木の葉の寧日。 作:ふま
『____助けた亀はキビ団子で家来になったのであろ?』
『俺は亀じゃねェし、馳走になったのも熊汁じゃねーか!そしてなんか、いろいろオカシイ!』
『細かい事を云う男はダメだ。もー帰れ。』
『ちょッ・・・、何処に!?』
目の前の女・・・いや、少女は最初に出会った時から冷たく低いテンションで物を云う。
いや、物言いだけじゃない。顔から所作、何から何まで機械的だった。
俺に帰る所が無いのを知ってるクセに・・・、酷い女だったなァ。
(____なんで、こんなお人に拾われたんだか。)
『根絶やしにせよ・・・!』
あの日・・・敵襲にあった俺の村は、焼き討ちにされて俺独りが”逃がされた”んだが___
執拗な、数人の追っ手から逃れるのに必死で自の国の領土に入った事に気付きもせず。
雪山にポツリと遠くに見えた明かりを俺は目指していたんだ。
「いたぞ!!」
だが、慣れない積雪に足を取られ続けもう体力的に限界だった。
顔面から雪にダイブ、せめて己がどうやって殺されるのか必死に表を向いたその時だ。
『___5人か』
『え。』
突然、頭上で呟く声に見上げた途端、その影が跳んだんだ。
ザラッ・・・・!っと小気味いい金属音が重なる。煌きが勢い良く回転し闇夜に光った。
ドサリと何か落ちた音、そして小さな苦痛の悲鳴が続けさまに聞こえる。
俺は夜目がきかず、何が起こっているのかさっぱり解らず、ただその数秒に慄いた。
静かになったのか___?その内、足音がギュ、ギュと近づいてくる。
『撒き餌に丁度いい』
”殺ったのか?”そう受け止めた俺は、その言葉を最後に疲れ堕ちてしまった。
気が着けば明るい部屋の中で、その女が俺の顔を覗き込んでいた。
『安心せよ__此処は安全じゃ。この小屋の周りには血気盛んな熊どもが潜んでおる。
奴らの血の匂いを嗅ぎつけて直ぐにペロリじゃ。それまでお主は体を休めればよいぞ。』
『___イヤイヤイヤ!気が休まらね~わ!つか、何でそんな危ないトコに居ンの、アンタ!』
『此処は我が主、左門様の領地。この村が度々奴らに襲われるのでな。要は熊狩りだ。』
この少女が言うには、熊は賢く鼻が利く。
若い者が少ない過疎地であるこの村の加齢臭を嗅ぎ取り、残り少ない女子供を襲うのだ。
村人らの声を聞き、その主は熊討伐の為この地にこの少女を派遣したらしい。
『さして恐ろしい敵もおらぬ。一度、柔らかく美味い肉を喰らった熊は味をしめると云う訳だ。
解り易く言えばオトリってことか。まぁ、そこに熊汁が炊いてある。勝手に食べて腹を満たせ。』
『オイ・・・! お前・・・!』
『たんと食って精をつけるがいい、私は肉は食わぬから遠慮はいらん。あと、タダでよい。』
『そうじゃね~よ!? そいつァ人食い熊なんだろ!?無茶すんなって云ってんだ!!』
女は背中に変わった刀を二刀背負い、重たい戸に手を掛けると無表情に首を傾げる。
『何を云っておる____? 稼ぎ時ぞ?』
『ハ・・・・!? おぃ、待てって・・・・!』
俺は疲労困憊した、動かない体で手を伸ばしてた・・・・止めるツモリだったんだ。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・え。」
暖かい手を掴んだ気がして目を開ければ。
顔の半分以上隠れた男の手をガシ!と握っていたとは___ガバリと起きて慌てて手を引込めた。
どうやら俺は昔の夢を見ていたらしい。
「________大丈夫そうだね?ウチの村人を助けてくれて礼を言うよ。」
「さっきの・・・術者はアンタか____」
元気そうな毛根から生えた銀髪、左目に大きな傷あと、口元はマスクとか。
見た目は怪しいが俺よりは年上らしく、非常に落ち着いている。
「いやぁ~、遅れて申し分けない。なんせ非番だったんで、こんな格好だし。」
渋い色の浴衣姿で男は頭をかきながら苦笑っているが、水遁として難易度の高い術をおいそれと。
この男、トボケてはいるが只者ではない。
「あんたは・・・木の葉の忍か___あッ・・・・!」
「おっと・・・背中にヤケドを負ったかな__ちょっと見せて。薬持ってるから。」
寝かされてた草の上、立ち上がろうとすると背に痛みが走ったのだ。
自の国特製の鎖帷子のシャツをそっと捲り、軟膏を塗ってくれている。
