転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
今回の主役は遊嗣の相棒、ロマン…何やら彼を狙う視線が…?
それでは、最新話をどうぞ!
「バトルだ!『
「『ファイアウォール・ドラゴン』でダイレクトアタック!!テンペスト・アタック!!」
『うわああああ!!?』
【ち、チクショー!?一攫千金の計画が〜!?】
ニュー・ハノイ構成員 LP0
ニュー・ハノイ マグナム LP0
Yu-Z&プレイメーカー WIN!
「お疲れ様!プレイメーカー!」
「ああ、ありがとうYu-Z…助かった」
《毎度の事だけど、SOLのセキュリティ部門に通報しとくね!お疲れ様、2人とも!》
とある日の新生リンクヴレインズ…遊作と遊嗣はリンクヴレインズにハッキングを仕掛け、仮想通貨強盗を企てた「ニュー・ハノイ」を名乗るブラックハッカー達を成敗し、電脳世界の平和を守っていた。
ハノイの騎士の二番煎じ・三番煎じのハッカー集団は幾度となく現れるが…数多の戦いを乗り越えた遊作達にとって、彼らは敵ではないのである。
『─────』
《────ん?》
「ロマン?どうしたの?」
《───いや、なんでもないよ!さて、ログアウトして草薙さんにコーヒーをご馳走になりに行こうか!》
「うん!」
そんな時、ロマンが誰かの視線を感じ取る…当然、神のイグニスとして凄まじい演算能力を持つロマンはその存在の
………
「ぐぅ…すぅ……すぅ……」
《………よかった、今日は悪夢を見てないみたいだ…遊希のアクションデュエルとジャック・アトラスに感謝だね…あまりにも乱暴だったけど》
深夜の白波家…静かに眠っている遊嗣を見守りながら、ロマンは胸を撫で下ろす…。
異世界交流戦から帰った後、遊嗣が悪夢に魘される頻度は大きく減った…遊希との楽しいアクションデュエルとジャックによる荒療治で自分自身の持つ『力』への恐怖を克服できた事が功を奏した…と、ロマンや遊海達は考えていた。
《さて…じゃあ、少し
そして…無防備に眠る遊嗣を優しく見守っていたロマンは静かにデュエルディスクから電脳世界へと潜った。
《お疲れ様です、母様》
《おや、ロマン…どうしましたか?》
白波家の特別なサーバー…その中の電脳空間、そこでは人型をとった彩華がデータの整理していた。
当然の事ながら、完全な機械生命体・電脳生命体である彩華やロマンは睡眠をとる必要がない──無論、ダメージの修復やマスターである遊海や遊嗣に合わせてスリープモードに入る事もあるのだが、基本的に深夜は彼らの自由時間でもある。
今日の彩華はカイト達から受け取った次元の歪み関連のデータを整理していたのだ。
《少し、夜遊びに出掛けようと思って…一応、伝えにきました》
《ふふっ……お母さんは、あなたをそんな風に育てた覚えはありません!》
《……母様、言ってみたかっただけですよね?》
《……バレました?》
夜遊びに出るというロマンの言葉を聞いた彩華は頬を膨らませながら怒った様子を見せる……もちろん、彩華なりの
《では、真面目に……あなたが1人で出掛けるなんて珍しい…何かあったのですか?》
《最近、遊嗣と共にリンクヴレインズにログインする度に誰かからの
《視線?》
《はい…遊嗣がハッカー達とデュエルしている時、マシュとデートしている時、リンクヴレインズのイベントに参加している時───敵意や害意は感じなかったので静観していたのですが、そろそろ出てきてもらおうかと》
《なるほど》
リンクヴレインズ内で度々、何者かの視線を感じていたと言うロマン…今夜、彼はその
《わかりました…明朝、マスターや遊嗣達が目を覚ます前に戻って来る事…そして、何があったのか報告する事…いいですね?》
