転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話   作:S,K

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こんにちは!S,Kです!

ハノイの騎士に操られ、昏睡状態に陥ってしまったブルーエンジェル…そしてその事件がついに運命の邂逅をもたらす…。

それでは、最新話をどうぞ!


剣と剣〜宿命の邂逅〜

「遊嗣さん、財前さん…大丈夫でしょうか…?」

 

「うん…学校で倒れて、未だに意識が戻ってないらしいし…心配だね…」

 

プレイメーカー対ブルーエンジェルのスピードデュエルから数日、遊嗣とマシュはデュエル部の仲間である財前葵を心配していた。

数日前、学校で倒れている所を発見された彼女は目を覚まさないまま、病院で眠り続けているのだ。 

 

 

「心配と言えばブルーエンジェルも…あのデュエルは()()じゃなかったよね」

 

「はい…私もネットに出回った動画を見ましたが……授業中に島さんが叫んでしまった理由がわかりました…」

そして、2人の話題は時同じくして姿を消してしまったブルーエンジェルについて移る。

彼女にとって念願だったはずのプレイメーカーとのスピードデュエル…しかし、その途中から彼女は正気を失い、翌日以降リンク・ヴレインズにも姿を見せていなかった…。

 

 

 

「……ロマン、ブルーエンジェルに何が起きたのか…何か分かる?」

 

《映像越しだから、確実な事は言えないけど…おそらく彼女は()()()()()()()()()()()に感染したんだ、それも普通のじゃない…リンクヴレインズのアバターから本人の体や精神にも影響を及ぼす………『電脳ウイルス』とでも言えるモノに》

 

「電脳、ウイルス…そんな恐ろしいモノを作れる…いや、作ろうと考えるのは…」

 

「……ハノイの、騎士…」

 

《……うん、かなり高い確率で…犯人は彼らだろう、おそらくSOLテクノロジーや…プレイメーカーも気付いているはずだ》

遊嗣はデュエルディスクに宿るロマンに事件について尋ねる、そして返ってきたのは…あまりにも恐ろしい答えだった。

 

 

《ハノイの騎士は彼らの目的の為に本格的に動き始めたらしい…遊嗣達も注意しなきゃダメだよ?》

 

「うん…!気をつける…!」

ハノイの騎士の恐ろしさを改めて認識した遊嗣とマシュはロマンの言葉に頷いた…。

 

 

 

 

《それはそれとして…少し急がないと遅刻するよ?》

 

「へっ…ああっ!?急ごうマシュ!!」

 

「は、はい!!」

しかし、シリアスな空気になったのは僅かな事、時刻を確認した遊嗣達は慌てて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

Side遊作

 

 

 

『葵…葵!!』

 

「ご家族の方ですね?彼女はこれから検査室に入ります、心配なのはわかりますが…」

 

『っ…葵…!どうして…!!』

時間は少し巻き戻る…財前葵が遊作に発見され、病院に運び込まれた直後、兄である財前晃が駆けつけたが…葵は目を覚ます事なく、精密検査の為に検査室に運び込まれた…。

 

 

 

『キミが、知らせてくれたのか?』

 

「…はい、屋上で倒れていたのを見つけました」

 

『そうか…礼を言うよ』

葵が運ばれていき、冷静さを取り戻した晃…彼は葵を見つけた恩人──遊作に話しかけ、礼を伝える。

 

 

『こんな事を聞くのもなんだが、キミと葵は──』

 

「ただの同級生です」

 

『そうか…ああ、名前を教えてもらって良いかな?』

 

「藤木、遊作と言います」

 

『そうか…ありがとう』

ありきたりな会話をして…晃と遊作の初接触は終わった。

 

 

 

………

 

 

 

「…Ai、ブルーエンジェルに何が起きた?」

 

《彼女はハノイのカードを持っていた…そのカードに汚染されたんだろう》

 

「……彼女は、どうなる」

 

《さぁ…わからねぇ》

 

「……そうか」

Aiに葵が倒れた原因を尋ねる遊作、だが…明確な答えは得られず、彼は静かに顔を伏せた…。

 

 

 

Side OUT

 

 

 

 

