転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
遊海が遊作に真実を話していた頃、デートへと向かった遊嗣とマシュは…?
ちょっと、慣れない描写を書いたので自信が……温かい目で見守ってもらえたら、と思います…。
それでは、最新話をどうぞ!
「おはようマシュ!ごめん、待った!?」
「おはようございます遊嗣さん!私も少し前に来たばっかりです!」
晴天のデンシティ中央広場…集合時間10分前、遊嗣とマシュは無事に合流していた。
「やっぱり人が多いね!…リンクヴレインズが閉鎖してる影響かな?」
「そうですね…デュエルしている人があちこちに…」
リンクヴレインズの様子を映すモニターが『調整中』の文字を映す中、広場には普通に公園で過ごす人達に混じってソリッドビジョンやARビジョンでデュエルをする若者達の姿があった。
……なお、リアルソリッドビジョンに関しては専用の投影機のあるスタジアムやライディングコースでなければ使用できないようになっている。
「リンクヴレインズの復旧…どれぐらい掛かるんでしょうか…?」
「うーん…やっぱり数ヶ月は掛かるんじゃないかな?あれだけ広いリンクヴレインズのほとんどが壊れた訳だし…それより、映画の時間は大丈夫?」
「あっ…はい!11時半からなので!」
「そっか、それじゃのんびり行こう!」
「はい!」
他愛もない話をしながら…2人は映画館に向けて歩き出した。
「そういえば…マシュの見たい映画って?」
「えっと、リバイバル上映の作品なんですけど…「覇王龍の乱」を原作にしたアニメ映画、『覇王龍の乱 哀しき王と勇者達』という作品なんです!」
「ああー!その作品、僕も見たかった奴!父さんが『お前にはまだ早い』って連れて行ってくれなかったんだ…地上波放送もしてないし…」
「そうなんですよね…!名作なのに、スポンサーの海馬コーポレーションの意向で地上波放送とネット配信・記録媒体の販売も禁止…ネタバレサイトも尽く閉鎖されるという徹底ぶり…!しかし、その影響で世界興行収入20億ドル…日本円換算で約3000億円超えというすごい作品です!」
「うんうん…!世界中のデュエリストは1度は見るべきだ!ってニュースになってたよね…!父さんに話さないで良かった〜!」
マシュが見たかった映画…それは偶然にも遊嗣が見てみたいと思っていた映画だった。
『覇王龍の乱 哀しき王と勇者達』…それは17年前に発生した『覇王龍の乱』を原案としたノンフィクション・SFデュエル・ファンタジーアニメ映画である。
「えーっと…トイレ良し、ポップコーンとコーラ良し!席も良い場所!準備OK!」
「もう2年も前の作品なのに席が半分以上埋まってるなんて…あっ、始まりますね!マナーモード、マナーモード…!」
そして…無事に映画館に到着し、良い席を取る事ができた遊嗣とマシュは映画の世界へと飛び込んだ…。
─────────────────────────
【──こんなはずじゃなかった…オレの求めたデュエルは、オレのしたかったデュエルは、もっと───】
映画の冒頭、そんな青年の独白が響く…そして、映し出されたのは大雨の降りしきる…破壊された、生命の灯火の消えた街…そこへ──────
【■■■■■■■■■──!!!】
悲しげなドラゴンの咆哮が雨の中へと消えていった…。
《序》
場面が移り変わり、とある孤児院…そこではとある少年が暮らしていた…彼の名は『ズァーク』…何処にでもいる、ごく普通の心優しい少年である。
『行け!「オッドアイズ・ドラゴン」!スパイラル・フレイム!!』
「うわ〜!…ズァーク兄ちゃんつよーい!」
『ヘヘッ!ありがとう!』
