【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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本来アサシンダガーは一定確立ですが、この作品では【ザキ】属性となっております。
HPの高いイカにはザキに限る。


第五話「消えた時間」

 海の魔物は戦い辛い。

 

 船に乗りこんで来たら楽だけど、大体は海の中から襲ってきて打撃や炎だとどうも戦いにくい。

 小船を下ろしてそれを足場に戦っているこっちの身にもなって欲しい。

 

 でもフィリアが隊長俺と続いて三位に続く強さだ。

 とにかく素早く身をかわして、直撃コースに入っても受身を取ったりナイフで捌いたりと防御能力も高い。

 

 何よりも初期装備が『アサシンダガー』を装備していたのが大きすぎる。

 海のモンスターのほとんどがフィリアの攻撃で昇天してしまうのだ。

 

 僧侶のティナ、少しは見習って【ザキ】でも覚えてくれ。

 

 だけど正直皆よく頑張ってくれている。

 だから油断したのかもしれない。

 

「【火炎切り】!」

 『大王イカ』を切り裂いたこの一撃が俺の運命を大きく左右した。

 

 ついでに言うと、『痺れクラゲ』の大群に襲われてティナとニーナとステラが麻痺して、敵を払いのける為に【ベギラマ】を撃ったのも大きかった。

 

 ようは【MP】が尽きた訳で、ついでに言うとアリシアが『大王イカ』に捕まったのを助けに飛び出して、『大王イカ』に剣を突き立てたまま一緒に海の藻屑になったのが一番大きい。

 

 アリシアは装備が身軽な分すぐに無事船に回収されている。

 だけど俺の『イシス』で買った鉄セットはとても重い。

 頼みの綱の【ルーラ】が使えなくって慌てて鎧を脱ぎ捨てようにも外れてくれない。

 

 

 

 苦しい。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 気が付くと教会や城ではなく浜辺にいた。

 鎧は脱げたのか着ていない。

 仲間の姿も無い。

 運よく俺はどこかの浜辺に打ち上げられたのだろうか。

 

 【HP】はなぜか回復しているが、休憩時間が足りなかったようで【ルーラ】が使えない。

 

 共有の道具袋は船の中だし、もちろん俺のふくろは武器防具と楽器しか入っていない。

 

 

 

 

 

「気が付いたんだ」

 

 

 

 

 誰かの声がしたのに姿が見えない。

 

「死んだ後棺おけにつめて送り返してもよかったんだけど、水死体ってなんか嫌だったからね。ちょっと規則違反だったかな?」

 

 女の子の声だ。

 そして俺はこの声を聞いたことがある。

 ゆっくりと人型のシルエットが見え始めた。

 

 姿を消す魔法【レムオル】だろうか。

 相手の紫色のマントが風でなびいた。

 

 その姿はまるで、いや俺の服装と瓜二つだ。

 髪も俺ほどではないが癖っ毛が有り立っていて、遠くや暗いところで見ればティナ達でも見間違えるだろう。

 しっかり見れば胸の膨らみや染み一つない綺麗な顔つきから別人だと気付ける筈なのに、しっかり見てもなお鏡を見ているような錯覚に陥ってしまうのはなぜだろう。

 

 

 

 

 

「久しぶり、と言っても覚えてないか。私は教会からの指令でアルス君達の棺おけや全滅した時の処理を任されているアリスだよ」

 

 

 

 

 アリスと名乗る少女は笑ってみせた。

 ずっと仲間や俺が突然棺おけになるのが少し不思議だと思っていた。

 【棺桶の加護】とはそういうもので、精霊の加護であると教えられていたから、原理はわからなくてもそう言うものだと納得してきた。

 

 

 まさかそれが【レムオル】で姿を消した黒子が存在が行っていたとは驚きだ。

 

 

「後、冒険の書に無理が出た時の修正もしているかな。勇者と黒子の位置が逆転したことがあってアレはちょっと焦ったかな」

 

 いつのことか心当たりが無い。

 ない筈なのに、ズキリと頭に痛みが走る。

 まるで俺の脳が思い出すのを拒んでいるかのように、思い出そうとすると痛むのだ。

 

「待て、そもそも【レムオル】は魔物には丸見えの筈だ。もしも棺おけ管理で一緒についてたんなら」

「私はアルス君の影だからね。あ、影と言っても別人だよ? ただ永遠の裏方って言うか……()()()()()()()()()()()()()()()()、時にはアルス君と入れ替わってるから。【レムオル】の最上位魔法って感じかな。私は姿をみせるまで誰の記憶にも残らない。初めからいなかったことになってるの。今なら私の顔、思い出せるでしょ?」

