転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
「………つ、疲れた〜………」
『おいおい…大丈夫かよ?遊希…まだ授業は始まってすらないぜ?』
「この、1週間は……マジで、やばかった……」
ペンデュラム召喚が誕生して1週間が経った…そして遊希は童実野高校の机でへたばっていた…。
「取材の嵐に…入塾希望者への対応…新型リアルソリッドヴィジョンシステムの扱い方の勉強に遊矢とペンデュラム召喚の特訓、デッキ構築に学校の宿題・課題、さらに今日からの居残り授業………忙し過ぎるって……」
『ははは……マジですごいな……』
遊矢と遊希が目覚めた新たな召喚法・ペンデュラム召喚…その影響は凄まじく、遊勝塾への入塾希望・見学者が殺到……遊希は1週間学校を休み、修造と共に対応に追われていたのである。
『でもよ!これで遊勝塾への入塾者も増え───』
「……
『えっ…?』
「新しい入塾者…ジュニアコースの1人だけ……」
『えぇ〜…あれだけ大騒ぎしたのに〜?』
「うん……」
たくさんの入塾希望者が殺到した遊勝塾……しかし、本当に入塾したのは僅か1人──それ以外の人々はペンデュラム召喚自体が目当てであり……ペンデュラムカードを持っているのが遊矢と遊希だけと知ると去ってしまったのである。
「まぁ、入ってくれた子が…遊矢のファン1号になってくれたから良かったけど……」
『ははっ……まぁ、遊勝塾じゃそんだけの大人数は教えきれないだろうしさ!丁度良かったんじゃねえか?』
「うん…正直それは助かった……亀の決闘塾に応援頼もうか迷ったんだよ…」
『そこまでかよ…でも、双六塾長もトシだしなぁ…って、授業始まるな!また後でな!遊希!』
「うん…お互いに頑張ろう、克也」
友人との話を終えた遊希は頬を叩く…長い1日が始まった…。
…………
「つ、疲れたぁ……今日は、塾は休ませてもらおう…」
夕方…居残り授業を終えた遊希は修造へとメッセージを送り、凝った肩を解しながら家路に着いていた……。
『失礼、君が…榊遊希で間違いないかな?』
「っ…?ええ……貴方は?」
しばらく歩いていると遊希は声を掛けられる…それは目深にフードを被った、自分と同じくらいの歳の青年だった。
『私は…レイジ、不躾な頼みなのだが…私とデュエルしてもらいたい』
「おっと…!?本当にいきなりですね!もしかして…ペンデュラム召喚に興味がある方ですか?」
『ええ、そうなんです…それに、あの武藤遊戯に勝った貴方に興味がありまして…』
レイジと名乗った青年は遊希に対してデュエルを申し込む…!
「……では、遊勝塾にどうぞ…人目についてしまって、周りの人達の迷惑になるので…」
遊希はレイジを遊勝塾に案内しようとする…ペンデュラム召喚はどうしても人目につく召喚法であり、その性質から慣れるまでは室内でデュエルしようという事になっていたのだ。
『その必要はありません…時間は取らせませんから…!』
《アクションフィールド『プロト・クロスオーバー』発動!》
「っ…!!」
レイジがデュエルディスクを展開し、フィールド魔法を発動…周囲の景色が夕焼けの街から無骨なコンクリートの部屋に変化する。
『これは…アクションフィールド…!?外では大型の投影機が必要なのに!?』
『新たに研究中の新型投影機付きのデュエルディスクは上手く作動したようだ……アクションカードの実装は間に合わなかったか…』
「……逃げ場はないって訳か…!」
リアルソリッドヴィジョンによって逃げ場を封じられた遊希はデュエルディスクを展開する!
「『デュエル!!』」
遊希LP4000
レイジLP4000
アクションデュエル アクションフィールド発動中
Error……アクションカード使用不可
「僕のターン!」
「よし…!僕はスケール1の『オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン』とスケール8の『オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン』でペンデュラムスケールをセッティング!これで僕はレベル2から7のモンスターを同時に召喚可能!」
『ほう…』
PENDULUM!
遊希の背後の光の柱の中に2体のドラゴン達が現れる!
