転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
「──────」
『……遊海……』
アテムの冥界──王宮…その隅で1人の男が力なく項垂れていた。
……それはダークネスの呪いによって命を落としてしまった遊海だった。
だが…今の彼の姿を見ても…翠以外は今の遊海を『白波遊海』だと認識できないだろう……瞳は昏く淀み、憔悴しきった今の遊海は…精神的に
「……………」
『オウ…久しぶりに会いに来てみれば…そこまで落ち込んだユーを見るのは初めての事デース…』
「───ペガサス、会長…?」
『イエス!Mr.白波、お久しぶりデース!』
そんな時、ぼんやりと遠くを見ていた遊海に話しかける者がいた……それは、デュエルモンスターズの生みの親…ペガサス・J・クロフォードだった。
『ARC次元、という世界のアクシデントの時はヘルプする事ができなくてソーリー…私の所にも
「……そういえば、ペガサス会長の恋人は──」
いつもの調子で遊海に語りかけ、以前の事件の時に助力できなかった事を謝罪するペガサス…彼の婚約者・シンディアはペガサスが若い頃に病で命を落とし…彼女との再会を願った彼がエジプトの伝承と出会った所から全ての物語が始まったのだ。
『Mr.白波…私がユーと出会う前…童実野町でバトルシティが行われる前、私は「
「……海馬コーポレーションを買収して、ソリッドビジョンシステムを手に入れる為…」
『オウ!流石はミスター…では、私は──どうしてソリッドビジョンシステムが欲しかったか、わかりますか?』
「──シンディアさんと、再会する為…」
『イエス、その通り…今にしてリメンバーすれば…「
『
その目的はKCのリアルソリッドビジョンシステムを手に入れる事で、婚約者の姿を再現した『シンディア』というカードを実体化する為…というペガサスの個人的な理由だった…。
『オット、話が逸れてしまいまシタ!私が伝えたいのは──ミスター…白波遊海、ユーはもっとフリーに…
「えっ…?」
そして…ペガサスの思わぬ言葉に遊海は目を丸くする…。
『ユーは私が死ぬ前に、自分の抱えていたシークレットを話してくれまシタ…「運命の流れを物語として知っている」「悲劇を最善に変える為に戦ってきた」と…
「………
『ライアー…
「っ…」
自分の人生が幸せだったと答える遊海…だが、ペガサスはその中に嘘がある事に気付く…遊海が本当に幸せだったのなら──全てをやりきったのなら、その表情はもっと明るいだろうと…。
『Mr.白波…ユーはもっと自由に、自分や家族の幸せの為に生きてよかったのデース!デュエルモンスターズの生みの親として…デュエルモンスターズを正義の為に使い続けたユーを尊敬していマース…その上で、ユーは
「ペガサス会長……でも、もう
『ノンノン!ユーの歩んできた旅路が
「そんな、
遊海へと「もっと自由に生きていい」と助言を贈るペガサス…それを聞いた遊海は既に過ぎた事だと諦観している…その時だった。
キン───
「っ──!?この、波動は…!?」
『オウ、言ってみるものデース!』
冥界が
『遊戯ボーイから聞いた事がありマース…秘密結社
「ま、まさか…!?アテム!!?」
『フッ…遊海、お前が諦めたとしても──相棒達は…そして、お前の子供達は諦めていなかったみたいだな』
ペガサスの言葉を聞いた遊海が動揺しながら冥界の王たるアテムへと問い掛ける。
──そして、アテムは
「まさか、歴史改変を…!?だ、ダメだ…!そんな事をしたら、どんな異変が…
仲間達が自分を蘇らせる為に禁じ手である【歴史改変】に手を出した事に気付き取り乱す遊海…その時、遊海の頭の中に
融合次元における戦いの中で、ドクトルと直接戦う事なく…ラプラスがドクトルを無力化していた…という記憶。
