ただしこの小説では調味料がしっかり流通していることになっております。
『ポルトガ』について王に船を申請したら、別に貸しても良いんじゃないと軽い返事が返ってきた。
どうやら書類に目を通したりサインを書いたりと働き者の王のようだ。
それにしても仕事の効率がよくとても手が早い。
船の貸出料金は『アリアハン』に請求書を出し、『バラモス』討伐成功時の報酬として請求書を破棄して船をそのまま譲ってもらう方向で話はまとまった。
「うっ」
だがポルトガ王の手が急に震えだして仕事の手が止まった。
「『黒コショウ』がきれた……誰かコショウを……わしのコショウを!」
大臣が何かを持ってくるとそれをボリボリと食べ始めると、王の手の振るえが止まりまたまた仕事をし始める。
「もうすぐ王の『黒コショウ』が切れてしまう。どうか鉱山の奥地東方にある『バハラタ』で『黒コショウ』を取ってきてはくれんだろうか。ポルトガ王の使いだと言えばブツを渡してくれる筈だ。もしも取ってきてくれるのなら請求書も必要なく船を貸し出そう」
大臣の話はとても気前の良い話だが気になることがある。
「本当に『黒コショウ』なのか?」
「世の中には知らない方がいいこともある。中身を確認せずに『黒コショウ』を持ってきてくれたまえ」
どうやら船は口止め料でもあるらしい。
深く考えないようにしよう。
露店を見回っていると隊長が『鋼の鞭』をうっとりとした顔で見ている。
見なかったことにしよう。
そう思ったのに隊長に呼び止められた。
「少年は【くろうにん】で体力があるんだったな」
聞かなかったことにしよう。
「待て待てほんの冗談だ」
「本気の目でいわれても説得力がないぞ」
身の危険を感じたから“鋼の鞭”は買い与えないでおこう。
「しょうがない。このチェーンソードで我慢するか」
隊長は自分の『鋼の剣』に鎖をつけていた。「いつ外れるか楽しみだ」とのこと。
「何の嫌がらせだよ。俺の失態を見せびらかしてそんなに楽しいのか」
「ああ、少年をからかうのは最近一番の楽しみにしている」
今日の中で最高の笑顔を見せてくれた。
いままではどこまでが本気か掴みにくい人だったが、多分これが本気なのだろう。
人をからかうのがとても好きなようだ。
しかもOKを出すと楽しんでそれを実行しそうなのが一番怖い。
「アルス君アルス君アルスく~ん! 見てみてみて槍に鎖つけてみたよー」
「お前もかっ」
頼むから普通の武器を使ってくれ。
皆して武器が飛んでいって戦えなくなったらシャレにならない。
とにかくこれ以上武器に変なオプションがつく前に『ポルトガ』を出て鉱山に向かった。
場所は大臣に教えてもらえたから迷うことは無い。
「あんたが王様の使いか。本当は友が溺れていくさまなんてみたくねぇが……国を支えるためだ。道を作るぜ」
妙に渋いドワーフだ。「セイヤー!」の掛け声と共に拳で壁に穴を開ける。
なんて怪力だ。
「少年、今のなら私も出来るぞ」
隊長が壁を攻撃しようとしていたから止めておいた。
『ピラミッド』の床と扉を破壊できる隊長だ。鉱山が崩れかねない。
鉱山を抜けてしばらく歩いていくと綺麗な川が流れる小さな村にたどり着いた。
ここが『バハラタ』のようだ。
いつもは村山地に着いたら各自自由行動で俺がとった宿に後で集合するのだが、もう夕暮れ時なので店が閉まる前に分担作業だ。
ティナとアリシアが宿をとってニーナとステラが黒コショウの入手。
隊長に何やら街が騒がしいので情報を集めてもらい俺は皆の武器防具を買い揃える。
何か事件に巻き込まれてもこのパーティー分担なら皆後で合流できるだろう。
『鉄の盾』を買ったばかりなのに『魔法の盾』が売ってる。
隊長は盾なんて要らないと言っていたからニーナとティナに買っておこう。
後アリシア用に『理力の杖』も買っておこう。
きっと戦士並の攻撃力が期待できそうだ。
買い物を済ませて宿に戻ろうとしたら女の子がぶつかってきた。
謝りもせず走り去って行ったからまさかと思って確認してみると財布が無い。
盗られた感覚がまったく無かったから手慣れたプロの仕業だ。
俺は慌てて追いかけると気づくのが早かったおかげで何とか追いつけた。
「捕まえたぞ、泥棒猫」
髪は白い。服はボロボロの服。おそらく引き取り手がいなかった孤児だろう。
ステラより小さな140センチくらいの女の子だ。