年頃の子供達と同じくプロデュエリストを目指していたズァーク…その強さは孤児院だけではなく、周辺の地区にも知れ渡るほどだった…。
《1章》
そして、月日は流れ…ズァークの強さに目を付けた企業がスポンサーとなり、ズァークはプロデュエリストとしてデビューした。
彼のモットーは「みんなを笑顔にするデュエル」…対戦相手や観客…デュエルに関わる人々をみんな笑顔にしたい…そんな思いでズァークはプロリーグでの試合を重ねていく。
その中でズァークは融合・シンクロ・エクシーズ…3つの召喚法の名を冠するドラゴン達と出会い、ついには世界最強のデュエリストの称号──『決闘王』を選ぶ為の世界統一デュエル大会、ワールド・チャンピオン・シップへの出場権を手にした。
《2章》
そんな矢先、ズァークを悲劇が襲う…実装されたばかりの新たなデュエル投影システム──質量を持つソリッドビジョン、リアルソリッドビジョンが使われたデュエルでズァークは対戦相手に大怪我を負わせてしまったのだ。
思わぬ事に動揺し、罪悪感に頭を抱えてしまうズァーク…しかし、観客達はそんなズァークへと歓声を送ってしまった…。
「カッコいい」「すごい!」「怖かった…」「派手で見応えがある!」「危なくないか?」「そんな事より盛り上がれば良いんだ!」「安全対策をしないと!」
『ああ…みんなは、こんなデュエルが好みなのか……』
賛否両論の歓声をその身に受けながら…ズァークの中の
《3章》
少しずつ雲行きが怪しくなっていくワールド・チャンピオン・シップ…そんな時、1人の青年が心配そうにズァークの様子を見守っていた……彼の名前は『九十九遊馬』、後に『七代目決闘王』となる、この映画のもう1人の主人公。
彼は冒険家の父を持ち、様々な不思議な事件を経験してきた…そんな彼はズァークの様子がおかしくなり始めている事に気付いていた。
《4章》
ワールド・チャンピオン・シップ、決勝戦…その舞台に立ったのは九十九遊馬、そして数々の対戦相手を派手なデュエルで吹き飛ばしながら頂点に手を掛けたズァークだった。
しかし、明らかにズァークはまともな様子ではなかった…白目は充血し、目元には隈ができ…体も痩せたように見える…。
そんな彼の姿を見た遊馬は彼を止める為、封印されしカード達…異世界からもたらされた、という伝説を持つ『ナンバーズ』を解放する。
そして…4体のドラゴン達との激しいデュエルの末に、ズァークを倒し…遊馬は勝利を掴み取った。
『……負けた……オレが……』
「ズァーク!良いデュエルだったな!オレ、めっちゃ楽しかったぜ!すごいワクワクした!」
『遊馬…』
遊馬は倒れ込み、呆然としていたズァークに手を伸ばす…その顔は優しい、嬉しそうな笑顔だった。
遊馬は気付いていた、ズァークは観客達から寄せられる期待に応えようとするあまり…
「今回はオレの勝ちだったけど、次はどうなるかわからねぇ…また、楽しくて盛り上がるデュエルで戦おうぜ!」
『は、はい…!』
遊馬のモットーは「デュエルをすればみんな友達」「デュエルは楽しむモノ」というズァークと似た考えだった、そして最高のデュエルで友人になれたはずの2人は───
スコン!!
『い"っ…!?』
「ズァーク!?」
心ない観客の投げた、たった1つの
《5章》
『……そうだ、オレは…満足してない……もっと強く…!もっと激しく!!』
「ズァーク…!?」
『お前達が望めば望んだだけ、オレ達は強くなれる…!!オレ達は戦い続ける!!お前達が望むように──!
たった1つのゴミと心ない観客の罵声…それによって、ズァークの心は壊れてしまった…彼は優しきデュエリストから、向けられた悪意によって悪魔へと生まれ変わろうとしていた…!