ドン・サウザンドの力である『CiNo.1000』を解放して赤馬零王に取り憑いていた虚無の邪神・ダークネスを倒したが…その悪足掻きで仲間達諸共に『闇』によって押し潰されそうになった…という記憶。
そして…いつの間にやら『闇』から解放され…改めて『覇王龍ズァーク』と対峙した…という記憶だった。
「なん、だ、これ…こんな、戦い…俺は…知らない…!!誰が…何を…!?」
『───遊嗣だ、お前の息子が…お前が受けてしまったダークネスの「呪い」をなかった事にする為、過去のARC次元へと向かい──見事に役目を果たしたんだ』
「ゆ、遊嗣が…!?」
溢れ出す存在しない記憶によって混乱する遊海…そして、アテムは遊嗣による奮闘を遊海へと伝える…。
キィン─
「からだ、が…」
『………遊海、歴史改変が起き、ダークネスの「呪い」が消えた今…お前の死は
その時、遊海の体──魂が穏やかな緑色の光に包まれる。
『白波遊海が死んだ』という事実がなかった事になり、その魂が
『遊海、お前はきっと…死んでからの事は忘れているだろう……だが、言わせてくれ──もし、次にこの世界を訪れる時があるのなら……その時は全てをやり遂げた後、
「アテム──」
『さらばだ、遊海……せっかく、命を
『シーユーアゲイン!Mrs.翠やジュニアにヨロシク伝えてくだサーイ!』
「アテム、ペガサス会長……ありがとう──」
キィン──
そして、アテムとペガサスと別れを告げた遊海の魂は…静かに冥界から消失した…。
──────────────────────────
「っ…はぁ…はぁ…!!」
「マシュ!大丈夫か…!?」
「お父さん…大丈夫、です……みんなの、私達の祈り……きっと、遊嗣さんに届きました…!!」
遊嗣の無事を祈っていたマシュが床へと座り込む……彼女は感じ取っていた…遥かな過去にいる遊嗣へと自分達の祈りが届いたのだと…。
キィン──ブゥゥン!!!
《わわっ!?なんだぁ!?》
「遊海さんの腕が、赤く光って…!!」
『歴史改変が始まったんだ…!みんな!遊海の腕の近くに!!』
その時、遊海の腕──赤き竜の痣『ドラゴン・フレイム』が光を放ち…会議室の半分ほどを覆う光の結界が広がっていく…!
『アポリア!そちらは大丈夫か!!』
『心配ない、既に我らの技術で保護している!通信を切るぞ!』
さらに、パラドックスが通信でARC次元にいるアポリアへと呼び掛ける…この場にいなかった者達への『歴史改変』による影響を最小限にする為、アポリアは赤馬零児と共にARC次元へと向かい、集めた仲間達を保護していたのだ。
キィン──!!
「──これが、歴史改変…!!」
シグナーの痣による結界に守られた中でマシュが声を上げる…世界を書き換える光の波動が続く事しばらく…少しずつ光の結界が弱まっていき───
シュン
「遊海の腕が…消えた…」
『歴史改変が、終わったんだ…!』
斬り落とされた遊海の腕が透き通りながら消滅する…それによってブルーノは歴史改変が完了したと確信する…。
《Ai、念の為にイグニス達の無事を確認してください、私もDen Cityの情報をチェックします》
《わ、わかったぜ姐さん!不霊夢!大丈夫だよな!?》
《ああ、問題ない》
そして、彩華とAiは懸念事項──今回の『ミラー・リンクヴレインズ事件』への影響を確認する…そして───
《大丈夫!アクアやアース、ウインディ…凍結してるライトニングも無事だ!》
《ネットテレビの記者…カエルとハトの記録映像をハッキングしましたが──今回の事件そのものへの影響は『0』のようです…よかった…》
Aiと彩華がため息を吐く……想定通り、今回の事件そのものへの影響は限りなく押さえられたらしい。
キィン──!!
「あっ…!!」
【──フッ、今回の
その時、会議室の中心辺りの空間が光を放つ……歴史改変を成し遂げたヒーローが帰ってきたのだ…!!
