。

そんな俺に唯一仲良くしてくれた友達もいる。

転生しても化け物だったことに絶望しかけていた俺はそのことに救われたのだ。

そんなことを考えつつリビングに入って用意してあった朝食を食べる。

忙しい母さんが家を出る前に作っていてくれたものだ。

父さんもすでに家を出ているので一人で食べ終えた後は準備を終わらせて、戸締まりをしてから学校に向かった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「よっ、ハジメ!」

「おはよう、錬くん。」

 

今挨拶したのは親友の南雲(なぐも)ハジメ。

父親が同じ仕事をしていることで幼少期から付き合いのある幼なじみだ。

趣味も同じなので休日に一緒にゲームをしたりしている。

 

「眠そうだな。また、徹夜か?」

「ははは、まあね。そうゆう錬くんもでしょ?」

「そうだな。でも、なかなか区切りのいい所がなかったからしょうがない。」

 

ハジメとしゃべりながら教室に入る。

すると、生徒の大半から侮蔑や嫌悪などの感情のこもった視線を向けられる。

そんな視線を無視して席につくと、毎度のごとくちょっかいをかけにくる数人の男子生徒。

 

「よぉ、キモオタども! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~。」

 

その言葉にゲラゲラと笑い出す男子生徒達。

声を掛けてきた檜山大介(ひやまだいすけ)で近くでバカ笑いをしているのは斎藤良樹(さいとうよしき)近藤礼一(こんどうれいいち)中野信治(なかのしんじ)といい、大体この四人が頻繁に絡んでくる。

確かに俺もハジメも親の影響で漫画や小説、ゲームや映画といったような創作物が好きでオタクと言えるかもしれない。

だが、キモオタと言われるような酷いものではないし、ちゃんとした受け答えもできる。

それに、いくらオタクというものに対しての風当たりが強くても普通はここまで敵愾心を持たれることはない。

 

「南雲くん、黒羽くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ。」

 

その理由が微笑みながら近づいてくる彼女だ。

白崎香織(しらさきかおり)といい、学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る女子生徒だ。

前世が大学生だったので高校の内容はほとんどわかるため授業中にぼーっとしたり、居眠りをしている俺を、面倒見が良く、非常に優しい彼女は不真面目な生徒と思ったのかやたらと構ってくるのだ。

それでも態度を変えないために女神の手を煩わせるとして非難を受けるのだ。

ハジメのほうも同じような理由だろう。

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん。」

「白崎か、おはよう。」

 

挨拶を返すと周りからの視線がより鋭く厳しいものに変わる。

それすらも無視していると三人の男女が近寄って来た。

 

「南雲君、黒羽君。おはよう。毎日大変ね。」

「香織、また彼らの世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな。」

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツらにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ。」

 

 

三人の中で唯一の女子生徒の名前は八重樫雫(やえがししずく)といい、白崎の親友だ。

黒髪のポニーテールで、切れ長の瞳は鋭いが、その中には柔らかさも感じられるため、カッコイイという印象を与える。

剣術を学んでいる猛者で二大女神の一人だ。

白崎に声を掛けたのが天之河光輝(あまのがわこうき)といい、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。

そのため、大勢の女子生徒にモテる。

誰にでも優しく、正義感も強いが、思い込みが激しいところがある。

八重樫と同じ道場の門下生で猛者だ。

最後の投げやり気味な言動をしたのは坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)といい、天之河の親友だ。

短く刈り上げた髪に熊の如き大柄な体格をしていて、見た目通りの脳筋タイプである。

また、努力・熱血・根性といったものが大好きな人間なので、俺達のような不真面目な人間は嫌いらしい。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ。」

「八重樫、天之河、坂上、おはよう。気にしてないから問題ない。」

「それが分かっているなら直すべきじゃないか? 黒羽もそうだが何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから。」

 

 

天之河が忠告してくるが俺の成績は学年でトップ5に入っているので問題ないので、今の状態を変えるつもりはないのでほっといてほしい。

ハジメもそう思ってるようで苦笑いしている。

そんな中で白崎がいらぬ爆弾を落としてきた。

 

「? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんや黒羽くんと話したいから話してるだけだよ?」

「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな。」

 

白崎の言葉に教室が騒がしくなる。

………天然なのかどうかはわからないがそういった発言が俺達の肩身が狭くなる原因なんだよなぁ。

天之河はそれを気を遣ったための言葉だといつものように勝手に解釈して自己完結している。

 

「……ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど……。」

 

八重樫がこっそり謝罪してくると同時にチャイムがなり、授業が始まる。

それを確認してから俺とハジメは眠りについた。

 

~~~~~~~~~~~~

 

目が覚めると昼休みが始まってから少し時間が経った辺りだった。

やはり寝不足の影響か目が覚めるのがいつもより遅い。

クラスメイトのほとんどがすでに弁当を食べ始めていた。

ハジメを見ると白崎に捕まっており、ハジメは「助けて!」と目で訴えてくる。

関わると面倒くさそうなのでサムズアップしてから逃げるように弁当を持って教室を出ようとする。

「裏切り者!」という視線を無視して扉に手をかけるとハジメの視線で気づいたのか白崎にバレた。

 

「あれ?黒羽くんも珍しいね、教室にいるの。良かったら黒羽くんも一緒にどうかな?」

 

今度は「ざまあ見ろ。」という視線をしているハジメは後でしめるとして、白崎に返答をする。

 

「俺は別にいいよ。白崎はいつものメンバーが居るだろうし。」

「僕もいいかな。もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」

 

俺は天之河達を指差しながら、ハジメは空になったお昼のパッケージをヒラヒラと見せながら言う。

だけど白崎には通じずに続ける。

 

「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!それに皆で食べたほうが楽しいよ!」

(勘弁してくれ………。)

 

白崎の言葉で周りからの視線が朝以上のものになり、圧力のようなものを感じるようになる。

ハジメも圧力のせいか冷や汗をかいている。

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲や黒羽はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

「え? 何で、光輝くんの許しがいるの?」

 

気障ったらしい台詞を言う天之河に素で聞き返す白崎。

その様子に思わず噴き出しかける。

そうしていると突如魔法陣のようなものが床に出現し、輝きを増していく。

クラスメイトが悲鳴を上げ、パニックになる。

教室にいた畑山先生が「皆!教室から出て!」と叫ぶももはや遅く、全員が光に覆われ、視界が真っ白になった。

その後、生徒がいたという痕跡を残して姿を消したこのことは集団神隠し事件として大いに世間を騒がせるのだが、俺達が知るよしもなかった。

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