俺の計画はこうだ。
『消え去り草』を使って城に侵入する。うん、とてもシンプルだ。
「あんた…こんな物いつ買ったわけ?」
「『ランシール』で気になる子の悪戯にどうぞってすすめられた」
つい正直に答えてしまった。
「はわっ。それじゃあそれじゃあ今までお風呂とかおトイレとか寝顔とかももうバッチリ見られてたんだ。これはもうアルス君にお嫁にもらってもらうしかありませんヨ」
「いや、まだ実行していないんだが」
「実行してないって……やっぱりあんたはそういうことするつもりだった訳!?」
「アリシアちゃん落ち着いて。アルスはそんなことしないよ。……多分」
「……あるす~。お腹すいた」
皆いつもの調子に戻っている。
これなら今回の作戦は無事成功しそうだ。
「うむ、せっかくアルスのためにダンボールを用意したのだが無駄になってしまったか」
マリアがなぜかダンボールを片手に溜息をついている。
お前はそれで俺に何をしろというのだ。
とにかく、『消え去り草』で潜入開始だ。
「ん、何の音だ?」
足音に反応して門の兵士が動き出す。
「気のせいか……」
何も見当たらなかった為か戻っていく。
すると再びコンコンコンと物を叩く音がした。
多分ニーナが調子に乗って遊んでいるのだろう。
「ん、何の音だ?」
音の方に兵士が歩いて行く。
普段通りなのは緊張するよりはいいことだが、だからって遊ぶなよ。
「うっ」
なんか兵士が倒れた。
威力からしてマリアの仕業か。
倒したらこっちの存在がばれるだろ。
そろそろ『消え去り草』の効果が切れる。
俺が買ったのは10個。
その内6個は人数分で消えたから残り4個。
ティナ、ニーナ、アリシア、フィリアに持たせている。
だから俺とマリアは『消え去り草』無しでステラの所まで辿り着かなくてはならない。
「……通気口か」
ここから上に上がれそうだ。
しばらくはここに潜むとしよう。
「おい、どうした!?」
「くっ、何者かに攻撃を受けた。敵は不明。至急応援を頼む」
何だかわらわらと兵士が徘徊するようになった。
これだと動き回れない。
ここはこのまま通気口を渡って別の場所に出よう。
通気口を渡っていくと下から声が聞こえてきた。
「言え……マーゴッド姫はどこだ?」
一瞬マリアが兵士を脅している声だと思ったのだが、男の声だった。
下を覗き込んでみると『骸骨戦士』が兵士を脅している。
どうやら俺達以外にも侵入者がいたようだ。
「貴様のような奴に……言えるか」
結構一般兵士も根性があるようで口を割る様子はない。
とにかくこのままだと兵士の命が不味い。
「【ラリホー】」
とりあえず『骸骨剣士』を上から眠らせておいた。
突然『骸骨剣士』が眠りだして兵士は誰が助けてくれたのか周りを見回している。
これは『エジンベア』に恩を売るチャンスだ。
「こちらコードネーム:ペパカマド。モンスターがこの城を狙っているとの情報があり任務できた」
とっさに偽名を使ったら変な名前を言ってしまった。
『ムオル』での親父もきっとこんな感じに適当に名乗ってしまったのだろう。
少し反省。
「た、助かります」
「直ちに王と他の者に伝えよ。それと俺の他に数名エージェントが極秘に潜入している。こちらに攻撃の意志はない。注意されたし」
まあこんなもんだろう。
兵士は仲間を呼んで『骸骨戦士』の骨をパーツごとにバラバラにして縛った。
そして魔物が潜入したことと他国のエージェントがそれを退治しに来たことを説明してくれている。
「さっき見かけた田舎者の格好をした僧侶がそうだったのか。こんにちはと挨拶してきたから何かと思ったぞ」
潜入しているという自覚はないのか、ティナよ。
まあこれでもしも見つかっても大丈夫だな。
あの賢者もどき4人に見つかったら襲われるかもしれないけど、その時はその時だ。
モンスターはなぜかステラを狙っていた。
急いだ方がよさそうだ。
通気口を渡って更に奥に進んでいく。
「何だか姫様元気ないわね。外で何かあったのかしら?」
「素敵な殿方に出会えたのに無理矢理つれて帰らされたみたいですわよ」
「あらまあ。でも外はモンスターがいて危険ですし無事でよかったですわ」
下は厨房のようだ。
料理を作っているおばさま方が話している。
それにしても素敵な殿方に出会えたって下手なお世辞だな。
まあそんくらいに話を盛り上げないと楽しくなかったと思われるのか。
「じゃあこれ、最上階の姫様の寝室にお願いしますわ」
いい情報を聞けた。
ここは引き返して階段を上っていった方がいいだろう。
初め入った入り口まで戻って兵士がこっちを向いていないことを確認してから降りる。
