ようやく外に出られて、みんな無事で、安心したのに……姉御が倒れて階段の下までごろげ落ちていった。
私の中でアルス君や姉御はどこか無敵超人とか正義の味方とか30分で敵を必ず倒してくれるとか思っていたけど違う。
二人とも頑張りすぎて無理する人なだけなんだよ。
私のバカバカバカ!
「隊長!?」
アルス君は多分、違う絶対に戻ろうとする。
そうしたらアルス君を助ける為にティナちゃんとアリシアちゃんも行く。
でも下はもうモンスターで埋め尽くされてて、姉御はその中に落ちていて……でも姉御だからまだ大丈夫。
助けに行けばまだ間に合う。
「来るな」
いつもの落ち着いた感じの姉御の声がした。
アルス君に言ったのか私に言ったのか皆に言ったのか……分からない。
「すまないな、少年。運が良ければまた会おう」
姉御が『鋼の剣』で床のタイルを砕いた。
もともと古い建物で既に崩れているようなところもあって壊れやすい。
タイルだけではなく地面が崩れて姉御はモンスターの群れと一緒に落ちていった。
床が崩れてとても人の足では上り下り出来そうにない。
仮に飛び降りたとしてもここには戻って来れない。
それでもアルス君は行く。
私も行く。
皆だって行くに決まってる。
死ぬのは怖い。
痛いのは怖い。
それは皆同じ。
誰かが死んだら悲しい。
それがもう二度と会えないならもっと悲しい。
でも、アルス君はきっと許してはくれない。
「ニーナ! 皆を頼む!」
予想通り私に皆を任せてきた。
ティナちゃんはショックでいくら言ってもアルス君について行こうとする。
アリシアちゃんはアルス君一人で行かせる訳がない。
私はお調子者でみんなを危険にさらすこともあるしドジでピンチになることも多いけど、二人よりは多分、選択肢が多い。
「ごめんね」
私は近くにいるアルス君以外の皆と『キメラの翼』を使って『イシス』に飛んだ。
「どういうつもり!?」
『イシス』に到着した瞬間アリシアちゃんに怒られた。
私がアルス君と姉御を見捨てたから怒ってる。
ティナちゃんは呆然としていて、ステラちゃんは状況がうまく把握できていなくて混乱してる。
私はどんな顔してるのかな。
「仕方ないじゃない」
アルス君は私に皆を頼んだ。
あの場でこんな薄情なことできるのは私しかいなかった。
アルス君に期待されたら断れないのを知っててアルス君は頼んできた。
卑怯だと思う。
私は皆と一緒に笑い合えれば良い。
あの場で皆一緒に降りたら誰かが帰れなくなる。
誰かがみんなの足を引っ張って、誰かが誰かを庇って、結局誰も帰れなくなるかもしれない。
アルス君一人なら自分の身を確保しつつ姉御と合流できれば無事帰ってこられるかもしれない。
――――ただの言い訳だから、皆には言わない。
「アルス君なら大丈夫だよ。アルス君は強くてそれはもう1000人切り達成と敵武将攻略と拠点護衛と征圧を同時にこなせちゃうくらいの……」
「そういう問題じゃないでしょ!」
本気で、怒鳴られた。
別に良い。
この先、皆一緒に笑っていられるのなら私は悪役だって構わない。
たとえその皆の中から私がはじき出されたとしても、皆が笑っていられればそれでいい。
私は充分に笑えた。
アルス君のおかげで笑うことが出来た。
だからほんのちょっと、ここで耐えてアルス君にいっぱい預けてある仮をほんの少しだけ返すだけ。
だから泣いちゃダメ。ダメなのに。
「アリシアちゃん、行たらダメだよ。アルス君は……アルス君は、とても強くて……」
「ニーナ……あんた……」
私は今どんな顔をしてるのだろうか。
アリシアちゃんが怒りの矛先を私じゃなくって自分に向けて、三角帽子を地面に勢いよく叩きつけて、頭をかきむしると宿屋の方に向かっていった。
私が悪役でいれば良いだけだったのにアリシアちゃんに悪い事をしてしまった。
ティナちゃんは泣き続けている。
アルス君はすぐに泣き止ませて上げることが出来たのに私だと無理だった。
ステラちゃんに頼んで宿屋で休ませて上げることしか出来なかった。
もしもアルス君が帰ってこなかったら、間違いなく私のせいだ。
悪役を受け入れよう。
世界を救う筈の勇者を見捨てたんだ、どんな手を使ってでも魔王だけは倒して世界に平和を取り戻そう。
泣き崩れるのはそれからだっていい。
アルス君だって、立ち止まっている私なんて見たくない筈だ。
「泣くな私ー。そんなんじゃあ本当に涙ボクロのある35歳独身の無職になっちゃうんだぞー。そうして過去のすばらしい日々に涙してその涙が洪水を引き起こしたっ! わー逃げろー! 噂の港町『ポルトガ』が海に沈んだー! その勢いで世界各地の島々が連鎖的に沈んでいくっ!? 一体この世界はどうなってしまうんだー!?」
私は今どんな顔をしているのだろうか。
笑えているだろうか。
笑顔を作れているだろうか。
私にできること、ちゃんとやれているだろうか。
今はただ、『イシス』の入り口でアルス君が隊長を連れて帰るのを待つことしかできない。
でも日が暮れても帰ってこなかった。
私のお腹がなっても帰ってこない。
皆お腹すいてるんだから早く帰ってきて欲しい。
ご飯は皆で食べないと美味しくないんだよ?