「それでは今日のデュエル部の活動は…うん、1年生のマシュさんと白波君!2人にデュエルをしてもらおうかな?デュエルをする事で相手を知る…それが大切な事だと7代目決闘王の九十九遊馬さんも言っていたからね、島君はひとまず見学しててね」

 

「「はい!」」

 

「は〜い…」

放課後のデュエル部、今日はその活動の一環として部員同士のデュエルをする事になった。

なお、遊作と療養中の財前葵は欠席、ブルーエンジェルロスの島は落ち込み気味である。

 

 

「それでは、早速リンクヴレインズに──」

 

「あっ、部長…今のリンクヴレインズは止めた方がいいっす…プレイメーカーとブルーエンジェルのデュエルのせいで記者がいっぱいで…だいぶ()()()なってるみたいです…」

 

「むっ…そうらしいね…では、校庭でのソリッドビジョンデュエルに変更しよう!」

島からの情報を聞いた部長達は校庭へと繰り出した。

 

 

 

 

『遊嗣さん!胸をお借りします!』

 

「うん!今日は楽しくやろう!」

校庭で向かい合うマシュと遊嗣…2人はお互いにリラックスした様子である。

 

 

「マシュ、今回のルールは()()()()()()()()()()()で大丈夫?」

 

『はい!やっぱり、このルールの方が自由度が高いですし!』

 

「そうだね!」

 

 

 

現在、DM世界には大まかに4つのルールが存在し、デュエルの場面によって使い分けられている。

 

1つ目は『プロト・マスタールール』

DM世界におけるスタンディングデュエルに適用されるルール。これは従来からの融合・シンクロ・エクシーズの召喚法に加え、近年に開発されたリンク召喚の扱い方を探る為のルールであり、エクストラモンスターゾーン以外にもエクストラデッキのモンスターを召喚できる。

 

2つ目は『ライディングデュエル・ルール』

DM世界においてライディングデュエルを行う際に適用される。

「スピード・スペル」を使用する『スピード・ワールド3』Ver.と近年開発されたライディングデュエルにおいても通常の魔法カードを使う事ができる『スピード・ワールド・ネオ』Ver.の2つが存在するが、『プロト・マスタールール』とは概ね同じルールとなっている。

 

3つ目は『リンクヴレインズ・エキスパートルール』

これはSOLテクノロジー社が運営するリンクヴレインズにおけるオリジナルルール…エクストラデッキのモンスターは基本的にエクストラモンスターゾーンにしか召喚できない、リンク召喚に特化した形のルール

 

最後に4つ目、『スピード・デュエル』

最近になってリンクヴレインズで復活したという特殊形式のルール。

初期手札は4枚、メインフェイズ2はなし、モンスターゾーン、魔法・罠ゾーンが3枠ずつ、先攻ドローなし、という速さに特化したデュエルルールである。

一番の特徴はプレイヤーが任意で発動できる『スキル』の発動が許されている事だろう。

 

 

 

 

「それじゃあ…いくよ!」

  

『はい!!』

遊嗣とマシュはお互いにデュエルディスクを展開…リアルソリッドビジョンによってカードゾーンが生み出される!

 

 

 

「『デュエル!!』」

 

 

マシュLP4000

遊嗣LP4000

 

マスターデュエル

 

 

『先攻は貰います!私のターン!』

『「聖騎士ガラハド」を召喚!』

白銀の鎧を纏う騎士が現れる! ATK1500

 

 

『そして装備魔法「天命の聖剣」を「ガラハド」に装備します!』

ガラハドが名もなき宝剣と純白の盾を構える!

 

『カードを1枚セット、ターンエンドです!』

マシュLP4000

 

ガラハド(天命) 伏せ1 手札3

 

 

 

 

『(そういえば…遊嗣さんはどんなデッキを使うんでしょうか…?リンクヴレインズで使ったデッキはお父様から渡されたデッキ、という話でしたが…)』

遊嗣のターンを前にマシュはふと考える、遊嗣がリンクヴレインズで使った『星杯』『クローラー』はロマンを経由して遊嗣の父である遊海から渡されたデッキである。

 

しかし、それ以前に遊嗣が使っていた()()()()()()があるはずなのだ。

 

 

『(遊嗣さんはすごい実力を持っています……とにかく、様子を見ます!)』

 

 

 

「僕のターン!ドロー!」

「僕は手札のカードを()()セット!ターンエンド!」

 

