転生して決闘の観測者〈デュエル・ゲイザー〉になった話 作:S,K
「……うっ…っ…?ここは…?」
「あっ…了見さん!目が覚めた?よかったぁ…」
《フォウ…(大丈夫…?)》
「お前は…白波、遊嗣…それに、さっきの…」
安寧の闇の中から了見の意識が浮かび上がる…目を覚ました彼が最初に目にしたのはありふれた内装の部屋、そして…ホッとした様子の遊嗣とその膝に抱かれた小さな白猫・フォウの姿だった。
「ここは僕達の家だよ、普通に病院に行くのはヤバいだろうからって父さんが…何があったか覚えてる?」
「…もちろんだ……私は、ダークウェブで誘拐したペットを売買するグループを見つけ…奴らを止める為にアジトに踏み込み、サイコデュエリストの攻撃で…」
「ハノイの騎士」としての立場を慮った遊海の気遣いによって白波家に運び込まれた了見…そして、彼は自分が意識を失う原因となった出来事を思い返す…。
「しかし…何故、お前達があの廃倉庫に…?」
《理由は色々あるんだけどね…一番はエルピスからの
「神のイグニス・ロマン…?……どういう事だ、エルピス」
《勝手な判断をして申し訳ありません、了見様…ですが、貴方の命を守る為に…もっとも確実性の高い方法を考え、実行しました》
自分の窮地に遊嗣と遊海が駆けつけられた理由に疑問を抱く了見……彼が助かった理由はパンドール・エルピスによる緊急連絡だった。
サイコデュエリストの力を持つチンピラ達に追い詰められてしまった了見…その姿を見たエルピスはハノイの騎士の仲間達──ではなく、恋仲となったロマンへと位置情報を送り、助けを求めた。
ロマンの相棒である遊嗣、そして父親である遊海…2人はサイコデュエリスト以上の力を扱える「精霊使い」であると知っていたからだ。
そして、ロマンからリボルバー…了見のピンチを聞いた遊嗣は慌てて遊海へと連絡を取る…さらに、遊海は家に飛び込んできた黒猫の意思を読み取ってフォウを探して既に街を飛び回っており、最短距離で駆けつける事ができた……それによって了見を窮地から救い出す事ができたのだ。
「そうか…そのネコは、お前達の飼い猫だったのか…」
《フォウ、フォ〜ウ!(キミがリボルバーだったなんて知らなかったよ…でも、助けてくれてありがとう!)》
「フォウが助けてくれてありがとう、だって!あなたがリボルバーだった事には驚いてるみたいだけど…」
「そうか……(当然のように猫の言葉を理解できるのだな、白波遊嗣…)」
一連の出来事をエルピスとロマンの簡潔な説明で把握した了見…そんな彼の頬にフォウが優しく体を擦り寄せ、遊嗣がその言葉を通訳した。
《……了見様、命令に背いて申し訳ありません…どんな罰でも謹んでお受けします…》
《リボルバー、エルピスはキミを守る為の最善の判断をした…キミの出した指示を守らなかったのはAIとしてはあるまじき事かもしれない…だけど、自分の『意思』を持つ彼女が考えた末の答えを、どうか責めないであげて欲しい…!》
《ロマンさん…》
そして…了見のデュエルディスクから姿を見せたエルピスは深く頭を下げる…彼女は了見から『余計な事をするな』と指示されていたが…それを破り、ロマン達へと連絡を取ってしまったからだ…。
その様子を見たロマンは必死にエルピスを擁護するが…。
「……罰を与える理由はない、お前は私の想定不足をカバーし、人間の命を守る為に最善を尽くした……お前をプログラミングした者として、お前の成長を嬉しく思う…よくやった」
《了見様…!ありがたき御言葉…!》
《よかったね!エルピス!》
「(了見さん、変わったな…前はAIやネットワークそのものを嫌う言い方をしてたのに…)」
しかし、それは杞憂だった…了見はエルピスを責める事なく、彼女の成長を評価した…その様子はミラー・リンクヴレインズ事件以前の彼からは考えられないものであり、遊嗣も内心驚いていた。
「そして…白波遊嗣、ロマン…お前達にも感謝しなければならないな…お前や白波遊海が来てくれなければ、私もどうなっていたか…」
「いいんだよ、了見さん…僕達もライトニングにボロボロにされた時に助けてもらったし、困った時はお互い様だよ!」
《そうそう!エルピスにも助けられたし!》
「お前達は……本当に人が良すぎるな…」
そして、ベッドから体を起こした了見は遊嗣達に感謝を伝えるが…2人は明るく笑って答える…その様子は了見が少し呆れてしまう程だった。
「ところで、ロマン…お前はこのパンドール、エルピスと恋人になった…という報告を受けたが…」
《あっ…そうだった…!申し訳ない、リボルバー…本来なら、先にキミの許しを得るのがスジ、というものだけど…》
「いや…
《リボルバー様…!》
