【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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いつも騒がしいニーナ視点の話です。


「外に連れ出してくれた彼方の為に‐No.1ニーナ」

 流石に最近はしゃぎ過ぎたせいかアルス君がそっけない。

 やっぱりちょっとギターを売ったのはやり過ぎちゃったかな。

 

 でも本当にアルス君を生き返らせるのにお金足りなかったし、しかたなかったと言えばしかたなかったんだけど、アルス君の悲しい顔を見たら罪悪感が【ピオリム】つきでやってきた。

 

 元気が出るように盾にハチミツ塗ったりしてみたけど、スクール水着と浮き輪装備なんて私を恥ずかしさで殺すつもりなのかなアルス君は!

 

 

「そういえばあのギターは私がアルス君と出会った時にはあったものだからずいぶんと古いものだよね」

 で、結局私は気になったことはすぐ口に出しちゃうのが私の悪い癖だね。

 『レーベ』の宿でアルス君が少し席をはずした瞬間に私の口のチャックは開いちゃったりした。

 

「そういえば私の時ももうあったわね。ティナ、あんたが一番早くアルスに出会ってるけど何かしらない?」

「えっと……言っていいのかな……」

 

 ティナちゃんが苦笑してるからあまり良い話ではない。

 もしかしたら本当に大切なもので、私が傷つくと思って言わないのかも……。

 あー私ってばやっちゃった~。

 どうしてこうやることなすこと裏目に出ちゃうかな私は。

 私はただみんなと笑っていたいだけなのに。

 

「ニーナちゃん?」

「あ、私用事思い出したから『アリアハン』に一度帰るね。アルス君が来たら私抜きで旅立ったらダメだよって伝えておいてね」

 

 それに気付いたらこんな所でのんびりなんてしていられない。

 あのギターを買い戻さなくっちゃ。

 いてもたってもいられなくなった私は急いでギターを売った店に向かった。

 

 値段は800G。

 さすがに皆の財布から買ったら意味が無い。

 かといって一人でモンスターとまともにやり合っても私の力だと時間が掛かりすぎる。

 

 確かこの近くの森に『マダラグモ』が巣食っているって商人の間で噂されていたっけ。

 一個分の“マダラクモの巣”の材料の売値が26Gとして31個で806G。

 マダラクモは他の生物を襲わないって聞くしこれなら簡単に稼げるかもしれない。

 

「なんだ楽勝じゃん」

 後はギターが売れちゃう前にお金を稼ぐだけ。

 モンスターが出てもここら辺の敵なら逃げる分には時間は掛からない。

 

 GOGO私、がんばれ私、さびしさなんかに負けないぞー。

 ごめんやっぱり無理。

 一人と暗いのはどうも苦手でダメだね私は。

 

 それでも森の中不気味な蜘蛛の巣と眠っているマダラグモまでたどり着いた。

 ここまで来たらあと少しだから頑張らないとね。

 

「とりあえず蜘蛛の巣を持ち帰れば良いんだから、ナイフで切れば大丈夫だよね」

 『ブロンズナイフ』でさくっといこう♪

 

「あれ?」

 ナイフで蜘蛛の糸が切れない。

 それどころかナイフが蜘蛛の糸の粘着力で絡め取られてしまった。

 それがまるで起動スイッチだったかのように『マダラグモ』が起きてこっちに迫ってきた。

 

 『マダラグモ』は他の生物は襲わない。

 自分の巣に掛かった獲物しか食べない。

 

「あれ、あれ?」

 

 今私はどうなっている。

 落ち着け私。

 蜘蛛の糸に引っかかったのは幸いなことにナイフだけ。

 慌てて引っ張ったりしなかったから私の身体に糸はついていない。

 だからナイフさえ放せば大丈夫っ。

 

 

 というか蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い蜘蛛怖い!

 

 

 慌てて私はナイフを話すと同時にマダラグモは口から糸を吐き出して『ブロンズナイフ』を絡めとりバリバリと音を立てて捕食する。

 

 銅がまるでおせんべいみたいだ。

 その時マダラグモと目が合ったけど糸に掛かったものにしか興味が無いのかまたもとの位置に戻って眠り始めた。

 

「あはははは……怖くて腰抜かしちゃった。いや~どうりでこの辺りはモンスターも出ないと思ったらこんなに怖いんだ『マダラグモ』。うん、無理。絶対に26Gの仕事じゃないよね」

 

 口はいつもどおり動くけどまだ怖くて腰が抜けたままだ。

 それでもアルス君の悲しい顔が私の頭から離れない。

 本人は普通に振舞ってたつもりだろうけど、本人も悲しいってことに気付いていないかもしれないけど、何年も一緒だったから私には分かる。

 きっと私よりも付き合いの長いティナちゃんとアリシアちゃんも気付いてる。

 

「何やってるんだろ、私」

 

 アルス君にはずっと笑っていてもらいたい。

 冗談交じりに私を怒ってもらいたい。

 悲しい顔なんてしてもらいたくない。

 だってアルス君がいなかったらきっと私はこんなに私らしくなかったから。

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人は一人では生きていけないから。手を取り合って前に進むんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギターを弾きながらそう詠っていたっけ。

