浅瀬を探すのに時間が掛かった。
馬の西の浅瀬といっていたが北と言った方が分かりやすい位置に浅瀬はあった。
後であの馬さばくか。
「アルス君アルス君アルスく~ん。なんだか壺がすごい勢いで水を吸ってるよ。これってずっとここにおいてたら海がひやがっちゃうのかな。かな?」
「さすがにそれはないだろ」
ちょっと不安になってきたが浅瀬から祠が見える程度で止まってくれた。
それでもすごい量だ。
海水を元に戻す時小さな島が津波に飲み込まれないか心配だな。
「……海の幸……」
フィリアがピチピチはねている『マーマン』をじっとみている。
こいつはこんなものまで食う気か。
聞かなかったことにして祠に入ろう。
薄暗い祠には冒険者のものか無数の屍が転がっていた。奥の方に宝箱を抱いた屍がいる。
「ここは『浅瀬の壺』を使わなければ通れません。おそらくこの遺骨はそれ以外の方法で鍵を入手しようとしたか、海水が元に戻るまでの間に脱出できなかったのでしょう。その怨念がたたりとなって語りかけているのです。ほら耳を澄ませば~」
「うぅ、ステラ。私そういうのって苦手なんだけど」
モンスターとか平気なくせにアリシアがそんなことを言っている。
そういえば幽霊とかはダメとか言ってたな。
俺には幽霊と『ミイラ男』の違いがよく分からんぞ。
まあ屍ばかりというのは気味悪いけどさ。
「オルテガの子よ」
どこからか声がしてアリシアが声にならない悲鳴を上げて俺にしがみつく。
「今の……何かな?」
ティナも怖がって俺に引っ付いて周りを見回してみるが、もちろん俺達以外にいるのは屍達だけだ。
女の子と密着出来て嬉しいが、二人にしがみつかられると歩きにくくてしょうがない。
「もしかしてもしかしたらあれかな。あれかな。寒くて薄暗い海底に閉じ込められていた怨念が渦巻いててもうここから二度と出られなくて屍の仲間入りだー。どうなる勇者アルス! 次回勇者アルス死すをお楽しみに」
「ちょっとニーナやめてよそういうの。本当に私そういうのダメなんだから!」
アリシア、ツッコむところはそこか。
次回予告で俺が既に死亡確定なのはどうでもいいのか。
というかタイトルでネタばれだけはやめてくれ。
「もしそうなったらアリシアか私が勇者だな。それはそれで面白そうな冒険になりそうだ」
確かにこの二人ならリーダーはこなせるけど楽しそうにそんな事いわないでくれ、マリア。
冗談だと分かっていてもへこむぞ。
「……だっこ~……」
それでフィリアはフィリアでこの2人にしがみつかれている光景が面白そうに見えたのか、後ろから背中に飛び乗って抱きついてきた。
重いぞお前ら。
「オルテガの子よ。これをそなたに授けよう。『ネクロゴンド』の山奥に『ギアガの大穴』ありき。すべての災いはその大穴よりいづるものなり」
動けない俺をよそに屍が持つ宝箱が勝手に開いた。
「マリア」
「なんだモテモテ勇者君」
「ご機嫌そうにこっち見てないで鍵を取ってくれ」
「アルスはか弱い私に屍が持っている宝を取りに行けと言うのか?」
どこがか弱いんだ。
「アルス君アルス君アルスく~ん。これでズボン脱がしたら何だか私達がアルス君を襲っているみたいな構図が出来上がるね。ねぇねぇねぇねぇずらしていい? いいよね。むしろとらなちゃダメだよねー」
「なぜそうなる!」
ニーナが俺のズボンのベルトを外し始めている。
「アルスさんとても幸せそうですねぇ」
「ステラお前後で覚えとけよ」
「はぅ!? 私はただアルスさんの様子を述べただけですよぅ。なんで私だけ睨むんですかぁ!?」
屍が折角重要な情報をくれているのに緊張感がまったくない。
とにかく忘れる前に【緑のボタン】で覚えておこう。
「『エジンベア』では不覚を取ったがその最後の鍵は渡さんぞ!」
変なメッセージが記録されてしまった。
入り口の方に『骸骨剣士』が立っている。
『エジンベア』であんなモンスターと出会っただろうか。
「さあ、覚悟するがいい!」
『骸骨剣士』が一歩足を踏み出す。
すると突然燃えた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ! 熱いっ! 俺のハートが熱い! おのれ聖域に隠れるとは卑怯だぞ!」
どうやらこの祠にはモンスターが入って来れないようだ。
アリシアがそんな『骸骨剣士』をじと目で見て、
「【メラミ】」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
燃やした。
「おい、さっきの喋る屍とどう違うよ」
「だってモンスターは倒せるじゃない」
すごく単純な理由だった。
「でもお化けはビデオを見ただけで一週間後には死んじゃうんだよ。どうにもならないじゃないっ!」
アリシアが何かを思い出して震えている。
確かそんな内容の小説があった気がするな。
昔俺がアリシアに貸してやった記憶がある。
って、もしかしてアリシアが幽霊怖がっているのは俺のせいなのか?
「熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ! 骨のずいまで焼き尽されるっ!」
『骸骨剣士』が炎を消そうと転げまわっている。
これ以上変なのが来る前に『最後の鍵』を手に入れて船に戻りたい。
「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
それなのに変な男が飛び蹴りで『骸骨剣士』を吹き飛ばして入って来た。
あわれ『骸骨剣士』の頭は衝撃で外の方に飛ばされていく。
「その『最後の鍵』は大海賊アクアブルー団所属このアッシュがいただいていく!」
拳に見たこともないナックルをつけた男。
武道家というよりは盗賊と言ったところか。
年は俺と同じくらいの白髪の男アッシュは俺に拳を構えた。
「って、なんだこのハーレムはっ! 貴様聖域でなに女の子とイチャイチャしてやがる! というか何でベルトついてないんだ貴様は!?」
「うはっ!? ニーナお前本当に取るなよ!」
「あはー。ついつい調子にのっちゃった。はいベルト」
ベルトを渡されるがまだティナとアリシアとフィリアにしがみつかれていて、自分では付けられない。
「ええい、お前らいい加減にしろ!」
3人を振りほどいて戦闘態勢を取る。
「ごめんね。でも私暗いのは苦手で……迷惑かけちゃってごめんね」
「うじうじするなっ」
「あんたティナを泣かせるなっ!」
「お前は怖がるかいつも通りなのかはっきりしろ」
「……あるすに捨てられた~……」
「捨ててないし勘違いされるようなこと言わないでくれ」
アッシュという男は呆然と立ち尽くしている。
が、すぐに首をぶんぶん横に振った。
「多くの可愛い女の子をたぶらかし、挙句の果て無碍に扱って捨てた女を食い物にする悪党め! 正義の鉄拳を受けてみるがいい!」
なんだかすごい勘違いをされているみたいだ。
俺のステータスを確認してみると性格が【ロリコンの父を持つド変態で苦労人の女を食い物にする男】という無駄に長くて意味不明なものになっていた。
もうこれは誕生日にニーナからもらった『くじけぬ心』を装備して普通の【くろうにん】に戻るしかないか。
「行くぞ悪党!」
こういう熱血は何を言っても無駄だ。
とりあえず倒しておこう。
『鋼の鞭』を構えるが既に俺の視界からアッシュは消えていた。
早い。何よりもフットワークがいい。
左右に揺さぶりをかけて目で追わせておいてしゃがんでアッパー。
だけど反射的に後ろに下がることが出来たからアッシュの拳は俺のほほにかすり、軽い切り傷を作るだけすんだ。
こいつ、ぽっと出のくせして普通に強い。
「えっと……助けなくていいのかな?」
ティナが加勢しようか迷っているようだが、カンダタと一対一で戦いたいと言っていた俺に誰も加勢しようとしてくれない。
「男と男の戦いは熱いですヨ」とか「むさくるしいですねぇ~」とか笑いながら観戦している。
「やるな悪党!」
「誰が悪党だ!」
「そのような武器を使っている奴は悪党に決まっている!」
「俺だって剣使いたいんだぞ!」
海に沈んでしまった『鋼の剣』が恋しい。
こうなったらやけだ。
『鋼の鞭』をしまって俺も拳で挑むことにした。
ただし魔法は使うがな。
「【イオラ】!」
俺は【イオラ】の爆発で牽制して隙をついて殴り飛ばそうと考えていた。
「そんなの効くかよっ!」
だが、アッシュは【イオラ】で無数に出現した爆発する球体をすべて拳で打ち落としながら向かってくる。
無茶苦茶する奴だ。
「こいつはお返しだ! 【ベギラマ】!」
【イオラ】を拳で突破してきて奴は拳を振り上げた。
拳が炎で燃えている。
射程はほぼゼロだが俺の【火炎切り】と同じ魔法を上乗せした攻撃だ。
突き出された拳を『魔法の盾』で防ぐが衝撃を支えきれずに俺は吹き飛ばされていた。
「くそっ」
「まだまだだぜっ!」
それだけでアッシュの攻撃は止まらない。
奴は更に自分の足元を【イオ】で爆発させて、脚力と爆風で矢のように俺を追いかけてきた。
どうやら魔法を自分の格闘に上乗せして戦う戦闘スタイルのようだ。
このままでは体勢の崩れているところに更に追い討ちを食らってしまう。
「【ルーラ】!」
座標を真上に設定して強制的に体勢を立て直して、アッシュの攻撃をぎりぎりかわし蹴り飛ばしてやった。
「へっ、そうでなくっちゃ面白くないぜっ!」
折角時間稼ぎに蹴り飛ばしたというのに、地面に手をついてそれを軸に身体を捻り体勢を立て直して、また【イオ】で突進してきた。
これだから熱血は嫌いだ。
「くそ、【火炎切り】!」
『銅の剣』を取り出して【火炎切り】で迎え撃つが、奴の【ベギラマ】のこもった拳と衝突してお互いに吹き飛ばされた。
