【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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勇者になりたかった男の物語。


第五話「激闘の果てに残るもの」

 俺がこの孤島を訪れたのは偶然だった。

 

 『ヤマタノオロチ』という化け物が暴れているらしいので、いっちょ倒そうと思ったら正攻法では勝てなくて掛け替えのない友を失った。

 

 女を囮にたらふく酒を飲ませて酔ったところを叩くしかないだろう。

 女を食う化け物なんてこれでいちころだ。

 だが心に傷を持った『ジパング』の民は当然ながら囮を引き受けてくれない。

 次ぎに寄った街か村で囮を頼むとしよう。

 

 

 『バハラタ』で女の子に声をかけたら悲鳴を上げられた。

 何かと面倒だから気絶させて洞窟まで運んでおく。

 ゆっくり話をすれば理解してくれるだろう。

 そうしたら話す前に女の彼氏がやってきた。

 勇ましいが話をややこしくしないでもらいたい。

 

 

 そしてアルスって奴がやってきた。

 前回と引き続きこんな形で出会うとは本当に嫌になる。

 言い訳なんて見苦しいからその場のテンションで戦った。

 

 

 結果、精神的にも肉体的にも疲労していた俺は惨敗した。

 

 

 またもみっともない姿をみせてしまった。

 さすがに今回はアルスにも失望されたか。

 やはり魔王退治の冒険で人の家のものをあさるもんじゃないな。

 

 

 

 

 必死に『ヤマタノオロチ』を倒す方法を考えて、準備を整えて、『ヤマタノオロチ』の犠牲者がこれ以上増える前に『ジパングの洞窟』に戻ることにした。

 上手くいかない人生だったが仲間の弔い合戦くらい成功させたいものである。

 

§

 

 

「ステラちゃんが落ちた! アルス君アルス君アルスく~ん! 死んでる場合じゃないってば! 姉御も殴ってる場合じゃありませんヨ!」

「む、しまった。私としたことが少々【メタパニ】にやられていたようだ」

 洞窟に着くと棺おけ一つと勇者一行の姿があった。

 

 アルスの奴と前回増えていた女の子の姿が無い。

 おそらく落ちたのがその女の子だろう。

 

「アルスが……アルスが……」

「はいはいティナはアルスが死んだくらいで泣かないの。それよりも早くステラを拾ってあげないと。死体回収できなかったらシャレにならないわよ!?」

 

 アルスが棺おけになっているということは、【棺おけの加護】を受けているのだろう。

 噂で聞いたことがあったがまさか本当にそんなシステムがあるとは驚きだ。

 

 

 これも勇者として選ばれた人間の特権といったところか。

 他にも王の許可で人の家のものを勝手に持ち出しても構わないらしい。

 俺達は装備集めに人の家のタンスをあさったら盗賊になったぞ、おい。

 

 

「ああもう! 大変な時にモンスターがうっとうしい! 【ヒャダルコ】!」

 魔法使いが『溶岩魔人』を【ヒャダルコ】で薙ぎ払っていく。

 だがその後ろの『鬼面道士』の補助に苦戦しているようだ。

 

 向こうから見れば『溶岩魔人』が邪魔で『鬼面道士』を攻撃できずにいるが、俺のいる位置はちょうど『鬼面道士』グループの真後ろだ。

 ここは手を貸してやることにしよう。

 

「ずいぶん楽しいことやってるじゃねぇか」

「新手かっ!? 撤退するぞ。一人仕留めたから上出来だ!」

 敵の司令塔か、『骸骨剣士』が合図するとモンスター達は引いていく。

 状況が悪くなると判断してすぐ撤退とはなかなかいい指揮官だ。

 

 

 お礼でも言いに来たのか女騎士が近付いてくる。

 

 

「ちょうどいいところに来た。私はアルスを復活させに戻らなければならんのだ。悪いが私が戻るまで仲間の救出を手伝ってくれ」

 面倒なことを押し付けて、返事も待たずに女騎士は棺おけを引きずりながら出口に向かって行いく。

 