《リボルバー…ありがとう!彼女と一緒に、AIと人間の希望の未来の為に頑張るよ!》
「おめでとう!ロマン!エルピス!」
そして…意思を持つAIとして、新たなステージへと踏み出したロマンとエルピス…だが、了見は彼らを引き離す事はせず…その背中を押した。
彼の温かい言葉にロマンとエルピスは嬉しそうに頷き、遊嗣も相棒の手にした幸せを嬉しそうに祝福した…。
「さて……遊嗣、奴らは…ペット窃盗グループはどうなった?」
「フォウやペット達を拐った人達は父さんがぶっ飛ばして『罰ゲーム』を叩き込んで警察に引き渡したよ、今は誘拐されてたペット達を飼い主さんに返しにいったり…捕まってた野良猫達を保護してくれる団体に預けに行ってる!」
「流石だな、彼は…」
そして、了見は今回の事件の顛末を知る。
ペット誘拐グループのチンピラ…彼らはネオ童実野シティで『風雷ブラザーズ』として名が知られた半グレだった。
…しかし、デュエルモンスターズの力を悪用した事で遊海の逆鱗に触れ、「三幻魔」にその身に宿る力を吸い尽くされた上で『
囚われていたペット達もマイクロチップや遊海による記憶読み取りを頼りにそれぞれの帰るべき場所に戻れるように遊海やKCが手筈を整えている。
《でも…リボルバー、どうしてきみは
「………ペットが誘拐された事件に、ロスト事件の事が
「────遊嗣、お前……」
そして…今回の事件について様々な解決策があったはずの了見が単身での突入を選んだ事を疑問に思った様子のロマン…その真実を見抜いたのは、悲しそうな表情をした遊嗣だった。
「たけ……ソウルバーナーから聞いたよ、Aiオルタの事件の時に彼と戦った事…そして、ソウルバーナーに『ロスト事件を繰り返さない為に、ネットワークの監視者になって欲しい』っていう願いを託された事も……そんな中で…人でも、動物でも…誰かが囚われている、なんて情報があったら…あなたは居ても立ってもいられなくなった……あなたの良心が、事件を見過ごせなかった…だから、無茶をしたんだよね」
「………その通りだ、私はネットワークの監視者として…ロスト事件を引き起こしてしまった男の息子として、ネットワークを使う者の悪意に苦しめられる者を見過ごせなかった」
Aiオルタ事件の後、遊嗣は遊作や尊から事件の中で起きた事を聞かされていた…もちろん、禍根を晴らす為の尊と了見の決闘の事……その果てに了見が尊に託された「願い」についても…。
「了見さん、ソウルバーナーが言ってたんだ…『あの時のリボルバーは贖罪を果たした後に
「──ソウルバーナーが、そんな事を…」
それは尊が了見に対して感じていた直感だった。
「イグニスの抹殺」という大義は遊海によって「イグニスとサイバース世界の隔離」という形で解決され…「ロスト事件の被害者とのケジメ」も尊とのデュエルによって果たされた。
自分のできる事をやりきった了見の姿を見た尊は…
「図らずも、私はソウルバーナーによって救われていた…という事か……警察への自首、そして法による裁き……たしかに、私は
「了見さん……やっぱり、あなたは……遊作君と
「……何故、そう思うんだ?」
「遊作君も、あなたも…
遊嗣から尊の思いを聞かされた了見は彼に託された
父親である鴻上博士の犯した罪を贖うべく「イグニスの抹殺」という大義を果たす為に戦った了見
自分達の運命を狂わせたロスト事件の「真実」を知る為、復讐者となってまでハノイの騎士…そして、邪悪な意思に目覚めてしまった光のイグニス一派と戦い続けた遊作
善悪を越えた強い
「私と藤木遊作、プレイメーカーの在り方は違う………私は自分の信じる大義の為に、罪なき人々に対して
「そんな事を言ったら…
「───それは、
遊嗣の言葉を聞いた了見は自嘲するように自分と遊作の在り方は違うと答える……だが、遊嗣のさらなる言葉を聞いた了見は思わず頭を抱えてしまった。
白波遊嗣…その正体は19年前、旧DEN Cityをクレーターへと変えてしまった『悪魔のデュエリスト』ズァークの転生体…その力の恐ろしさを了見は身を以て理解していた…。
「第一、お前のそれは
「───うん、伝わってよかった」
そして、了見は遊嗣の思いに気付く…精一杯の優しく
「確かに、ハノイの塔の時はすっごく痛かった!!マシュの事も傷付けられたし、すっごく嫌だった!!それは今でも許せない!………だけどさ、了見さんが
「遊嗣…」
それは遊嗣の本心だった…ハノイの騎士の起こした一連の事件でマシュを傷付けられ、自分も死にかけるような酷い目に遭った…それは簡単に許せる事ではない。
……だが、それと了見が父である鴻上博士が引き起こした「ロスト事件」の責任を背負うのはまた
「ねぇ、了見さん……悪い事をした人って、
《遊嗣…きみは……》