「怒っている…!彼に宿る精霊達が…戦いを見世物にした人々に怒りを向けている!!」
そして、明かされた衝撃の事実…ズァークはデュエルモンスターズのカードに宿る『精霊』と心を通わせる『精霊使い』、そしてデュエルモンスターズの力をデュエル外で実体化できる超能力者『サイコデュエリスト』としての素質を持ち合わせた
【そうか…世界にはまだ、これ程の強者達がいるのか……ならば、オレも!ドラゴン達と一心同体となり…最強の力を手に入れよう!!今こそ…1つに!!】
実体化してスタジアムを襲う4体のドラゴン達…その蛮行を居合わせたデュエリスト達は必死に止めようとしたが…ついに、その時は訪れる。
【時空を司る『アストログラフ・マジシャン』よ…!その深遠なる力で…我らの望みを重ね合わせよ─!!】
ズァークの肉体を『器』として4体のドラゴン達は融合する…そして現れるのは後に『悪魔』と呼ばれる事になる、異形の怪物──
【我こそはズァーク…!四天の龍を統べ、この世界に君臨する究極龍!『覇王龍ズァーク』なり!!】
災厄のデュエルモンスターが世界へと解き放たれた…。
《6章》
ズァーク…『覇王龍ズァーク』が暴れ始めて2週間が過ぎた。
数多のデュエリスト達がモンスターと化したズァークを止める為に奮戦する中、デュエリスト達はズァークを止める為の決定打となる作戦を用意できずにいた…。
「ズァークは自分が満足できるデュエルを求め続けている…ならば、
しかし、彼らは諦めてはいなかった…遊馬の親友である天才科学者、天城博士がタイムマシンを完成させ…それによって各時代最強のデュエリスト達を招集し、ズァークとの決戦に臨む…それが最後の作戦となった。
そして遊馬はタイムマシンに乗り込み、様々な時代の勇者達の助力を得る事ができた。
ライディングデュエルによって世界を救った、伝説のD・ホイーラー
天性の天運と精霊の加護を持ち、学生時代から様々な伝説を残したHERO使い
そして、全てのデュエリストの原点…初代決闘王とその意志を継いだ二代目決闘王
時を超えて集結した5人の『最強』…彼らは自分で止まれなくなってしまったズァークを救う為に、最後の決闘を挑んだ。
《終章》
【馬鹿な…馬鹿な…!!この我が…『覇王龍』が…!こんな人間共に負けるはずが…!?】
「受け取れ!ズァーク!!」
「これが…僕達、決闘者の光の力!」
「お前の闇を打ち払い!」
「絆を繋ぎ!」
「お前を救う、希望の光だ──!!」
【おのれ…おのれ!!伝説のデュエリスト共ぉぉっ!!!】
激戦に次ぐ激戦、1つのミスが命取りとなる伝説の決闘…その戦いは全ての決闘者の光を集めた「奇跡の一撃」によって幕を閉じた…。
「ズァーク…キミは、頑張り過ぎたんだ…キミは優しいデュエリストだった…だから、そんなキミが傷付いていくのを精霊達は許せなかったんだ…」
『決闘王…』
決闘の余波で更地と化した街だった荒野の中心…そこで全ての力を使い果たしたズァークは最期の時を迎えようとしていた…。
そんな彼を労うように、2人の「決闘王」が優しく声をかける。
「ズァーク、今度は1対1でデュエルをしよう!お前が本当に楽しいと思える、笑顔になれるデュエルを…約束だ!」
『───ありがとう…伝説のデュエリスト達……オレを、オレ達を止めてくれて……ありが、とう───』
「ズァーク…また、会おうな…!」
こうして、デュエルモンスターズ史上最悪の事件は終息した。
しかし、私達はこの事件を「教訓」として後世に伝えていかなければならない…二度と、こんな哀しい思いをするデュエリストを生み出さない為に。
そうでなければ…『脅威』は再び現れる事になるだろう。
愚かな人間達を滅ぼす為に──
The END
──────────────────────────