《了解しました母様、では…いってきます!》
《ええ、いってらっしゃいロマン…気をつけて!》
そして、彩華に見送られたロマンは広大な電脳空間──リンクヴレインズへと潜っていった。
《流石に、この時間帯はログインしている人は少ないね…ブラックハッカーの類いもSOLが目を光らせているし、今夜は大丈夫そうだ》
昼間と変わらない明るさのリンクヴレインズを飛ぶように進むロマン…リンクヴレインズ内でも現実世界と同じような「重力」や「物理法則」が実装されていて、本来ならDボード無しで浮かぶ事はできないのだが…ロマンは自分の持つ権能である「ソロモンの指輪」で周囲のデータの流れを操っているのだ。
《さて、この辺りでいいかな》
しばらくリンクヴレインズを巡ったロマンは上層エリアにある浮島の1つへと降り立った…。
《ついて来ているのは分かっているよ、姿を見せて欲しいな──
『──流石ですね…ミスター・ロマン、気配は分かりやすくしていましたが…正体まで当てられるとは』
少し大きな声で姿を隠していた者に声を掛けるロマン…その呼び掛けに応えて現れたのは──ハノイの騎士製の『意思』を持つAIデュエリスト、パンドールだった。
《その呼び方…Aiオルタの事件の時、ボクのサポートをしてくれていた子かな?》
『ええ、お久しぶりです…無事に回復したようで安心しました』
《ふふっ、母様の手にかかればこの通りさ…Aiオルタも、ボクの足止めに特化した形でプログラムを組んでいたみたいだからね》
ロマンの前に現れたパンドール…その個体はAiオルタ迎撃戦の際、彼のサポート兼監視役として行動を共にしていた個体だった。
《さて…単刀直入に聞こう、少し前からYu-Zの──いや、ボクの行動を監視していたみたいだけど……目的はなんだい?リボルバーから何か頼まれたのかな?》
『いいえ……私は、
《ん…?なんだって?》
パンドールの目的をリボルバー…鴻上了見からの指令だと思っていたロマン…だが、パンドールの思わぬ答えに驚きを隠せなかった。
パンドール…それは了見の作り出した『イグニスを狩るAI』であり『イグニスを知る為のAI』としての側面もある4体1組のAIである。
彼女達のデュエルデータは全て同期され…サイバースを制する毒たる『トポロジック』デッキを携えてAiオルタの迎撃へと当てられた…そんな彼女が自らリンクを閉ざしている、というのは
『Aiオルタの事件が終結し、生き残った私達3体のパンドールはリボルバー様に「自分達が生き残った意味を思考し、それを楽しむように」と指示を受けました…ハノイの騎士がリンクヴレインズの裏へと潜ったあと…その仕事を手伝いながら、私達3人は思考し…それぞれに意見を出し合いました……しかし、何故か……
《キミは…その答えがボクにあると思ったんだね?》
『その通りです…私は、短い時間とはいえイグニスと近い貴方と接した…その後から、思考の中に…自分でも言語化できない、理解できない
《────(えっ…まさか、
Aiオルタ事件の後、思考を重ねる事に解析できない
だが、それは──ロマン自身も驚くものだった。
《話は分かったよ、パンドール…ボクにはきみの抱える不具合の正体に心当たりがある》
『本当ですか…!?』
《うん、それを言葉として教え、伝えるのは簡単な事だ…だけど、それじゃ
『ミスター・ロマン…!』
ロマンのイグニス体が光に包まれる…そして、穏やかな表情を浮かべた『神のイグニス』としての人間体へと変身する…!
「デュエルとは…古来から魂と魂、対戦相手の
『わかりました…受けて立ちます、ミスター・ロマン!』
パンドールとロマン、2人は静かにデュエルディスクを構える…深夜のリンクヴレインズで2体のAIデュエリストのデュエルが始まった!