 少女三人の目線が俺に向けられている。

 手伝わなければ目覚めが悪くなりそうだ。

 

 泣いている僧侶がティナ、喋り続けている商人がニーナ、目つきの悪い魔法使いがアリシアというらしい。

 

「とにかく、だ。そっちは打撃魔法攻撃回復がそろっているから、そのままのパーティーで俺は一人で下に降りる。二手に分かれたほうが人探しははかどるだろ」

 正直女子供守りながら戦えるほど器用ではない。

 

「そうね。一緒に行動して後ろから攻撃でもされたらたまったもんじゃないわ」

「あははははー。アリシアちゃんがそれを言いますか。もうアルス君にギラ耐性をつけるくらい撃ったのにねー」

「うるさいわね! わざとじゃないわよ!」

 アルスも苦労しているようだ。

 

「こっちはティナちゃんを泣き止ませたら下に降りるからカンダタおじさんは先行ってて下さいヨ」

「おじ……まあいい。ステラってのは前回いた金髪の武道家だな?」

「そうそうそうそう。おじさん記憶力いいね。もう無事ステラちゃんを助け出したあかつきにはなんとなんとなんとなんと可愛い子の『エッチな水着』写真集をプレゼントしてあげるから溶岩の中でシンクロする勢いで頑張ってねー」

「いらんし俺に死ねと言うのか」

 

 実は少しほしい。

 いや、勘違いをしないでくれ。俺はロリコンではない。

 だが『危ない水着』を着ている女性を一目見たいと思うのは男として当然だ。

 だから俺はロリコンではない。

 

 

 とにかく下に降りよう。

 

 

「はぅっ!?」

 何かを踏んづけた。

 金髪の女の子のようだ。

 

「おう悪い」

「悪いと思うのならどいてくださいっ!」

 

 それもそうだ。

 どいてやると座ったまま涙目で俺を見上げている。

 やばい、可愛い。

 

「あれ……アルスさんじゃ……あれ?」

 どうやら俺を一瞬アルスと見間違えたようだ。

 それにしてもまさかこんなにも簡単に見つけられて、しかも無事だとは思いもしなかった。

 

「人攫いさんですか?」

「まあ間違ってはないな。女剣士に頼まれた。上で他の奴らが待ってるぞ」

 後はあいつらが降りてくるのをまつだけ、と簡単にはいかないようだ。

 

 『ヤマタノオロチ』の咆哮が奥の方から響いてくる。

 

「何!? 今の音!?」

 上から魔法使いの声がした。

 

「『ヤマタノオロチ』だ。【リレミト】が使えるなら降りてきてくれ。お前らの仲間は無事だ」

「あー、まだティナが動けそうにないから【リレミト】は無理ね。こうも暗いと【ルーラ】の座標もつかみにくいし……今度は【リレミト】練習しようかしら」

「ならアルスが来るまでそこで待機していろ。俺はこいつを連れて階段でそっちに向かう」

 

「ステラに怪我させたら承知しないからね」

「無茶言うなクソガキが」

 

 喋っていられる余裕はもうない。

 

「人攫いさん。何か奥の方で今光りましたよ?」

「ああ、『ヤマタノオロチ』の仕業だろ。岩陰に隠れねぇと黒こげになるぞ」

 予想通り炎がまっすぐ向かってきた。

 まだ相手の姿もろくに確認していないというのによくやるものだ。

 

「カンダタの親分!」

 『ヤマタノオロチ』を倒すための下ごしらえをしてくれていた子分のデイビットの声がした。

 岩陰だけだと不安が残ると思っていたところいいタイミングだ。

 

「【フバーハ】!」

 

 デイビットが防壁を張ってくれている間に俺はステラの手を引いて走った。

 炎は【フバーハ】に当たると威力が弱まり俺に届く前に消える。

 遠くにいる分にはこれで何とかなるが、近付かれたら炎は確実に【フバーハ】を突破して届くだろう。

 