「はぁ…!すごい映画でしたね、遊嗣さん!一部のシーンには実際の「覇王龍の乱」の映像が使われていたり、武藤遊戯さんや遊城十代さん、不動遊星さん、九十九遊馬さん…伝説のデュエリスト達をモチーフにしたドリームチームによるデュエル!そこに遊海さんをモデルにした方もいて───遊嗣さん?大丈夫ですか…!?」
「ぇ…?何が?」
「涙が…」
「え…?あれ?なんで、僕…こんなに泣いてるの??」
3時間に渡る大長編映画が終わり、劇場が明るくなってエンドロールが流れる中、映画の感動を遊嗣と共有しようとしたマシュだったが…遊嗣の様子に慌てた様子を見せる…。
遊嗣は気付いていなかったのだ…自分がぽろぽろと涙を流し続けていた事に…。
「おかしいな…映画で泣いたのなんて、子供の頃のアニメ映画で敵が怖くて泣いたくらいなのに…あれ?あれれ…?」
「遊嗣さん……大丈夫、大丈夫……」
拭っても拭っても溢れてくる涙に戸惑う遊嗣…そんな彼の背中をマシュは優しく擦っていた…。
…………
「……ありがとう、マシュ…ようやく落ち着いたよ…ああ、びっくりしたぁ…」
「ふふっ…良かったです!」
しばらく経って…場所を近くの公園のベンチに移した遊嗣達はようやく、落ち着きを取り戻していた。
「たぶんだけど、無意識にズァークに感情移入してたのかなぁ…幼い頃から愛情を知らないで過ごしてきたズァーク…そんな彼がみんなを楽しませようとしたのに、どんどんと悪い方向に進んじゃう……映画後半のオリジナルパート、伝説のデュエリストのドリームチームとのデュエルが始まった時のズァーク、嬉しそうだったな…」
「そうですね…この映画の最大の功績は『覇王龍の乱』を引き起こした事で『悪魔のデュエリスト』と言われてしまっていたズァークさんを過剰な盛り上がりをデュエルに求めてしまった観客や環境の
「へえ〜…」
改めて映画の感想を語り合う遊嗣とマシュ…映画『覇王龍の乱』はただの映画に留まらず、デュエルモンスターズ隆盛の世界に大きな衝撃を与えた…そして、この世界はデュエリスト達が少しずつデュエルに集中できる世界に変わろうとしていた…。
「そういえば…映画の中のズァークさんは『歴代の伝説のデュエリスト達に倒された』…という終わり方でしたけど…実際はどうだったんでしょうか…?」
「うーん…あの終わり方もすごく良い解釈だったと思うけど、
「はい!」
そして、映画の余韻を楽しみながら…遊嗣達は街の中を歩き出した…。
「ハンバーガー美味しかったですね!」
「うん、遊作君…CafeNagiさんにはちょっと申し訳ないけど…SARUバーガーも好きなんだよね」
昼食を済ませた2人はぶらぶらと街を散策する…リンクヴレインズの閉鎖と休日が重なった影響か、普段よりも人通りが多いようだった。
「………あっ!あの出店は…蚤の市がやっているみたいです!」
「ノミノイチ?なにそれ?」
「フリーマーケットのアンティーク、古いモノ版です!昔の美術品や古本だったり、手作りのアクセサリーが売っていたりするんです!ちょっと見て行っても良いですか?」
「うん、大丈夫だよ」
そんな時、マシュが小さな広場にたくさんのブルーシートが広げられた出店…蚤の市が開催されているのを見つける。
マシュは興味があるらしく、無意識に遊嗣の手を引いて店へと近づいていった…。
「わぁ…!イギリスの蚤の市とは全然品揃えが違います…!あっ、この本は…!伝説のデュエリスト・不動遊星さんの自伝!それに万丈目準さんの『デュエルモンスターズの精霊との関わり方』!ああ、他にも貴重な本がたくさん…!」
「おや、興味があるのかい?少しなら立ち読みしていいよ?」
「あ、ありがとうございます!」
「そっか、マシュは本が好きだって言ってたっけ…」
とある店に並べられていた本を見て目を輝かせるマシュ…そんな彼女の様子を遊嗣は微笑ましく見守っていた。
「ん…?手作りアクセサリーのお店か…」