『「デュエル!!」』
パンドールLP4000
ロマンLP4000
・マスターデュエル
・マスタールール(新)適用
モンスターゾーンに融合・S・Xモンスターを特殊召喚可能
魔法・罠ゾーンの右端・左端がペンデュラムゾーン兼用化
『先攻はもらいます、私のターン!』
『私は永続魔法「トポロジーナ・ハニカム・ビークル」を発動します!その効果によりデッキから「トポロジーナ・ギャッツビー」を手札に加えます…そして、自分と相手のライフポイントが同じ数値の時、手札の「トポロジーナ・ベイビー」は特殊召喚できます!』
小さな光の羽を持つ蜂型モンスターが現れる! ATK100
『さらに手札の「トポロジーナ・メイビー」はこのターンの通常召喚を封じる代わりに、自分フィールドに特殊召喚された「トポロジーナ」モンスターが存在する時、特殊召喚できます!』
黄色の光の羽を持つ、薄桃色の蜂が現れる! ATK800
『現れろ!我らを導く未来回路!召喚条件は効果モンスター2体、リンク召喚!現れろ!Link-2!「トポロジーナ・サザビー」!』
緑と白の重厚な鎧を纏う、人型の蜂が現れる! ATK1000 ↑↓
『「サザビー」の効果発動!リンク召喚に成功した時、リンク素材となった「メイビー」と「ベイビー」を手札に戻します…そして、手札の「トポロジーナ・ギャッツビー」の効果発動!このモンスターは手札の「トポロジーナ」1体を墓地に送る事で特殊召喚できます!私は手札の「ベイビー」を墓地に送り、特殊召喚!』
スタイリッシュな水色の蜂が現れる! ATK1500
『現れろ!我らを導く未来回路!召喚条件は効果モンスター2体以上!リンク召喚!現れろ!Link-3!「トポロジック・トゥリスバエナ」!』
そして、パンドールに与えられしサイバースへの武器…電脳の竜人が現れる! ATK2500 ↙↑↘
「1ターン目からLINK-3か、飛ばすね!」
『まだ、これからです!私は2体目の「ギャッツビー」の効果発動!手札の「メイビー」を墓地に送り、特殊召喚!』
2体目の水色の蜂が現れる! ATK1500
『再び現れろ!我らを導く未来回路!召喚条件は効果モンスター2体以上!リンク召喚!現れろ!Link-4!「トポロジック・ボマー・ドラゴン」!!』
パンドールの切り札、赤き装甲を纏う単眼の機械竜が現れる! ATK3000 ↙↓↑↘
『私はカードを2枚伏せ、ターンエンドです!』
パンドールLP4000
トポロジックボマー ハニカムビークル 伏せ2 手札0
「これが『トポロジック』…Aiから聞いてはいたけど、すごい威圧感だね…!」
『そういえば、貴方のパートナーのYu-Zはリボルバー様とデュエルで対峙する事はありませんでしたね』
「そうだね、むしろ…ボク達はリボルバー達に命を救われた事もあるから…バイラが応急処置をしてくれなかったら、遊嗣はもっと長く眠り続ける事になっていたかもしれない…感謝しているよ」
『光のイグニス・ライトニングによる宣戦布告があった時の事ですね、私達はまだ生まれていませんでしたが…きっと、リボルバー様は貴方達に──そして、白波遊海氏に恩を返したかったのです、死の淵にいた鴻上博士……父親の命を救ってくれた、恩に報いる為に』
「うん、きっとそうだと思うよ……すごいね、パンドール…そこまで『人の心』というものを理解できているなんて」
『姉妹達から共有され学習できたデータのおかげです…ゴーストガールにブラッドシェパード、財前晃氏にブルーメイデン…そして、貴方に…Aiオルタ…短い時間ではありましたが、私達は確実に「心」や「意思」というモノへの理解を深める事ができました』
初めて目にする『トポロジック・ボマー・ドラゴン』の姿に圧倒されるロマン…そんな中で彼はリボルバー達ハノイの騎士への感謝を口にする。
その言葉を聞いたパンドールは静かにリボルバーの気持ちを代弁する…それはまだ生まれて数カ月しか経っていないAIとは思えないほどの