 近付かれる前に準備が整っている生け贄の祭壇に急ぐ。

 

「親分。待ってました」

「他の二人はどうした?」

 グフタスとマイケルの姿が見当たらない。

 確か準備は三人で進めるように指示していた筈だ。

 

「……マイケルは奴に……グフタスは準備をするために囮を買ってでてそのまま……」

「そうか……」

 

 『ヤマタノオロチ』が活発に活動していない昼間なら安全かと思っていたが考えが甘かった。

 また若い奴が俺より先に逝きやがった。

 自分の無力さに腹が立つ。

 

「ですが準備は整いました。見てください! 『レーベ』から取り寄せた『魔法の玉』にアルコールの強い酒! とっておきの火薬! これで皆の弔い合戦といきましょう!」

 

 『魔法の玉』のトラップは完成している。

 後は囮が必要だ。

 女子供なら相手も油断するかもしれないが、俺やデイビットだと見かけたら誘き出す前に炎を吐かれてしまうだろう。

 さてどうしたものか。

 

「人攫いさん! 足音がどんどん近付いてますよ!?」

 時間がない。

 今出来ることをやるだけやってみるとしよう。

 

「お前囮になれ」

「はぅ!? そそそそそそれはあのドラゴンの餌になれといっているのでしょうか!?」

「なに、祭壇から一歩も動かなければおそらく平気だ。炎はかれたらデイビットが多分盾になってくれるだろうよ」

「おそらくや多分なんて曖昧な言葉で説得しないでください!」

「ほら『ヤマタノオロチ』のお出ましだ。いいか、危険だからそこを一歩も動くなよ」

 

 とにかく後は神頼みだ。

 俺は隠れながら俺の仕事場に向かう。

 『ヤマタノオロチ』が洞窟の壁をえぐりながら咆哮をあげて生け贄の祭壇にやってくる。

 

「はぅぅぅぅぅぅぅっ!? 私なんて食べてもおいしくないですよ!?」

 

 ステラもさすがは勇者の仲間と言ったところか、震えているがその場を動こうとはしない。

 それに『ヤマタノオロチ』も俺達の姿を確認していなかったから、ステラのことを生け贄に差し出された少女だと思い込み炎で焼こうとはしていない。

 ゆっくりとステラに近付いて行っている。

 

 そして予定の場所に到着した。

 

「こっちだ蛇野郎」

 そこで俺は姿を現すと当然『ヤマタノオロチ』の5つの頭が俺をにらみつけて口を大きく開いた。

 

 予定通りの炎。

 後はこの炎を避けるだけだが、ちと無理があるか。

 

「【バシルーラ】!」

 

 デイビットが【バシルーラ】で俺をステラのところまで飛ばしてくれた。

 相変わらずいい仕事をしてくれる奴だ。

 『ヤマタノオロチ』の炎は地面を薙ぎ払う。

 

 だが、俺達の細工のせいでそれだけではすまない。

 地面にばら撒いておいた酒が燃えて炎の柱が地面を走る。

 目標は『ヤマタノオロチ』の真下に埋めてある“魔法の玉”と、天井に仕掛けてある『魔法の玉』の起爆装置である火薬。

 

 まず下の『魔法の玉』を爆発させてダメージを怯んだところに、上の階を崩して『ヤマタノオロチ』を生き埋めにする作戦だ。

 いくらこの巨体でも『魔法の玉』と上の断層に潰されては無事ではすまない筈だ。

 

 予定通り『魔法の玉』は爆発。

 『ヤマタノオロチ』は生き埋め。

 仲間三人という大きな犠牲を払ったんだ。

 上手く行くにきまっている。

 

 長いようで短い沈黙の中……潰された『ヤマタノオロチ』に動きはなかった。

 

