「そういえばあのギターは私がアルス君と出会った時にはあったものだからずいぶんと古いものだよね」
ニーナがアルスの奴がいなくなった隙をついてそんな話題を出してきた。
正直私はあのギターについて何も知らない。
「そういえば私の時ももうあったわね。ティナ、あんたが一番早くアルスに出会ってるけど何かしらない?」
そういう時はティナ頼みだ。
私よりもアルスと付き合い長いしアルスの好きなものから嫌いなものまで何でも知っている。
「えっと……言っていいのかな……」
ティナが苦笑してるからあまり良い話ではない。
もしかしたら大切なもので、アルスの復活代を作ってしまった私が傷つくと思って言わないのかも。
その時はアルスを殺してたことの罪悪感に【バイキルト】つきで襲われてたからそこまで頭が回らなかったなんて、うかつだったわ。
「ニーナちゃん?」
「あ、私用事思い出したから『アリアハン』に一度帰るね。アルス君が来たら私抜きで旅立ったらダメだよって伝えておいてね」
ティナに顔色を伺われていたニーナが慌てて宿を飛び出していった。
多分私と同じ事を考えてギターの値段を確認しにいったんだと思う。
きっとニーナが何とかしてくれる。
何だかんだであの子は強いからきっとモンスターを退治してお金を稼いでギターなんてすぐに買い戻すだろう。
それで良いのか私。
もともとは私が悪くてお金足りないから仕方なくニーナがギターに手をかけたのよね。
それで1人で悪役を買ってでてくれたのにほっておくなんて友達としてダメだろ私。
「あー、ティナ。私も用事思い出したからアルスに会ったら置いて行ったら地獄の果てまでも追いかけてサーチアンドデストロイするって言っておいてね」
とにかく私もG稼ぎを手伝わないと。
でもニーナと一緒にモンスターを倒してかせいでも稼げる額は同じ。
なら別行動して後でお金を稼いでから合流すれば良いわね。
あの子は友達や友情って言葉に弱いから大はしゃぎしてくれるかも。
とにかくモンスターを『ひのきの棒』で殴って殴って殴りまくってG稼ぎ開始。
先にニーナが稼ぎきってギター買っちゃったら……まあそれもよしとするか。
目標はギター800Gの半分400Gだ。
「『スライム』撃破! 『おおありくい』撃破!」
本当にアルスの言ったとおり私は打撃が向いているらしい。
でも、それでも私は魔法使いになりたかった。
「ふぅ……ようやく100G超えた」
思ったより時間が掛かった。
避けて攻撃だと時間が掛かるし体力も続かない。
やっぱり魔法で一撃必殺した方がいいかもしれない。
「でも前のギラなんて私自身が燃えたからなー」
流石に一人でそれをやったら命に関わる。
でも練習しないとうまくならないしまたアルスに当ててしまうかもしれない。
アルスならまだ良いけどティナやニーナに当たったら一撃で棺おけよね。
「やっぱり魔法か」
とりあえず適当に正面にいる『スライム』に【メラ】を放ってみた。
私の後ろ後方に飛んでいた『おおがらす』に当たった。
「……ここまでひどかったとはビックリね」
これだとアルスに撃つなと言われるわけね。
いままでティナとニーナに当たらなかったのが奇跡だわ。
どうも私は魔法を作るイメージ力はあっても飛ばすイメージがうまくできないみたいだ。
ゼロ距離なら飛ばさなくて良いから当たられるけど、それだと私もダメージを食らっちゃうし。
アルスにアドバイスをもらうのは……なんか嫌。
そもそもアルスは勇者で接近戦主体の職業なんだから。
それはつまりトロルに数学を教えてもらうのと同じじゃない。
そんなの絶対に嫌。
「まだ【MP】もあるしお金だってまだまだためないと。よし、気合入れていこう」
息を整えるために軽く深呼吸。
うん、落ち着いた。
とりあえず適当なモンスターを探して練習台にしないとね。
「あ、ちょうど良いところにモンスターが」
見た感じ『フロッガー』だ。
あの程度のモンスター一体ならいざという時は『ひのきの棒』でいける筈だ。
というか魔法より木の棒の方が頼りになる魔法使いもどうかと思うな。
頑張れ私。
近づいてみると『フロッガー』と少し違うモンスターだった。
色は毒々しい赤紫。
そしてこの大陸のモンスター達もその異様な『フロッガー』に似たモンスターに近付こうとしない。
「ロマリア方面に生息してる筈の『ポイズントード』じゃないっ」
『フロッガー』よりも1ランク上のモンスターだ。
毒攻撃を持っているしこのあたりのモンスターよりも基本能力が高い。
私が勝てる相手ではなかった。
逃げられる相手でもなかった。
