【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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マリアの事情を少し。


外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.4マリア

 むせ返るような血の臭いと肉の焼ける悪臭。

 幼い頃のことだ。

 私は普通の女の子だった。

 

 平和な小さな村だったけど、だからこそみんな仲良く、みんな良い人だった。

 だから魔王『バラモス』を許せなかった。

 世界の平和を脅かす怪物に従うのは嫌だ。

 

 私も当然のようにそう思っていた。

 

 『アリアハン』の勇者オルテガと合流して女子供は『ロマリア』に避難するそうだ。

 受け入れ準備も整って次の日に船が出港するその日、魔王軍が村を襲った。

 

 初めに毒の霧を撒き散らして弱いものはそこで死んだ。

 私は運よく死ななかったけど動けなくなった。

 次に動ける者を魔物達が襲いだした。

 

「『バラモス』様に逆らった罰だ。苦しむがいい!」

 

 すぐには殺さずにじわりじわりと痛めつけて一人ずつ戦える者を殺していく。

 それでもみんなは戦った。

 よく戦った。

 大切な者を守るために戦った。

 

 だから魔物もひるみ始めた。

 ほんのわずかだが希望が見えてきた。

 

 

 

 

 

 そして『バラモス』の登場で絶望に沈んだ。

 

 

 

 

 

 圧倒的だった。

 とても勝てる相手ではなかった。

 戦える者は全て殺された。

 父も、殺された。

 絶望の中涙も出なかった。

 

 目の前で母が生きたまま腸をむさぼられている中、私は叫ぶこともできなかった。

 友達が殺されていく中、私は、まだ生きている。

 いつの間にか静かになっていた。

 

 苦しい。

 辛い。

 もういいから、殺してほしい。

 

 

§

 

 

 一瞬意識が飛んで悪夢を見た。

 

 確か私は倒れたんだったな。

 毒に蝕まれた身体を酷使しすぎたか。

 どうもあいつらと一緒だと、昔の平和だったあの頃のようにはしゃいでしまう。

 

 薬が切れて苦しい。

 痛み止めだけでも飲みたいところだが、生憎体が動かない。

 敵は私の最後の一撃で近くの奴はあらかた片付いたようだが、私もそこで意識を失って地面に叩きつけられたらしい。

 

 

 頭から落ちて即死しなかったのは幸い……いや不幸と言うべきか。

 

 

 どの道動けない私は魔物にもてあそばれて殺されるか、母のように生きたまま腸を食らわれるか、即死させてもらえるかのどれかだ。

 自害しようにも舌を噛み切るだけの力すら残っていないのが悔しい。

 敵に見つからずにすめば……このまま薬を飲めずに死ぬだけだ。

 

 

 これが、絶望か。

 

 

 私の村が滅んだ時と同じだ。

 ただ死を待つだけ。

 

 まあ、これもいいか。

 どうせ私は運よく『バラモス』に見つからず、運よく一人生き残りオルテガに助けられただけだ。

 少年達が生き残っていれば成長して『バラモス』を倒してくれるだろう。

 

 

 でも、悔しい。

 

 

 オルテガに助けられて、沢山世話を焼いてもらったのに私は幼すぎて役に立つことが出来なかった。

 そしてオルテガの息子のアルスに会えたのに、何もしてやれないまま終わった。

 

 

 私は何のために生き残ったのかと初めオルテガに泣きついた。

 人は生きているだけで良い。

 生きていれば無限の可能性がある。

 誰にだって幸せになる権利はある。

 そんなようなことを言っていた。

 

 

 その言葉で私は思い出した。

 滅んだ村で私を見つけたオルテガは泣いていた。

 救われたのは私だけではなくオルテガもだった。

 たった一人だけど命を助けることができた。

 誰一人生き残っていなかったら彼も絶望の底に沈んでいただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きていて良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言っていたのだ。

 昔も、今もこの()()は。

 

 まったく敵が私のところに来ないと思ったら来てしまったらしい。

 こいつ等はもうどこまでお人よしの親子なんだ。

 他の皆の姿がないから、多分ニーナに任せたのだろう。

 酷いことをする奴だ。

 

「隊長、あんたは貴重な戦力なんだから勝手に死んでもらったら困るんですけどねぇ」

 アルスは私の無事を確認したら笑いながらそんなことを言った。

 身体中ボロボロなのに、よくもまあたどり着けたものだ。

 

 

 そんな姿でそんな笑顔をされると、まともに顔を見られないではないか。

 お前はどこのヒーローだ。

 

 

 とにかく、せっかく無茶してきてくれたのだ。

 ここは存分に甘えさせてもらおう。

 

「……ふくろに……くすり……」

 

 多分こいつのことだ、これで気付いてくれるだろう。

 予想通り私の道具袋をあさって薬を全部取り出して並べてくれる。

 

「いっぱいあるな。15種類全部1錠ずつでいいのか?」

「……私を殺す気か……ラベル07、08、12、14……1錠……」

「あいよ」

 

 アルスは右手でキャップを外して右手で薬を取り出してまとめて私の口に入れた後、右手で自分の道具袋から水を出して私に飲ませた。

 

 正直飲み込むのが辛い。

 でもせっかく左手が使えなくなくなるまで戦ってここまで来てくれたんだ。

 飲み込もう。

 それに吐き出したら死亡フラグが立ちそうで怖いしな。

 