『おや、いらっしゃい!お兄さんの手作りアクセサリーのお店だよ〜!ゆっくり見ていってね〜』
マシュが本を見ている間に周囲を散策する遊嗣…そんな彼は木陰にあった、とある店に足が向いていた…。
「十字架…馬上槍…ライフル銃…弓?竪琴?…ユリの花…サーフボード?……色々あるんですね」
『うんうん!私は手先が器用でね、色々なモチーフに挑戦しているのさ』
店主らしい白いローブの青年が嬉しそうに頷く…そんな中、遊嗣は1つのアクセサリーに目が惹きつけられた…。
「これは…盾?」
『そう、黒い盾にアーサー王伝説の「円卓」と十字架の意匠を合わせた僕のオリジナル「ラウンド・シールド」という作品さ!十字架に守られた、騎士達の集う円卓…どうだい?良い作品だろう?』
「円卓の盾…」
それは鉄製の小さなネックレス…十字架の意匠の真ん中に黒く丸い盾があしらわれたデザインだった…。
「……これ、いくらですか?」
『そうだねぇ…500円でどうだい?』
「買います!」
『お買い上げありがとう〜!』
遊嗣は即断でそのネックレスを購入する…そのネックレスを見た時、不思議とマシュに似合うと思ったのだ。
『そうだ!今日のお客様第一号記念に…きみにこの作品をプレゼントしよう!』
「これは…剣?」
『そう、剣のネックレスさ!盾と剣はセットだからね!』
遊嗣の顔をまじまじと見た青年はローブの袂から1つの小さなネックレスを取り出す…それは青と金に彩られた鞘に収められた、青い持ち手と金色の鍔を持つ剣だった。
『この作品の名前は「エクスカリバー」…アーサー王伝説に語られる聖剣をモチーフにしたんだ』
「すごい、綺麗…かっこいい…!!あれ?でもエクスカリバーに鞘なんてありましたっけ?」
『ふっふっふ…勉強不足だね少年!エクスカリバーの鞘は持ち主の傷を癒す力を持ち、人を傷付ける刃を封じ、対話を以て争いを収める
「な、なるほど…!」
青年の熱い解説に遊嗣は圧倒される…どうやら自信作らしい。
『ふふっ…その剣を持つ騎士たるきみが…大切なモノを盾で守る事ができるように祈っているよ』
「ありがとうございます!」
「遊嗣さーん?何処ですか〜?お待たせしました〜!」
「マシュ!」
優しい笑みで遊嗣へと語りかける青年…その時、マシュの探す声が聞こえた遊嗣は振り返り───
『さぁ、予言をするとしよう…きみが歩む道は光の差す道となる…そして、
「っつ…!?」
語るように詠うように言葉を紡ぐ青年の声、それを聞いた遊嗣は思わず振り返る…しかし、そこには
つい数瞬前まで存在していたはずのアクセサリー屋は跡形もなく…ただ、1枚のピンク色の花の花弁が落ちているだけだった…。
「いない…!?お店は…?」
「遊嗣さん?大丈夫ですか?」
「う、うん…」
紙袋を抱えながら遊嗣のもとへ駆け寄るマシュ…彼女は不可解な表情を浮かべた遊嗣に問いかける…。
「……狸に化かされたかなぁ?」
「たぬき??」*1
ポケットの中のアクセサリーの感触を確かめながら、遊嗣は首を傾げた…。
…………
「今日は付き合ってもらって、ありがとうございます!」
「ううん!僕も楽しかった!」
夕暮れの中央広場…2人の楽しい休日はもう少しで終わろうとしていた…。
「あっ…!遊嗣さん!見てください!夕日と満月が同時に…!」
「本当だ…珍しい…!」
マシュの声に遊嗣は空を見る…デンシティの海の方向に沈んでいく夕日、そこから少し離れた西の方角から満月が昇り始めていたのだ。
「(満月……もしかしたら…?)マシュ、良かったら…もう少しだけ付き合ってくれないかな?」
「えっ?」
夕日と満月…それを見た遊嗣はマシュと共にとある場所へと向かった…。
「わ…わぁ…!!すごい!これが、スターダスト・ロード!」
「やっぱり…!満月の日と新月の日は夜行虫が活発になりやすいって書いてあったんだ!」
デンシティの海浜公園…夜の帳が落ち、さざ波の音が静かに聞こえるその場所でマシュは感動の声を漏らしていた。
