転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
王の記憶へ~遊海の誤算~
退院して数日後、俺は翠と共に空港に来ている…もちろん遊戯達と一緒にエジプトへ行くためだ。
「遊海さん!楽しみですねエジプト!私、海外に行くの初めてなんですよ!」
「この前アメリカ行かなかったっけ?」
「あれは魂だけなのでノーカンです!」
「ユウミ兄ひどいです!」ジー
「…ごめん冗談だから!だからそんなに睨まないでウェンちゃん…!」
翠は先日の邪神との戦いで精霊の力のレベルが上がったらしく新しい精霊を宿していた。
カード名「エルシャドール・ウェンディゴ」のウェンである、彼女は特殊な精霊で自分の意思で「霊獣」「シャドール」「セフィラ」の精霊に転身できるらしい…、ついでにウィンダは「ガスタ」にはなれず「霊獣」の自分になれるように練習中らしい。
「はいはい!ウェンちゃん!遊海さんを睨まないの!翠さんの大切な人なんだから!」
「は~い…」
…そういえばウィンダから見ればウェンって自分の子孫に当たるんだよな…(霊獣使いはガスタが元になって誕生している)長老も驚いただろうな…大昔に死んだ姉貴分が生き返ったんだから…。
《閑話休題》
「遊海君!体は大丈夫?」
「はい!遊戯さん!ご心配おかけしました!」
「たくっ…お前何回死にかけるんだよ!翠を泣かせるんじゃねぇ!」
「城之内さん…すいません…以後気をつけます…」
「翠ちゃんも大丈夫?」
「杏子さん!はい!私は元気いっぱいです!」
【~発、エジプト行きの飛行機の搭乗手続きを…】
「みんな!行こう!」
「「「「おう!/ええ!」」」」
こうして俺達は闇遊戯の記憶を探しにエジプトへ向かうのだった…。
「フッフッフ!王様…始めようぜ闇のゲームを!」
《約14時間後…》
「くあ~っ!やっとついたぜ!エジプトって遠いなぁ!」
「ここがエジプト…爺ちゃんが千年パズルを見つけた場所…」
「そういえば遊戯?どこに向かうのかわかってるのか?」
「あっ!それなら…」
「お待ちしていました!遊戯…いえ、名も無きファラオよ。石版のある場所までは、私たちがご案内いたします」
エジプトに着いた俺達を待っていたのは墓守の一族のイシズさんとマリクの二人だった。
「イシズさん!お久しぶりです!」
「ええ、遊戯!連絡ありがとう、ここから先は私達が記憶の石板まで案内しましょう!」
「遊海さん、お久しぶりです…バトルシティの時は…」
「マリク…大丈夫!傷はデュエル中に治ったし!」
「でも…」
「今日はその分エジプトを案内してくれよ!」
「…はい!わかりました!」
その後俺達はマリク達の案内でスフィンクスやギザの三大ピラミッド、アビドス三世の神殿などを見学した。
「遊海さん?」
「どうした翠?」
「私達の世界にアビドス三世なんてファラオいましたっけ?」
「…さぁ?いたかな…?でもアトランティスが実在してたんだし、多少の違いはあるんじゃないか?」
「そうですね!あっ!遊海さん!アレ!」
「アレは…カルトゥーシュの店か…」
「私あれが欲しいです!」
「なら二人でやってもらうか!」
「はい!」
「(カルトゥーシュ…ファラオが名前を刻んだお守り…もう一人の遊戯に丁度いいかも!)」
その後俺と翠はカルトゥーシュに名前を入れてもらった
俺は銀色で2本の葦(Y)、ウズラ(U)、フクロウ(M)
翠は金色でフクロウ(M)、手(D)、口(R)、とアンク(エジプト十字)
「ふふっ!似合ってますよ!マスター!」
「うん!翠さんも似合ってる!」
「ありがとうウィンダ!」
「アヤカもありがとう!」
そして翌日、俺達は記憶の石板のある遺跡へと到着した。
『この中に俺の記憶の扉を開く扉が…!』
「わたくし達はここで…名も無きファラオ、ここからはあなたが自分で道を切り開くのです」
「ああ…いってくるぜ!」
そして俺達は遺跡への階段を降る…
「…これが記憶の石板…」
石室の壁にそれは納められていた。向かい合う遊戯似の人物と海馬似の青年、その上に龍と魔術師の闘う様子が刻まれ…その上に三幻神、そして千年パズルが描かれている…
『記憶の石板…俺の記憶への扉…今こそ!』
「遊戯!ちょっと待って…これを…!」
杏子が遊戯の首に何かをかける…
『杏子…これは?』
「カルトゥーシュ…古代エジプトの王様とかの名前が彫られてたんだって」
『…でも何も彫られてないが…』
「もし、記憶が戻って本当の名前を思い出したら、そこに刻んで欲しいの…今度はどんなことがあっても忘れないように!その石版は、全部ファラオの名前が削り取られてるじゃない?