「……おつかれさん。いい囮ぶりだったぞ。もうトラップも何もないから動いても構わん」

「はぅ……そうしたいのは山々なんですけど腰が~」

 どうやら『ヤマタノオロチ』を前にしても動かなかったのではなく、動けなかったらしい。

 まあ年端も行かない女の子だ。こんなもんだろう。

 

 

「親分ふせてくだせえ!」

 

 

 デイビットの叫び声に慌ててステラを庇うように地面に伏せ、『ヤマタノオロチ』の姿を確認する。

 

 かすかに土がうごく。

 冗談は止めて欲しいところだ。

 『ヤマタノオロチ』は山済みになっている土を【火炎の息】で吹き飛ばした。

 ダメージを受けているようだがまだピンピンしている。

 こいつは本当の化け物だ。

 

「【フバーハ】!」

 

 デイビットが俺達に【フバーハ】の防壁を張るのと同時に『ヤマタノオロチ』が再び【火炎の息】を吐いてくる。

 俺とデイビットが盾になったおかげで動くことの出来ないステラまで炎は届かなかったが、その分のダメージが【フバーハ】を張っていても辛い。

 

「人攫いさん!」

「気にすんな。そこで大人しくしてろよ!」

 ダメージは与えている。

 同じ手が通用するとも思えないし、接近されて無事に逃げ切れる相手でもない。

 ここで倒すしかない。

 

 俺は『バトルアックス』でオロチの頭を叩き潰そうと大きく斧を振り上げた。

 尻尾で攻撃してきたが攻撃を止めている余裕はない。

 

「【バギマ】!」

 

 デイビットが牽制に風の刃で『ヤマタノオロチ』の動きを一瞬だけ止めた。

 その隙に斧を振り下ろして『ヤマタノオロチ』の迫り来る尾を弾き飛ばす。

 

 

 流石に斬れないか。

 

 

「親方今です!」

 今度は【ルカニ】で防御力まで下げてくれた。

 これなら行ける筈だ。

 『バトルアックス』の会心の一撃で尾を切り裂いた。

 

 『ヤマタノオロチ』の咆哮が洞窟中に響き渡る。

 

 だが頭は俺の方をむいていた。

 いっせいに【火炎の息】を吐かれた。

 ステラは俺のパーティーとみなされなかったのか今回は俺とデイビットに完全に的を絞っている。

 

 炎ばかり吐くんじゃない、このやろう。

 

 【フバーハ】が掛かっているとはいえ、二連続も直撃はまずかった。

 デイビットの【ベホイミ】じゃ回復は間に合わない。

 【ベホマ】を使い始めた。

 【MP】少ないくせによくやる。

 

 だが補助がうざくなったのか、『ヤマタノオロチ』はデイビットを狙いだした。

 俺はデイビットを守りながら戦わなければならない。

 

「す、助太刀します!」

 

 それを見かねてステラが動き出した。

 爪系の武器で『ヤマタノオロチ』を攻撃しているようだが、あまり効いている様子はない。

 だが、いい牽制にはなる。

 『ヤマタノオロチ』の頭一つがステラに向いてくれた。

 

「親方っ。俺はいいから奴を倒しにいってくだせえ!」

「……死ぬなよ」

「この甲冑は伊達じゃありません!」

 再び俺は攻撃しに行く。

 

 苦戦しているが補助はデイビットがしてくれるし、ステラが『ヤマタノオロチ』の攻撃を分散してくれているおかげで頭を一つ潰すことができた。

 

 これで【火炎の息】は四発までしか同時に撃てない。

 だが、それと同時にデイビットから回復魔法が来なくなった。

 どうやら【MP】が切れたようだ。

 

 【火炎の息】が俺達をなぎ払った。

 まだ、皆生きている。

 だが、見るからにか弱そうなステラは虫の息だ。

 

 やはり下がらせておけば……いや、ステラがいなければ首一つも持っていけなかっただろう。

 

 『ヤマタノオロチ』は二発目を撃つつもりだ。

 俺はまだ耐えられるが……デイビットとステラは殺される。

 無意識の内に庇いに出て四発の【火炎の息】をまともに食らった。

 