思ったより軽症で済んだ様だ___ほっとしていると男が、俺に言葉を掛けた。
「”霜村”の出か・・・。」
「・・・・・あァ。」
俺の背中にある、小さな雪の結晶の刺青を見てそう云ったんだろう。
なかなか博識じゃねぇか。霧の国の連中は俺達を恐れた、だから根絶やしにしたんだ。
「それにしてもヒツコイ連中だねェ、どうも。」
「どの土地にもいるもんさ、あんなイカレた連中が・・・!」
お互い、殺気に身構えていた様だ。男の目つきが変わった。
上空に迫るソレに、俺達はさっと避けた。
俺達二人が見据える先にはさっきの連中が居る。着地と同時に俺が口火を切る。
「面倒だ・・・俺が殺ったって云うなよ!? 霜遁・・・!蜘蛛の囲《くものい》・・・!」
「!?」
いい具合にスピードが乗ってやがったもんで、止まれぬ距離のギリギリで霜の網を張り巡らせた。
___どうだ、静かだろ? 奴らサイの目に体が切り刻まれても、言葉無いままに逝っちまう。
3人居たのか・・・全員が凍った粗ミンチになって・・・血も噴出しはしねぇ。
五月蝿いのは一時だけ、ドサドサ・・・!!と、肉の塊だけが落ちて音を立てて終わりだ。
「血継限界か、やるね____」
「この位はな・・・。」
チャクラがありゃ造作もねぇ。御館様に騒ぎを起すなと云われて来たもんで抑えてただけだ。
俺は体を引きずりながら下に下りて冷凍ミンチの確認をしてる。
「ボスはいねェ様だぜ。」
「ああ___・・・もっと下だ・・・・!」
「な・・・ッ!?」
そう云うと男は片手でぐるり、俺をブン投げた___片方の手には紫色の雷を纏って・・・!
地面に突き立てたその腕からは激しい閃光が迸る・・・!?
「雷切・・・・・ッ!!」
「!!」
あれは・・・!? 男の閉じていた方の瞼には___噂に聞いた写輪眼!??
男は相手の声を土の中、くぐもらせたまま絶命させたらしい・・・。
「乱暴に庇ってくれてありがとよ;・・・俺、あんたの名を聞いた事があんぜ。」
えーと、確か写輪眼の・・・肝心の名前が思い出せねーとか;
何でも木の葉の天才・忍者と云われた男・・・意外と若いこんなヤサ男だったとは。
「そうかい? ともあれ助かったよ。”待ち合わせ”に血の匂いは困るからね。」
「結構なこって・・・。」
けッ、リア充かよ。奴は手をパンパン叩くと浴衣に汚れがないか自分をキョロキョロ見てやがる。
「だが、聞いたよりも火の国はマシなとこらしい。俺も少しは安心できらァ・・・。」
ぼんやり想う。一時だって俺はアンタの穏やかな場面を知らない。
一緒に任務に当たった後もも次から次へ、アンタは忙しそうだったから。
「来た方向からして__あんた、木の葉に知り合いでもいるのかい。」
「あァ・・・まぁな。」
「もしかして、コレ?」
「こッ・・・!小指立てんな!!違ェよ!ダァ~れが、あんな内にヤクザ秘めた小娘なんか!」
「____内に秘めたるヤクザ・・・聞いた事ない表現だな;どんなヒドイ娘なのよ!?」
いけネェ・・・!小指立てられてからの破顔したツイデの熱を感じる。収まれ俺、修行が足りん。
しかも声上擦っちゃってるしな;ここはクールダウンだ。咳払いをして胡坐をその場でかいた。
集中し___背中のヤケドを覆う薄い霜を張る・・・これで痛みはマシになるだろう、赤面もな。
「ったく・・・”お使い”なんざ引き受けるモンじゃねェ、お陰でこのザマだ。」
「でも___見過ごせなかった。だろ?」
「・・・・・・何時から見てやがった、アンタが先に助けるべきだろ、上忍さんよ。」
「非番であっても上忍は上忍だ。あんた達よそ者をどう断罪するか見極めていたのさ。」
また男の目つきが変わった。要は様子を伺っていたって事だ。気配も感じられなかったのに。
俺は懐にあった通行証を一応は突き出しておいた。一緒にされちゃタマらねえからな。
「正義を気取る気はねェが___”降って湧いた災難”と片付けられない女だっているんだ。」
クスリにやられて動けない女の…大きく見開かれていた目は目の前の俺など見ちゃいなかった。
悪夢の様な、あの一室での有様を思い出せば、また目を背けたくなる。
”なんで・・・!! 何で俺を傍に置いとかなかった!!アンタ、解ってたんだろ・・・!!!”