 とにかく、後は安静にしてれば時期に動けるようにはなるだろう。

 アルスもそれまで待ってくれる。

 

 

 

 

 無言で震えている私にマントをかけるな。

 頼むから何もせずにただ待ってくれ。

 

 

 

 

 体内時計が完全に狂っていて正確な時間は分からないが5時間くらいか、ようやく私の身体は落ち着いてくれた。

 

「すまんな少年。このお礼は身体で払うべきかな?」

「なっ」

「はっはっは。冗談だ。本気にするとは本当に少年は可愛いな」

 

 手の震えはまだ止まらないし激しい運動はできないが少年をからかうことは出来るようになった。

 これで今までの仕返しが出来そうだ。

 

「たく……で、『ノアニールの洞窟』から気になってたが……どういう状態なんだ、その身体は」

 だけど真面目モードの少年はすぐに本題に入って面白くない。

 だがアルスには話しておくべきだろう。

 

「毒だ。私の身体は魔王が放った毒で蝕まれている。私の村は魔王軍に襲われて滅んだんだ。その時、私はお前の父親オルテガに助けられた」

 私がそう言うとアルスは呆然としていた。

 16歳の少年には少しキツイ話だったか。

 

「じゃあ隊長の貧乳はその毒で」

「ここでファラオと添い寝がしたいか。そうかそうか」

「すみません、冗談です」

 

 私が『鋼の剣』を向けるとアルスは土下座をした。

 こいつは空気が読めるのか読めないのかいったいなんなんだ。

 掴みにくい男だ。

 

「まあお仕置きは後で考えるとして真面目な話に戻すが、見ての通り薬漬けでかろうじで生きている。私がなぜこんなコートを着ているか分かるか?」

 

 毒で私の身体は蝕まれていて変色している部分もあれば、消えない傷だっていくつもある。

 それを隠すためのコートだ。

 顔の傷は治ってくれたのは女としては嬉しいが、とても女として生きていける身体ではない。

 

「そして魔王に復讐するために、少年……君を利用しようとした」

 それが私だ。

 オルテガに恩返しの意味をこめてアルスを育てようとも思ったが、どうしても復讐の気持ちの方が大きい。

 

 

 皆の敵をとりたい。

 

 

 だから仲良くするつもりはなかった。

 表面だけで笑って、からかって、好き勝手にやるつもりだったのに、こいつらの輪は居心地が良過ぎた。

 

「まあ俺はそれでもいいと思うぞ。隊長は割りと良い人だし、利用されていたとしても害はないし。俺だって何だって利用する。仲間の為ならどんな卑怯なことでも卑劣な手でも使う」

 

 確かにアルスは普段優しい苦労人だが、何だって一人で抱え込む苦労人でもある。

 そして何よりも仲間が全員生き延びる為なら、酷いことだと分かっていてもニーナに仲間のことを任せる。

 その結果どうなるか分かっていても全員無事生還できる可能性を迷いなく選び抜く。

 ある意味非情とも言えるかもしれない。

 

 だけどその反面ひどい事をしたと分かっている分、自分の心を痛めているどうしようもない【くろうにん】なんだ。

 

 

「君の言動はどこまでが本心なんだ」

「皆のいる平和な世界を作りたい。ただそれだけだ」

 その“皆のいる世界”にはおそらくアルス自身が含まれていなくっても満足なんだろう。

 

 自己犠牲の塊の親子に私は二度も助けられた。

 だから今度は私が守る。

 『バラモス』を倒すまで私の体が持つか分からないが、アルスを守る。

 それがきっと私に出来ること。

 アルスよりも強い私の役目だ。

 

 

 

 

 

 彼がみんなの盾になるというのなら私はアルスの剣となろう。

 

 

 

 

 私の体がまともに動くようになったからアルスを踏み台に崩した床を飛び越えて地上に続く階段まで戻る。

 その後アルスを引き上げて外に出たら【ルーラ】をしてもらおうと思ったが、引き上げるとアルスは気を失ってしまった。

 

 まあ地下に出てきた魔物全てを倒したんだ、よく私のところにたどりついて冗談を言ってくれたものだ。

 それにしても良い笑顔で寝ている。

 

 

「まったく、私には少し眩しすぎるぞ」

 昇る朝日はとても眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書14―アルスの日記―

 今日は『ピラミッド』を本格的に捜索した。

 宝箱が空っぽだったり『人食い箱』だったりして二人やられて教会へ。また俺の防具が遠のいていった。で、再チャレンジしたら落とし穴。噂の魔法を使えない空間だ。

 隊長が隠し階段を見つけて地下に突入。ステラの目的『黄金の爪』を手に入れた。

 呪があるとは聞いていたけどこんなにモンスターが出るとは聞いてないぞ女王イシス!

 無事帰れたと思ったらまさか隊長が倒れるとは思いもしなかったが救出に成功。やべぇ、俺ってカッコいいかも。すこし出るのに手間取って朝になってしまってみんなに心配かけてしまったようだ。ニーナみんなの世話ご苦労様。

 それと稼いだGはいいから拾ったものはみんなの道具袋に入れておけよ。それと宝箱モンスターは警戒するように!

 

 




強いけど体に欠陥を抱えて本気で戦える時間が限られているというのもロマンだと思います。
話しのモチーフは当時好きだったFateエミヤ(切嗣との出会い)とWA4ラクウェル。
それにしてもこのバラモス、アクティブである。
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