お父さんとお母さんは立派だった。
勇者オルテガの不在を狙って攻めて来たバラモス軍と戦った。
そして最強攻撃魔法を失敗してバラモス軍と共に消滅。
もう10年も昔のことだ。
§
「そういえばあのギターは私がアルス君と出会った時にはあったものだからずいぶんと古いものだよね」
ニーナちゃんが突然そんな話題を出してきた。
「そういえば私の時ももうあったわね。ティナ、あんたが一番早くアルスに出会ってるけど何かしらない?」
「えっと……言っていいのかな……」
あのギターはオルテガさんが残してくれた物とか神々から授かった神具とか街の人は色々噂しているけどそんな凄い物じゃない。
「ニーナちゃん?」
ニーナちゃんの様子がおかしい。どうしたのかな。
「あ、私用事思い出したからアリアハンに一度帰るね。アルス君が来たら私抜きで旅立ったらダメだよって伝えておいてね」
そう言うとニーナちゃんは宿を飛び出していった。
家に忘れ物でもしてきたのかな。
「あー、ティナ。私も用事思い出したからアルスに会ったら置いて行ったら地獄の果てまでも追いかけてサーチアンドデストロイするって言っておいてね」
それに続いてアリシアちゃんまで忘れ物を取りに行ってしまった。
私も忘れ物が無いか今の内にチェックしておこっかな。
私が荷物を整理してるとアルスが戻ってきた。
「あ、そうそう。お前ら夜は俺が特訓つけてやるから今の内に休んどけ……って、他の二人は?」
「アリシアちゃんとニーナちゃんなら忘れ物を取りに行ったよ。だから待っててだって」
「……うむぅ、せっかく戦闘訓練つけてやろうと思ったのに。ほんじゃあ俺は適当に街でもふらつこうかねえ」
笑ってるけど、どこか真剣な顔をしてる。
多分アリシアちゃんとニーナちゃんのことだと思う。
私は気付けなかったけど二人が危ないことをするのかもしれない。
「すぐもどってこれるかな?」
「んー、どうだろうな。夜には帰れると思うぞ」
夜は長いと思うけど、私が行っても役に立てそうにないからお留守番かな。
「いってらっしゃい。気をつけて行ってきてね」
「……いや、街をふらつくだけだって」
いくらいっても認めないのがアルスらしい。
でもなるべく速く帰ってきてほしいかな。
私は一人だと寂しくてダメだから。
昔のことをすぐに思い出しちゃうから。
すぐに泣いちゃうからダメ。
§
昔の私はもっと酷かった。
もう泣きすぎて涙も出なくて、全てがどうでもよくなってた気がする。
教会から一歩も出なかった。
でも外からアルスがへたなギターを引きながら入ってきて神父さんにこういった。
私は泣いた。
いい加減な理由だったから泣いた。
人の命はお金じゃない。
助からない命だってあるのにって。
今でも最悪な出会い方だったと思う。
その日からずっとアルスは教会の前でギターを弾くようになった。
たまにおひねりをもらっていた。
興味が無かったから私は今まで通りだった。
雨の日も弾き続けていた。
どうしてそんなにお金がほしいのか不思議だった。
ちょっとずつギターもマシになっていって、神父さんに怒られても続けて、おひねりの量も増えてた。
ある日、アルスが私の部屋にやってきた。
興味が無かった。
今なら可愛いと思える服だったけど興味が無かった。
服なんてどれも同じだと思っていた。
またアルスは毎日ギターを弾き続けた。
たまに私の部屋に来ては何かをプレゼントしてくる。
興味が無かった。
それが私という人間だった。
ある雨の日ギターの音がしなかった。
ようやく飽きたのかと窓から下を覗き込むと……倒れていた。
§
「っ」
いつの間にか昔を思い出して私は泣きそうになってた。
それでどうしようもなく怖くなる。
お父さんやお母さんのようにアルスや、みんなが消えてしまうんじゃないかって怖くなる。
皆は大丈夫か、怪我なんてしてないだろうか。
一度考え出すとどんどん沈んでいく。
「―――――――」
街のほうが騒がしい。
「誰かが街の入り口に倒れてたらしいぞ!」
倒れていた。誰が?