 それまで私はいつも一人だった。

 お父さんもお母さんも仕事で忙しくて構ってくれなくって、遠慮しがちな私には友達すらいなくて、どうやって付き合えば良いのかも分からなくて、人の居ないところではティナちゃんやアリシアちゃんよりも泣いてたっけ。

 

 それでギターを弾いてたアルス君が勝手に窓から上がりこんできたのは今でも覚えてる。

 

「手を取り合うんだから飯をくれ。修行サボって飯抜きなんだ」

 

 本当に馬鹿らしい一言だ。

 でもこの言葉が私を変えてくれた。

 馬鹿らしくて初めて笑えた気がした。

 うじうじしていた私がなぜかすごく馬鹿らしいって気付けた。

 

§

 

 

「だからこんな事で私は負けない。絶対にギターを買いなおしてアルス君に笑ってもらうんだから」

 

 この糸を手に入れるには時間が掛かりそうだからマダラグモを倒さないと採取は無理。

 でも糸の上でマダラグモと戦ったら糸に絡まって捕食されるだけ。

 糸に触れたモノは先に糸を口から吐き出して完全に動きを封じてから捕食する。

 

「なら釣ればいい」

 

 適当な木の枝に丈夫そうな蔓をしっかりと結びつけて先端に取れやすいようにテープで餌の1Gをつけて特製釣竿の完成。

 

「後はこれをそーっと蜘蛛の巣に……」

 

 1Gが蜘蛛の糸に触れると同時に予想通りマダラグモが起きて糸を1Gに向けて吐き出した。

 ここで力いっぱい引いて1Gを分離。

 空中に浮いた蔓にマダラグモが吐き出した糸が絡めつく。

 素手からめとられた状態でいくら引いてもさらに糸が絡みつく泥沼でも、空中でマダラグモが吐き出した糸だけのときなら引けるはず。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 蔓を思いっきり引っ張って気の棒に巻きつけていく。

 それと一緒に吐き出されたいとも巻きつけていく。

 なんだか蜘蛛の糸を巻きつけると綿雨みたいでおいしそう。

 このままマダラグモを巣から下ろして糸出せるだけ出させたら後は逃げるだけ♪

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 蜘蛛の糸がピーンと伸びて巻きつかなくなった。

 重くて動かない。

 考えてみれば銅も食べてしまうマダラグモに力で敵う筈が無かった。

 

 

 

「あれれ?」

 

 

 

 調子に乗って巻きすぎたせいで私の手に巻き取った糸が数本くっついている。

 

 少しでもついたらちょっとやそっとじゃ離れないのに木の棒と私の手がくっついてて、木の棒はマダラグモの口から出ている糸を巻き取っていて。

 

 

 

「あれれれれ?」

 

 

 

 ここでマダラグモに引っ張られたら、私、どうなっちゃうんだろ。

 

 

 

 思考が、うまく、はたらかない。

 調子に乗るとやることなすこと全て裏目に出るのに知ってたのに私はまたやっちゃった。

 

 

 

 マダラグモの口が動いた。

 

 

 

 せめて痛くないように死にたいなんて思ったけど、生きたまま食われるんだからきっと痛いんだろうな。

 私の死体だれかみつけてくれるのかな。

 それよりも私の体、残るの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の中に生き返れるから無茶しても大丈夫なんて考えがあったのかもしれない。

 身体と心臓や脳の破損箇所が50%以上残っていれば生き返れる。

「お願い、食べないで…」

 マダラグモが人の言葉が分かる別けない。

 

 

 それでもマダラグモは糸を噛み切った。

「あれれれれれれ?」

 

 

 これは後になって知ったことだけどマダラグモは自分の巣に引っかかって動けないものしか捕食しないのは自分の身の安全を確保するためで、とても臆病な生き物らしい。

 だけどこの時の私はそんなこともちろん知らない。

 

「あ、ありがとう……。それと騒がせてごめんね。この糸はもらっていくから。これで大切なものを取り返してくるから。いつか恩返しさせてね」

 だからマダラグモに感謝して笑顔を作って道具屋に急いだ。

 

 

 

「こりゃ驚いた。お嬢ちゃんこりゃ本物のマダラグモの糸じゃねえか」

「本物?」

「出回ってるのはマダラグモの糸の粘着力の恐ろしさを発想として作った粘着剤だ。お嬢ちゃんよく取ってこれたな」

 もう道具屋のおじさんの言葉に私は言葉を失った。

 やっぱり私が生きているのは奇跡に近いらしい。

 まあ8000Gで売れたからいっか。

 

「それでおじさん。私が前に売っちゃったギターのこってるよね。ボロボロだったし」

「あー、それでこんな大それたことをしたのか。すまないな。大切なものと知っていれば商品にせずにとっておいたのだが」

 

 今日一番のショックな出来事だった。

 どうやらギターは少し前に売れてしまったらしい。

 これだとアルス君が笑ってくれない。

 私は、嫌われ者だ。

 

 宿には帰れなくって、久々に誰もいないところで泣いた。

 