「お望み通り、ご覧いただきましょう!揺れろ!希望のペンデュラム!全能の軌跡よ、歴史を刻め!ペンデュラム召喚!!レベル4『EMユニ』!レベル3『EMコン』!そしてレベル7『法眼の魔術師』!」
遊希の頭上で赤のペンデュラムが軌跡を描く…そして白を基調としたドレスを着て馬の尾を生やした少女、青を基調とした服を着て額からユニコーンの角を生やした少女、そして巨大な摩尼車型の棍棒を持った魔術師が現れる! ATK800 600 2000
「そして『コン』の効果発動!フィールドの攻撃力1000以下の『EM』である『ユニ』と共に守備表示にする事で、デッキから『オッドアイズ・ファントム・ドラゴン』を手札に加える!」
ユニ ATK800→DEF1500
コンATK600→DEF1000
「僕は…これでターンエンド!」
遊希LP4000
ユニ コン 法眼 (Pスケール ミラージュ ペルソナ) 手札1
『ふむ、的確な布陣だな…流石は勝率7割の実力……では、見極めさせてもらおう…!』
『私のターン、ドロー!』
『「マッド・デーモン」を召喚!』
赤い髪の骨の装飾が特徴的な悪魔が現れる! ATK1800
『バトルだ!「マッド・デーモン」で「EMコン」を攻撃!そして「マッドデーモン」は守備モンスターを攻撃した時、攻撃力が上回った分のダメージを与える!』
「くっ…!」
マッドデーモンが腹部の骨を噛み砕き、コンを粉砕…さらに一部が遊希に襲いかかる!
遊希LP4000→3200
『私は…カードを2枚伏せ、ターンエンド!』
レイジLP4000
マッドデーモン 伏せ2 手札3
「っ…いきなりダメージ受けちゃった…だけど、まだ立て直せる!」
「僕のターン!ドロー!」
「良いぞ!装備魔法『ワンダー・ワンド』を『法眼の魔術師』に装備!攻撃力が500アップ!」
魔術師が緑の宝石が付いた杖を装備する! ATK2000→2500
「そして『ワンダーワンド』の効果発動!装備モンスターと一緒にリリースする事で2ドロー!」
魔術師がその身と共にカードを導く!
「そして僕は再びスケール1の『ペルソナドラゴン』と、スケール8の『ミラージュドラゴン』でペンデュラムスケールをセッティング!再び揺れろ!希望のペンデュラム!希望の道を示せ!ペンデュラム召喚!
『むっ─!?』
赤のペンデュラムが再び軌跡を描く…その中から二色の眼の竜…そしてリリースされたはずの棍棒を持つ魔術師が現れた! ATK2000 2500
『リリースされたはずのモンスターを…エクストラデッキから召喚だと?』
「そう!ペンデュラムモンスターは破壊されると…何故かエクストラデッキに表側の状態で加えられ、再びペンデュラム召喚でフィールドに舞い戻るのです!」
それは遊矢との特訓の際に気付いた事…破壊されたペンデュラムモンスターは墓地には送られず、エクストラデッキに加えられる…という特性があったのだ。
『なるほど…面白い…!』
「僕もペンデュラムモンスターに関して、全てが解った訳じゃない…それでも、僕のする事は変わらない!バトルだ!『法眼の魔術師』で『マッドデーモン』を攻撃!」
『「マッドデーモン」は攻撃された時、守備表示になる!』
魔術師が摩尼車を回転させた状態で棍棒を振るい、悪魔を打ち倒す!
「さらに『オッドアイズファントムドラゴン』でレイジにダイレクトアタック!夢幻のスパイラル・フレイム!!」
『その攻撃を受ける訳にはいかないな…罠カード「魔法の筒」発動!その攻撃を無効にし、さらに!攻撃モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える!』
「なにっ…!?うああああっ!!」
レイジの前に現れた不思議な筒が攻撃を吸収、遊希へと跳ね返した!