とても寒くて震えが止まらなくなっても帰ってこない。
砂漠って昼間は暑くて夜はとても冷たいから大嫌い。
『レーベ』で羽織らせてもらったアルス君のマントは暖かかったな。
私は今、どんな、顔を、してるんだろ。
「ニーナ……」
アリシアちゃんがやって来た。
ショックが大きくて出て来れないかと思ったけど、アリシアちゃんは強い。
最近は怒っても泣くことがない。
少し前のアリシアちゃんだったらアルス君が帰らなかったら泣きながら「むかえに行かないと!」なんて言って飛び出してそうなんだけどな。
コーヒーを持ってきて私の隣に座ってくれた。
「ティナは泣き疲れて寝たみたい。ただでさえ疲れていたのにずっと泣いてたから」
コーヒーが私に手渡される。
「ごめんね、ニーナ。頼まれたんだもんね……」
そういう優しいこと言わないでほしいよ。
私泣くの我慢してるんだから。
「もっと厳しくしてほしいですヨ。だって私アルス君を、姉御も見捨てたんだよ。薄情な奴だって、酷い奴だって……最悪だってっ」
「私は皆がいる限り泣かないって決めたから、まだ泣かない。この前ティナに泣きついちゃったから」
多分『カザーブ』での夜間練習の時だと思う。
「だけどね。私もっと強くなって、あいつも、ニーナも、皆を守るから」
それ以上は言わないでほしい。
聞いたらきっと止まらなくなっちゃうから聞きたくない。
「ニーナは泣いてもいいよ」
アリシアちゃんは私が泣き虫だって知っていた。
アリシアちゃんも卑怯だ。
そんなこと言われたら私もうダメで、涙が止まらなくって、どうしようもなくって、
「アルス君がっ死んじゃったら私のせいだっ。私がっ私がっ」
私はアリシアちゃんの胸で小さな子どものように泣きわめいていた。
どうしようもなかった。止まらない。
私はいつも笑っている子で、こんな弱音みんなの前で一度も吐いたことないのに、皆の前で振舞っていた元気な仮面がボロボロと涙と一緒に剥がれ落ちる。
私は今泣き顔だった。
ティナちゃんよりも泣き虫かもしれない。
だけど私は弱いからそれを隠して、自分でも元気な子だと信じて、素直に泣けるティナちゃんの方がずっと強い。
何時間私は泣いていたのか分からないけどようやく涙は止まってくれた。
「まったく、なんで私があいつみたいに泣いてる子の世話焼いてるんだか」
アリシアちゃんはいつものように愚痴をこぼしていたけど、いつものようにどこか嬉しそうだった。
アルス君は鋭いようでそっちの方面はトドよりも鈍感だから、きっとアリシアちゃんが照れてるだけなんて気付いていないよね。
とりあえず私もいつもの私に戻るとしよう。
「アリシアちゃんの胸小さくて泣きつく時クッションが無くて困りましたヨ」
「……あんただんだんあいつやマリアさんに似てきたわね」
頭をゴチンってグーでゲンコツされたけど、暖かい。
いつも通りティナちゃんがここでやって来た。
どんな時でも皆は揃う。
「ごめんね……取り乱しちゃって……」
ティナちゃんは不安でいっぱいいっぱいなのに私に気を遣ってくれている。
ステラちゃんも日は浅いけどもう友達だ。
心配して来てくれた。
後はアルス君と姉御だけ。
大丈夫、きっと来てくれる。
これからも皆一緒に笑い合える。
そう信じて私達は待ち続けた。
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一番つらい役を引き受けて、仮面を被って、自分が辛くても皆の為に頑張れるニーナの本音と不安を共感してもらいたくて、白紙の日記を続かせる構成にしました。
当時はニーナ押しではなかった筈なのに、今こうして読み返すとずいぶんニーナ押しな内容の話が多い気がします。
ドラクエ3の商人はオーブを手に入れる為の道具ではなく、仲間なんだという想いが当時からあったのかもしれませんね。
皆さんも商人をしっかりむかえに行ってあげましょう。