 

 

 情けないことに、俺は、俺達は、ここで終わりか。

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 グフタスの声がした。

 

 『魔法の玉』で吹き飛ばした天井の大穴から飛び降りて、『ヤマタノオロチ』の頭に剣を突き刺す。

 囮を買ってでて帰ってこなかったと聞いていたが生きていたようだ。

 正直嬉しいが、出てきてほしくなかった。

 

「グフタスっ! なぜ戻ってきた!?」

「おかしら。あんたは身寄りのない俺を拾ってくれた。ありがとな」

 

 三つの頭がグフタスをにらみつけて口をあけた。

 グフタスは笑っている。

 

「手癖が悪くって一個拝借させてもらってな。吹き飛べ」

 手には『魔法の玉』が握られていた。

 炎で爆発してグスタフが剣を突き刺していた頭が消し飛んだ。

 グフタスの姿は無い。

 

 

 

 

 ただ「おかしらを頼んだぜ」と最後に聞こえた気がした。

 

 

 

 

「オロチ!」

 もう体力も【MP】も残っていないデイビットが『ヤマタノオロチ』に向かって走っていた。

 

 もうやめてくれ。逃げてくれ。俺なんて置いて逃げてくれ。

 必死に叫ぼうとしても声はもうでない。

 

 『ヤマタノオロチ』が声に反応して【火炎の息】を吐き出した。

 が、見当違いのところに吐いている。

 炎の行き先はデイビットの甲冑だけが立っていた。

 炎で甲冑がくずれる。

 

 

 

「親分。俺らのこと、忘れないでください。命を張って頑張ったバカのこと忘れないでください。どうかお元気で」

 

 

 

 デイビットが『ヤマタノオロチ』の頭に指を突き刺した。

 

「親方が買ってくれた鎧……伊達じゃないですね」

 笑わないでくれ。笑うのなら皆そろって笑ってくれ。頼むから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――メガンテ―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が『ヤマタノオロチ』の頭をまた一つ吹き飛ばした。

 さらに祭壇の部屋の壁も吹き飛ばして溶岩地帯が見えている。

 溶岩地帯に住む魔物でも身体がこれだけ損傷していたらただではすまない筈だ。

 

 

「運がよけりゃ……黄泉の国で杯をかわそうや」

 

 

 このチャンスを物にしてみせる。

 こんな悲しみを繰り返さない為にも、ここで『ヤマタノオロチ』を倒す。

 体に鞭を打って立ち上がる。

 『ヤマタノオロチ』が怯んでいる隙に俺は全ての力をこめて斧を振り下ろした。

 

「っ」

 

 よりによってその一撃を外した。

 避けられたわけではない。

 目がかすんで俺が攻撃を外したんだ。

 情けない。命を掛けて作ってもらったチャンスを俺は無駄にしてしまった。

 

 身体から一気に力が抜ける。

 

「くそっ」

 立ち上がれない。

 もう身体がいうことを聞いてくれない。

 『ヤマタノオロチ』が迫ってくる。

 

 

「【ベギラマ】!」

 炎が『ヤマタノオロチ』にぶつかって弾かれた。

 アリシアが上に開いた穴から降りてきた。

 

「まったく、来るなと言ったのに」

「あんた一人じゃステラを守れるか心配だったのよ。アルスほどあんたを信頼してないんだから」

「そいつは結構。簡単に人を信じたって裏切られるのが落ちだ」

 

 どいつもこいつも俺より先に逝きやがる。

 『ヤマタノオロチ』が再び炎を吐き出そうと口を開いている。

 盾になることももう出来ないってのか。

 

 すると鎖が『ヤマタノオロチ』の口に巻きついて、行き場をなくした【火炎の息】は口で爆発した。

 

 鎖の先端には『鉄の槍』がくっついている。

 

「ニーナちゃん参上! もうヒーロー的な参上で自分でも惚れ惚れしちゃうね!」

 