『ええっ!?』

遊嗣LP4000

伏せカード5 手札1

 

 

 

『セットカードが5枚…!?(いったい何を狙って…!過去のデュエリストでデッキを罠カード主体で構築したり、バーンデッキで伏せカードが多いというデッキは聞いた事がありますが…!?)』

 

「ははっ、迷ってるね?これはちょっと面白い動きをするデッキなんだ!」

遊嗣の思わぬ一手に戸惑うマシュ…その様子を見た遊嗣はイタズラっ子のように笑っている。

 

『ここは…慎重に攻めます!!』

 

 

 

『私のターン!ドロー!』

『「湖の乙女ヴィヴィアン」を召喚!』

聖剣を腕に抱く水色のドレスを着た女性が現れる! ATK200

 

 

『私はレベル4の「ガラハド」にレベル2の「ヴィヴィアン」をチューニング!!』

乙女がその身を緑色の輪に変えて聖騎士を包み込む!

 

4+2+6

 

『湖の乙女に育てられし騎士よ!その無毀なる力で戦場を切り開け!シンクロ召喚!レベル6!「魔聖騎士皇ランスロット」!!』

黒き鎧を纏う黒髪の男…円卓最強の騎士が現れる! ATK2100

 

 

『そして「ガラハド」がシンクロ素材になった事で墓地に送られた「天命の聖剣」の効果発動!このカードを「ランスロット」に装備!さらに「ランスロット」の効果発動!シンクロ召喚に成功した時、デッキから「聖剣」装備魔法1枚を自身に装備できます!デッキから「聖剣アロンダイト」を装備!』

黒き騎士が純白の盾と不毀の聖剣を構える!

 

『さらに!私は装備魔法「聖剣ガラティーン」を「ランスロット」に装備!攻撃力が1000ポイントアップ!』

ランスロットの腰に太陽の聖剣が携えられる!

 

ランスロットATK2100→3100

 

 

『そして私は「聖剣アロンダイト」の効果発動!「ランスロット」の攻撃力を500ダウンさせて、遊嗣さんの伏せカード1枚を破壊します!』

湖の騎士が遊嗣の伏せカードを両断する!

 

ランスロットATK3100→2600

 

 

「ここだ!破壊されたセットカード『アーティファクト─カドケウス』の効果発動!相手ターンにセットされたこのカードが破壊され、墓地に送られた時!このカードを特殊召喚できる!」

 

『っ!魔法・罠ゾーンに伏せられるモンスターカード!?』

両断されたカードが光の粒子となり、遊嗣の場にオレンジ色のエネルギーが輝く杖が現れる! DEF2400

 

 

『でも、「ランスロット」の攻撃力はその守備力を上回っています!バトル!「ランスロット」で「カドケウス」を攻撃!アロンダイト・スラッシュ!』

 

「その瞬間!速攻魔法『アーティファクト・ムーブメント』を発動!フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊する!その効果で僕は自分の伏せカードを破壊する!そして、自分のデッキから『アーティファクト』モンスター1体を自分の魔法・罠ゾーンにセットできる!僕は『アーティファクト─モラルタ』をセット!」

 

『自分の伏せカードを…もしかして!?』

 

「その通り!相手ターンに破壊された『アーティファクト─ベガルタ』の効果!自身を特殊召喚!」

コアを中心に赤いエネルギーが輝く大剣が現れる! DEF2100

 

「そして『カドケウス』の効果発動!相手ターンに『アーティファクト』モンスターが特殊召喚される度に1枚ドローできる!さらに『ベガルタ』の効果発動!自分の魔法・罠ゾーンのカード2枚まで破壊できる!」

ベガルタのコアからエネルギー体の人型が現れ、遊嗣の伏せカードを両断する! 

 

遊嗣手札1→2

 

 

「破壊された『アーティファクト─モラルタ』と『アーティファクト─アキレウス』の効果発動!自身を特殊召喚!」

コアから青いエネルギーが流れる剣と紫色のエネルギーが流れる盾が現れる! ATK2100 DEF2200

 

「『カドケウス』の効果で2枚ドロー!さらに『モラルタ』の効果発動!このカードが特殊召喚に成功した時、相手のカード1枚を破壊できる!『聖剣』装備魔法は破壊されても、『聖騎士』モンスターに再び装備される…でも、その効果は1ターンに1度だけ!『天命の聖剣』を破壊!」

 

『っ…!知っていたんですね…!』

青の剣を操る人型がランスロットから聖剣を払い落とす!