「ん、何の音だ?」
兵士が足音に反応したけどもう壁に隠れて視界から逃れている。
気付かれないように匍匐前進で移動しながら階段を上って行く。
上の階は……王の間か。
のほほんとした王が玉座に構えている。
不意に後ろから足音が聞こえて来た。
「姫様に食事ですかな?」
「ええ、姫様に元気を出していただこうかと」
しまった。
通気口の移動は時間が掛かるからもう食事は届け終わっていたかと思ったのに、まだだったようだ。
前に出れば王や兵士に見つかるタイミングだし、後ろに下がれば奥方と兵士に見つかる。
「それでは届けてまいります」
奥方が近付いてくる。
もうダメか…そう思ったらやってきたのは厨房にいたおばさま方と同じ服を着たアリシアだった。
アリシアが何やってんのよ、と目で睨んできたからミスったと苦笑を返す。
「あ、そうそう。姫様に伝言をお願いしよう」
下の兵士の足音が近付いてくる。
幸いなことにこの国の人のスカートは地面に引きずるほど長い。
隠れさせてもらうことにしよう。
「っ」
「どうしたんだ、顔赤いが」
「い、いえ……別に」
アリシアの足が震えている。
いや、まあこうするしかなかっただろう。
「若いんだからあまり無理すんなよ。階級気にしてんのは一部の上位階級の奴らだけなんだからさ。それで伝言なんだが、モンスターがうろついているようなので部屋を出ないようにと」
「わ。分かりました」
「本当に大丈夫か?」
「だ、だ、大丈夫ですっ。失礼します!」
アリシアがゆっくり階段を上がっていくからそれに合わせて進んでいく。
かなり歩幅が大きい。
急ぎたいのは分かるがそんなに急ぐと合わせ辛い。
だが何とか着いて行く事が出来た。
ドアが開く音と風の音。
どうやら外に出たらしい。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あんたはっ」
アリシアの顔が真っ赤だった。
「安心しろ、俺も思った以上に恥ずかしかった」
「何をどう安心すればいいのかしらねぇ」
「大丈夫、白は似合ってるぞ」
つい調子に乗りすぎて爆発音がした。
初めはアリシアに【ベギラマ】を放たれたのかと思ったけど、上の階の壁が吹き飛んでいる。
そして誰かが落ちてちた。
反射的にその身体を受け止める。
「うぅ……」
昨日の賢者モドキの一人だ。
受け止めるんじゃなかったと思ってしまった俺は悪くない、筈。
「奴ら……魔法が……騒ぎでマーゴッド姫と……変わる……」
何か呟いているがステラが危ないことだけは分かった。
それなのに行く手を阻むように『エビルマージ』の群れが空から【ルーラ】で奇襲してくる。
図鑑でしか見たことがないが厄介な魔法使いタイプのモンスターだ。
おそらく【マホトーン】で似非賢者はやられたのだろう。
「アリシアこいつらは任せた。【バギ】系以外あまり効果がないから『理力の杖』で行け」
「分かった。さっきのは後回しにしてあげる。その代わりにステラを守れなかったら承知しないから」
「無理はすんなよ」
「あんたこそね」
アリシアなら大丈夫。
城の兵士だってモンスターと戦っている分には加勢してくれるし、他の仲間だって騒ぎに気付いた筈だ。
だからアリシアに振り向かずに先ほど壁にあいた穴を見る。
大丈夫、魔法のコントロールは得意だ。
【ルーラ】の座標を空中に細かく設定して飛んで穴に突っ込んだ。
たったアレだけの距離で【MP12】も消費したぞ。
やっぱり自由に飛ぶのはまだ無理か。
中の状態は瀕死の似非賢者3人にボロボロのステラ。
『ガメゴンロード』が4匹。
こいつら【マホカンタ】で魔法跳ね返されたのか。
これだから机の上から物事を見る連中は見たこともないものに後れを取る。
「アルスさん……ですか?」
「よう、昨日ぶり」
ステラが呆然としていた。
どうしてここにという顔をしている。
「攫いに来てやったぞ」
やっかいな『ガメゴンロード』は【ラリホー】で眠らせたいけど、初めから【マホカンタ】が掛かってる。
ついでに【スクルト】済みのようだ。
「【スクルト】と【マホカンタ】が掛かった最悪の状態だ。貴様では勝てない」
仲間と再会してせっかくテンション上がっているのに、似非賢者達が分かっている情報で水をさしてきた。
「笑わせてくれる。モンスターに襲われている姫を助けるんだぞ」
鼻で笑ってやった。昨日の戦闘より分かりやすくってスッキリしてる。
炎を吹く?
【スクルト】で既に【守備力】が上がっている?
【マホカンタ】で魔法が跳ね返される?
ついでに武器が『鋼の鞭』で得意武器じゃない?
