プロローグ
マリアが熱を出して倒れた。
多分『ヤマタノオロチ』戦で無理をし過ぎたせいだろう。
一度『ロマリア』にいるマリアのお抱えの医者に見てもらうことにしよう。
「世界を守るという使命は分かるが……これ以上身体を無理に酷使しすぎると彼女……死ぬぞ?」
マリアの医師バーンズがそう忠告してきた。
俺だってマリアに無理をさせたい訳ではない。
いつもどおり力を温存して戦っていてもマリアは充分強い。
「アルスは信じやすいんだから脅さないでくれ。軽い風邪だ」
マリアはまだ強がっている。
これ以上無理をされる前に『ロマリア』に留まってもらうべきかもしれない。
「マリア」
「分かった。アリシアもティナも外だ。正直に話す」
俺が残れと言う事が分かったのかやれやれとマリアは溜息をついた。
「安静にして三年。戦ったら二年。無理をし続ければ半年。それが今の私の身体だ。治療法は今のところない。もしかしたら魔王を倒せば私の身体を蝕んでいる毒の瘴気が抜けるかもしれないと学会で議論されているが、まあ無理だろう。今出来ることは『世界樹の葉』と『毒けし草』のエキスを調合した薬と、解熱剤と、鎮静剤などを服用して少しでも寿命を延ばす、ただそれだけだ」
平然とマリアはそう言ってみせた。
「まあそんなに落ち込むな。こんな身体でも子作りは出来るんだぞ。目隠しをしていれば傷だらけで毒に蝕まれた体も気にはなるまい。って、そこはツッコミを入れるところだぞ」
笑えない冗談だ。
「ふむ、アルスには少し刺激が強すぎたか。まあ何、もう少し長く生きられると思うから心配するな。それに短いが今は充実した毎日を過ごせている」
「それはこれからもついて来るってことか?」
「ああ、そのつもりだ。まあアルスが私の力が必要なくなるくらい心身ともに強くなれば大人しくするつもりではいるがな。それまでは好き勝手させてもらうぞ」
マリアより強いかと聞かれれば首を横に降るしかないが俺は十分強い。
新しい技だって手に入れた。
でも心はどうだろう。
多分、弱いままだ。
「やれやれ、バーンズ。外出許可をくれ」
「今日のところは『ロマリア』で大人しくしていろ小娘が」
「別に出るわけじゃない。こいつとデートして来るだけだ」
今なんて言った?
「なんだ嬉しくて声も出ないか。そこまで喜ばれると誘ったお姉さんの方も大変嬉しいぞ」
「ちょっと待て。なぜそうなる」
「一人で寝ているのは退屈でしょうがない。どうせ寝ているのも起きているのも同じだ。付き合え」
本当に何を考えているのかつかみにくい人だ。
マリアと一緒に病室を出るとティナとアリシアが待っていてくれた。
多分会話は聞こえていないと思う。
「マリアさんもう起きていて大丈夫なの?」
「ああ。風邪薬を飲んだら治った。それに今朝はティナにお粥を作ってもらったからな。元気百倍だ」
マリアが心配そうな顔をしているティナを安心させようとポンポンとティナの頭を撫でる。
なんだか皆して俺のこの撫で方を真似しているのは気のせいだろうか。
「本当に平気なの?」
だけどアリシアの方は薄々マリアの体のことを感付いているのかもしれない。
最近の雑魚モンスターとの戦闘では、マリアに最近練習している【バイキルト】や【スクルト】を掛けて補助することが多くなった。
「大丈夫だ。アリシアはカンダタの一件から気を配りすぎだ。そんな張り詰めているとこの先アリシアが倒れるぞ。それに今日は大人しくアルスとデートしてるさ。せっかくアルスが誘ってくれたのだからな」
「いや、誘ったのあんただろ」
「デートってあんた。マリアさん体調悪いのに何考えてるのよ!」
「いや、だから俺じゃないし」
流石はマリアだ。
アリシアの矛先を瞬時に自分から俺に移し替えやがった。
体のことは伏せておきたいらしい。
ここは後々面倒だがマリアを連れて逃げるとしよう。
「ちょっとなんで逃げるのよ!?」
「お前が言っても聞かないからだろ!」
「ふむ、お姫様抱っこか。抱っこされるのも悪くはないな。このまま城下町を一周してくれたまえ」
「マリアは調子に乗りすぎだ!」
とにかくアリシアを振り切って外に飛び出してから【ルーラ】で『ロマリア』の入り口まで飛ぶ。