 

遊嗣手札2→4

 

『でも、この攻撃は防げません!』

 

「いいや!『アキレウス』が特殊召喚に成功したターン、相手は『アーティファクト』モンスターを攻撃対象にできない!僕のフィールドには『アーティファクト』しかいないから、マシュは攻撃できない!」

 

『…すごい…!』

斬りかかろうとするランスロットの前に巨大な盾が立ち塞がる!

 

『私は…これでターンエンドです!』

マシュLP4000

ランスロット(アロンダイト ガラティーン) 伏せ1 手札2

 

 

 

「僕のターン!ドロー!」

「僕はレベル5の『ベガルタ』と『アキレウス』でオーバレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

二振りの剣が光となって銀河に飛び込み、大爆発を起こす!

 

「エクシーズ召喚!現れろ!ランク5!『アーティファクト─デュランダル』!!」

赤と青のコアを持ち、二色のエネルギーが流れる大剣が現れる! ATK2400

 

「僕はカードを4枚セット!ターンエンド!」

 

遊嗣LP4000

デュランダル カドケウス モラルタ 伏せ5 手札1

 

 

 

「おいおい白波!せっかくエクシーズモンスターを喚んでも、『ランスロット』の攻撃力は2600…すぐに破壊されちまうぞ?」

 

「そうなんだけど…まぁ、見てて!」

エクシーズ召喚を行ってターンを終えた遊嗣を見た島が声をかける…モンスター数では遊嗣の有利だが、攻撃力ではマシュのモンスターが上回っている…それを破る方法は…。

 

 

 

『私のターン!ドロー!』

「スタンバイフェイズに『聖剣ガラティーン』の効果が発動…『ランスロット』の攻撃力が200ダウンします…!」

太陽の聖剣から魔力が失われ、ランスロットの攻撃力がダウンしてしまう…。

 

ランスロットATK2600→2400

 

 

「白波の奴、この効果を見越してたのか…!」

 

『でも、まだ戦う手段はあります!手札の「聖剣クラレント」を「ランスロット」に装備!』 

ランスロットが眩き銀の宝剣を手にする!

 

 

『「聖剣クラレント」の効果発動!自分のライフを500払う事で、装備モンスターはダイレクトアタックできます!!バトル!「ランスロット」で遊嗣さんにダイレクトアタック!』

自分のライフを糧にマシュはダイレクトアタックを仕掛ける!

 

マシュLP4000→3500

 

「その時!速攻魔法『報復の隠し歯』発動!このカードは自分または相手の攻撃宣言時、自分のセットされたカード2枚を破壊する事で相手モンスターの攻撃を無効にする!」

 

『そんな!?』

デュランダルが聖剣を受け止める!

 

「そして、この効果には続きがある!発動の為に破壊したカードにモンスターが含まれていた時、そのモンスターの守備力以下の攻撃力を持つ相手モンスターを全て破壊し、このターンのエンドフェイズになる!僕が破壊したのは『アーティファクト─アイギス』と『アーティファクト─フェイルノート』!『アイギス』の守備力は2500…つまり『ランスロット』は破壊される!……あれ?僕がやるの!?とりゃ!!」

 

『きゃあ!?』

隠し歯のカードからロングソードが飛び出し、遊嗣の足元に突き刺さる…それを見て察した遊嗣はロングソードを引き抜き、ランスロットへと斬りかかった!

 

「そして破壊された『アイギス』と『フェイルノート』は特殊召喚される!」

黄色のエネルギーを宿す盾と緑色のエネルギーを宿す弓矢が現れる! DEF2500 ATK2000

 

『っ…私は、ターンエンドです…』

 

マシュLP3500

伏せ1 手札2

 

 

 

「僕のターン!ドロー!」

「バトル!『フェイルノート』でマシュにダイレクトアタック!」

 

『きゃっ…!』

マシュの足元に緑色の矢が突き刺さる!

