【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

29 / 81
この章からドラクエ3に入れた異物が徐々に顔を出し始めます。
物語のスパイスだと思って生暖かい目で見てやってください。


第四章「ポルトガ編」
プロローグ


 誰かと遊んでいる夢を見た。

 

 勇者になる為に辛いことも沢山あったけれど、アリアハンは俺の庭みたいなもので、今では大人も子供も皆友達で、国の人の名前を全員言えるし顔だって覚えている。

 筈だった。

 

 遊んでいるのは俺の親友だ。

 ティナよりも後アリシアの前に友達になった奴だ。

 

 いつも笑顔で、皆の笑顔が好きな奴で、皆の為に頑張って、誰よりも優しい奴。

 それなのに、どうしても顔を思い出すことが出来ない。

 

 

 勇者になる訓練で身も心もボロボロで荒んでいた俺に手を差し伸べてくれた筈なのに、名前も声も性別すらわからない。

 

 

 俺と顔のない誰かが輪の中心になって遊んでいる光景をただ見ているだけの夢。

 途中で顔のない誰かが傍観者の存在に気付いた。

 

「ダメだよ、私に気付いたら」

 

 そこで夢はいつも終わる。

 

 

§

 

 

「アルス、起きてる?」

 部屋をノックする音とティナの声で目を覚ます。

 どうやらお越しにきてくれたらしい。

 

「マリアさんとアリシアちゃんが待ってるよ?」

 二人と朝錬をやることになっていた。

 何だか気だるいのでもう少し寝ていたい。

 

「あと一時間……」

「それだとアリシアちゃん怒っちゃうよ。ドア開けるけどいいよね?」

 俺の返事も待たずにティナが部屋のドアを開けて中に入って来た。

 いつも優しいティナだが世話を焼くという面では問答無用なところがある。

 有無を言わずに布団を引っぺがされた。

 

 俺はシャツとトランクスだけというスタイルで一人の時は寝ている。

 ティナは「ごめんね」と顔を赤くして謝っているが、布団は返してくれないで俺が完全に放置状態だ。

 

「お前な……もう少し考えて行動してくれっ」

 夢見が悪かったこともあって少し強く言い過ぎていたのかもしれない。

 アリシアなら「怒鳴ることないじゃない。せっかく私が起こしに来てあげたのに」みたいに言い返すしニーナなら茶化してくれるがティナはそこまで器用ではない。

 

 

「……あ……ごめんね。アルスいつも疲れてるもんね……。それを考えずに私って馬鹿だよね……。本当にごめんね」

 

 

 今にも泣き出してしまいそうになっている。

 しかも考え方の方向性がまったく違うようで深刻に考えすぎている。

 頼むから泣く前に布団返すか足元に転がっているズボンを取ってくれ。

 俺はいつまでパンツ一丁でいないといけないんだ。

 

「いや、なんだ。いきなり布団なんてはいだら俺の息子がアレな状態になってるかもしれないし、そんな疲れているとかそういうのではなくなんだ。俺を一男子として頭に入れて行動して欲しい訳だ」

 俺は怒ってないとフォローを入れたつもりだったのだが、やはり泣き出してしまった。

 

「あーもう泣くな! 別に怒った訳じゃないから。起こしに来てくれたんだろ? いや~助かるよ。俺って朝に弱いから~」

 とりあえずフォローを入れながら頭を撫でてやるとティナが俺の胸に泣きついてきた。

 ティナも夢見が悪かったのか今日はなかなか泣き止んでくれない。

 

「ちょっとあんたいつまで人を待たせる気よっ」

 今度は無断で入ってくるどころかノックすらしないアリシアがドアを蹴飛ばしてきた。

 

 シャツとトランクス姿の俺にベッドの上でティナが布団を握り締めて泣きついている姿は、今は言ってきたばかりのアリシアにはいかがわしいものに見えてくる訳だ。

 

「えっと……」

 不意の出来事に弱いアリシアは一瞬戸惑いを見せている。

 でもすぐに鬼のような形相でずかずかと俺の方に向かってきた。

 

「ティナ泣いてるじゃないのよっ! あ、あ、あ、あ、あ、あんたはいくら欲求不満だからって大人しいティナにそんなことをっ!」

 

 

 そんなことってどんなことか口に出してもらおうか。

 なんて冗談を言える様子ではない。

 

 

「アリシアちゃん……違うの……悪いのは私でっ……」

「あんたはティナの優しさを踏みにじったっ。そういうこと無理矢理する奴じゃないと思ってたのに!」

「落ち着けアリシア。お前は何かを誤解している」

「弁護は閻魔様にしろー! この【むっつりスケベ】ッ!」

 

 こうして今日も【くろうにん】の朝が始まった。

 なのにまたアリシアの一言で性格が【むっつりスケベ】に変わる。

 俺の性格はどうしてこうも安定しないんだ。

 

 何とかティナの必死に説明してくれたからその場は98ダメージですんだが、続けられていたらボコボコにされるを通り越して撲殺されていた。

 恐るべしアリシアパワー。

 

 とにかく二人に正座させる。

 説教の内容は勝手に部屋に入ったことと勝手に勘違いして場をかき回したことだ。

 無論この時俺は服をきる時間もなくそのままの状態で説教していた訳であって、

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! 姉御が余りに遅いから女の子つれこんでるんじゃないかって、って、はわ! 女の子二人正座させて何だか怪しい光景になってる!? これは青臭い過ちか。過ちだね過ちだね青春だね! 姉御姉御あ~ね~ご! すごく面白い光景になってますヨ! ステラちゃんも早く早く大スクープだよ!」

 

「ニーナ、お前も場をかき回さんでくれ」

 すぐに【くろうにん】に戻る朝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書18-アルスの日記―

 忘れないうちに書いておく。

 ティナに布団を引っぺがされてアリシアにボコボコにされてニーナに皆を呼ばれた。

 お前ら後でまとめて報復攻撃するから覚悟しとけよ。

 

 




そんなこんなで『ポルトガ編』始まります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。