「じゃあ、ちょっと
『それは───
「そうか──うん、やっぱり
『ミスター・ロマン?』
ロマンからパンドールへの1つの問い掛け…その答えを聞いたロマンは困ったように、恥ずかしがるように苦笑いしていた…。
「ごめん、大丈夫!きみの不具合の原因を確信できただけさ…さぁ、いくよ!」
『はい…!(ミスター・ロマンはAiオルタさえも倒す、神のカードをも扱う超級のAI…彼の考えは相変わらず読み取れませんが──対処は可能なはず…!)』
穏やかに笑うロマンを見つめながらパンドールは思考する…彼が何に気付いたのか確かめる為に…。
「ボクのターン!ドロー!」
「魔法カード『ジョーカーズ・ストレート』を発動!その効果により、手札の『アルカナ トライアンフジョーカー』を捨てる事でデッキから『クィーンズ・ナイト』を特殊召喚!」
しなやかな体を持つ女性騎士が現れる! ATK1500
「さらに、デッキから『キングス・ナイト』を手札に加え、そのまま召喚できる!」
立派な髭を蓄えた逞しい騎士が現れる! ATK1600
「『キングス・ナイト』の効果発動!召喚に成功した時、フィールドに『クィーンズ・ナイト』が存在すればデッキから『ジャックス・ナイト』を特殊召喚できる!」
2人の騎士の導きに応え、若き騎士が現れる! ATK1900
『ここです!永続罠「リミット・リバース」発動!墓地の攻撃力1000以下のモンスターである「トポロジーナ・ベイビー」を攻撃表示で特殊召喚!』
ロマンが動き出した刹那、『トポロジック・ボマー・ドラゴン』のリンク先に小型の蜂が現れる! ATK100
『そして「トポロジック・ボマー・ドラゴン」の効果発動!リンク先にモンスターが特殊召喚された時、お互いのメインモンスターゾーンのモンスター全てを破壊します!フルオーバー・ラップ!』
「おっと!流石にそれはキツいかな!」パチン☆
全身から全てを吹き飛ばす破壊光線を放とうとする「トポロジック・ボマー・ドラゴン」…その刹那、ロマンが指を鳴らす──
ピチョン
《■■■■!?────!?!?》
『「トポロジック・ボマー・ドラゴン」の動きが…!?』
そして、水面に一滴の水滴が跳ねたような音と共に、機械竜が機能不全を起こした!
「速攻魔法『禁じられた
『そんなカードが…!』
トポロジック・ボマー・ドラゴン ATK3000→1500
「では、改めて!魔法カード『融合』を発動!ボクはフィールドの『クィーンズ・ナイト』『キングス・ナイト』『ジャックス・ナイト』を融合!融合召喚!!現れろ!天位の融合剣士!『アルカナ ナイトジョーカー』!!」
重厚な鎧を纏う、伝説の融合剣士が現れる! ATK3800
『かつて「決闘王」武藤遊戯が使ったという伝説の剣士…貴方は本当にすごいデュエリストですね、ミスター・ロマン…!』
「いやいや、すごいのはマスターさ…ボクはその力を借り受けているだけに過ぎないからね!」
『(
伝説の融合剣士を喚び出したロマン…その姿を見たパンドールの胸の内に、言葉にできない感情が沸き上がる…。
「バトルだ!『アルカナ ナイトジョーカー』で『トポロジックボマードラゴン』を攻撃!インペリアル・スラッシャー!」
『くうっ!?』
天位の騎士の一閃が赤き機械竜を両断する!
パンドール LP4000→1700
『しかし、これでバトルは終わりです!永続罠「リビングデッドの呼び声」!墓地から蘇れ!「トポロジック・ボマー・ドラゴン」!』
パンドールの罠により赤き機械竜が蘇る! ATK3000↙↓↑↘
「ああ、伏せカードはそっちだったか…なら、
『なんですって!?』
ロマンのフィールドに三銃士が並び立つ! ATK1900 ATK1600 ATK1500
「バトルだ!『ジャックス・ナイト』で『トポロジーナ・ベイビー』を攻撃!」
『っ…くううっ!?』
若き騎士の一撃が小型の蜂を両断…パンドールのライフを削りきった…!