 

マシュLP3500→1500

 

 

「『デュランダル』で終わり!」

 

『っ…きゃう!?』

デュランダルを振るう人型がマシュに肉薄、手刀でマシュの頭を優しく叩いた………剣はどうした。

 

 

マシュLP0

 

遊嗣WIN!

 

 

 

 

 

 

『ああ…負けちゃいました…』

 

「マシュ、大丈夫?」

 

『はい…やっぱり遊嗣さんは強いですね!』

デュエルが終わり、頭を擦っていたマシュに遊嗣が駆け寄る…マシュは悔しそうではあったが、明るい表情だった。

 

 

「マシュ、『聖騎士』デッキって…『聖騎士王アルトリウス』がエースのデッキじゃなかったっけ?」

 

『あ、はい…実はイギリスだと「聖騎士アルトリウス」や「聖騎士王アルトリウス」などの人気が高くて、なかなか手に入らないカードなんです…他の円卓の騎士はそうでもないんですけど…』

 

『そっか…イギリスはアーサー王伝説の本場だもんね…ごめん、悪い事聞いちゃって…』

 

『気にしないでください!このデッキは父のお下がりなので!もっと使い熟せるようにならないと…!』

イギリスにおいて『アーサー王伝説』は日本で言う『桃太郎』や『金太郎』レベルの知名度を誇る英雄譚…それをモチーフとした『聖騎士』のカード達もその影響を受けているのである。

 

 

 

『それが遊嗣さんの本来のデッキなんですか?』

 

「うん!…まぁ、僕が使ってきたデッキの中でも使いやすいデッキを3つ、常に持ち歩いてるんだ…それでも魂のデッキじゃないんだけど…」

 

『そうなんですか…早く運命の1枚に出会えると良いですね!』

 

「うん…ありがとうマシュ」

マシュに3種類のデッキを持ち歩いている事を明かす遊嗣…そんな彼が納得できるデュエルができるようにマシュは祈るのだった…。

 

 

「あ…!?ああ〜っ!?!?」

 

「わっ!?島君!?」

 

『どうしたんですか!?』

その時、デュエルディスクを見ていた島が突然大声を上げる…いきなりの事にびっくりした遊嗣とマシュは思わず声を掛けた…。

 

 

「り、リンクヴレインズに…ぶ、ブルーエンジェルが帰ってきた!!」

 

「『本当!?/本当ですか!?』」

それは先日のデュエルから姿を消していた青の天使の復活を告げる知らせ……だった?

  

 

 

 

 

 

 

 

 

Side遊作

 

 

「電脳ウイルス、か…」

 

「そんなモノをハノイの騎士が開発しているとしたら…相手には常識外の頭脳を持った奴がいる、という事になるぞ…!」

同じ頃、キッチンカー『cafe Nagi』のハッキングルーム、そこでブルーエンジェル/財前葵に起きた事態を探っていた遊作達は病院のカルテやAiの証言からハノイの騎士が『電脳ウイルス』という常識外のコンピューターウイルスを使用した事を知り、その対応に頭を悩ませていた…。

 

 

「Ai、そのウイルスは消せるのか?」

 

《う〜ん…除去プログラムがあれば消せるかも?まぁ…持っているとしてもハノイの騎士だから、簡単には手に入らないと思うけど…》

 

「そうか…」

草薙の問いかけにAiが答える…未知のウイルスならば、それを消せるのは開発者であろうハノイの騎士のみ…だが、それは簡単な手段ではない。

 

 

 

《それか……『鋼の騎士』を頼るか、だな!アイツならなんでもできそうだぜ?》

 

「──鋼の騎士?誰だ、それ?」

 

《えっ、知らないの?ネットワーク世界のヒーロー…正義の味方って奴だ》

Aiの思わぬ言葉に遊作が問い返す…遊作は『鋼の騎士』について知らなかったのだ。

 

 

「鋼の騎士…噂なら聞いた事がある、リンクヴレインズや他のネットワークで悪事を働くハッカーやならず者をデュエルで制圧するネットヒーロー…噂によれば彼の手で10以上のハッカー集団が壊滅させられた、なんて話もあるな…ただ、彼の痕跡はネットには残ってない…本当に『都市伝説』の存在さ」

 

「……鋼の騎士…」

鋼の騎士、その話を聞いた遊作の脳裏には…幼い頃に見た、大きな輝く背中が過っていた…。

 