その理由、それはデンシティの名物──夜行虫による光の饗宴、スターダスト・ロードが発生していたからだった…。
「本当に綺麗です…まるで、ミルキーウェイ…天の川が海に流れ込んでいるみたい…」
夜空に輝く満月の光…そして、それに劣らずにさざ波に輝く夜行虫の光…それはまるで御伽噺の世界に入り込んだような幻想的な風景だった…。
Side遊嗣
「本当に綺麗です…まるで、ミルキーウェイ…天の川が海に流れ込んでいるみたい…」
「(な、なんだろう…すごく、ドキドキする……)」
マシュが「スターダストロード」を見たいと言っていた事を思い出した遊嗣はダメ元で海浜公園を訪れた…結果は大成功、これ以上ないほど幻想的なスターダストロードを見る事ができた。
…そんな中、遊嗣は自分の胸が高鳴るのを感じていた…それは彼にとって初めての感覚、その目線の先にあったのは──
「(マシュ…すごく綺麗だ…)」
遊嗣の見ていたもの…それはスターダストロードを見て喜ぶマシュの横顔だった。
吹き抜ける潮風にたなびく桃色の髪、満月に照らされて輝く瞳…透き通るような白い肌、そして彼女の見せる笑顔…その全てがどうしようもなく、愛おしく感じていたのだ…。
「(………これが、好き……
自分の知識の無さを思わず後悔してしまう遊嗣…。
なお、遊海と翠は恋を通り越してすぐに愛し合い、結婚の約束をしたタイプの出会いの為、まったく参考にはならないだろう。
「遊嗣さん?」
「(今の僕の想いをマシュに伝えたら、がっかりされるかな…マシュは僕にとって
「遊嗣さーん…?」
「(でも、まだ出会って3ヶ月も経ってなくて…危険な目に巻き込んで……今の関係が壊れてしまいそうで、怖くて…!)」
「遊嗣さん!!」
「ふぁい!?どうしたのマシュ!?」
「もう…ずっとぼんやりしていたので…こんなに綺麗な景色の前で考え事は良くないですよ?」
「あ、あはは…そうだね!ごめん!!」
雰囲気のせいか…はたまた
「(あー…もう、ダメ元だ!このままじゃ色々ダメな気がする!!)……マシュ、ちょっと…変な事を言ってもいいかな…」
「?…どうしたんですか?」
ぐるぐると考えていた遊嗣は決心を固め、マシュへと声をかける…。
「すぅ…マシュ・キリエライトさん!僕と、お付き合いしてください!!!」
「あっ─────」
その瞬間、周囲から音が消えた…ただ、マシュと自分の息遣いだけが聞こえる…そんな風に感じた。
「上手く、言えないんだけど!マシュと一緒にいると、心が暖かくて!安心できて!!ずっと一緒にいたいと思ったんだ…!それが、今の僕の…白波遊嗣の告白です!!」
「───────」
それは不器用な遊嗣にとって、精一杯の告白の言葉だった…ありきたりかもしれない…しかし、それが遊嗣の正直な気持ちだった。
「(言った…言ってしまった…!!何をやってるんだ僕は!最低だ!!マシュの気持ちも考えないで……!!)」
そして…自分の思いの丈を吐き出した遊嗣はすぐに後悔した…遊嗣にとって、初めての告白…それを聞いたマシュは俯いていて───
「ああ…私が、先に言いたかったのに……」
「えっ…?」
Sideマシュ
「綺麗…」
デンシティの名所、スターダストロード…cafeNagiの店長さんや遊嗣さんに教えてもらってから、ずっと見たいと思っていた景色…それを今日、私の一番……異性として大好きな想い人と一緒に見る事ができている…遊嗣さんは本当に運に恵まれた人なんだと思ってしまう。
「…………」
今、私の隣の遊嗣さんは静かに海を見つめている…潮風に揺れる癖っ毛の黒髪、満月の光を受けて輝く蒼い瞳…心優しい彼の全てが愛おしくて、それでも触れられない
「(白波遊嗣さん…私の憧れた『伝説の決闘者』白波遊海さんの実の息子…あの人と同じく、誰かを助ける為に自分の身を顧みないで手を伸ばしてしまう人……)」