『ポイズントード』が私の存在に気付く。
手持ちに『毒けし草』は無いからかすっただけでも毒で致命傷。
魔法で遠距離攻撃をして持久戦に持ち込めば低レベルの魔法使い一人でも何とかなる相手かもしれない。
「【メラ】」
とにかく数撃つしかない。
私は【MP】なら割と高いほうだ。
【メラ】だって後20発近くは撃てる筈。
でも一発目は予想通りなのが悔しいくらいに見当はずれなところに飛んで行って、『ポイズントード』の長く伸びる舌はまっすぐ私に伸びてきた。
例えこの攻撃力が0ダメージだったとしてもこんな攻撃を受けたくなんか無い。
「【メラ】」
後ろに下がりながらの【メラ】はまた見当外れのところに飛んでいって舌は私の腕をかすめて軽い切り傷を作った。
気持ち悪いのは多分感触だけじゃなくって、毒にかかったんだと思う。
動くたびに苦しい。
長期戦は不味い。
回避しているだけでお陀仏だ。
ゼロ距離でギラをやれば倒せるかもしれないけど倒せなかったら私はやられるし、倒せたとしてもギラは自分まで巻き込んで街まで帰る体力が残らない。
だから『ひのきの棒』をがむしゃらに振り回した。
気付いたら振り回していた。
私をからかうように『ポイズントード』は攻撃を避ける。
「くぁっ」
苦しくて膝を突いてしまう。
こんなピンチも切り抜けられなければ役に立てない。
アルスがピンチになった時助けてあげられない。
アルスにお守りをされ続ける旅なんて嫌だ。
アルスを補助するために魔法使いになったんだ。
あいつは私を救ってくれた。
だから借りを返すんだ。
§
「この街で有名なの俺俺。有名なりたきゃ俺俺倒せ」
あいつは何か変な事を口ずさみながらギターを弾いていた。
その時の私はとても嫌な奴で、誰も信じられなかった。
嫌な奴だったからいじめられた。
嫌な奴だったから仕返しをした。
やられたらやり返して、やられたらやり返しての連鎖で、ついに私は誰の相手もされなくなった。
私の顔を見たら同い年の子は逃げ出す。
でも、あいつのその言葉で私はただ誰かに構ってもらいたかっただけだった事をようやく思い出した。
お父さんは仕事ばかり。
お母さんはいない。
ぱっとしない私はいつも一人で、構ってほしくって、悪戯をしたのが始まりだった。
そして初めて出会ったあいつと喧嘩をした。
そして私は負けた。
負けたからもう誰も構ってくれないと思った。
いや、勝ってももう誰も構ってくれないことは分かっていた。
私は不器用なんだ。
「はいこれでお前は俺の子分な」
そんな不器用な私に手を差し伸べてくれたのがあいつだ。
泣き出してしまった私を私以上の不器用で慰めてくれた。
綺麗なギターの音色を聞かせてくれた。
接近戦ではあいつに勝てない。
だから魔法じゃないとダメなんだ。
あいつが接近戦に集中できるように私が援護するんだ。
§
毒で一瞬意識が飛んでいた。
走馬灯というのか、一瞬の出来事だったけど昔のことをたくさん見た気がした。
『ポイズントード』が私にトドメを刺す気なのか大きく地を蹴って私に突撃してくる。
「ふざけないで」
腕の傷がジクジク痛い。
「痛くない」
毒が身体中に回っている。
でも一人ぼっちだったあの頃に比べたらこんなの苦しくない。
私はあの頃の私じゃない。
魔法使いだ。
魔法で倒す。
「こんなの全然苦しくない」
『ひのきの棒』を捨てる。
『ポイズントード』が迫る。
「【ギラ】」
魔法のイメージを作り出すのは得意だ。
飛ばすイメージは下手だ。
ならイメージせずに直接飛ばせば良い。
出した【ギラ】を掴むと熱い。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
思いっきり私は【ギラ】を投げつけた。
炎の柱が『ポイズントード』を包み燃え上がる。
手が痛い。
毒が苦しい。
でも勝てた。
勝つことができた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
私は力尽きて大の字になっていた。
もう毒で動けない。
情けない。
きっとあいつは来てくれるけど迷惑をかけてしまう。
それにもう日は落ちているから、ニーナがギターを買っている頃だ。
私の外出は無駄な苦労って事か。
自分の情けなさにもう笑うしかなかった。
「え……」
私の近くに『毒けし草』が落ちていた。
『ポイズントード』が落としたものにしては焦げていない。
多分誰かの落し物だと思う。
とにかくついている。
私はその『毒けし草』で毒を中和して、ふらついた足取りで『レーベ』に向かった。