 

 

 

 

『プレイメーカー!私の声が聞こえているかしら?この前はよくもやってくれたわね!!』

 

《えっ…ブルーエンジェル!?》

その時、リンクヴレインズの様子を映していたモニターから少女の声が響く。

それは昏睡状態にあるはずのブルーエンジェルの声だった…彼女がリンクヴレインズに姿を見せたのだ。

 

 

 

『この映像を見てるなら出てきなさい!そして、もう一度デュエルよ!!』

 

「これは──()()だ、財前葵は病院で眠ってる」

 

《お〜!?って事は…またハノイの奴か…?》

 

「いや…SOLテクノロジーという事も考えられるな…」

再びプレイメーカーに宣戦布告するブルーエンジェル…だが、本物の彼女は病院で眠っている…つまり、リンクヴレインズにいる彼女は()()だと遊作達は気付いた…そして、その偽者を用意した相手の正体も…。

 

 

「……会いに行ってくる」

 

「ちょっと待て遊作!こいつはあからさまな()だぞ!?」

 

「わかってる…だが、オレはいかなきゃならない…1つ、ブルーエンジェルは眠り続けている…2つ、ハノイの騎士の罠なら…必ず治す方法を知っている、そして3つ…SOLテクノロジーの罠なら、ブルーエンジェルに何が起きたのかを伝える…それが、オレの()()だ…!」

それは遊作なりのケジメ…彼は自身の復讐やハノイの騎士との戦いに無関係の人々を巻き込む事を避けていた…しかし、それが元となってブルーエンジェルはハノイの騎士との因縁に巻き込まれてしまった…ならば、遊作は彼女を救う責任があると考えたのだ。

 

罠を仕掛けたのがハノイの騎士でもSOLテクノロジーでも関係ない…彼はブルーエンジェルを救う手掛かりを見つける為、リンクヴレインズへと飛び込んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

『来たわね、プレイメーカー』

リンクヴレインズ内にあるとあるビルの屋上、遊作はブルーエンジェル(?)が待つその場所に降り立った…。

 

 

《う〜ん?どうもコイツからはハノイの()()がしないな…?という事は…?》

 

「……お前は誰だ?お前がブルーエンジェルではない事はわかっている」

 

『あら、もうバレてるの?喋り方がおばさん臭かったかしら?ちょっとショック…』

偽ブルーエンジェルからハノイの騎士の匂いを感じない事を伝えるAi…それを聞いた遊作は偽ブルーエンジェルに問いかける、返ってきたのは演技がかった溜息だった。

 

 

 

『……まぁ、仕方ないわ…悪いけど、あなたを捕まえるわ!力づくっていうのは私の趣味じゃないんだけど!!』

 

キン──!

 

「っ!?う、動けない…!?」

 

《なんだ…!?こりゃ、やばいんじゃないか!?》

偽ブルーエンジェルが取り出した1輪の薔薇を遊作の足元に放り投げる…その薔薇は足元に吸い込まれ、凄まじい重圧を発生させ遊作達の身動きを封じる。

 

さらにそれだけではない、そのプログラムはリンクヴレインズ全体に広がっていき…偽ブルーエンジェルとプレイメーカー以外のアバター達を次々と強制ログアウトさせたのだ…!

 

 

「これは…っぐ!?うわっ…!?」

 

《おいおい…!リンクヴレインズ全域の罠って大袈裟すぎだろ!?》

関係のない人々が強制排除されたリンクヴレインズ、遊作達の周囲は赤色の水晶の檻に囲まれる…さらに、遊作は足元から飛び出した光の縄によって拘束されてしまった…!