 ニーナがティナを背負って降りてきた。

 ティナはステラに【ベホイミ】を掛けた後、俺にも【ベホイミ】を掛けてくれる。

 

「大丈夫ですか?」

 

 少し震えたティナの声。

 無理してきたのか。

 本当にどいつもこいつも勇者パーティーしてやがる。

 

 

 俺だけが……無様じゃないか。

 仲間も救えずに、『ヤマタノオロチ』も倒すことが出来ずに助けられてばかりだ。

 だからもう誰も死なせない。

 犠牲になった仲間の為にも絶対に負けない。

 

 

「次来るぞ。各自散開。【火炎の息】の直撃だけは避けろ」

 まずは全員を散らせる。

 

「あんたが仕切るなっ」

 散開しつつアリシアが文句を言いながらも【イオラ】で攻撃するが、これも効いている様子はない。

 

「何よこの化け物はっ!?」

「炎や爆発に体性がある。やるなら【ヒャド】系にしろ」

「アルスみたいに言わないでよっ。もっと優しく言えない訳!?」

「文句を言う前に【ヒャド】をしろ!」

 

 【火炎の息】が来た。

 だが頭はたったの二つ。

 その内の一つはニーナが持っている鎖が抑えてくれている。

 威力が激減している炎を『バトルアックス』で薙ぎ払う。

 

 炎の威力が落ちた今、通常攻撃主体に来るはずだ。

 俺はニーナに指示を……。

 

「ニーナっ! 鎖を離して!」

 

 アリシアの掛け声にニーナが鎖を離す。

 離すとほぼ同時に『ヤマタノオロチ』が首を大きく振るいだした。

 あのままだったらニーナの身体は引っ張られて勢いよく壁にぶつかっていただろう。

 いい判断だ。

 

「ティナ、【ピオリム】!」

 

 さらにアリシアは不発に終わった攻撃の間にこっちの素早さを上げておく。

 

「ステラ、足を取るから援護お願い!」

 

 その言葉にステラが動いた。

 【ヒャダルコ】で少し足止めしている間にステラが爪で指を狙う。

 その攻撃で『ヤマタノオロチ』が怯んだ。

 

 

 もっと俺がしっかりしていれば、デイビット、グフタス、マイケル、ケヴィン、お前らを死なすことなく、戦えていたんだろうな。

 ふがいない俺を許してくれ。

 

 

「【カンダタ】、練習中の魔法だけど補助するから突っ込んでっ」

 身体に力がみなぎってくる。

 これは【バイキルト】か。

 こいつらはまだ成長する。未来がある。

 もう少しこいつらの成長を見届けたかったものだ。

 

 

 俺は大きく地を蹴った。

 『ヤマタノオロチ』が【火炎の息】を吐くがもう俺は止まらない。

 左腕を盾にして強引に突破する。

 

 

「突っ込めとは言ったけど炎にまで突っ込んでどうすんのよっ」

 

 

 いや、これでいい。

 『ヤマタノオロチ』は分が悪いと判断して逃げ出そうとしている。

 休まれて頭が元に戻ったら、こいつらでも犠牲が出てしまうかもしれない。

 

 俺は『ヤマタノオロチ』の身体を一閃して溶岩まで吹き飛ばした。

 だが、頭の一つが俺の肩に食いつく。

 やはりいたちの最後っ屁をしてきたか。

 

 だけど『ヤマタノオロチ』は倒せた。

 

 俺の身体は、『ヤマタノオロチ』と共に、溶岩に投げ出される。

 

 

 俺は、最後の最後で勇者になれただろうか?

 

 




この作品におけるカンダタは、勇者でも【くろうにん】でもないアルスを意識して作られたキャラクターです。
何の加護も奇跡も起こらず、女の子に囲まれることもなく、大切なものを何一つ守れなかった男。
違う火山ですが、オルテガと同じで火山での行方不明でアレフガルト行きを果たします。
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