転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
『そろそろでしょうか…』
「長官…よかったのですか?私の調べでは鋼の騎士…岸波 白野は相当の愛妻家、彼の逆鱗に触れてしまったのでは?」
『その時は拘束すればいい…そのために助っ人とセキュリティの子飼いも待機させています。』
治安維持局長官レクス・ゴドウィン、そして特別捜査室長イェーガーは治安維持局の屋上で人を待っていた…待ち人の名は鋼の騎士、本名・岸波 白野である。
治安維持局の捜査力は警視庁を上回りすぐに鋼の騎士の素性(偽)を暴きだした、レクスはすぐに行動を起こし彼の妻である翠を任意同行し白野を誘い出そうとしたのだ…。
「長官殿…私が奴の実力を見極めれば良いのですか?」
『えぇ「蘇る死神」死羅、あなたに鋼の騎士の実力を計るために協力してほしいのです』
レクスの後ろにいる毛皮の付いたフードを被った男が話しかける、彼の名前は死羅…「蘇る死神」の異名を持つ謎の決闘者である。
「しかし長官…奴は何処から来るのでしょう?玄関も裏口もセキュリティを配置しています、侵入者があればすぐにわかりますが…?」
『彼も事を荒立てたくはないでしょうならば…』ヒュー…
ドカン!!
『…空からでしょう…!』
屋上が大きく揺れ砂ボコリが舞う…待ち人は空から現れた。
「…貴様がレクス・ゴドウィンか…!」
『いかにも、私がレクスだ』
仮面の隙間から赤い目を覗かせ遊海は問いかける、その声は地の底から響くような声だった。
「俺の妻に手を出すとは…覚悟はできているんだろうなぁ…!!!」ゴゴゴ…
「ヒィッ…!?」
イェーガーは思わずレクスの後ろに隠れる…遊海の殺気は並大抵の人間が出せるものではなくなっていた。
「翠は何処だ…俺の妻を返せ…!」
『ならばこの者と決闘してもらいます、死羅…頼みますよ』
「えっ…あんな化物と!?話が違…!」
『報酬は倍にしましょう』
「…わかったよ…やればいいんだろ!?」
死羅はヤケクソ気味に前に出る…彼も決闘者の端くれ、遊海の強さは肌でわかっていた…。
「「デュエル!」」
遊海LP4000
死羅LP4000
「ドロー…!」
「手札から『真紅眼融合』を発動、デッキの『真紅眼の黒竜』と『メテオドラゴン』を融合…『流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン』を融合召喚!」
炎を纏った黒き竜が現れる ATK3500
「『流星竜』効果発動、手札の『真紅眼の凶雷皇エビル・デーモン』を墓地に送り1250ダメージ、さらに『黒炎弾』を発動、『真紅眼融合』で出したモンスターは『真紅眼の黒竜』として扱う…3500ダメージ!」
「なんとおぉぉ!?ぎゃあああ!!!」
死羅LP0
遊海 WIN!
「ピッタリ30秒です…長官…」
『…ここまでとは…』
「……」ピクピク
遊海の怒りのデュエルによりデュエルは歴代最短で終わりを迎えた、対戦相手の死羅は白目を剝いて気絶している…。
「返せ…翠を返せぇぇ…!」ズシン!バリッ
足元のコンクリートを砕きながら遊海は足を進める…
「なっ…何をしているのです!であえ!であえー!!」
正気に戻ったイェーガーのかけ声で長官を守るようにセキュリティが現れる…。
「鋼の騎士を拘束なさい!手段は問いません!!」
「「「了解!」」」
「邪魔だ…どけぇぇぇ!!!」
「ぐはぁ…!?」
『凄まじいな…!』
「ぶ、部隊が全滅…そんな馬鹿な!?」
屋上は死屍累々と化していた、イェーガーの指し向けたセキュリティは全滅し、立っているのは2人と遊海だけだった。
「茶番はもういいだろう?翠は何処だ…!」
衰えぬ殺気を放ったまま遊海はゴドウィンへと歩み寄る
『彼女は無事です、治安維持局の特別室にご案内して保護しています、しかし…まだ引き渡す訳にはいきません』
ポーカーフェイスのままゴドウィンは遊海に告げる
「なんだとぉ…?」
遊海は殺気を増大させる…常人なら気絶するレベルだろう、現にイェーガーは腰を抜かしている…ゴドウィンは胸からカードキーを取り出す。
『このカードキーがなければ彼女の部屋には入れません、これを渡して欲しければ…』
「そんな事関係ねぇ…このビルを真っ二つにすれば済む話だ…!」ブォン! キィィィン!!