 

 

『ふぅ…このプログラムを組むのに徹夜だったんだから…少しは褒めて欲しいわ……さて、一緒に来てもらうわよ、プレイメーカー』

 

「っ…!?」

難なくプレイメーカーを拘束してみせた偽ブルーエンジェル…彼女が指を弾くと遊作達は強制的に転移させられてしまった…。

 

 

 

………

 

 

 

《何処だ、ここ…あれは…!?》

 

「ブルーエンジェル…!」

遊作とAiは気付くと教会のような建物の中にいた…そして、その部屋の最奥…そこには意識を失ったブルーエンジェルのアバターが寝かされていた…。

 

 

『悪く思わないでね、その罠は誰にも解けないわ…私の雇い主以外はね』

 

「……お前の目的はなんだ?」

 

『ふふっ…お金で雇われる魅惑の美女、ってところかしら?』

光の縄が変化した巨大な悪魔の手に拘束される遊作…彼の前に現れた偽ブルーエンジェルが正体を現す。

そのアバターは前髪が紫色の銀髪に覆面で口元を隠した妖艶な女性…裏世界で『電脳トレジャーハンター』として有名なアカウント名『ゴーストガール』だった。

 

 

「雇い主は、SOLテクノロジーだな?」

 

《やっぱりそっちだよね》

 

『私の雇い主があなたに聞きたい事があるらしいのよ』

 

『……お前が、プレイメーカーだな?』

そして、そこに姿を見せたのはゴーストガールの雇い主…妹を救う為の情報を探していたSOLテクノロジーのセキュリティ部長、財前晃だった。

 

 

「オレ1人の為に、ずいぶんと大掛かりだな…!」

 

『お前を捕まえる為なら、どんな事でもするさ…私は財前晃、お前が傷付けたブルーエンジェルの兄だ…!』

 

《おいおい…お兄ちゃん、ずいぶんとお怒りのようだぞ…?》

姿を見せた晃に少し皮肉を言う遊作…だが、晃は意にも介さず遊作へと名乗る…妹を傷付けられた彼は冷静な判断ができないほどの激情を抱いていた…。

 

 

 

『貴様…あのデュエルで、妹に何をした…!妹はあのデュエルのあと、昏睡状態となりリンクヴレインズから抜け出せずにいる…!』

 

「お前は誤解している…オレは何もしていない、彼女はオレと戦う前からハノイのカードを持っていたんだ…!」

 

『嘘をつけ!妹がハノイと手を組む訳がない!』

 

「本当の事だ!手を組んだのか、騙されたのかは分からないが…彼女はハノイのウイルスに感染した!彼女を元に戻すには、ハノイからその『除去プログラム』を手に入れるしかない!お前の敵はオレじゃない!」

 

『そんな嘘が通用すると思っているのか…!?お前を八つ裂きにして真実を聞き出してやる!!』

 

ギン!

 

「ぐ、ぐううっ!?」

 

正直に真実を伝え、晃と交渉しようとする遊作…だが、妹を傷付けられた怒りで瞳が曇った晃は遊作の言葉を信じず、悪魔の腕で遊作を握り締める。

その痛みはスピードデュエルと同じく、遊作の精神に強い負荷を与えていた…!

 

 

 

《おい!暴力反対!!やりすぎだぞ!》

 

『黙れ!イグニス!お前は、我が社が回収する…!』

 

《なんでもかんでも力ずくか…!相当頭に血が昇ってるな!コイツは本当に何も知らないんだよ!》

 

『私を甘く見るな…!!早く喋らないと、全身が引きちぎれるぞ!!』

 

「ぐううっ!!」

 

《ああもう!悪人ヅラしやがって…!鋼の騎士でも助けに来てくれねぇかなァ!!》

冷静さを失っている晃はAiの言葉も聞き入れず、容赦なく遊作を締め上げる…その盲目さにAiは思わず愚痴を口にした。

 

 

 

 

キィン…バリバリバリ!!

 

 

「『『っ!?』』」

 

《なんだ!?本当に助けが来た!?》

その時、建物の天井を貫いて稲妻が落ちる…突然の事に驚愕する遊作達…そして、稲妻と共に姿を見せたのは──顔をヘルメットで隠した、赤い髪の男だった。

 

 

《あいつは…!?》

 

「リボルバー…!!」

 

『リボルバー…?』

 

『ハノイの騎士か…』

その男を見た遊作達の反応は三者三様…Aiの記憶を通じてその正直を知る遊作は警戒し、その正体を知らないゴーストガールは首を傾げ、財前は相手がハノイの騎士である事に気付くだけだった。

 

 

 

 

【プレイメーカーを離せ、この男の相手ををするのは…私だ】

 

『なにっ…そんな事はできん!!』

 

【そうか…お前は、私の力をみくびっているようだな…!】

ついに姿を見せたリボルバー…彼は財前にプレイメーカーの拘束を解くように命令する…だが、財前がテロリストであるリボルバーに従ういわれはない。

その様子を見たリボルバーは規格外の力を解き放つ…!