互いに空中で姿勢を戻して着地して一息つく。
「海賊にするのはもったいないくらいに強いな」
「お前だって悪党にしとくのはもったいないぜ」
初めのカンダタ戦を思い出す。
久しぶりに熱くなってきた。
どうやら俺も意外に熱血らしい。
「俺の切り札を使う。あんたなら多分平気だろ」
「正面から受けきってやるぜ」
言ってくれる。
攻めの手を止めて本気でこいつは正面から攻撃を受けるつもりのようだ。
これで俺が撃たなかったら逆に失礼だろう。
「【ライデイン】!」
魔力の稲妻をアッシュに向けて振り下ろした。
こいつは俺の単体最強魔法だ。
それをアッシュは嬉しそうに見上げ、そして拳を振りかぶった。
「うをぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 【マホキテェェェェェェェェ】ッ!!」
上に勢いよく突き出された拳は【ライデイン】とぶつかった。
衝撃で稲妻が少しそれる。
【マホキテ】は見たことはないが、相手の攻撃魔法の【MP】をそのまま自分の【MP】にする魔法だと聞いたことがある。
だがダメージを防ぐ魔法ではない。
「効いたぜお前の魔法。一発でたまりきるなんてすげぇ威力だ!」
確かにダメージはあるし服はこげて肌には少し火傷のあともある。
それでもこいつは笑っていた。
こいつはただの熱血ではない。熱血バカだ。
「今度は俺の番だな。死ぬんじゃねえぞっ」
ここまできて冗談やハッタリを言う男ではない。
シャレにならない威力の技を使う気だろう。
「【メラ】&【ヒャド】」
右手に【メラ】左手に【ヒャド】を構える。
そしてどこかの勇者王のように手を合わせた。
でも原理は分かっている。
『魔法の玉』と同じでプラスとマイナスの力を合わせてスパークさせるつもりだ。
さすがにアレを食らったら俺もただで済みそうにない。
「【バギマ】!」
2つ同時魔法でも驚いたのに3つ目も使ってきやがった。
しかもこれは俺の動きを封じるために使われたものでダメージは少ないものの、拳から放たれ続けている風が俺の動きを完全に封じる。
逃げることはできない。
防ぐか、迎え撃つか。
流石にマリアとアリシアは俺の身に危険を感じて動き出したが、間に合わない。
「合体魔法【メヒャド】……いくぜええええええ――――――――」
「鍵一つ取るのにいつまで時間掛かってるのかなー」
放たれる直前に誰かがアッシュの頭を殴った。
その攻撃でアッシュの攻撃は止まって風も消える。
「っぁ!? マナてめぇー!」
「はいはい文句なら後にしようね。鍵は私が確保してるから撤退よ」
止めてくれたのはアッシュと同じくらいの年の少女。
同じような服装だから同じアクアブルーという海賊の一味だろう。
いつ取ったのか彼女の手には『最後の鍵』が握られていた。
「マリア!」
「心得た」
マリアが鍵を取り返そうと走った。
しかしマリアが少女を捕らえる前にアッシュと少女が消えてしまう。
【レムオル】……いや、【リレミト】だな。
まんまと取り逃がしてしまった訳だ。
「すまない、仲間の存在に気付けなかったとは」
マリアが取り逃がしてしまったのなら仕方がない。
それに『最後の鍵』がなくても今まで何とかなってきたし大丈夫だろう。
「2つ同時に魔法か。そういうのもありなんだ」
アリシアはなるほどと関心している。
また誤射の危険性が出てきたな。
俺も2つ同時に別々の魔法なんてまだできないんだから勘弁してもらいたい。
『浅瀬の洞窟』に『最後の鍵』を取りに行ったら新たなライバルが現れた。
「こいつ……俺の技を吸収した!?」
新たなライバルのアッシュは何と相手の魔法を吸収して必殺技を放てるのだ。【ヘル&ヘブン】に敗れたアルスは『最後の鍵』を奪われてしまった。
どうするアルス。負けるなアルス。世界はお前にかかっているのだぞ!
次回、C†C銀河金色英雄伝勇者王アルスSEED
第28話「きらめけ俺のサンライトイエロー・エクセリオンモード」にチェンジGO!
寄せ書きだけでは飽き足らずに本文まで書くな。後設定盛り過ぎだ#
アッシュとマナは海賊のアジトへ行く理由づけと、本来完結後に書く筈だった外伝主人公の先行登場でした。
完結もしてなかったのに当時の私という奴はなんて無茶を。
アッシュはインファイターな賢者枠であり、『ロトの紋章』の合体魔法を使います。
『ダイの大冒険』の【メドローア】はメインで使う予定だったので、【メヒャド】と安易な合体魔法にしたのに、『バトルロードⅡ』で登場されてしまうとまさかの先駆けとなりました。
当時しっかり投稿していればちょっとした自慢になっていたかもしれませんね。