「『なっ…!?』」
遊海の腕にとてつもないエネルギーが集中する…遊海が纏っているのは『クリフォート』の鎧、星は砕けないが大地を穿ちビルを破壊するのは容易い事だ…なお完全に頭に血がのぼっていて周囲の被害を全く考えていない…
「や、やめなさい!!」
「もう遅い!大地を穿つは我が拳、ガイア・クラッ…ゴッ…ゴハァ!!!ガッ…!!」バチャ…ドチャ…! バシャン
「えっ…!?細っ!?」
『体が弱いという話…事実でしたか…』
鎧の口元から血が溢れ出す、力の加減を忘れ暴れた遊海の身体はとてつもないダメージを負っていた…いわゆるオーバーヒートである、変身が解け遊海は血溜まりの中に倒れ伏す…
『セキュリティ、彼を拘束しなさい…第一級の危険人物です』
「は、はい…!」
遊海によって気絶していたセキュリティが目覚め注意しながら遊海へと近づいてくる…遊海は意識こそあるものの身動きは取れそうにない
『あと少し彼の体力が残っていれば我々も危なかった…セキュリティの彼らにはボーナスですね…』
ゴドウィンはその特権を使い、鋼の騎士の解決した事件を検証した…その中で遊海に活動限界がある事を導き出し今回の作戦を立案した…彼の頭脳の勝利である。
「み…翠を…返…せ…!」
身体は動かないものの遊海はゴドウィンを睨みつける…
「それは貴方次第です岸波 白野、とにかく貴方を拘束しそれから交渉」
ズガァン!!
『なんだと!?』
突如ゴドウィンの後ろ…屋上へ入るための扉が吹き飛ぶ…そして…
「ハァ…ハァ…!ユ…白野さん…白野さん!!」
息を切らしながら翠が屋上へと駆け込んでくる…そして倒れた遊海へと駆け寄る
「翠…よかった…無事…で…コフッ…!!」
「白野さん…どうして…レクスさん!話が違います!『鋼の騎士である白野氏が狙われて危険だから私を保護する、白野氏には後で来てもらう』そういう話だったんじゃないんですか!?」
『馬鹿な…核を防ぐレベルのシェルターにいた筈…!?』
翠はゴドウィンの巧妙な嘘に騙され治安維持局へと拉致された…その後、地下シェルターに軟禁されていたが異変を感じ難なく突破…屋上へと駆けつけた…。
「よくも騙したわね…!ウィンダ!ウェン!」
《これだから偉そうな人は信用できないんだよ…!》
《白野兄を傷つけた報いを受けてもらうです!》
2人を守るようにセフィラ状態のウェンとキムンファルコスが現れる
『サイコデュエリスト…いや精霊使いですか…!』
流石のレクスも驚愕する、鋼の騎士の妻も強大な力を持っいたとは想像もつかないだろう。
「ウィンダ!ウェン!GO!!」
「セキュリティ!退避体制!撤退します!!長官を守りなさい!!」
セキュリティと精霊達が衝突する…その刹那
ギュイイイン!!
