Fate/Hero Order   作:九十九猿

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序章(エミヤの場合)

自分殺し。かつてオレがやりかけた愚行。当時はそれ以外に方法は無いし、それも一か八かの八つ当たりのようなものだとは自覚していた。そして、衛宮士郎にオレは負けた。もちろん技量や、投影魔術で勝っていたのはオレだ。だがオレは衛宮士郎の心に負けた。あいつは眩しく、忘れていた自分の信念を思い出させてくれた。そして遠坂、オレのマスター。最後の別れを思うと、オレは彼女にも変えられたのだろう。運命の夜。オレが答えを得た夜。

 

「借り物だから間違いなのではない、と。誰もが笑っていてほしいというその理想に、正しいと信じて最後まで走り抜けたその人生に、間違いなどあろう筈がない、と。」

 

そうしてオレは英霊の座に戻った。そこからも相変わらず、汚れ仕事ばかりだった。苦しいが、以前と違って耐えられる。そしてこれは誰かの為になる、自分の望んだ事だ。そう思い機械のようにこなしていった。その日々は変わり映えも無く、時間の感覚なんてものはない。けれど、胸には信念があり、希望がある。それで充分だった。

 

 

そしてその時は唐突にやってきた。ふと、何もないはずの荒野から声が聞こえてきたのだ。

 

『マシュ、生きていてくれてありがとう』と。

 

誰の言葉かは知らない。けれど、この言葉を発した人は優しい人なのだろう。爺さんのような人なのかもしれない。そして、この言葉はオレにとっては別の意味も持つ。これはオレが「エミヤ」になった、きっかけの言葉でもあるからだ。そして更にその言葉を発した奴からの意思も、オレに伝わってきた。そいつが見てるのは壮絶な景色なのだろうか。伝わってきた思いは言葉に表せないようなもの。言葉、というより意思そのものがオレに伝わってきた。目の前の少女を救いたい、周りの奴らも救いたい、自分に救う力が欲しい、そして自分自身も救いを求めてる。そんなところだろうか。そして最後に伝わってきた強い意思。

 

「俺はこの子を救うヒーローになりたい!」

 

という強い意思。この意思の持ち主を笑うことなんて出来るはずもない。恐らく未熟なのだろう、力なんて持ってないのだろう。

 

(あぁ、でもこいつは昔のオレみたいな奴なのかもしれないな)

 

と、ふと思った。オレみたいに壊れてはいないのかもしれない。けど目の前の相手を救いたいという思いと、未熟さが昔のオレに重なった。

 

(出来ることならオレはこいつの元に行って、力を貸してやりたい。まぁ叶うはずもないのだろうが)

 

なんて思っていると、急に視界が真っ暗になり、気づくと周りは炎上している冬木の街。そして目の前には腰を抜かしている1人の少年。まさかこんなことが起きるとはな…、でもたまには誰かを犠牲にせず、誰かを守ることが出来るのかもしれない。よく見ると少年の手には赤い紋章。こういう時なんて言うんだったか。

「問おう、君が私のマスターかい?」

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