月明かりに照らされた遊嗣の横顔を見ながら、マシュは彼の父親である遊海の逸話を思い出した。
数十年前、ネオ童実野シティで発生した未曾有の大災害『ゼロ・リバース』…それは白波遊海が『二代目決闘王』を受け継いだ直後に起きたとされている。
その時、歴戦のデュエリストとしての直感でいち早く異常事態を察した遊海は自分の身を挺して自分の仲間達を…無辜の人々を守りきった……しかし、その影響で彼は命を削り…10年以上、まともに動けない日々を送った…と言われている。
そして、その素養は遊海の息子である遊嗣にも
「(お父さんから聞いたんです、私がアナザーの電脳ウイルスで倒れたと聞いて家に飛び込んだら…窓ガラスは粉々で、床は
それは父であるランスローから聞かされた事…遊嗣は意識を失ったマシュを救う為に、全力を尽くしたのだと…。
「(遊嗣さんは…初めて出会ったあの日から、ずっと私の事を守って助けてくれた…だからこそ
そしてマシュは先日の『ハノイの塔事件』の事を思い出す…ひょんなことから友人になったというPlaymakerを助ける為に…そして、マシュに電脳ウイルスを仕込んだハノイの騎士・スペクターへと怒りをぶつける為にリンクヴレインズへと踏み込んだ遊嗣…。
彼はその果てにスペクターの策略に引っ掛かり、
『(私は遊嗣さんの隣にいたい…彼に私の気持ちを伝えたい…!ああ、でもダメ…!この場所があまりにも幻想的だから、こんな事をずっと考えてしまいます…!)』
自分の胸に燻ぶる恋心…それを伝えたい自分と怖いと思う自分がぶつかり合う…そんな想いを抱きながら、マシュは遊嗣へと声をかける。
「遊嗣さん?」
「………」
一度目、呼びかけたが遊嗣は気付いていない。
「遊嗣さーん…?」
「………!」
二度目、まだ気付いてくれない…しかも、眉間にすごく皺が寄っている…。
「遊嗣さん!!」
「ふぁい!?どうしたのマシュ!?」
「もう…ずっとぼんやりしていたので、こんなに綺麗な景色の前で考え事は良くないですよ?」
「あ、あはは…そうだね!ごめん!!」
三度目、少し大きな声で呼びかけて、ようやく気付いてくれた…よほど考え込んでいたのか、可愛らしい悲鳴が聞けた…そんな少しドジな所も───
「マシュ、ちょっと…変な事を言ってもいいかな…?」
「?…どうしたんですか?」
そんな事を考えていた時、遊嗣さんが小さく声をかけてくる…でも、その蒼い瞳にはまるで、デュエルで切り札を出す時のような強い光が宿っていて…。
「マシュ・キリエライトさん!僕と、お付き合いしてください!!!」
「あっ─────」
顔を真っ赤にしながら、遊嗣さんが、思いもがけない事を、大声で、伝えてくる。
心臓が、口から、飛び出して、しまいそう。
頭の中が、真っ白に、なる。
遊嗣さんは、なんて、言ったの?
「上手く、言えないんだけど!マシュと一緒にいると、心が暖かくて!安心できて!!ずっと一緒にいたいと思ったんだ…!それが、今の僕の…白波遊嗣の告白です!!」
「───────」
聞き間違い、じゃない…これは
遊嗣さんなりの、精一杯の誠意…日本人の、サムライのような、正々堂々とした、真っ直ぐな
ああ、私は…どんな表情をしてるんだろう?顔から火が噴いてるんじゃないかと思うほど熱い……嬉しい、嬉しい…嬉しい…!
でも、悔しいなぁ───
「ああ…私が、先に言いたかったのに……」
「えっ…?」
小さな嬉し涙と一緒に、私の後悔が零れ落ちた…。
Side Out
「ああ…私が、先に言いたかったのに…」
「えっ…?」
白波遊嗣、一世一代の告白…それを聞いたマシュが顔を上げる…その顔は林檎のように真っ赤で、一筋の涙を流していた…。
「マシュ…?」
「嬉しいです、遊嗣さん…!でも、悔しいんです……遊嗣さんを先に好きになったのは、一目惚れしたのは、私の方なのに…!