「────ただ、い…ま──」
「っ…遊嗣!!!」
「遊嗣さん!?」
光が収束…歴史改変を終えた遊嗣が現代へと帰ってくる……だが、その体は
鈍い音と共に床へと倒れ込んだ遊嗣へと翠やマシュ達が慌てて走り寄る…。
「遊嗣!!ロマン、なにが、なにがあったの!?」
《ドクトルの無力化に成功した後、不測の事態が起きて…遊嗣と暴走状態に陥ったダークネスがデュエルになったんだ…なんとか、ダークネスは討ち取ったけど…ダメージが大きすぎて…母様、データを…!》
《ロマン…遊嗣…!よく頑張りました…!》
翠の問い掛けに簡潔に状況を説明するロマン…そして、過去での行動データを受け取った彩華は2人を労う…。
「遊嗣さん!しっかりして!!目を開けて…!!」
「──うっ……ただいま…マシュ……マシュや、みんなの声…ちゃんと、届いて…ぐうっ…!?」
「いや…!遊嗣さん!しっかりして!!」
「遊嗣君!!誰か、早くドクターを!!」
「この傷は…!?遊嗣、お前は過去でどれほどの…!?」
マシュの声に目を開く遊嗣…だが、背中には瓦礫の破片らしきものが突き刺さり…その顔色は白く、十代に託されたデュエルアカデミアの制服も血に染まってしまっている…。
【慌てるな…神たる我がいるのだ、
キィン─!!
命の灯火が消えかけた遊嗣へとドン・サウザンドが手を翳す…そして、穏やかな光が遊嗣の傷を瞬く間に癒し、回復させていく…。
生命の根源──『
「…せんせん…ありがとう…」
【フッ…礼を言われるほどの事はしておらん……だが、
激痛と悪寒から解放されドン・サウザンドへと感謝を伝える遊嗣…その様子を見たドン・サウザンドは赤子だった頃の遊嗣の事を思い出しながら、人間の持つ可能性を示した彼へと賛辞を贈ったのだった…。
「遊嗣さん…よかった…!よかったぁ〜…!!」
「マシュ、びっくりさせてごめん…もう、大丈夫だから…」
「ぐすっ…え〜ん!!」
「わっ!?マシュごめん!本当にごめん!!泣かないで〜!」
なんとか体を起こした遊嗣をマシュが大泣きしながら抱き締め、遊嗣はあたふたと彼女を宥める…その様子を翠や仲間達は温かい目で見守っていた…。
『まったく…遊海の怪我体質まで受け継がなくてもいいだろうに…───ん?』
呆れた様子で遊嗣達の再会を見守っていたラプラス…その時、外套のポケットに
『これは…遊嗣に贈ったペンデュラム…?なんでオレの手元に───っ…!』
ラプラスのポケットに入っていたモノ、それは遊嗣へ贈ったはずの『ゼアルライトのペンデュラム』だった…それを見たラプラスは首を傾げるが、その瞬間に1つのイメージが脳内へと流れ込む。
それは──ダークネスによって追い詰められた遊嗣がペンデュラムの『
『───ハッ……ざまぁみやがれ、ダークネス…80年……いや、前世越しの
そして、その記録を見たラプラスは自分と仇敵の因縁を清算できた事を知り…胸が軽くなったのだった。
「っ…そうだ!父さんは!?父さんはどうなったの!?」
《あっ…そうだ!光の波動が世界を覆って──って、
そして、しばらくマシュを宥めていた遊嗣はハッとした様子で声を上げる…それを見たAiが遊海の亡骸が安置されていた場所を見ると…そこには
『落ち着け、歴史改変によって遊海が呪いを受けて死んだ、という事実は消え去った…なら、元の病室に戻ってるだろうさ』
「っ…遊海さん!!」
Aiの疑問にラプラスが答える…遊海が死んだ、という結果がなくなった事で遊海はいるべき場所に戻ったのだと…それを聞いた翠は一番に会議室から飛び出していった…。
《フォウ!フォーウ!!(みんな!病室に行こうよ!!)》
(シャーク、我々はここで待っていよう──遊海を迎えにいってくれ)
「オレ達は後回しで良いからさ!」
「マシュ、遊嗣君と一緒に行ってあげなさい…彼もまだ動くのはキツいだろう」
「お父さん…はい!」