本当に笑わせてくれる。
「最高の間違いだろ」
マンガだったら最高の見せ場だ。
「この最高の舞台でステラを守れば誰も文句は言わない。言わせない。ステラが自分から家に帰りたいと本心で言うまで連れまわしてやる。昨日のあれは本心だったか」
「え……」
「泣きながら帰りたいって言ったのは、泣くほど帰りたかったからか?」
『ガメゴンロード』が火を噴いた。
それを『魔法の盾』で防ぐ。
「そこまで一緒にいたくなかったか?」
「そんなわけ…そんなわけないじゃないですか!」
当たり前だ。知っていたことだ。だけど本人の口から聞きたかった。
「なら仲間だ」
鞭で炎をさばく。
負ける気はしない。
「ほら、さっさと爪つけて戦え」
「あ……はい!」
だけど一人では戦わない。
もうステラは守るべき姫ではない。
共に戦う仲間だ。
こいつはまだ弱いけどいつも一生懸命戦ってくれていた。
皆と楽しそうに笑っていた。
いじめてやってもどこか嬉しそうだった。
【ベホイミ】でステラの傷を回復してやる。
鞭で『ガメゴンロード』達の足を取ってその隙にステラが攻撃する。
「アルスさんこのモンスター難すぎますよ~」
「会心の一撃が出るまで殴れ。いつかは倒せる」
「はぅ!? なんだかもうそれは作戦とは言えませんねぇ」
なんだかんだやっているうちに1匹撃破した。
「武道家なんだろ。会心の一撃ぐらい出せ」
「そんな事言われましても、こうすれば会心の一撃になるっていう決まりごとはありませんし」
「喋ってる暇があったら殴る!」
「はぅっ!? 今の鞭明らかに私を狙ってましたよね!?」
2匹撃破してステラが疲れ始めていたからまた【ベホイミ】を掛ける。
3匹目は俺の鞭が仕留める。
「はいラスト。最後くらい武道家の意地見せて会心の一撃出せよ」
「鞭構えて何だか脅迫じみてませんか!? はぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
ステラが攻撃しに行ったら豪快にこけて『黄金の爪』がすっぽ抜けた。
それがプスリと『ガメゴンロード』に突き刺さる。
それが会心の一撃になったのか最後の1匹が倒れた。
「お前は遊び人か」
「武道家です!」
とてもそうには見えない。
まあ倒せたからよしとしよう。
アリシアの助っ人に向かおうと壁にあいた穴から下を覗き込んでみると既に戦闘は終わっていた。
どうやら皆駆けつけてアリシアが俺の作った攻略本を元に指示を出したらしい。
うむ、頼れる奴だ。
まあ当然のことながらこの後王の間に呼ばれた。
「うむ、わしは心が広いから田舎者とて偏見はない。城に潜入するなんて面白いことも…いやいや、大それたことも多めに見よう」
王は「潜入って面白そうだな」なんて呟いている。
「娘も国も救ってもらったこともあるし娘は一緒に旅を続けたいと言っていたが、まあいいんじゃない? だけどたまに顔見せに帰ってきてくれると父さん嬉しいな」
だからどこの王も軽すぎだ。
似非賢者達が頭を抱えている。
多分こんな王の娘だ。
ステラは面白そうだったという理由で一人旅を始めたのだろう。
「王様。魔物がこんなものをもっていたんですが」
アリシアが変な壺を王に見せた。
おそらく『スー』から持ち出した『渇きの壺』だろう。
どうやらモンスター達の狙いはこれとステラだったようだ。
ステラを狙ったのはまあ国落としの一環だろう。
『渇きの壺』は俺達に手に入れて欲しくなかったから、か?
何の為に狙ったのかがいまいちわからない。
「ああ、それか。使い方分からんからもっててもいいんじゃない?」
昔『スー』から奪ったものをそう簡単に渡すなよ。
まあこれでスーから見て西の浅瀬に行けば『最後の鍵』が手に入る。
ステラがまた戻ってきた。
すべて解決で旅に戻るとしよう。
船に戻るとアリシアが俺の肩にポンと手を置いてにこやかに笑っていた。
「このド変態!」
アリシアに殴られた。さらに蹴られた。
まだスカートに潜ったことを根に持っていたらしい。
性格が【ロリコンの父を持つド変態で苦労人の男】と意味不明に長いものになっている。
【くろうにん】が混ざっているから何だか戻ってくれない気がしてきた。
これってステータスどう上がって行くんだよ。
宣言どおりステラを攫ってきた。
というのは冗談でモンスターに襲われていた『エジンベア』を救ったら、軽い性格の王が簡単に許可をくれた。ついでに『渇きの壺』もゲットだ。
似非賢者の無様な姿を見れて俺は大変満足している。え、勇者っぽくないって?
そのあたりは気にしたら負けだと思う。
しかしアリシアにこっ酷くやられたものだ。久々に仲間の攻撃で棺おけになるかと思ったぞ。アレはどうしようもない状況だったんだから許せ。
とりあえず壺を手に入れたから明日は浅瀬で鍵を手に入れるとしよう。
何だかんだで各国攻略に力を入れるバラモス様でした。