モンスターがうろついている世の中だから珍しいことではない。
ただあまりに少女の表情が無表情すぎて、手を掴んでも眉一つ動かさなかったことには驚いた。
「……殺すの?」
静かな声で少女はそう言った。
色々飛んですごい発想だ。
「いや」
「……捕まえるの?」
まあ妥当な発想だ。
村の自衛団に引き渡すのがセオリーだが少女のお腹がくーと鳴っていて、俺のこのお人よしは悪い癖だろう。
広場にワッフル屋があったからそれを買ってあげていた。
少女はその行為に相変わらず表情を変えずにただ俺の顔をじっと見ている。
「腹が減ったら辛いからな。今度は捕まるようなヘマすんなよ」
本当は盗みなんてせずにちゃんと食べてもっと表情豊かになる生活を送れればいいのだが、そう簡単に生活を変えることはできない。
簡単に変えられるのなら少女は盗みなんてしない。
少女は無言のままワッフルにかじりついた。
モグモグと止まることなくすぐに食べきると、じっと俺を見つめている。
「おかわりか?」
そう聞くと首を縦に振る。
でもワッフルだけというのも健康上どうかと思う。
宿につれて行くべきだろうか。
そんなことを考えているうちに2個目のワッフルもたいらげていた。
「……いい人?」
どうもこの子は主語しかなくて読み取りづらい。
「……変態?」
「確かに見ず知らずの女の子にワッフルを買い与えるお兄さんはちょっと怪しいが変態じゃないぞ。断じてない!」
俺がそう言うとまたじっと俺を見つめてきている。
喋らない奴はどうも扱いが分からない。
おせっかいかもしれないけど俺はこの少女を放っておく事ができなくて宿に連れ帰った。
「アルスさんお帰りなさい。『黒コショウ』は店が閉まっていて受け取れませんでした。どうやら店主の娘さんが誘拐されてしまったみたいで」
「その誘拐事件で村中騒いでいるみたいだな。ところで少年、その可愛いらしい少女はどこで誘拐してきたのだ?」
隊長の冗談交じりの一言で皆の目が連れてきた少女に行く。
「あんたの仕業か誘拐犯っ!」
当然ながら事情を放す前に先手でアリシアに殴られた。
「待て待て話を聞け。というか考えろ。俺達がこの村に来る前から村が騒がしかっただろ。もしもこの少女がさらわれた娘だとしても俺が助けたという選択肢はないのか」
「そうだよアリシアちゃん。アルスはそんなことする人じゃないよ」
「でもアルスさんって結構スケベですよねー」
「はわー、これはもう真相はこの子から聞くしかありませんヨ。ねぇねぇねぇねぇアルス君に何かされた?」
ニーナが目線を少女に合わせるように腰を少しだけ低くして離しかけた。
「……ワッフル買ってくれた」
「はわ!? これはまさしく誘拐の手口! まさしく若さゆえの過ちだね。みとめたくないね。っていうかこれって犯罪?」
「ア ル ス……あんたはっ!」
「そうじゃなくってお腹を空かせてたからパンのヒーローのような振る舞いをしただけでだな、お前も何かフォローしてくれよ!」
俺は少女に目線を送るが興味が無いのか相変わらずの無表情でただ立っている。
あー、あれか。
へたなおせっかいは身を滅ぼすだけってか。
なんで俺はこうも【くろうにん】かねぇ。
俺は散々アリシアにたこられて(面白半分にニーナと隊長も参加)ボロボロになっているところ、少女のお腹が鳴ってティナが「ご飯にしよう」と上手く場をまとめてくれた。
皆の食卓で少女の名前などを聞いてみるが少女は食事にしか興味が無いのか食べるだけで答えてくれない。
とりあえず隊長の部屋においておくことにした。
「すまない少年、頭をなでようとしたら逃げられてしまった」
らしい。
まあ今日はお腹いっぱい食べられたみたいだしよしとしよう。
明日は攫われたコショウ屋の娘を取り戻しに盗賊のアジトに行くことにした。
『ポルトガ』で船を手に入れる為に『バハラタ』まで『黒コショウ』を取りにいったが、誘拐事件があり店が閉まっていた。
『魔法の盾』を購入した帰り道に少女に財布を盗まれて、捕まえたら腹が減っているようだったので宿に案内したら皆にたこ殴りにあった。お前ら事情を聞け。
で、隊長が悪戯をしようとして逃げられてしまったらしい。この少女も気がかりだが今は誘拐事件の解決が先決だ。速いところ『黒コショウ』を手に入れて船を貸してもらおう。
不愛想なロリっ子盗賊登場。
お巡りさんこの勇者です。