「遊馬、アストラル…ランスロー…ありがとな…璃緒、遊嗣…行こうぜ、母さんも心配だしな」
「「うん!」」
そして…遊馬達は凌牙達を会議室から送り出す、大切な家族の再会を邪魔しないように────
………
「っ………」
《……遊嗣、大丈夫だ…お前達はしっかりと歴史改変を成功させた……そんなに心配そうな顔をするでない》
「メガロックじいちゃん…」
ゆっくりと歩きながら遊海がいるはずの病室に向かう遊嗣達…その時、硬い顔をしていた遊嗣へとメガロックが優しく声をかける。
《──
「フレア…うん…!」
遊嗣達の背中を押したフレア達は一度姿を隠す──そして、凌牙が病室の扉を開いた…。
「遊海さん…遊海さん!!よかった…よかったぁぁ~!!!」
「翠…心配かけて悪かった…だけど……
扉が開いた先…夕暮れの病室で翠は号泣しながら、目を覚ました遊海を抱き締めていた…抱き締められた遊海は状況が分からない様子で困惑している…。
「父さん…!父さん!!」
「このっ…馬鹿親父!いつまで寝てんだよ!!」
「もう…!心配かけないでよぉ…!!」
「凌牙…璃緒──マシュちゃん……遊嗣!?どうしたんだその格好と怪我は!?リンクヴレインズの戦いの後に何かあったのか!?!?」
《フォウ…ドッフォーウ!!(全部、遊海が悪いんだろ──!?)》
「あいたぁっ!?」
そして、涙を流しながら璃緒や凌牙、遊嗣が遊海を抱き締める…そして、遊海はデュエルアカデミアの制服を着た、ボロボロの遊嗣の姿に気付いて驚愕し…フォウに顔面キックを喰らって悶絶する事になった…。
「父さん…なにも、覚えてないの…?」
「うーん…リンクヴレインズで意識がなくなって……なんか、長い事…
《………マスター、実は────いえ、私とロマンの記録を同期した方が早そうですね》
家族全員が落ち着くのを待つ事しばらく…遊嗣の問い掛けに遊海は頭をひねる…遊海はミラー・リンクヴレインズ事件以後の記憶を全て失っていたが…それを見た彩華はそれ以後の記録を遊海へと共有した…。
「──死んだ俺を蘇らせる為に『歴史改変』を!?!?しかも、過去のARC次元に!?それで、イレギュラーで遊嗣とダークネスがデュエルを…!?───うーん……」
「きゃあ!?遊海さーん!?」
「あー…そりゃ、そうなるよなぁ……」
「ふふっ…こんなにびっくりしたお父さん、久しぶりね!」
彩華によって、自分がダークネスの「呪い」によって命を落とし、それを回避する為に禁じ手の『歴史改変』が行われ──しかも、遊嗣がその大役を担った事を知った遊海は卒倒…ベッドへと倒れ込んでしまう…なお、その様子を見た凌牙や璃緒は泣きながら苦笑している…。
「………遊嗣……よく頑張った、ありがとう……こんな情けない父さんの為に、命懸けの冒険をさせてごめんな…」
「ううん…僕は、父さんに言われた通り…自分が守りたいモノの為に戦った…それだけだよ!」
「そうか…偉かった偉かった…お前は──本当に、親孝行な息子だ…ありがとうな」
「えへへ…やっぱり…父さんの手…あったかい、や───」
「遊嗣さん!?」
《マシュ、大丈夫──ちょっと気が抜けちゃったみたいだ》
命懸けの使命を成し遂げた遊嗣を労う遊海…そして、遊海の温かな手で頭を撫でられた遊嗣はベッドに突っ伏すように深い眠りへと落ちていく…その寝顔は久しぶりに、とても穏やかなものだった…。
こうして…Den Cityを震撼させた『ミラー・リンクヴレインズ事件』──そして、18年前の『呪い』と遊海の死によって端を発した『歴史改変作戦』は最善の未来を掴み取り、幕を閉じたのだった。
気まぐれアンケート 『VRAINS編』の物語で良かったのは?
-
1章(序章)
-
2章(ハノイの塔)
-
幕間
-
3章(イグニス邂逅)
-
4章(ミラー・リンクヴレインズ)
-
最終章(遊海救済)
-
全部!