無我夢中で宿を飛び出していた。
「みんな……アルスっ……」
人ごみを掻き分けて現場に向かう。
倒れていたのは…知らない武道家の男の人だった。
アルスが回復魔法をかけてあげている。
「『ポイズントード』が……やつらが追ってくる……」
「もう倒したから安心しろ」
どんなモンスターかは分からないけどアルスが既に倒しているらしい。
アルスは無事だ。
でも涙が止まらない。
まともに立っていることすらできない。
「なんだ、ちょっと留守にしただけでそれか」
アルスが私に気付いて声をかけてくれている。
「あ……え……ぁ……」
大丈夫だからすら言えないくらい私の顔は涙でぐしょぐしょになってて、またアルスに心配かけちゃうって思ってもどうしようもなくって、私はアルスの胸でいつものように泣いてた。
「大丈夫、皆どこにもいかないって」
「……ごめんなさい……私……」
「いつものことだろ」
私が不安で泣いてしまうのはいつものことだけど、迷惑をかけてしまっている。
街の人達は何事かと見てる。
「これでよし」
武道家さんの回復を終えて私を泣き止ませるとアルスはふぅと息をついた。
本当にアルスは強い。
心も、身体も。
「ありがとうございます旅のお方」
「気にすんな。とりあえず勇者アルスの知名度を上げてさえしてくれれば充分だ」
笑いながら冗談を言う。
昔から変わらない。
だから私は心配だ。
いつか無理や無茶がたたって身体や心に跳ね返ってきてしまう。
私が頑張らないといけないはずなのに、私は泣く事しかできない。
あの時だって、無理がたたったんだから。
私が無理させちゃったんだから。
§
聴こえないギターの音に窓から下を覗きこむとアルスが倒れていた。
神父さんの話では勇者に必要な特訓の後に毎回ここに来てギターを弾いていたらしい。
その日は神父さんに言われたから看病をしていた。
興味は少ししかなかった。
次の日、神父さんに連れられてお父さんとお母さんのお墓に行った。
お花が一杯飾ってあったのは城の人達が添えてくれたものだと初めは思った。
「アルス君が毎日花を飾っているんだよ」
だから神父さんのその言葉が信じられなかった。
教会に来る前から毎日ここに花を添えていたらしい。
お小遣いでは足りなくなったから教会に来てお金を稼ごうとした。
何でそんなことをするのか分からない。
私のお父さんとお母さんとアルスは面識がない。
「アルス君のお父さん、オルテガ氏が留守の間に起こった出来事だったんだ」
勇者は皆を守るものなのに守れなかった。
だから花を添えるらしい。
意味が分からない。
アルスには関係ない。
アルスのお父さんも世界を救うために旅立ったのだから仕方なかった。
「アルス君はそういう子なんだよ。どうしようもないくらい優しすぎるんだ」
そしてたまに窓から見える私の姿を見てプレゼントまでしだした。
訓練でボロボロなのにお金を稼いで、私に似合いそうなものを勝手に選んで、私にくれた。
私はまた泣いていた。
教会に戻ってアルスに謝り続けていた。
アルスが死んじゃったら私のせいだ。私が悪い。みんな私が悪い。
そんな人だった。
§
「なんだよ、また泣くのか」
また泣きそうだったのかアルスが私の頭を優しくなでていた。
だから私はなるべく泣かないように努力しようと思う。
なるべく笑顔で居ようと思う。
まだ役に立てないからせめて……。
「アルスはまだお出かけする予定あるかな?」
「ん。まあ結構まわりたい店あるからなー」
「私は大丈夫だから」
だから笑顔で言おう。
「いってらっしゃい」と「おかえり」を。
私ができることはただそれだけだ。
それだけでも皆は喜んでくれる。
アルスは無理をするからちゃんと休める場所を作ってあげよう。
それが私のできる事だと思うから。
今日は塔で『盗賊の鍵』を取りアリシアの親父から『魔法の玉』通称スペシューム弾頭弾を手に入れた。
せっかくの『盗賊の鍵』なので民家をあさろうと思ったがティナがいる限り「そんなことしたらダメだよ」と止められるのがオチか。
しかしニーナの元気が無い。
罰ゲームは今日一日スクール水着と浮き輪着用ですごせと言っても反応が薄かった。
まだギターのことを気にしているようだ。
まあ何はともあれ塔でじいさんを救出。
わしをおとりに使うなって怒られた。怒るならニーナにしてくれ。
【ルーラ】で『レーベ』に戻ってとりあえずギターを購入。
宿に戻ってみるとニーナとアリシアがいない。
おそらくギター代を稼ぎに行ったのだろう。手の掛かる奴らめ。
村の入り口に倒れていた武道家の情報によると『ポイズントード』がこの辺りに出たらしい。
ニーナの事だから手軽に稼ごうと馬鹿なことを考えてマダラグモのところに行った筈だ。
アリシアはラックがないから『ポイズントード』に出会うかもしれない。
『毒けし草』と『ブロンズナイフ』でも買っておくか。
予想通りで困った。俺の身体は一つなんだから勘弁してくれ。
今日ほど【ルーラ】に感謝した日はない。
ティナの笑顔が天子に見えた。
ティナは何だか気付いているみたいだったけど口は堅いほうだから安心だ。
とりあえず今日の出来事はみんなの頑張りにしたいと思う。
伝説とは常にそれっぽいものに変えられていくものだ。
この位の冒険の書の修正は許されるだろう。
ティナの話のようで、ひねくれもののアルスの話でした。
【くろうにん】の苦労はまだまだ続くようです。