私はせめて、あなたの本当の名前が知りたい!」
『そうだな…ありがとう杏子!大切にするぜ!』
「うん!」
「遊戯さん!俺達とお揃いですね!」
「私達もお店で彫って貰ったんですよ!」
俺と翠もカルトゥーシュを見せる。
「あ~っ!お前達ずるいぞ!!」
「城之内…いいじゃねぇか!あとで俺達も作ろうぜ!」
「金がねぇんだよ!チクショ~!」
後で城之内が羨ましがっているが…放っておこう…
『じゃあいくぜ…石板よ!三幻神を鍵に俺の記憶を示せ!!』
闇遊戯が石板に三幻神のカードをかざす…すると石板が強い光を放つ!
「うわっ!眩しっ!!」
「なんだいきなり!!」
「翠!」
「遊海さん!」
光が収まると石板の前に佇む遊戯がいた…。
「遊戯…?」
杏子が問いかける…
「消えた…」
「えっ?」
「もう一人のボクが、パズルの中にも、ボクの心の中にもいない…もう一人のボク…!」と…
「おいっ遊海!しっかりしろ!」
「翠ちゃん!どうしたんだよ!?」
「城之内君!本田君!どうしたの?」
遊戯が後ろを見ると気絶した遊海と翠、そしてそれを介抱する本田と城之内の姿があった。
「遊海君!翠!どうしたの!?」
「わからねぇ!光が収まって回りを見たらこいつらが気絶してたんだ!」
「アヤカ!遊海君に何があったの!」
「(遊戯様…わかりません!石板の光を浴びた途端に二人とも倒れられて…しかもお二人の千年アイテムも消えています!!)」
そう言われ遊戯が確認するとアヤカに吸収されていた「千年玉」、そして翠の指にあった「千年指輪」が消えていた…
「遊海君!しっかり!!」
「無駄だ、ファラオの魂を宿す者よ…彼らの魂は王の記憶に囚われた…」
「君は…シャーディ!!」
シャーディ…イシズとは別の墓守の一族と名乗った謎の青年…千年秤と千年錠の所有者である。
「シャーディ!どういう事!?もう一人の僕と遊海君達はどうしたの!」
「ファラオを宿す者よ…もはやお前の中にファラオの魂は無い。ファラオは、記憶の世界へと旅立った。そして原初の千年アイテムを持ちし二人もそれに巻き込まれたのだ」
「記憶の…世界?」
「記憶の世界は、三千年前、ファラオが体験した記憶によって作られた世界。名も無きファラオはその世界を追体験している…」
「そこではもう、私達の記憶は無くなっちゃうの?」
杏子が問いかける。
「いや、記憶の世界の住人となっても現在の記憶はあるはず。そしてファラオは、自分の運命をもう一度体験することになる。
その時、ファラオの魂が千年パズルに封印された謎が明らかになる…」
「シャーディ…お前は一体何者なんだ…?」
「私はファラオの墓を守るもの…しかし私の体は既に滅んでいる…バクラによって」
「ちょ…ちょっと待てよ!つまり俺らは…」
「幽霊と話してるのか!?」
「闇のバクラに殺されたって…どういう事?」
そしてシャーディは語りだした…長年、自分が持ち主のいない千年アイテムを管理していた事。ある日獏良の父である考古学者が千年輪に触れて死んだ事、そして獏良が千年輪の邪念に適合しシャーディを殺した事を。
「そして私は魂の状態で世界を巡り千年アイテムをペガサスなどに託し王の復活に備えていたのだ…」
「そんな…事が…」
「バクラに宿りし魂、それは邪悪なものの魂…今、名も無きファラオに危機が迫りつつある。千年アイテムが私に告げた、名も無きファラオは全ての真実を知るため、闇のバクラと共に記憶の世界に旅立ったのだ」
「闇のバクラ君と!?」
「そこで、二人の究極の闇のゲームが開始される、そして原初の千年アイテムの所持者の二人もそれに巻き込まれたのだ…」
「シャーディ!僕達もそこに行けないの?!僕は待っている事しかできないの?」
「方法はある…」
「えっ?」
「千年パズルの中にある、ファラオの心の迷宮。そこで真実の扉を見つけることだ…その奥にこそ、ファラオの記憶の世界がある」
……俺はどうしたんだ…?石板が光を放って…それから…?