「…………」
それは、遊嗣が前世を自覚した直後に味わった
「前世の
「……星、か…」
遊嗣の言葉を聞いた了見は三騎士が記録していた遊嗣と破滅の光・ライトニングによる決戦の映像を思い出す。
「覇王龍」の力に飲まれ、暴走状態に陥った遊嗣…そんな彼を救い、正気に戻したのは…傷付く事を恐れずに闇の中に飛び込んだマシュの献身だった……そのまっすぐな想いが遊嗣を導く星となり、彼が破滅の光を打ち倒す事に繋がったのだ。
「了見さん、ソウルバーナーは『事件の事を忘れるな』って伝えたんだよね?」
「ああ、ロスト事件の記憶を風化させる事なく…新たなロスト事件が起きる事を防ぐネットワークの監視者になれ、それが彼の望みだった」
「なら…その約束を果たす為に、了見さんも
「────お前は……本当に優しい男だな、遊嗣」
遊嗣は了見の事を思う言葉をかける…新たな使命に
《遊嗣、少し熱くなりすぎだよ?……でも、ボクも同じ思いさ!リボルバー、キミだってまだ
「私の、やりたい事…」
そして、ロマンも穏やかに了見へと助言を送る…ハノイの騎士のハッカー・リボルバーとしてや、鴻上博士の息子という立場も関係ない──「鴻上了見」という1人の人間のやりたい事をしてもいいのだと…。
「この10年…私は父の為に、そして…世界の滅びを回避する為に全てを捧げてきた……今さら、やりたい事と言われてもな…」
「じゃあ……
「───写真?」
ロスト事件が起きてからの10年、父親の為…そして、シミュレーションによって導かれた世界の滅びを防ぐという「大義」の為に全てを捧げてきた了見…そんな彼に遊嗣は1つの提案をする。
「了見さんってすごく人間が…
「景色を切り取る、写真か……ああ、それもいいかもしれないな」
遊嗣の言葉を聞いた了見は思い出す…ロスト事件の前に見た、透き通るような青空…そして、生命の輝く花畑の景色を…その表情は年相応の、青年らしい穏やかな顔だった…。
ガチャ!
「おー、目が覚めたか?ずいぶんと手酷くやられたなリボルバー…いや、了見」
「あっ、おかえり父さん!」
「白波遊海…」
そんな時、了見が寝かせられていた部屋の扉が開く…そして、顔を覗かせたのは…引っ掻き傷やら噛み跡やらでボロボロになった遊海だった。
「ははは…いやいや…犬に噛みつかれたり、猫に引っ掻かれたりこっちも大変だったよ……ん?なんだ、ずいぶんと
「もう、大丈夫です……彼から、
「───そうか、なら俺が気を回す必要もなさそうだな!
「ええ、お世話になりました……遊嗣、ロマン…キミ達からもらったアドバイス…参考にさせてもらう」
「うん!」
《リボルバー、キミの歩む贖罪の道の先に…希望の光がある事を願っているよ》
そして、リボルバーはベッドから立ち上がる…その胸にどこまでも優しい少年から受け取った光を抱きながら…。
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『了見様、ご無理をなさらないでください…!鋼の騎士、白波遊海から直接連絡を受けた時は何事かと…』
「すまない、スペクター…心配を掛けたな」
夜の帷の落ちたDENCity…その道を2人の青年が歩いていた。
1人は遊嗣による治療を受けて回復した了見…もう1人は遊海から連絡を受け、了見の迎えに駆け付けたスペクターだった。
遊海がハノイの騎士の拠点に事情を伝え、慌ててやって来たのだ。
「リンクヴレインズは?」
『大きな異常は何も、細々としたハッカーの蛮行などはあったようですが──プレイメーカーがあっさりと解決したようです』
「そうか」
自分がいなかった間のリンクヴレインズの状況を尋ねる了見…リンクヴレインズの平和はいつも通り、遊作の手で守られたようだ。
「……スペクター、寄りたい場所がある…付いてきてくれるか?」
『ええ、喜んで』
そして、了見はスペクターを誘い…とある場所へと足を向けた…。
………
『おお…!これは…!』
「この場所からこの景色を見るのも…ずいぶんと久しぶりだ」
2人が訪れた場所…そこは鴻上家のあった場所の近くにある海浜公園だった。
そして、満月のこの日……DENCityの海には夜光虫による光の響宴───スターダスト・ロードが発生していた。
「我が贖罪の旅路はまだ始まったばかり、いつの日か…私や父の罪が赦される時が来るその時まで───私はこの茨の道を歩み続けよう……だが、今だけは───」
光の道を静かに見つめる了見…そして、彼は懐からスマホを取り出し…穏やかな海へと向ける。
パシャ!
「───うむ……
スマホで撮った写真を見た了見は苦笑する…写真は上手く撮れなかったが───彼は彼方まで続く光の道を自分の魂に焼き付けたのだった。