「どこほっつき歩いてたんだ。この不良娘」
街の手前でアルスがギターを弾いていた。
「どこだっていいでしょ」
疲れていたからちょうど良い。
アルスの隣に腰をかける。
当然のことながらあいつはボロボロの私を見ても【ホイミ】一つかけてくれないし心配してもくれない。
でも何かあったのかとも聞かないので気が楽だ。
あいつはただ、自分のギターを嬉しそうに弾いている。
「相変わらず上手いわね」
「褒めても何もでないぞ。そもそもお前はうるさいの一言で俺を殺しただろ」
「あれは……悪かったって言ったじゃない」
別に怒っている様子も無かったから私も普通に返す。
「あ、アルスこんなところに居た。探したんだよ」
ティナが街の方から走ってきた。
「なんだお前まで来たのか。この勢いだとニーナまで来そうだな。俺は静かにギターを弾く時間も無いのか」
こう言っているけどなんだかんだで私達に構ってくれている。
私達の……友達だ。
「アルス今日はお疲れ様」
「何のことだよ」
「秘密♪」
ティナが嬉しそうに笑っている。
街でアルスと何かあったのかもしれない。
ちょっと気になる。
「ニーナちゃんおかえり」
ティナの言葉に私はニーナがいる事にようやく気付いた。
これで皆そろった訳だけどまたティナに先越された。
いつも誰かが来たの最初に気付くのティナなんだから。
たまには私に台詞をよこせーなんてね。
「ニーナも来たのか。まったく、睡眠妨害にならないようにここで引いてるのにこれって俺は死に損か?」
アルスは痛いところをついてくる。そんなに私をいじめて楽しいか。
「ニーナが買いなおしてくれたんだって? どうせなら新品買ってくれればよかったのにな」
やっぱりニーナはすごい。
私が『ポイズントード』に苦戦している間にもう800Gかせいだみたいだ。
「だだいまー。いやぁーアルス君にはそのボロッちいギターが一番に合うと思って。もう感動で涙ボロボロだった? 渡された時泣いて「ああ、私はネロになんてひどい事をしてしまったんだ~」って膝を突いたりなんかしちゃったりした?」
「誰がするか。つーかボロっちいギターがお似合いで悪うございましたね」
でもアルスはそのギターが一番に合うってのは私も同感だ。
だってアルスの会った時にはじめて聞いた楽器なんだから。
「たく、それとお前はいつまでそんな格好してるんだ。風邪引くぞ」
アルス君が自分のマントをニーナにかぶせてあげた。
疲れていて気付かなかったけどニーナの格好がスクール水着だ。
爆笑しそうになったけどここは頑張ったニーナに免じてこらえておこう。
「あれれ?」
ニーナも夢中だったのか今気付いたらしい。
「あわわわわわわ。これは生涯で一番の屈辱ですヨ。お嫁にいけなくなって独身OL35歳家事は得意なのに寂しい人になったらアルス君の責任として慰謝料を請求してやるぞー」
こんな話題で今日は宿に戻って消灯だ。
アルスはぐっすり寝ている。
その間にニーナがアルスの持ち物に何か書いていたから覗き見してみると日記みたいだ。
「今日の仕返し~。にっしっしっし」
ニーナはやけにご機嫌だ。
「ダメだよ。人の日記を勝手に見たら」
「ほらほら、ティナちゃんとアリシアちゃんにも書かせてあげるから」
……明日のアルスの反応が楽しみね。
今日は塔で『盗賊の鍵』を取りアリシアの親父から『魔法の玉』通称スペシューム弾頭弾を手に入れた。
せっかくの『盗賊の鍵』なので民家をあさろうと思ったがティナがいる限り「そんなことしたらダメだよ」と止められるのがオチか。
とりあえずニーナの罰ゲームは今日一日スクール水着と浮き輪着用ですごせと言ったら三人に白い目で見られた。
いや、だって商人といったらこの格好だろ。
その格好で自重したのか売った筈の俺のギターを買い戻してきた。
どこから金を稼いできたのかはしらないけどさすがは商人といったところか。
ボロボロだけど俺の大切なギター。
早速宿から離れたところで引いてたらアリシアが聞きに来たのには驚いた。
上手いと言ってくれるのは嬉しいが正直照れる。
その後ティナが来てわりとまったりしてたのにニーナまで来た。
相変わらず騒がしい奴だ。
称号「むっつりスケベ」を手に入れた。
アルス「よし、これで魔王もいちころだぜ」
今日も一日お疲れ様。明日もよろしくね。
ティナより
やんちゃ盛りな幼い勇者の黒歴史ギター突撃がここでも火を噴いています。
そしてニーナが買い直した訳でもアリシアが買い直した訳でもないギターを買ったのは?
次回同じ日のティナ話です。