遊希LP3200→700
「っ…この人、強いなぁ…!僕は、カードを1枚伏せてターンエンド…!」
遊希LP700
ユニ 法眼 ファントム (Pスケール ミラージュ ペルソナ) 伏せ1 手札1
『(ふむ…ペンデュラムモンスターの特性を利用し、手札を補充…さらにはカードを引き寄せる『天運』…この男、まさか……
遊希を睨むレイジ…その脳裏では、遊希の正体に疑いを抱いていた…。
『私のターン、ドロー!』
『魔法カード「死者蘇生」を発動!墓地の『マッドデーモン』を特殊召喚!』
再び骨の悪魔が復活する! ATK1800
「くっ…!また貫通ダメージを…!」
『いいや…さらに一歩先を行かせてもらう!私は手札のドラゴン族モンスター「アックス・ドラゴニュート」とフィールドの悪魔族モンスター「マッドデーモン」をリリース!手札から現れるがいい!全てを破壊する龍王!「DDD覇龍王ペンドラゴン」!』
レイジの場に巨大な黒き龍王が現れる! ATK2600
「このモンスターは…!?」
現れた黒い龍の威容に遊希の背中に冷や汗が流れる…このモンスターが放つ威圧感は…遊希の知る『
『「ペンドラゴン」の効果発動!手札の「タルワール・デーモン」を墓地に送り、ターン終了時まで攻撃力を500アップさせる!』
「っ…!!」
龍王の威圧感が強くなる…! ATK2600→3100
『さらに、相手フィールドの魔法・罠カードを1枚破壊できる…私が破壊するのは──ペンデュラムスケールの「オッドアイズ・ミラージュ・ドラゴン」だ!』
「っ!?ペンデュラムカードが!?」
龍王の爪が光の柱を引裂き、緑色のドラゴンを破壊する!
『やはりそうか…ペンデュラムカードはモンスターと魔法カード、2つの特性を合わせ持つ……興味深いが──今日はここまでか、バトル!「ペンドラゴン」で「法眼の魔術師」を攻撃!』
「まだだ!罠カード発動!『ハーフ・アンブレイク』!『法眼の魔術師』を戦闘破壊から守り、受けるダメージを半分に…ぐああああっ!?かはっ…」
『ふむ、守りのカードを伏せていたか…』
黒龍の炎が泡のバリアによって受け流される…だが、その炎は遊希に襲いかかり、遊希をリアルソリッドビジョンの壁に叩き付けた!
遊希LP700→150
「私は…これでターンエンドだ」
レイジLP4000
ペンドラゴン 伏せ1 手札1
「うぐっ…(強い…!下手をしたら、遊戯以上に…!)」
デュエルを挑んで来た謎の青年…遊希はその強さから、相手のレベルが遥かに格上である事に気付く…!
『ペンデュラムを生み出した者の1人…そして榊遊勝の教えを受けた男…この程度か?』
「ぐっ……まだだ!ライフが、残っている限り……僕は戦える…!!最後まで、諦めない!!」
痛みを堪えながら…遊希は立ち上がる!
「僕のターン!ドロー!!」
「僕は…フィールドの『EMユニ』1体をリリース!『EMスライハンド・マジシャン』を特殊召喚!!」
遊希のもう一体のエース、道化魔術師が現れる! ATK2500
「攻撃力で敵わなくても…倒し方はある!『スライハンドマジシャン』の効果発動!手札の『EMロングホーン・ブル』を墓地に送り!『覇龍王ペンドラゴン』を破壊する!」
『むっ…』
スライハンドマジシャンが右手の4つの水晶玉を投げつけ、黒龍を打ち砕く!
「これで、どうだ!『オッドアイズファントムドラゴン』でダイレクトアタック!!」
『諦めずに向かって来るか…だが、甘い!罠カード発動「聖なるバリア─ミラー・フォース」!相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!』
「し、しまった!!」
全ての攻撃を跳ね返す鉄壁が遊希のフィールドをガラ空きにする!
「ターン、エンド…」
遊希LP150
(Pスケール ペルソナ)手札0
『私のターン、ドロー』
『「デーモン・ソルジャー」を召喚!』
魔界のエリート騎士が現れる! ATK1900
『君はよく戦った…しかし、今回は私の勝ちのようだ!「デーモンソルジャー」でダイレクトアタック!!』
「まだ…まだだ!墓地の『ユニ』の効果発動!墓地の「EMロングホーンブル」と共に除外する事で、1度だけダメージを0にする!!」
『ほう…!そんな効果を…』
悪魔騎士の一撃が巨大な角を持つ牛に受け止められる!!
『しかし、君のペンデュラムスケールは不完全…次のターンで決着だ…ターンエンド』
レイジLP4000
デーモンソルジャー 手札1
「はぁ…はぁ……負けない…!負けて、たまるかぁぁ!!」
『っ……!(この気迫は…!!)』
ボロボロの状態でなお、諦める様子を見せない遊希…その姿にレイジは圧倒される!