 アルス君は優しいから許してくれるかもしれない。

 きっといつも通り。

 でも心のそこではどうか分からないし、アルス君の優しさに甘えているようで嫌だ。

 何だか、昔の自分に戻ってしまった気がした。

 はしゃいでいたのが全て馬鹿馬鹿しくて、迷惑をかけた私の行動が情けなくて、泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

ギターの音がした。

 

 

 

 

 

 

 

「あれ……」

 聞き覚えのある音。

 聞き覚えのある曲。

 聞き覚えのある声。

 

 彼が、どこかで詠っている。

 

 聞き間違えようが無い音を頼りに、聞き間違えようが無い声を頼りに私はいつの間にか走っていた。

 

 涙も止まっていた。

 何も考えていなかった。

 

 町外れの草原でアルス君がギターを弾いていて、それをティナちゃんとアリシアちゃんが聴いている。

 

「ニーナちゃんおかえり」

 一番初めに私に気付いたのはティナちゃんだった。

 どうしよう。

 どんな顔してアルス君に顔合わせれば良いかな。

 

 初めの言葉は「買いなおしたんだ。やっぱりアルス君はギター上手だね」かな。

 でもなんかいつもの私はこんなこと言わない気がする。私はなんて言ったっけ。

 皆にどう挨拶してたっけ。

 分からない分からない分からない分からない。

 

 

「ニーナも来たのか。まったく、睡眠妨害にならないようにここで引いてるのにこれって俺は死に損か?」

 

 アルス君はいつものアルス君なのに私が私を思い出せない。

 声が出ない。

 何か言わないと、何か言わないと!

 

「ニーナが買いなおしてくれたんだって? どうせなら新品買ってくれればよかったのにな。」

「え……」

 

 私は買えなかった。

 アルス君が自分の楽器を間違えるはず無いからあれはアルス君のギターだ。

 じゃあ誰が買った?

 

 多分ティナちゃんのいつものおせっかいかアリシアちゃんの仕業だと思う。

 2人に沢山心配かけちゃったみたい。

 

 泣きそうになった。

 嬉しくて泣きそうになった。

 うじうじしてたのが馬鹿らしくて泣きそうになった。

 一人で抱え込んでいた私が馬鹿だった。

 

 初めから友達に相談すればよかったんだ。

 人は一人で生きていけないってアルス君詠ってたのに気付けなかった。

 私達は友達なんだ。

 

 でも泣かない。

 皆の友達の私は泣き虫じゃないから。

 皆と一緒だと強い子だから。

 

 

「だだいまー。いやぁーアルス君にはそのボロッちいギターが一番に合うと思って。もう感動で涙ボロボロだった? 渡された時泣いて「ああ、私はネロになんてひどい事をしてしまったんだ~」って膝を突いたりなんかしちゃったりした?」

 

「誰がするか。つーかボロっちいギターがお似合いで悪うございましたね」

 怒っているけど冗談交じりでもあるいつものアルス君だ。

 私も私だ。

 

 ティナちゃんかアリシアちゃん。

 もしくは両方かな。

 心の中だけど「ありがとう」って言わせてね。

 

「たく、それとお前はいつまでそんな格好してるんだ。風邪引くぞ」

 アルス君が自分のマントを私にかぶせてくれた。とても暖かい。暖かいけど、こんな格好?

 

「あれれ?」

 なぜかスクール水着を着ている。

 そういえば罰ゲームで昼からずっとこの格好だったねー。

 この格好でずっと街や外を出歩いて立って事は目撃者多数というわけで。

 

「あわわわわわわ。これは生涯で一番の屈辱ですヨ。お嫁にいけなくなって独身OL35歳家事は得意なのに寂しい人になったらアルス君の責任として慰謝料を請求してやるぞー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書3―――アルスの日記―――

 今日は塔で『盗賊の鍵』を取りアリシアの親父から『魔法の玉』通称スペシューム弾頭弾を手に入れた。

 せっかくの『盗賊の鍵』なので民家をあさろうと思ったがティナがいる限り「そんなことしたらダメだよ」と止められるのがオチか。

 とりあえずニーナの罰ゲームは今日一日スクール水着と浮き輪着用ですごせと言ったら三人に白い目で見られた。

 

 いや、だって商人といったらこの格好だろ。

 

 その格好で自重したのか売った筈の俺のギターを買い戻してきた。

 どこから金を稼いできたのかはしらないけどさすがは商人といったところか。

 ボロボロだけど俺の大切なギター。

 早速宿から離れたところで引いてたらアリシアが聞きに来たのには驚いた。

 上手いと言ってくれるのは嬉しいが正直照れる。

 その後ティナが来てわりとまったりしてたのにニーナまで来た。

 相変わらず騒がしい奴だ。

 称号【むっつりスケベ】を手に入れた。

 

 

 




ニーナはこんな子でした、という話でした。
なお最後の一文はニーナが書き足した模様。
ドラクエ本編では登場しないマダラグモの設定は『ロトの紋章』から持ってきております。

次回も同じ日、アリシア視点でのお話です。
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