【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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星降る腕輪は勇者の切り札。
これがあるのとないのでは難易度が一気に変わりますよね。


第一話「ロマリア関所を越えて」

 朝とんでもない目にあったけど、女王イシスに夜な夜な枕元まで『星降る腕輪』を取りに来て良いですかと訊ねたところ、『ピラミッド』のモンスター撃破のお礼として貸し出してくれた。

 

 ものは言ってみるものだ。

 

 予定通り『ロマリア』に【ルーラ】して『ロマリア関所』へ向かった。

 いよいよ『魔法の鍵』の出番だと胸を躍らせていたのに、隊長が「皆のお姉さんが来てやったぞ。3分間だけまってやる」なんて扉の前で笑いながら言い出したら慌てて兵士が扉を開けてきた。

 「扉だってGが掛かるんです」と泣いて土下座をしている。

 

 

 俺の手の中の行き場の失った『魔法の鍵』はどうすればいいんだ。

 

 

「どうした少年」

「いや……なんでもない……」

 ちょっと切ない。

 

 そのせいで俺の足が重かったこともあり、『ポルトガ』に着く前に日が落ちてしまって今日は久々の野宿になった。

 

 ティナが鼻歌交じりでシチューを作ってくれている。

 その間俺がアリシアとニーナとステラを相手に模擬戦だ。

 隊長は小休憩中で参加してない。

 

「アルス君アルス君アルスく~ん! また強くなった? 強くなったよね。というか強すぎだー!」

「はぅ!? これではまるで私達がどんくさくて攻撃が当たらないみたいじゃないですか~」

「あーもう! 避けるなっ!」

 

 『星降る腕輪』の【素早さ】2倍は素晴らしい。

 常に全力で動ける。

 今まで目で見えていても体の方が反応しきれなかった攻撃が簡単に避けられる。

 

 ただ強制的に潜在能力を高めていると思うから、調子に乗って動きすぎると反動で身体を壊してしまいそうだ。

 加速の多様は止めて置いたほうが良いかもしれない。

 

「この【ベギラマ】!」

 アリシアのコントロールは少しだけ上達したようで割りとまっすぐ飛んでくる。

 今回は完全に直撃コースで『星降る腕輪』を使わなければ避けることは出来そうにない。

 

 このまま『星降る腕輪』で避けたら俺の特訓にはならないから、ここらで新必殺技でも試しておこう。

 

「【メラ】!」

 まずは【メラ】をコントロールしてそれを『鋼の剣』に灯す。

 俺は魔法より攻撃の方が強い。

 なら攻撃に魔法を上乗せすれば普通に魔法を使うよりも強い筈だ。

 

「名づけて【火炎切り】!」

 

 おそらく通常攻撃から1.1倍ほど威力が増す程度だろうけど充分だ。

 それに【メラ系】が効きやすい敵なら1.5倍くらいの威力アップは見込める筈。

 作品の枠を超えたナイス発想だ。

 

 予想通りの威力で俺の【メラ】が灯った『鋼の剣』はアリシアの【ベギラマ】を切りばらえたが、

 

「ありゃ?」

 

 魔力と魔力がぶつかった衝撃で俺の体が吹き飛ばされた。

 思った以上にアリシアの【ベギラマ】の威力が上がっていたらしい。

 

「アルス!」

 アリシアが叫んだ。

 俺の吹き飛ばされた先にはティナがいて、シチューを作っている訳で、ぶつかったらそれがおじゃんだ。

 

 シチューだけならともかくとして、ティナにぶつかって怪我でもさせたら大変である。

 それでもティナはきっと、「私の不注意で」と自分のせいにして謝ると思う。

 俺の不注意のせいで涙ぐみながら謝るティナの姿なんて見たくない。

 

 ここは【ルーラ】で俺だけ移動して激突だけは避けるべきか、『星降る腕輪』の機動力任せで足を踏ん張るか。

 ここは『星降る腕輪』に頼るとしよう。

 

 

「ありゃりゃ?」

 

 

 空中で体を捻り体勢を立て直して足を踏ん張ると、勢いの割りに簡単に止まった。

 足にかなりの負担が掛かると思ったのに、まるで受け止めてもらったかのようにスムーズに停止する。

 

 

 

 

 怪我も負荷もなかった筈なのに、ズキリ、と頭が傷んだ。

 やっぱり何か大切なことを忘れている気がしてならない。

 

 

 

 

「アルスさん大丈夫ですか?」

「ねぇねぇ姉御姉御あ~ね~ご~。今の見た見た見た。今ねアルス君凄かったんだよ!? こうぐるんズザァーシュタッってどこの仮面ヒーローだー!」

 ステラとニーナが心配して俺に駆け寄ってくる。

 ニーナのこれは心配してるのだろうか。

 きっとしてるんだろうな、うん。

 

「あんたねぇ、避けるか防ぐかにしなさいよ。もしもティナまで巻き込んじゃったらどうするつもりよ」

「いやー、あれだ。新技が理論的に成立したから試したくなってだな」

「シチュー台無しにしてたら大怪我しててもただじゃおかなかったんだからね」

 

 それは怖い。

 こいつの中では俺<ティナのシチューのようだ。

 いや、まあティナの料理は美味いけどさ。

 せめて俺<ティナと素直に言って欲しいものだ。

 

「少年」

 俺が無理したことで隊長まで休んでいたのに腰を上げてきた。

「道具に頼っていてはいつまでも一人前の男になれないぞ。そのオモチャは私が預かろう」

 隊長が笑顔で『星降る腕輪』を取り上げた。

 それは【素早さ】が少ない【くろうにん】の支えなんだから勘弁してもらいたい。

 

 しかもちゃっかり自分にはめてるし。

 隊長にそんなものつけたら誰も逆らえないではないか。

 鬼に金棒とはこのことか。

 ちなみにステラがつけたら猫に小判といったところだ。

 

「アルスさん、今とても失礼なことを考えませんでしたか?」

「よく分かったな」

「はぅ!? そこは否定してもらいたかったです」

 ステラが少しへこんでいるが、まあすぐに立ち直るだろう。

 

「みんなー。ご飯できたよー」

 どうやらここでお楽しみの夕食タイムのようだ。

 今日も美味しくいただくとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書18-アルスの日記―

 忘れないうちに書いておく。

 ティナに布団を引っぺがされてアリシアにボコボコにされてニーナに皆を呼ばれた。

 お前ら後でまとめて報復攻撃するから覚悟しとけよ。

 女王イシスに『星降る腕輪』を借りていざ『ポルトガ』へと張り切ったものの、やはり『魔法の鍵』は使わなかった。割とショックで足が重くって今日は久々の野宿をした。

 新技【火炎切り】を編み出したが魔法を相殺する時は盾で防ぐ時以上に足を踏ん張らないとダメだな。今後気をつけよう。

 今日の夕食はティナの作ったシチューで美味しかった。

 

 




作品の枠を超えての【火炎斬り】。
地味ながらMP0の時代は頼りにしていた人は多い筈。
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