【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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苦労人の冒険が幕を開けます。


第一話「苦労人」

 自分で言うのもなんだが俺はかなり強い方だ。

 

 幼い頃から母親や街の人、兵士に半強制的に鍛え上げられて『アリアハン』の住民にできて俺に出来ないことはないといってもいい。

 

 後の伝説になる(魔王を倒せればの話だが)冒険の書だって俺一人で書き上げられるくらいだ。

 ただ神父の【ザオリク】をマスター出来なかったのが唯一の心残りである。

 

 

 そんな完璧超人の俺だが今ただの『スライム』軍団に苦戦している訳だ。

 いやいや、勘違いをしないでほしい。

 別に『スライム』がいくら出てこようと勇者があまり使わない魔法【ギラ】で一掃できるし、殴ってもほぼ無傷で完封できる自信はある。

 

 

「アルス~助けて~」

 ティナは何もできずにぽかぽか『スライム』に殴られて泣きながら助けを求めている。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! 見た見た今の見た!? 私の攻撃“改心の一撃”でたよ。すごいねー。私ってもしかして才能ある? ねぇアルス君ってば~」

 

 ニーナは攻撃や防御、回避をするたびに手を止めて話しかけてくる。

 いいから真面目に戦ってほしい。

 

 とりあえず『スライム』からティナを救出。

 残りのスライムを俺は【ギラ】で……。

 

 

 

 

「【メラ】」

 

 

 

 アリシアのその掛け声と共に俺の頭に火がついた。

 これで今日3度目の【メラ】の誤射だ。

 

 本人いわくまだ飛ぶ方向をコントロールできないらしいが、俺と地面にしか攻撃が飛ばないのはどうかと思う。

 

 とりあえず俺は手の掛かる幼馴染達に大苦戦をしていた。

 正直一人で旅立った親父の気持ちが少し分かった気がする。

 

 

「あ、アルスごめん! ティナ『薬草』を用意して!」

「アルス死んだらダメ!」

 

 

 ティナが俺のアフロになった頭に『薬草』をさしていく。

 【ホイミ】くらい覚えろよ自称僧侶。

 

 ちなみに死んだらダメと言うのは大げさな話しじゃない。

 『アリアハン』から旅立った最初の一歩の『スライム』戦で俺は不意打ちの【メラ】によって棺おけになった。

 

 この出来事は今日の終わりにしっかりと冒険の書に書き込む予定だ。

 

「あはははははっ。アルス君の頭が破裂した爆弾焼きみたいになってるよ。『薬草』のトッピングがまたなんともおいしそうだね」

「俺の【メラ】でニーナもアフロにしてやるぞ」

「そうしたら今度はクリームでトッピングしてイチゴまで乗せてあげるね」

 

 あははーとニーナは笑っているが多分こいつのことだ。

 本気でやるだろう。

 ステータスを確認すると性格が【おちょうしもの】になっているから間違いなくする。

 

 

「くそ、一人よりも辛い旅になるなんて思わなかったぞ」

「だから謝ってるじゃないのよ。私だって物に魔法撃った事無かったんだから」

「なら撃つな。まともになるまで頼むから撃たないでくれ」

 これ以上は俺の毛髪のライフが0になる。

 

「魔法使いに魔法なしで戦えと」

「大丈夫、お前なら武道家ばりの活躍をしてくれるはずだ。その『ひのきの棒』を敵の返り血で赤く染め上げてくれ」

「それほめられてる気がしないんですけど」

 俺的にはほめていたつもりなんだが、気に障ったのか声が少し刺々しい。

 

「アルスもアリシアちゃんも喧嘩しないの。あと少しで『レーベ』に着くから皆で頑張ろうよ。ね?」

 そういう空気になるとティナが笑顔で場をなだめてくれる。

 これで【ホイミ】さえ使えれば完璧なんだけどな。

 

 

「レーベだレーベだ『レーベ』が見えてきたよ。夜を照らす人里の明かりがまぶしいね。これでようやく美味しいご飯にありつけるね」

 

 ニーナの言うとおり今は夜だ。

 俺一人なら最低でも夕方にはたどり着いていたはずなのに。

 下手に『アリアハン』に置いていくとこっそり後をついて来そうだったから連れてきたけど、まさかここまで足を引っ張られるとは思いもしなかった。

 