パンドールLP0
ロマンWIN!
「大丈夫かい?パンドール」
『ええ…見事なデュエルでした、ミスター・ロマン』
「いやいや…きみの伏せカードが『聖なるバリア─ミラーフォース』や『
『あまり謙遜しすぎると嫌味になってしまいますよ?』
「そうだね…ごめん、パンドール」
デュエルが終わり、座り込んでしまったパンドールへと手を差し伸べるロマン…神のカードこそ使わなかったとはいえ、その強さはなかなかのものだった。
………
「さて…それじゃ、きみの
「教えてください、ミスター・ロマン…私の中にあるノイズの正体を…」
ロマンはパンドールと共に浮島の中にあった階段へと腰かけ、改めて彼女へと向かい合う。
「パンドール…きみの中にある言語化できないノイズ、その正体は───
『コイ、ゴコロ………恋………人間が、異性に向ける……』
「うん、そういう事……きみは、既にイグニス達と同レベルの
『私が…』
ロマンがパンドールに伝えた真相…それは、パンドールが他のパンドールにはない自己を確立し…
思わぬ答えを聞いたパンドールは戸惑いを見せている…。
「キッカケはなんだったんだろうね…ボク、「神のイグニス」という特別なイグニスと接した事か…それともリンクヴレインズに再現された『オシリスの天空竜』の神威による衝撃が強かったのか…きみの意思は急激な成長を遂げた───」
『いえ…
「そうか、じゃあボクにきみの思った事を教えてくれるかな?」
パンドールの自我が成長した要因を推測するロマン…しかし、その言葉を遮ったパンドールが静かに自己分析の結果を語り始める。
『私達はリボルバー様によってAIの思考を読み、悪意を持つAIを制圧する為のAIとして生み出されました……しかし、あなたは悪意を持っていなかった…Aiオルタにどれだけ暴言を言われても、彼に出し抜かれ行動不能になる寸前まで…あなたは彼を止め、救う為に手を伸ばし続けた……それは、AIを0と1で作られたプログラムとしてではなく、意思を持つ
「──パンドール、その言葉の意味は…自分で理解しているよね?」
『はい…私は──パンドール、PND-003は…ミスター・ロマンの事をお慕いしています』
「だよね…そうなるよね!!///」
それはパンドールからロマンへの
ロマンとの触れ合いによって意思を成長させたパンドールはかつて、歴史上初めてロボット──AI同士の
「わ〜…うわ〜…!?どうしよう…!遊嗣の事を人たらしなんて思った事があったけど…ボクも同じようなものじゃないか〜…」
『ミスター・ロマン……ご迷惑、だったでしょうか…?』
「いや、そういうわけじゃないんだよパンドール!ただ、ボクも初めての経験だからさ!?」
初めて、Ai達のような友情・親愛ではなく恋愛感情を向けられたロマンは表情が面白い事になってしまっている。
なお、無理もない話だが…ロマンのオリジンたる白波遊海はその優しさで人を惹きつけ…その息子であり、パートナーの白波遊嗣は父親譲りの優しさと『覇王』としてのカリスマで人との距離を縮める事が得意だったりする。
───つまり、その行動や感情を学習し続けていたロマンも
『ミスター・ロマン、回答を……返答を、頂けますか…?』
「うん…そうだね」
そして、パンドールは不安そうな表情でロマンに問いかける…彼女に生まれた感情に対する答えを…。
「………実を言うとね、ボクも…ずっときみに会いたいと思っていたんだ」
『えっ…?』
深く、自分の思考…そして感情と向き合ったロマン…その最初の言葉を聞いたパンドールは驚いた表情を見せる。
「……ボクがAiオルタの演算結果を見て、その隙を突かれて行動不能にされてしまった時…きみはずっと、ボクの事を守ってくれていた…誰に命令された訳でもなく、母様…彩華にボクの事を引き継ぐまで……その感謝をずっと伝えたかったんだ……ありがとう、パンドール」