 

 

 アリスがそう言うと頭の痛みが無くなり、失われていた記憶が戻って来る。

 ティナの後アリシアの前に友達になった少女。

 雰囲気はかなり違うが今はなぜか少女の姿を、声を賢明に思い出すことが出来る。

 名前はアリスだ。

 絶対に忘れることのないくらい仲が良かった俺の友達。

 

 これが【レムオル】の最上位魔法の効果か。

 効果を解くまで他者との関係を無かったと錯覚される魔法といったところだろうか。

 そんなとんでもない効果だとしても、俺は大切な友達のことを忘れていた。

 

「……アリス、お前はいつからそうやって存在を消していた。一体いつから自分の人生を消してきたんだ」

「あ、やっぱりアルス君は怒るか。でもね、私がいなかったらもしもの時……勇者がいなくなっちゃうから。それに誰でもこの魔法を使えるわけじゃないし」

 

 海を泳いで渡ろうとしたニーナを棺おけにつめて海岸に運んだのは多分アリスだろう。

 それに俺と入れ替わるという言葉も気になるところがある。

 

 たとえば冒険の書3。

 俺の書いた嘘記事だが、俺の記憶では『マダラグモ』のところに行って臆病な『マダラグモ』に軽く威圧をかけることで引き下がってもらった。

 そして『ポイズントード』に襲われたアリシアを見守って毒けし草をそっと置いた。

 

 この二つの事実があり【ルーラ】で時間を短縮したことになっているが、それでも時間的に無理が出てくる気がしてきた。

 

 二つの事件はほぼ同時に起こってアリシアの後すぐにニーナが帰還した。

 『マダラグモ』や『ポイズンポード』から目を放した記憶は俺には無い。

 

 

「その矛盾が私。私はアルス君がいけなかった方に行ってアルス君と同じ行動を取った。そして存在を消せばあら不思議。その消えた時間を埋め合わせるためにつじつま合わせが出てくる。そう私のこの会話すらつじつま合わせかもしれないね」

 

 

 それが本当なら何度もアリスに助けられたことになる。

 だけどこれでは勇者を生かすための生け贄と同じだ。

 

「優しいアルス君は心を痛めただろうけど、それを知っている私が何でこんなこと話したか分かる? 分かるよね。アルス君は頭も良いから」

 

 存在を消す魔法。

 それを使われたら多分、俺の記憶からこの会話は無かったことになる。

 

「大丈夫、ちゃんと【ルーラ】で送ってから消えるから。つじつま合わせも少し休んだから【MP】が回復した……なんてのはどうかな?」

 

 アリスはにっこりと笑いながらそう提案し明るく振舞っている。

 だけど悲しくない訳が無い。

 寂しくない訳が無い。

 そうでなければ消え去るのに話し掛けたりなんてしない。

 

 

 

 

 彼女はどうしようもなく寂しくて、切なくて、孤独の中を苦しんでいる。

 

 

 

 例えすぐに消えなければならなくっても、誰かと話をしたいんだ。

 俺は友達のことを忘れたくない。

 

「世界が平和になったらまた会えるから」

 

 こんな存在が認められない呪縛に縛り付けたくない。

 それなのにどうしようもなくって、目の前から少女の姿が消えて、名前すらもう出てこなくて、つじつま合わせで俺の記憶が変わっていく。

 

 

 

 

 

 

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冒険の書28―アルスの日記―

 今日は『大王イカ』に不覚を取って海に落ちた。

 おかげで武器防具は捨てることになってもったいない。無事に浜辺に打ち上げられたのは運がよかったか。

 少し休んでから【ルーラ】で船に飛んだ。俺ほどの魔法コントロールが出来れば動いている船だって多少脳内座標と存在位置がずれていても飛ぶことができる。

 だけど何か大切なことを忘れている気がした。

 

 

 




【棺桶の加護】はこの作品独自のでっち上げ設定です。
勇者オリテガを失い、切羽詰まった人類がとっさ最後の手段が【棺桶の加護】。
主に死体を破損させないように力尽きた者を棺桶で保護し、もしも勇者達が全滅した場合は安全な街まで運んで蘇生させるのが役割です。

精霊が勇者オルテガを守らなかったことから、次の勇者であるアルスは精霊のみに頼らず、倫理を踏みにじるような外法手段を取った設定。
誰もが【棺桶の加護】を使える訳ではなく、適正のある者が勇者を死なせない為に自分という存在を殺して精霊の代わりを務める禁じ手でした。
そんな存在となり影ながらアルス達を見守ってくれているのが、今作最後のヒロインであるアリスでした。
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