体を起こす…さっきの石室じゃ無い…土レンガで作られた家?
体には毛布が掛けられていた…隣には翠が寝ている…
「おい!翠、起きろ!」
「ん?…遊海さん…?」
よかった翠も無事だ…
「あれ…ここ…何処ですか?」
「わからない…俺も気づいたらここに…」
「おやまぁ!気が付いたかいお二人さん!よかったよ!」
部屋の入り口から褐色肌のご婦人が現れる…あの衣装はまるで…
「ワタシがナイルで洗濯していたらいきなり上から落ちてくるんだもの!ビックリしちゃったわ!」
「助けていただいてありがとうございます…ここは…?」
「変な事聞くねぇ?ここはファラオの治める王都の西の村だよ!あんた達神官だろ?ここの魔物を退治しに来た?」
ファラオ…神官…魔物…?…まさか…
「遊海さん…もしかして…!」
「ああ…確実に記憶の世界だな…」
どうやら俺達は記憶の世界に紛れこんでしまったようだ…。
「奥さん…すいません、どうして俺達が神官だと…?」
「そりゃあんた!その格好にウジャトの眼のあしらわれた祭器!ファラオの魔物鎮圧隊じゃ無いのかい?」
そう言われ改めて自分の姿を確認する、頭に巻いた布地、麻で作られたであろう服と金色の装飾品、枕元の千年玉…。
翠は黒髪に白いフードのついた服を着て指に千年指輪をつけている…よく見ると肌も褐色になっている…
「え、ええ!そうです!すいませんお世話になっちゃって!」
「あら、大丈夫よあなた達が魔物を倒してくれて助かったわ!今なにか食べ物持ってくるわね!」
「ありがとうございます…でも大丈夫です!」
「そうかい?なら隣にいるからなにかあったら声をかけておくれ!」
そう言うとご婦人は出ていった…
「遊海さん…これは一体?」
「どうやら●●●の記憶の世界に来たらしい…」
「遊海さん…最初なんて言いました?」
「えっ?だから●●●…言えない!?」
ファラオの名前が言えない…いや思い出せない!!
「遊海さん?」
「…どうやら俺達は記憶の世界の住人になってしまったらしい…」
「どうゆうことですか?」
「…たぶん闇遊戯が記憶の世界にくる時に俺達もなんらかの手段で巻き込まれたらしい…それで遊戯達と違いNPCに憑依してしまったんだ…」
「根拠を聞いてもいいですか…?」
「まずはさっきの奥さんが俺達を認識している事、遊戯達は基本的にNPCには認識されなかった…しかし俺達は認識されている。そしてファラオ…●●●の名前を言えない…いや、忘れている事…それが根拠だ…それに…」
「それに?」
「アヤカやウィンダ達が居ない…気配も無い、それが一番だ…」
「…私達帰れるのでしょうか?」
「大丈夫だよきっと…とりあえず王宮に…」
「大変だ~!魔物が出たぞ!逃げるんだ!!」
「遊海さん!」
「行って見よう!」
そして俺達は外に飛び出した…。