 

 一人旅の時の経験値が恋しい。

 

 

 まあ連れてきてしまったのは仕方が無いからとりあえず宿の確保だ。

 休める時に休むのが旅の定石だしな。

 

「金掛かるけど全員一人部屋でいいよな?」

「お金掛かるなら皆一緒が良いな。それにみんな一緒だとおしゃべり盛り上がるよ」

 さすが商人の娘なだけあってお金にはうるさい。

 いやお金以外もうるさいから一緒の部屋だと眠らせてくれそうに無い。

 

「魔王と戦う前にニーナ以外過労死することになるぞ」

「アルスそれは言いすぎだよ」

 ティナが苦笑しながらフォローを入れてくれるがそれだととても説得力が無い。

 

「でも個人部屋だとアルスに襲われたらひとたまりも無いわね。やっぱり皆一緒の方が安心かも……」

 なにげにアリシアはひどいことを言ってくれる。

 

「俺はけだものか」

「いやだって【むっつりスケベ】だし」

「まだそのネタを引きずってたのかお前は」

 【くろうにん】とは本当に疲れる。

 

 

 だけどアリシアは俺が嫌いと言うわけではないのか4人部屋にしようと言い出した。

 皆も同意してくれたからなんだかんだで信頼はされているらしい。

 

 

 初めての旅はよほどつかれたのだろう。

 元気に見えたニーナも疲れているらしくぐっすりと寝ていてうるさくも無い。

 だから皆もぐっすりだ。

 

 だけど幼馴染で見慣れているとはいえ可愛い3人に囲まれている俺は寝れない。

 当然寝れる訳が無い。

 と言うわけで気晴らしに宿の外でギターを弾きに行った。

 

 音楽と言うものは人の心を和ませる。

 正直言おう。

 俺の袋の中は武器防具以外全て楽器だ。

 

 

 

 

 

「音楽最高ッッッッ!」

「うるさくて寝られないじゃない!」

 アリシアに上から物を投げられた。

 

 

 

 

 

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 

 

 

 

 

 気付いたら教会だった。

 どうやらアリシアが寝ぼけて窓から投げた物が偶然俺の『銅の剣』で脳天にぷすりと刺さっている死体になっていたらしい。

 

「ごめんなさい……その……こんなつもりじゃなかったんだけど」

 俺も冒険初日で二度も死ぬなんて思いもしなかった。

 アリシアの顔が青ざめていて泣いていたけど問答無用で怒っておく。

 

 とりあえずこれでチャラだ。

 

「アルスごめんね。ごめんね。私が【ホイミ】使えないから……ごめんなさい!」

 ティナも泣いて謝っているが【ホイミ】を覚えていたとしても即死した俺は治せないだろ。

 だからティナはなにも悪くない。

 

「あ、そうそう。アルス君のギターだけど冒険に必要なさそうだったし二回の蘇生代として売っちゃったけどいいよね?」

「お前が一番謝れ!」

 

 買い戻したかったけど当然お金が足りない。

 しょうがないからティナに『ブロンズナイフ』を買い、アリシアには『稽古着』を買い与えた。

 

「私魔法使いなんだけど」

「俺を二度も殺した罰だ。それ着てしばらく接近戦主体で戦うこと」

 さすがにそれを言うと何も言い返せない様子だ。

 

「ねぇねぇアルス君私のは?」

「お前は自重しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書2―――アルスの日記―――

 アリシアに二度殺されてニーナに俺の魂のギターを売り飛ばされた。

 それでも二人を『アリアハン』に帰さない俺ってもしかしてお人よしだろうか。

 いや残ったティナと二人きりで冒険するのが息苦しいだけか。

 さすがに女の子と二人きりで冒険するのは会話の間が持ちそうに無い。

 というか恥ずかしいだろボケ!

 とりあえず今回敵はモンスターだけでない事が分かったから、次から気をつけるとしよう。

 




第一話にして仲間に2度キルされる勇者がいるらしい。
重要アイテムが使えるよう勇者の教養に楽器の取り扱いはありだと思います。
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