「遊勝さん…お力、お借りします!!」
「真のデュエリストのデュエルは、全て必然!勝利のキーカードはっ(ズキン!!)……あ、がッ…!?」
『っ…!?おい!!』
遊戯戦と同じく、遊勝仕込みの口上と共にカードを引こうとする遊希…だが、再びの頭痛が襲いかかり、膝をついてしまう…!
「こんな、いた、み…!!ドロー…!!」
『(勝利へ対する、この覚悟の強さ…彼は──本物だ…!!)』
ふらつきながらもデュエルを続ける遊希…その姿にレイジは畏怖を抱く…!
「ペンデュラムスケールに…スケール2…『EMペンデュラム・マジシャン』をセッティング…これにより、レベル3から7のモンスターを同時に召喚可能…!!」
光の柱の中に振り子を持つ煌めくマジシャンが現れる!
「ペンデュラム、召喚!!エクストラデッキから、舞い戻れ!『オッドアイズミラージュドラゴン』!『法眼の魔術師』!『オッドアイズファントムドラゴン』!!」
再び軌跡の中からモンスター達が復活する!ATK1200 2000 2500
「振り子は、止まらない…!大きく動かせば…大きく戻る…勇気を持って、前へ…!!『法眼の魔術師』で『デーモンソルジャー』を攻撃…!」
『くっ─!』
棍棒が悪魔騎士を粉砕、初めての手傷を与える!
レイジLP4000→3900
「『ミラージュドラゴン』で、ダイレクトアタック!ミラージュ・テイル!」
続けざまに緑のドラゴンの尾が直撃する!
レイジLP3900→2700
「そして…『オッドアイズ・ファントム・ドラゴン』でダイレクトアタック!夢幻のスパイラル・フレイム!さらに、ペンデュラム召喚に成功したこのモンスターが、相手にダメージを与えた時!Pスケールの『オッドアイズ』1枚につき1200ダメージを、与える!!幻視の力──アトミック・フォース!!」
『ぐっ──!?(この窮地での
レイジは幻影竜の炎に飲み込まれる…だが、その表情は何事かを考えていた…。
レイジLP2700→200→0
遊希 WIN?
「っ……あ…はぁ…はぁ……」
『……見事、と言っておこう…榊遊希』
ソリッドビジョンが崩れていく…その中で上手く攻撃を受けて着地したレイジは遊希を称賛する──だが、当の遊希はそれどころではなかった…。
「(痛い……熱い……古傷が…からだ、あたま…灼ける…!)」
遊希の全身に刻まれた古傷が疼き、凄まじい頭痛が襲う……ただでさえ疲労している所にアクションデュエルは負担が大き過ぎたのだ……
『俺の
『………早い到着だな、海馬瀬人』
「社、長……」
夕焼けの道に怒号が響く…その声の主は──いつになく鋭い目をした海馬瀬人、その人だった…!
『万が一に備え、遊希に監視を付けていたが…貴様自ら仕掛けてくるとはな…!そんなに俺の逆鱗に触れたいか!!』
『滅相もない…私はただ、ペンデュラム召喚について知りたい──それだけだ』
『フン…腹の中を見せない奴だな、貴様は…!』
凄まじい覇気を放つ海馬に対し、レイジ──レオ・コーポレーション社長、赤馬零児は静かに答える。
『零児、貴様…何を
『貴方に答える義務はない……だが、当たらずとも遠からずだ』
『ならば、覚えておけ……貴様がこれ以上、遊希に関わるならば──俺は全力でレオ・コーポレーションを潰すぞ』
『ふっ…ワンマン社長もずいぶんと丸くなったな……いいだろう、
そう言うと零児は踵を返し、迎えに来た車と共に去って行った…。
『……遊希、無事か?』
「なん、とか……落ち着いて、きました」
零児を見送った海馬は息を整える遊希に歩み寄る。
「今の、相手…は……」
『赤馬零児…世界大会にはあまり出ていないが……俺や遊戯に比肩する実力派のプロデュエリストであり、LDSの運営──レオ・コーポレーションの社長だ……今のデッキは
「あれで、本気じゃ、ないのか……世界は、広いなぁ…」
『遊希、気をつけろ…LDSは優秀な決闘者をその所属塾ごと買収を仕掛けてくる事がある……弱みを見せるな』
「わかり、ました…!」
海馬の警告に遊希は頷く…そしてこの後、遊希は遊矢がLDS所属の生徒に「ペンデュラムカード」を盗まれかけたのを知るのだった……。
『榊遊希…もし、彼が