転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
今回は少し短めです!
それでは最新話をどうぞ!
「……ここまで、か…」
凌牙の精神世界…シャーク・ドレイクを撃破し、トロンを撃退した遊海は倒れ込む…自分の持てる全ての力を使い、トロンから奪われた力を取り返した遊海の魂は…既に限界を迎えていた。
「…これ…流石に復活できねぇな……痛みも…苦しさも感じねぇ……俺の存在自体が、薄れていく…」
倒れた遊海は自分の存在が消えていくのを感じ取った…トロンを弱体化させる為に許容量の数百倍の精霊の力を取り込んだ事で遊海の魂は緩やかに自壊していく…。
「…
遊海が思い出したのはあり得たもう1人の自分の最期…光と闇の狭間で揺れ動き、希望を未来へと繋いだラプラスの事だった。
「…まだ、少しは…動けるか…」
遊海はふらふらと立ち上がり、気を失っている凌牙のもとへと向かう。
「…ごめんな、凌牙…俺のせいで余計に辛い思いをさせちまった…父親失格だな…」
凌牙の頭を撫でながら遊海は凌牙に自分の不甲斐なさを詫びる…。
「凌牙…お前はもう1人じゃない、翠がいる…遊馬や仲間達もいる、璃緒もきっと目覚める……もう、俺が居なくても大丈夫だ……お前はまだまだ強くなれる、その背中に
それは最後のアドバイス…遊海は静かに凌牙に語り掛ける。
「……遊馬、あとは任せたぞ…凌牙、翠を悲しませな……いや、心配をかけないように、な……」
遊海の姿が…存在が消えていく、空気に溶ける紫煙のように…
「…翠…お前は、未来を…見届けてくれ……ごめん、な…──」
その日、1人の決闘者が死んだ……自分の望んだ未来を見届ける事なく、その男の魂は粒子となり…世界に融けた…。
Side翠
…夢をみた…悲しい夢を…
…夢をみた…大切な人が消える夢を…
…夢を、みた……遊海さん…私を置いて…行かないで…!──
「(…ここ、は……?)」
翠が目を覚ます…ぼんやりとした意識の中で彼女は考えを巡らせる。
「(…全身が、痛い…前が見えない…包帯…病院…?)」
全身を包む痺れるような痛み…そして圧迫感と規則正しい機械音から翠は自分が病院にいる事を理解する…。
「(なんで、病院にいるの…?私は…なにを…?……っ!?)」
その瞬間、翠の脳裏に今までの記憶が甦る、トロンの急襲、十代との応戦、敗北…頭を貫かれる凌牙…翠は咄嗟に身体を起こそうとするが、身体は動かなかった…。
《…翠さん、私の声が聞こえますか?》
「あやか、ちゃん…?なん、で…?」
《マスターの…命令です、貴女の治療の為に飛んで来ました》
戸惑う翠に聞き慣れた声が問いかける…それは遊海のパートナーであるアヤカだった…。
《翠の身体は紋章の力によるダメージで自由を奪われています…現在、紋章の影響を中和する処置中です…十代も同じく治療中ですが…翠よりも軽度なので安心してください》
「私の事はいい、の…あの子は…凌牙君は…?!」
《怪我をしていますが…命に別状はありません、デュエルは遊馬の勝利で決着…トロンとナンバーズによる呪縛も消え去っています、現在は別の病院で治療中です》
「よかった…本当に、よかった…!」
翠の目から溢れた涙が包帯を濡らす…遊海の力によって強化されたトロン、その力を身を持って思い知っていた翠は凌牙の無事を聞いて安堵する…。
《これから本格的に紋章の力によるダメージの治療を始めます、ゆっくり休んでいてください》
「ありがとうアヤカちゃん……ねぇ、1つ聞きたい事があるの…」
《…なんですか?》
「遊海さんは…
《………》
翠はアヤカに問いかける…。
《…何故、マスターの事を聞くのですか?》
「だって…アヤカちゃんの声が
それは翠の
《…やっぱり、隠し事というのは苦手、ですね…感情を知らない頃の私なら…きっとボロは出さないはずなのに…!》
「教えて、アヤカちゃん…!遊海さんは…何をしたの…!?」
《……マスターは、白波遊海は……死亡、しました…!》
「はぇ…!?アヤカちゃん、もう、嘘をつかないで…!ねぇ…!!」
翠はアヤカの言葉を聞いて言葉を失う…。