 

 

ギィン!!

 

 

『『なっ…!?』』

 

「データストーム!?」

 

【であっ!!】

頭上に手を掲げるリボルバー…彼を中心として突然データストームが発生する、そして彼は風…否、竜巻を操り…リンクヴレインズの建物に向けて力を解き放った…!

 

 

『嘘でしょ…!?』

 

『データストームを、自在に操るだと…!?』

 

【私がリンクヴレインズを破壊する事は容易い…だが、そんな事はどうでもいい…私の目的は1つだけだ】

リボルバーの解き放ったデータストームの竜巻によって周囲の建物が半壊する…その様子を見て戦慄する財前達にリボルバーは自身の目的を告げる。

 

 

【私の目的はたった1つ、プレイメーカーが持つAI…イグニスだ!】

 

『っ…だからと言って、渡せると思うか?』

 

【お前は私に従わざるを得ない…何故なら、我々がブルーエンジェル…お前の妹に電脳ウイルスを仕掛けた…あのウイルスは我々でなければ除去できない】

 

『なんだと!?』

 

「やはりか…!」

遊作の持つイグニス…Aiを狙うリボルバー…彼はプレイメーカーを誘き出す為にブルーエンジェルに電脳ウイルスを仕掛けたのだ…!

 

 

『何故、妹を狙う!』

 

()()()()()()()のだ、プレイメーカーの正義感を煽り、()()になるのなら…だが、()()()()()では効果が薄い…そこで、ブルーエンジェルを利用したのだ】

 

『葵を利用しただと…!!除去プログラムを渡せ!!』

 

【それはお前次第だ】

プレイメーカーを誘き出す為に利用されたブルーエンジェル…彼女を救う為に除去プログラムを渡すように迫る晃だが、リボルバーは条件を提示する。

 

 

【SOLテクノロジーセキュリティ部長、財前晃…お前の目的もイグニスを手にする事だったな?お前がこのままイグニスを回収すれば、SOLテクノロジーとしての役目を果たせるが…お前の妹が暗闇から目覚める事は一生なくなる…だが、もしもプレイメーカーが私に勝てば、除去プログラムをお前に渡そう…!】

 

『馬鹿な…!!正体も分からぬお前達に妹の未来を委ねるなど…!』

 

【道は1つだけだ!さぁ、選べ!お前自身で妹の未来を!!】

 

『くっ…!!』

それは二者択一の選択、会社の命令を優先してイグニスを取るか…家族の命を優先するのか…その答えは───

 

 

 

『晃…』

 

『………妹の命には、代えられない…!!』

 

 

キン──

 

 

《ふぅ…ヒドイ目に遭ったぜ…》

晃は妹の命を救う決断を選ぶ…そして、遊作達は悪魔の腕から開放された…。

 

 

 

【フッ…待っているぞ、プレイメーカー…!】

プレイメーカーが開放されるのを見届けたリボルバーは発生させたデータストームによってリンクヴレインズの空へと浮かび上がって行った…。

 

 

《……行くのか?強敵だぞ》

 

「オレは奴と戦う為に、ここまで来た…!」

Aiの問いかけに遊作は拳を握り締める…遊作の目的は『とある事件』によって失われた自身の記憶を取り戻し、自分達を苦しめた事件の首謀者達に復讐する事…このデュエルは手掛かりを得る為のチャンスなのだ。

 

 

 

 

『っ…プレイメーカー!信じて良いんだな?キミを…』

 

「……」

リボルバーを追いかけようとする遊作、その背中に晃が声をかける…真の敵が明らかになった事で晃は冷静さを取り戻していた。

 

 

 

『私はキミに酷い事をした…なのに、キミは私の……妹の為に、戦ってくれるのか?憎まれて当然の私の為に…』

 

「オレは、お前を憎んでなどいない…オレが憎むのは、ハノイの騎士だけだ」

 

『っ…!プレイメーカー…すまない、頼む…!!』

晃の言葉を背に受けて、遊作はDボードで飛び上がる…ハノイの騎士…その正体に迫る為に…。

 


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