【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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くろこしょうを飲むと元気になれるよ(目を反らし


第三話「カンタダ再び」

 盗賊の正体に俺は正直驚いた。

 

 カンダタだ。

 誘拐なんて真似はしないと思っていたのに、なぜこんな事になっている。

 それに子分の人数が一人足りない。

 何かあったのか。

 

 

「見損なったぞカンダタ」

「何とでも言うが良い! こい小僧!」

 

 

 俺が強くなったと同様にカンダタも強くなっている筈なのに動きの切れが全然無い。

 まだ前回の方が動きが良かった。

 気迫が全く感じられない。

 

 もしも前回の気迫でこの強さだったら補助魔法なしでは辛かった筈だ。

 なのに補助魔法を無しで正面から押せてしまっている。

 

 

「へっ、強くなったな」

「あんたが弱くなっただけだ」

「……そうかもな」

 

 

 剣と斧がぶつかり合う。

 子分は隊長達が倒したから後はカンダタだけだ。

 カンダタは前回と違い負けを望んでいる。

 

 【火炎切り】が決めてになってカンダタは膝をつき、また命乞いをしている。

 

 俺が思っていたほど大物じゃなかったのか。

 仲間の為に動いていた訳じゃないのか。

 分からない。

 俺はどうすればいい。

 

 一瞬このまま剣を振り下ろそうかと迷ったけど剣が重い。

 どんな悪人でも命は大切だ。

 それにもう少しカンダタを信じてみよう。

 

 

「また許すのか少年は」

 隊長は溜息をついていたがどこか満足そうだった。

 俺の選択肢は間違ってないよな。

 カンダタが次は前のカンダタに戻っていることを祈りながら後姿を見送った。

 

 

 

 そう、俺はこれでいい。

 甘いままのお人よし勇者でいいんだよな?

 

 

 

 カンダタの罪を前回許してしまったことで、今回の誘拐に繋がってしまった気がして少しへこんだ。

 

 

 コショウ屋に行くとお礼として『黒コショウ』を貰えた。

「娘の命の恩人だから忠告しておきますけど……絶対に舐めたり食べたりはしないでください。こっちが普通の『黒コショウ』ですから」

 

 俺達用に普通の『黒コショウ』も貰った。

 普通じゃない方は空けずにそのままポルトガ王に渡しておこう。

 おそらく麻薬か何かの摂取したら不味い成分が含まれているに違いない。

 

 ティナが間違えて使わないように危険物のラベルを貼って、どういうものかを説明したらティナとステラが苦笑していた。

 

「とりあえず今日は自由行動。俺はまた羽を外させてもらうぞ」

 少しだけたそがれる時間がほしいから一人になった。

 

 

 沈む夕日が俺の心と同じでとても悲しそうだ。

 ってなんだこのポエムは。

 こういう沈んでいるときこそ楽器の出番だろ、俺。

 

 ギターを弾いてみるが何だか切ない曲になってしまう。

 ヴァイオリンとオカリナも似たり寄ったりだ。

 どうも俺の音楽は気分に影響されすぎてダメだな。

 

「やれやれ、どうしたものか」

 時間を持て余した俺は楽器をしまい芝生に寝っ転がる。

 何も考えたくなくて目を閉じて、ただただ風を感じることにした。

 

 

 

 

 

 

 ガサリ、ガサリ、と芝生を踏みしめる音が近づいてくる。

 

 

 

 その物音に目を開けると昨日の少女がいた。

 また無表情で俺を見下ろしている。

 無言だが少女のお腹はくーと鳴っていた。

 どうやら昨日の一件で俺を餌場として認識したらしい。

 

「何か食うか?」

 くーと少女の代わりにお腹が答えた。

 

 携帯食を使って簡単な手料理を作ってやることにした。

 少女は俺ではなく作られていく料理をじっと見ている。

 

「俺はアルスっていうんだ。お前は?」

 聞いてみたが答えてくれないし見向きもしない。

 おせっかいで与える印象なんてこんなもんだ。

 俺はここからすぐ旅立たないといけないし、この少女は食べ物を求めているだけで俺に興味が無いからついては来ない。

 

 

 それが分かっていても悔しい。

 

 

 アリアハンという国全ての人間を友達に出来たこの俺が、こんな小娘一人の返事一つもらうことができない。

 所詮は勇者の肩書で仲良くなっただけなのだろうか、仲の良い振りをしているだけなのだろうか。

 そんなふうには思いたくなくて、嫌な考えを振り払う。

 

 勇者なんかではなく俺だから皆と仲良くなれたのだ。

 仲良くなろうと駆けまわって仲良くなったのだ。

 

 そう思うと俺のハートが久々に燃えてきた。

 絶対こいつと会話してやる。

 とりあえず今日は餌付けしながら質問攻めにしてみたけど効果はいまひとつだ。

 食事が終わったら猫のようにぴゅーっと逃げていった。

 初日なんてこんなもんだ。

 焦らない焦らない。

 

 

「アルス元気でたみたいだね」

「フラグ立てるのに落ち込んでられるか」

 相変わらずティナはへこんでいた俺の心配をしてくれていたようだ。

 

 しばらくはこの村で少女を喋らせるのが目的になった。

 アリシアがじと目で見てくるが、俺はロリコンじゃないからそこのところは間違えるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書20―アルスの日記―

 カンダタからコショウ屋の娘を救出して無事『ぶつ』を手に入れた。

 しかしカンダタはなぜ人攫いなんてしたのだろうか。きっと俺と違ってもてなかったのだろう。

 さてハーレム状態の俺な訳だけど口すらまともに聞いてくれない少女が出現した。こいつは俺のアイデンティティークラッシュだ。

 絶対に喋らせてやる。

 

 




悪人をさばかずに許す以外を選択することしかできない勇者はお人好し。
カンダタの子分が一人減っている理由などなど後々回収します。
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