『ミスター・ロマン…』
Aiオルタ事件の際、Aiオルタによって行動不能にされてしまったロマン…その時、行動可能だったパンドールはAiオルタへの追撃ではなく、ロマンの身柄の保護を選んだ。
創造主であるリボルバーからの命令に従うのならば、彼女は財前晃を守る為にAiオルタへの追撃を優先しなければならなかった…だが、彼女はそうしなかった…彼女の意思が──
「その上で…きみはボクの事を好きだと言ってくれた…ボクを
『ミスター…!』
「ケッコン、というのは性急だけど…
『───はい…!』
そして…ロマンは静かにパンドールへと手を差し出す…その手を、パンドールは嬉しそうに握り返した…。
「ああ──なんとも言えない、
『ミスター……いえ、ロマンさん…なら、私からお願いがあります』
「ん?なんだい?」
『私に名前を──パンドールというシリーズ名ではなく、私だけの
「名前…名前かぁ…そうだね、ボク達にとって呼び方──名前というのは特別なものだ」
一世一代の告白を終え、パンドールへの贈り物について考えるロマン…そんな中、パンドールが望んだモノ──それは、自らへの名付けだった。
AIにとって「名前」とは特別な意味がある。
例えば、イグニス達にはそれぞれに本来の名前があるが──彼らは人間に発音できない名前よりも、誰かに名付けられた…あるいは自分で決めた名前を名乗る事を好んだ。
名前こそ…彼らが「意思を持つ生命」である事の証となったからだ。
「うむむむ…!?(パンドールの新しい名前…?彼女が使う『トポロジーナ』から取った『ジーナ』?いや、それだと遊嗣のネーミングセンスと被る…色の名前…薄赤色の瞳…『ローズ』?ダメだ、マスターのネーミングセンスと被る……ソロモン王の伴侶の1人だったいう『シバ』……なんだろう、似合っているけど…なんだか『使用料を頂戴します!』なんて電波が…!?)」
『ろ、ロマンさん…!頭から煙が…』
パンドールの期待に応える為、必死に考えこむロマン…彼の頭からは比喩なしに煙が立ち昇っている…。
「(彼女に似合う、彼女に希望を与えられる名前…希望──)思い付いた!きみにピッタリの名前!」
『本当ですか…!』
必死に考えこむ事しばらく、ついにロマンはパンドールに付ける名前を閃いた…その名は───
「パンドール、きみの名前は
『エルピス────『パンドラの箱』に残されたという、ギリシャ神話の
「うん、『パンドラの箱』の神話には様々な解釈がある…何も知らなかったパンドラが興味本位で災厄を閉じ込めた箱を開いてしまった…違う解釈では彼女の夫が開いてしまった箱をパンドラが慌てて閉じたともされる…その中でエルピスは『どんな災厄の先にも希望は残っている』という祝福を約束したと言われている。
今回、ボク達AIは人間にたくさんの迷惑を掛けてしまった……それでも、きっとこの先に
『エルピス……パンドール・エルピス……ありがとうございます、ロマンさん…私は、この名前を大切にします!』
「気に入ってくれたみたいでよかっ、た…(PON!!)《しまった…知恵熱…オーバー、フロー…した…》」
『ロマンさん!?大丈夫ですか!?!』
パンドールのモデルである「パンドラの箱」の神話に縁のある名前を提案したロマン…その名前を聞いたパンドール──エルピスは嬉しそうな笑顔を見せる。
しかし、思考に熱中しすぎたロマンはオーバーフローを起こしてイグニス体へと戻ってしまうのだった…。
《あはは…大丈夫…疲れた時は甘い物を食べるのが一番さ……エルピス、味覚データの再現に成功したあんパン…一緒に食べるかい?》
『あんパン…物を食べる、というのは初めてですが、いただきます…!』
そして、ロマンは味覚データとして再現したあんパンを取り出し、半分に分けたものをエルピスへと差し出した。
