誰かが俺を舐めている気がする。フォウフォウ、という珍しい鳴き声。意識が朦朧としてる時に、ふと彼女の声が聞こえた。
「先輩。起きてください先輩。……起きませんね…マスター!起きないと殺しますよ!」
彼女の声で目が覚める。今、殺すとか言わなかっただろうか…
「…言い間違いました。正しくは殺されますよ、でした。」
どうやら思っていたことが言葉に出ていたらしい。
「ありがとう、マシュ。おかげで目が覚めたよ。だけど殺されるって一体______」
そこまで言いかけた所で、周りの光景が目に入る。そこは地獄だった。燃え盛る街、赤い空、瓦礫の山。あの部屋を彷彿とさせる光景。
「はい……ご覧の通り、ここは特異点Fです。どうやら私達はレイシフトに成功したようで…」
生き延びただけマシなのだろうか。それとも、さらなる地獄に踏み入ってしまったのだろうか。
「そして、先輩。周囲をご覧ください…」
マシュに言われて周りを見渡す。そうして目に入ったのは異形。この世に存在してはいけないだろう、と思われる怪物だった。まず最初に感じたのは恐怖。無力な自分が何故こんなものと相対しているのかという恐怖。そして次に感じたのは、マシュを守らなければ、という自分の意思だった。
「敵性生物と判断!マスター指示を!私と先輩の2人でこの状況を切り抜けます!」
俺はマシュの前に立って彼女を守ろうとした。けど、マシュは俺の前に立って的に突撃して行った。そこからは圧巻だった。あのマシュが異形を倒していったのだから。力任せではあるが振り回される盾、人を超えたようなスピード。不思議と彼女に恐怖は感じなかった、ただ自分の無力感をどうしようもなく感じてしまっていた。途中ハッ、と我に戻って彼女に指示を出す。相手の位置、攻撃のタイミングなど。俺に出来ることはこれしかないなら、これを精一杯やっていこう。そう思った。
「____先輩お怪我はありませんか?」
「あぁ、大丈夫だよ、マシュ。それよりあんなに強かったのか?」
「いえ…私があのように戦えたのは…」
彼女の言葉を遮るように通信が入った。ドクターの声が聞こえてくる。
「ああ、やっと繋がった!こちら管制室だ聞こえるかい!?」
それからドクターから色々なことを聞いた。この特異点Fのこと、マシュがデミサーヴァントであること、マスターとサーヴァントの関係、そして俺達が次に向かうべき場所のこと。
「いいかな、くれぐれも無茶な行動は控えるように___」
通信が切れてしまった。
「まぁドクターですから、いつもここぞというところで頼りになりません」
酷い言い様だ、確かにこの状況で頼りにならないのだから、仕方ないのかもしれない。
「先輩、霊脈の強いポイントに向かいましょう」
「あぁ、頼りにしてるよマシュ」
「先輩の指示も頼りにしてます!」
俺には力が無い。だからこそ割り切って、彼女を支えていくしか無い。そう決意した、その決意に偽りはない。けれど出来るなら、俺にも彼女を守れる力を_______
そう思っていた刹那、目の前に閃光が走り、真っ白になる。驚いて俺は腰を抜かしてしまった。上を見上げると、どこからか現れた紅い外套の青年が立っていた。彼は唐突に口を開く。
「問おう、君が私のマスターかい?」