「双方止まれ!争いをやめろ!!」
《うわっとと…!?》
『…あれは…!』
上空に特殊な形のジェット機…ブルーアイズジェットが現れる、そして飛び降りてくるのは…
「海馬さん…!」
「レクス・ゴドウィン…これは何の騒ぎだ?オレの部下に手を出すとは…なんのつもりだ?」
ネオドミノシティでとてつもない権力を誇るKC社長の海馬だった。
「さて…レクス、オレの友を傷つけた事…どう説明する?」
『くっ…!』
ゴドウィンは後ずさる…ゴドウィンもシティでは絶大な権力を誇るが海馬には劣る…そもそも海馬がこの町の市長を兼ねており治安維持局は実質KCの子会社なのだ。
「海馬さん…なんでここに…?」
「フン、白野の危機だとコイツに聞いてな」
《ミドリ!!》
「フレア!あなただったの!」
ジェットから金色の小鳥…フレアが翠の肩にとまる
《すいません、ユウミの暴走を止められなくて…とにかくこの町の事なら彼に頼めばなんとかなるかと…》
実は怒り心頭で治安維持局に向かおうとする遊海を精霊達は止めようとした、しかしそれを振り払い遊海はここに現れたのだ、その後フレアは助けを求めた…それが海馬だったのである。
『海馬社長、私は彼をフォーチュンカップに誘おうと…』
「ほう…その割には手荒ではないか、既に調べはついている…私事にセキュリティを動員し住民の不法拘束・監禁・集団暴行未遂…これでは長官の首は挿げ替えか?」
『くっ…(不味い…シグナーを集めるにはまだ長官でなければ…!)』
「しかし、若い時に比べてオレは寛大だ…今回は不問に伏す、立ち去るがいい!」
『〜!!…失礼する!』
「ああ!?長官お待ちください〜!」
ゴドウィンはセキュリティを引き連れて撤退する…その顔は悔しさが滲み出ていた…。
「遊海!大丈夫か!!」
セキュリティを見送った海馬はすぐさま遊海に駆け寄る
「か…海馬さん…すいません…短絡的に行動してしまい…」
「遊海さん…」
翠に抱えられた遊海は海馬に謝罪する
「フン…貴様は基本的に冷静だが…翠が関わると暴走するからな、間もなくヘリも到着する…少し休め…」
「す…すいません…お言葉に甘え…ます…」
気が抜けたのか遊海はそのまま気を失った…
『…まさか鋼の騎士のバックに海馬 瀬人がいたとは…しかし謎だ、何故海馬があそこまで彼を庇うのか…まぁいいでしょう…まだ策はある』カチッ
【そんな事関係ねぇ…ビルを真っ二つにすれば済む話だ…!】
「えぇ…!?『鋼の騎士』名義でフォーチュンカップに出場しなきゃならない!?」
「うむ…奴め小賢しい真似をしおって…!」
「海馬さんいったいどういう事ですか…!?」
「うむ…実はな…」
翠の拉致から2日後…療養中の遊海を海馬が訪ねてきた、そして上記の会話…あらましは以下の通りである。
Side海馬
「なに…?ユ…白野を訴えるだと?罪状はなんだ?」
『治安維持局に対するテロ行為未遂と恐喝です…これをお聞きください』
事件翌日、海馬に面会したゴドウィンはボイスレコーダーのスイッチをいれる
【そんな事関係ねぇ…ビルを真っ二つにすればいい話だ…!】
「これは…」
『白野氏が倒れる直前に言った言葉を録音したものです、彼は激昂し治安維持局のビルを破壊しようとしました…これは立派なテロ行為と見做されます…さらにこちらを…』
ゴドウィンはさらにネットニュースの記事を見せる
【治安維持局屋上で爆発!?】
【鋼の騎士がテロ集団を捕縛!お手柄!】
『意味は理解していますね?海馬社長?』
「レクス…貴様…!!」
治安維持局が真実を公表すれば遊海は社会的に追い詰められてしまう…一般人ならいいが遊海は行方不明の2代目「決闘王」、マスゴミがその情報を掴めばどうなるかは火を見るより明らかである。
『私からの条件はニつ、「鋼の騎士」のフォーチュンカップ出場、そして『閃光竜』というカードの使用…説得していただけますね?』
「わかった、しかし覚えていろレクス・ゴドウィン…貴様の仮面、いつか引き剥がしてくれる…!」
『フフ…何の事でしょう?』
Sideout
「という訳だ…遊海、行けるか?」
「はい…こうなってはしょうがありません、フォーチュンカップに出場します…!」
「すまんな遊海…しかし必ず奴を長官から引きずり落とす…!」
「いいんです海馬さん…元は俺の暴走の結果ですから…」
「気にするな、奴のやり口が貴様の虎の尾を踏み抜いた結果だ…では頼んだぞ!」
そう言って海馬は帰っていった…。
「はぁ…俺の幸運ランクはEか?運が悪すぎる…」
《マスター、もう少し後先考えて行動してください!!》
「遊海さん!そうですよ!私もそんなに軟じゃないというか今の遊海さんより力は強いんですから…!」
「…すいませんでした…」
こうして遊海も運命の歯車に組み込まれる…戦いはすぐそこまで迫っていた。