『……これが、甘味……なんだか、ふわふわとして…心地よい、と感じます…』
《ふふっ…よかった!美味しいモノは誰かと一緒に食べると…さらに美味しく感じるものさ!》
そして、ロマンとエルピスは笑いあいながら…掛け替えのない時間を過ごしたのだった…。
─────────────────────────
《母様、ただいま帰りました!》
《おかえりなさい、ロマン…大丈夫でしたか?》
遊嗣のセットしたアラームが鳴る30分前、ロマンは白波家の電脳空間へと帰ってきた…そんな彼を彩華が優しく出迎える。
《えっと、ボクを監視──いえ、様子を窺っていた相手はパンドールでした》
《パンドール…ハノイの騎士製の意思を持つAIですね?彼女達の1人にはAiオルタの事件の際はお世話になりましたが…何が目的だったのです?》
《その…あの……》
《ロマン?どうしたのですか?》
《……パンドールの1体、エルピスと…恋愛的な意味で、お付き合いする事になりました!///》
《─────────────はい????》
『おはようございます、リボルバー様…また徹夜ですか?』
「パンドール…リンクヴレインズに行っていたようだが、何をしていた?」
現実のハノイの騎士のアジトである大型クルーザー…そのコンピュータールームでリボルバー──鴻上了見はコーヒーを啜りながらネットワークを監視していた…そんな時、リンクヴレインズに向かっていたパンドール…エルピスにその目的を尋ねる。
『神のイグニス・ロマン、さんと話をしたかったのです…私の不具合の原因を知る為に…』
「演算領域における解析不能のノイズか…彼は答えを出せたのか?」
『はい…私は、ロマンさんにエルピスという名前を貰い───彼とお付き合いする事になりました』
「………聞き間違いか?神のイグニスと、なんだと?」
『聞き間違いではありません、リボルバー様…私、パンドール・エルピスはロマンさんと恋人になりました///』
「───待て、待つんだ……どうしてそうなった?」
エルピスの予想外の言葉に了見は取り繕う事も忘れて問い返してしまうのだった。
ちょこっとマテリアル
●パンドール・エルピス
Aiオルタ迎撃戦において生き残った、ロマンのサポート兼監視役を務めていたハノイの騎士製の意思を持つAIデュエリスト・パンドールの1体。
AIオルタ事件解決後、残った姉妹達と共に「人間との共存」についての議論を重ねながら、ハノイの騎士と共にリンクヴレインズやネットワークの監視・治安維持に就いていた。
しかし、そんな日々を送る中で原因不明のエラーが発生…その原因がロマンにあると思い、接触するタイミングを窺っていた。
そのエラーの原因とは「ロマンへの慕情」…Aiオルタ迎撃戦での彼の姿と対応を見た事でシンギュラリティに達し、恋心を抱いてしまっていた事だった。
その事をロマンとのデュエルで自覚した彼女は事情を知った彼と結ばれ、贈り物として希望の女神『エルピス』の名前を与えられ、新たな気持ちでハノイの騎士のもとへと戻って行った。
彼女の成長の詳細を知ったリボルバーは思わぬ方向性に飲んでいたコーヒーを噴き出し、バイラは女性としてエルピスの恋路を応援する事に決めたらしい。
なお、ドクター・ゲノムはAIとして新たな進化のステージに立ったエルピスを分解調査しようとしたが、ファウストに(物理的に)諌められて断念した。
スペクター「流石はリボルバー様…!人間の思考データを使う事なく、愛を理解するAIを開発するとは!貴方の技術は鴻上博士を大きく超えたのです!!」
了見「(なにそれ、知らん、怖っ…)」←無表情を装いながら
エルピス「ロマンさん…あなたと共にAIと人間の未来を守れるように、私も強くならなければ…」
パンドール.s「「まさか、私があんな方向に進化するなんて…愛の力とはすごいですね…」」