「っ〜〜〜!!!」
それはマシュなりの遊嗣への答えだった…それを聞いた遊嗣は耳の先まで真っ赤になる…。
「私も、ずっと遊嗣さんが好きでした!リンクヴレインズで助けてくれた、あの瞬間から…高校で再会できたあの時から!マシュ・キリエライトは!!白波遊嗣さんの事が大好きです──!!!」
「───」
ゴン!!!
「遊嗣さん!?!?」
そして、マシュも自分の気持ちを真っ直ぐと遊嗣に伝える…その瞬間、何を考えたのか…遊嗣は近くにあった鋼鉄製の手すりに自身の額を叩きつけた!
「ゆ、遊嗣さん大丈夫ですか!?なんで頭を…!?」
「っ〜〜……
「っ〜……はい!夢じゃありません!私は遊嗣さんの恋人になりました!いえ…ならせてください!!」
「マシュ…ありがとう、ありがとう……!!」
「遊嗣さん…えへへ…!」
額を赤く腫れさせ、涙目になりながら…月明かりに照らされた遊嗣とマシュは静かに抱擁を交わす…お互いに幸せそうな優しい笑顔で笑いながら…。
「マシュ…これを、受け取ってくれる…?」
「これは…盾、ですか?」
「うん…さっきの蚤の市でハンドメイドの職人さんから買ったんだ…マシュに似合うと思って…」
抱き合う事数分…落ち着きを取り戻した遊嗣は先ほどの蚤の市で購入した「ラウンド・シールド」のネックレスをマシュへと見せる…。
「さっき、来る時に調べたんだけど…盾のアクセサリーには「その人を守る」とか、「魔除け」「安全な場所」って意味があるんだって…まだ、
「わぁ…!ありがとうございます!……良かったら、着けてくれませんか?あまりネックレスは着け慣れてないので…」
「う、うん…!」
遊嗣からネックレスを受け取ったマシュは嬉しそうに笑い、遊嗣に着けて欲しいとお願いする…そして遊嗣はその思いに応えた…。
「……できた!うん、やっぱり似合ってる!」
「ありがとうございます!遊嗣さん!」
遊嗣にネックレスを着けてもらい、嬉しそうに笑うマシュ…その様子を見た遊嗣は職人から買った「エクスカリバー」のネックレスを取り出す…。
「そして…これは職人さんがサービスしてくれた剣…「エクスカリバー」のネックレス…職人さんは剣と盾はセットだって言ってた…それに、戦いの中でも盾があれば剣は休む事ができる…僕はマシュの為の
「私は
「……ちょっとカッコつけすぎた─!!恥ずかしいぃぃ!!今のは忘れてぇぇ!!」
「ふふっ…あははは!!」
潮騒の中に遊嗣の悲鳴とマシュの笑い声が消えていく…。
新たな道へと踏み出した彼らを…宙と海を繋ぐ星屑の道が見守っていた…。
《ちょっ、ちょっと遊嗣!?おでこどうしたの!?マシュと喧嘩でもしたのかい!?ま、マスター!翠!大変だぁ─!?》
「いや、その…テンションが上がり過ぎたというか、なんというか………」
「慎重なお前がそんなにはしゃぐなんて……何があったんだ??」
「(マシュちゃん、もしかして…?ふふっ、遊海さんにもそれとなく教えないと!)」
《フォウ…?(あれ?遊嗣からマシュの匂いがする…?)》
その後、額にテニスボール大のタンコブを作って帰ってきた遊嗣を見て大慌てするロマンや困惑する遊海…そして、1人だけ遊嗣とマシュに何が起きたのかを察して優しく微笑む翠がいたのだった。
気まぐれアンケート ここまでの物語で一番良かったのは?
-
DM編
-
GX編
-
5D’s編
-
ZEXAL編
-
ARC-V編
-
VRAINS編
-
断章・幕間