まさかアリシアも【ルーラ】で飛んでおきながら、まだ『ロマリア』に居るとは思うまい。
マリアをゆっくりと地面に下ろす。
「なんだもうお姫様抱っこは終わりか」
「街中でそんな恥ずかしいことし続けられるか」
「それは残念だ」
マリアはいつものようにからかうよう笑った。
「さて、まずはまったりとお茶でもしようか。この街は私の庭のようなものだ。美味い喫茶店を知っているぞ」
俺が『アリアハン』の住人すべてと友達となったように、マリアは『ロマリア』の人達全ての友達なのか、すれ違う人は皆マリアに笑顔で挨拶している。
挨拶を交わしながら大通りを通り、とある喫茶店のドアをくぐる。
「あらあら、また違う子つれてるのね」
「ああ。前私に声を掛けた男は半日も持たずに根をあげて逃げて行った」
「だめよマリアちゃん。ちゃんとむしりとった後に捨てないと」
喫茶店のマスターとの会話は聞かなかったことにしておこう。
「さてアルス。少し真面目な話をしていいか?」
「ん、ああ。まあからかわれるよりはそっちの方がいいかな」
注文してないのにすぐに紅茶のポットが届いた。
ブルーベリーの心地よい香りがする。
マリアがそれでお行儀よく紅茶を入れてくれたので口につけると……マリアが美味い店というのも納得の味だった。
「アルスは誰が好みなんだ? やはりよく言い合っているアリシアが本命か?」
唐突な話題すぎて紅茶を吹き出しそうになってむせ返った。
真面目な話だと思って心の準備を指定多分たちが悪い。
「どこが真面目な話だ」
「失礼な。私は真面目だぞ? 気になる子がいるならお姉さんが女の子を口説き落とすテクニックを叩き込んでやるぞ。まあもっとも皆脈ありだと思っていいから「好きだ」の一言で落とせそうだがな」
「じゃあマリアが好きだ」
「そうかそうかお姉さんもアルスのことが好きだぞ。それで本命は誰なんだ?」
やはりはぐらかすのは無理か。
仲間としては皆好きだけど、異性として好きかと聞かれるとどうだろう。
「まあみんな可愛いとは思うけど、魔王退治の旅をしてるんだから恋とかしている余裕なんてないだろ」
「勇者も人間だ。普通に恋をしてもいい。それに誰を選んでもみんな祝福してくれるだろう。だからアルスだって誰か一人を愛してもいいんだ」
「そんなこと言うためのデートか?」
「まさか。勇者という響きに何か遠慮してそうだったから教えてやっただけだ」
たまにマリアは人の心が読めるのかと思ってしまうほどズバリとモノを言ってくる。
そんなに俺は分かりやすいだろうか。
「私はアルス達に出会うまではいつ死んでもいいと思っていた。だが今は死ぬのはとても怖い。それ以上に短い時間しか残されていないのに無駄に時間を過ごすことが怖い。私は、私がこの世界に生きていた証を残したいんだ」
「マリア……」
「とでも言ったら私を連れて行くか?」
またからかわれたようだ。
本当にヒマだから俺をからかいたいだけなのかもしれない。
「まあ悔しかったらアルス。強くなれ。私の力が必要ないくらいに、私を守れるように強くなれ。それまでは私はお前の剣であり続けよう」
マリアはそう言って優しい笑みを見せる。
それからは適当に『ロマリア』を連れまわされて、悔しいが本当にデートっぽかった。
そして「そろそろ戻らないとアリシアがやきもちを焼くな」とからかわれて夕方には船に戻る。
「マリアさんあいつに変なことされなかった!?」
「いや、どうやら奴は立たないらしい」
「えっ」
「こらそこ、変なデマ流すな」
今週も苦労が耐えない週になりそうだ。
今日はマリアが倒れたから一度ロ『マリア』に戻った。
で、つれまわされた。紅茶の美味い店に案内されたから今度は皆で行くとしよう。
さてこれからの予定だが『ロマリア関所』から『旅の扉』で『サマンオサ』に行って王に挨拶をしにいこうと思う。
まだ挨拶を済ませていない国は『サマンオサ』だけだからな。
自分に好意を抱いているという自覚を使命があるからと置き去りにするアルス。
勇者であるようにと育てられたゆえ、感情が欠落していると言っても過言ではない程の押さえつけられた感情。
そんなアルスの本心が徐々に出て来る章だったと思います。