彼女は何かを察していた。俺を遠くの任務に着かせたのは、御館様の手前の事だ。
相手は恩ある御館様の嫡男、事が起こった後で俺を暴走させない為____
あんたは・・・自分だけで済めばいいと思ったんだろ、考えそうなことだ・・・。
「早い話、俺はああいう下衆い野郎が大嫌いでね。断罪するってンならマァ、勝手にやれや。」
クニに迷惑を掛けるワケにもいかねぇ。そう云って俺は一息ついてから両目を閉じた。
これも自業自得ってヤツだ、御館様の言いつけを守れなかった俺が悪い____
「えッ!?もうこんな時間!?急がないと____!」
「は?え____オイ!?」
「悪いけど、また今度!じゃ俺、急いでるからー!」
男はもうあんな遠くで叫んでて、俺はただただ、ポカンとそれを見ていた。
ハッ!となった時にはすっかり姿は消えていて。
「あの野郎、オチョクリやがってェ・・・・・・!」
君はすがしい朝の空、朱色の鳥居の前で匂い発つ様な艶やかな浴衣姿で俺を待っている。
妙な感情が湧く___君の過去を思えば・・・俺はもっと彼女を大事にしなくちゃいけない。
俺の為にあんなにオシャレをするようになった君が、心臓の裏がモゾ痒くなるほど愛おしい。
(いい部下じゃない____君の事、あんなに心配してさ・・・。)
森を抜けて、八香の姿の見える屋根の上までやって来てた。懐を探り、皺になった文を取り出す。
どうやら彼は写輪眼で見通せる事があるのを知らないらしかった。
お陰で・・・多少、要らない事実も見てしまったが____もう過去の事だ。
”自の国より使者あり、名は零兎。お頭様にツンデレ気味である為、邪魔されぬようご注意の事”
紫紺ったら、ご丁寧に似顔絵まで書いて・・・伝書鷲である”越後屋”に託してくれたというワケ。
敵に回したら厄介な忍だが、男としてはなかなかイイヤツである。___おっと、行かないと。
「お待たせ・・・!」
イキナリ現れた俺に、彼女に近寄ろうとしてた男が白々しく方向を変えていく。
ナンパなどされちゃ困るから・・・ね!
「・・・・・カカシ殿?」
「ん・・・・!?」
「いえ・・・ちょっと後ろを向いてて下さいな。」
そういうと俺を物陰に押して追いやるんだ。帯が、少し緩んだ。あー、着崩れてたってことね;
ささっと前に来て、手早く整えてくれた君がふいに顔を上げた。
何か___云いた気な、その目の色が気になる。
「もしや、お疲れなのでは・・・・・?」
ギク! これはバレたか!? さっきまで軽い戦闘に加わってた事が!
何故だ___どうしてバレた・・・、!! そうか、森の土の匂いか・・・!!
「いやぁ~実は来る途中でね? 土に埋もれて困ってたお婆さんを助けてたんだ・・・!」
「それは・・・昨日の雨でぬかっていたのでしょうか。」
「そうだねェ・・・ま、俺もそれ如きでお疲れにはならないから。大丈夫・・・!」
思わず手を引き、朝市で賑わう人並みに混じろうとする。一瞬、動かなかった君は。
ふっと目を伏せてから___俺の引く方へと委ねた。
「私も今度、埋もってみたいものです____」
「ダメダメダメ! 先に悪い男にでも見つけられたらどーすんの!!」
君、今、自分が何言ってるか解ってる____!?
その後の、____自の国では。
「む? もしやその御仁、はたけ殿ではないのか? だったら、見逃してくれた訳もわかる。」
「アッ・・・・そうだ、そんな名だったか・・・!! え?___御館様、それは何故・・・?」
ご老体は懐かしく思う、嘗てこの、八香の写真部屋で彼が”あの写真”を失敬していった事を。
ネガはあったお陰で、とうにまた同じ写真は飾ってあるのだが。
「八香を護衛し、木の葉への亡命を手助けしてくれた人物だ。ま・・・不知火殿が身を引いた程の
御仁じゃ、あとはアヤツの判断に任せておるよ。こうなった以上、早く孫の顔が見たいのォ~。」
「ま・・・・・孫ッ!? じゃ、ヤツは・・・あぁあああ!! クッソオオオオオ!!!」
薄っすら悟った零兎は頭を抱え、その場でゴロゴロ悶絶していた。
ご老体はそんな部下をスルーし、あさってを見つつ閉じた扇子でぽんぽん手を打ちながら、
どんな子が出来るだろうかと想像してる。実は御館様、チョイチョイ紫紺と連絡を取っている。
どうやら向こうの事情は筒抜けらしい・・・。
《end》