《…トロンによる洗脳を受けた凌牙は同じくトロンによって強化された「No.32」によって完全に乗っ取られ遊馬と激しいデュエルを展開…その様子を見たマスターは流星と共にスタジアムに急行…千年玉の能力によって再び「No.93」に憑依…全ての力を…魂を使い切り凌牙を救った後…その反動で魂が完全に砕けて……》
「嘘よ……嘘でしょ…?遊海さん…隠れてないで…出てきてくださいよ!見てるんですよね!?今だったら許してあげるから…!ねぇ…!!」
《………翠…これは、本当の話です…私と流星、海亜の前で…マスターは息を引き取りました…魂の繋がりが切れる直前、マスターは遊馬と凌牙に未来を託しました…それから…翠に「ごめん」と…未来を、見届けてほしいと…!》
「ごめんって言うなら…!そんな事言うなら死なないで…死ぬな馬鹿ぁ…!!遊海さんのバカ─…!!!」
声を押し殺しながら翠は号泣する…。
《…スタジアムに向かう最中、マスターは言っていました…トロンが精霊の力を持ち続ければ遊馬達を危険に晒す事になる…それを防ぐ為なら、俺は全てを賭けると……マスターは、凌牙の精神世界に現れたトロンからほとんど全ての精霊の力を奪い返し…遊馬に希望を繋いだのです…!》
「うっ…ああ…!ああぁぁぁ─…!!」
病室に翠の嗚咽が静かに響いた…。
SideOut
Side遊馬
「ジャックさん!!」
『むっ…?九十九遊馬…だったな、先程の決闘見事だった…何故ここにいる?』
遊馬と凌牙のデュエルが終結したWDC…次の試合であるカイト対トロン戦前の休憩時間に通路にいたジャックのもとへ遊馬が駆け寄ってくる…。
「いや…翠さん達は無事かと思って…翠さんのDゲイザーは通じないし…」
『…案ずるな、翠も十代も無事だ…今はKC傘下の病院で治療を受けている…お前もよくやったな、トロンの洗脳を受けた凌牙をよく取り戻した…遊海も安心していたぞ』
「ああ…あの、ジャックさん…遊海は…師匠は…!」
『…フッ、遊海はどんなに弱ろうと「決闘王」だ、お前達と共に戦う姿…俺にも見えていた…安心しろ、大事はない!今は流星が家に送り届けている!…奴の事は気にするな!死にかけるのは毎度の事だからな!ハッハッハッ!』
「そ…そっか…!よかった〜!!これで安心して決勝戦で戦えるぜ!師匠にオレがトロンを倒してデュエルチャンピオンになるところを見て貰わないとな!!」
豪快に笑うジャックを見て遊馬は胸を撫で下ろす…先程の言葉は「トロンを倒す事を任せた」という意味なのだと納得したからだ。
「あっ…やべぇ!そろそろカイトのデュエルの時間じゃねぇか!ライバルとして…あいつに声を掛けてやんねぇとな!ジャックさん!また後で─!」
そう言うと遊馬は選手入場口へと走っていった…。
『…忙しのない奴だ、昔の龍亞を思い出すな…』
ジャックは走り去る遊馬の背中にかつての仲間の姿を重ねる…デュエルに対して真っ直ぐ向き合う姿勢…そして仲間を想う姿はかつての彼とよく似ていた。
『…して…お前は行かないのか?青き精霊よ』
《…貴方に感謝を伝えたい…遊馬に真実を伝えずにいてくれて感謝する》
ジャックの前に残ったアストラルが彼に感謝を伝える…アストラルは気付いていたのだ…ジャックのついた嘘に…。
『自分のせいで教え子が負けたと知れば…奴は死んでも死にきれん…それを奴は…白波遊海は望むはずがない…!!』
アストラルに背を向けたジャックは拳を握り締め、声を震わせながら話す…。
『必ず勝て…!遊海の残した「希望」を…絶対に無駄にするな…!!』
《承知している…誇り高き決闘王の魂は…私達が受け継ぐ!》
アストラルは遊海の魂に勝利を誓った…。
『…馬鹿者…!自己犠牲の精神にも限度があろう…!お前が死んだら…誰が世界を…翠を守るのだ!!』
とある場所…そこに怒りの声が響く、その声の主は映し出された傷ついた白波遊海の亡骸を見て声を震わせる…。
『お前は…あの子供達に全てを託したというのか…己が守り続けた世界を…!!』
悔しげに声を震わせる男は遊海が未来を託した少年…そして遊海を死に追いやった鉄仮面の復讐鬼を睨む…。
『…見届けさせてもらうぞ、お前の選択を…お前が未来に託した希望を…!』