【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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休憩がてら皆の顔を見に行く話。


第三話「勇者の休日その2」

 今日は『アリアハン』に戻ってゆっくりすると皆に知らせたけど、もちろんのんびりすごすつもりはない。

 

 アリシアとティナは家でのんびりするらしいし、マリアも一度『ロマリア』に戻るらしい。

 つまり俺は自由だ。

 一日中遊びまわるとしよう。

 

 

 まずは『変化の杖』の効果を試すために『エルフの里』に向かった。

 もちろん目的は前売ってもらえなかった『祈りの指輪』を買うことだ。

 さっそく『スライム』に化けて店員のエルフの少女に話し掛ける。

 

「僕悪い『スライム』じゃないよー」

「また来たの?」

 

 エルフの少女は呆れたように溜息をついていた。

 よくスライムが買い物にでも来るのだろうか。

 

「人間に売るものはないって言った筈だけど」

「なに、なぜばれた!?」

「いや、だって中身どう考えても同じ奴だし」

 

 どうやら俺の印象が強かったらしい。

 しょうがないから正体を現しておこう。

 

「という訳で指輪売ってくれ」

「お断りです。というよりもどういう訳で売らないといけないんですか?」

「俺に一目ぼれしたんだろ?」

「してません」

 

 きっぱり言われてしまった。

 

「まあそう言わずに九個ほど売ってくれよ」

「……売ったらもうここにはきませんか?」

「まあ私欲では来ない」

 少しの間エルフの少女は考えて祈りの指輪を九個カウンターの上に置いた。

 

「お金を置いたらすぐに帰ってください。迷惑です」

「おう、ありがたく買わせてもらおう」

 

 おつりを出すのも嫌がるだろうから九個分のGをそのままカウンターにおいて、八個の『祈りの指輪』を貰っておいた。

「……一個忘れていますが」

「ああ、それはあんたにプレゼントしとく。売ってくれたお礼だ。商品棚に戻すなり捨てるなり好きにしてくれー」

 

 八個もあれば充分だ。

 無理を言って売ってもらったのだから少しくらいお礼をしなければ悪い気がするし。

 【ルーラ】で次の目的地に飛んでいく最中に声を掛けられた気がするけど気のせいだろう。

 

 

§

 

 『エジンベア』に到着したもののまだ門番が「田舎者」と通してくれない。

 どうやらアルスという男がマーゴッド姫を助けたという情報は『エジンベア』中に流れているが、ステルスミッションで俺の姿はあまり確認されていないらしい。

 

 まあ目立つのもキライだし『変化の杖』で似非賢者に化けて中に入った。

 皆して俺に頭を下げて気味が悪いからすぐに物陰で元の姿に戻っておく。

 

 人相のよさそうな兵士に聞いたところ、マーゴッド姫もといステラは城の裏の方で魔法の練習をしているらしい。

 さっそく見に行ってみるとしよう。

 

 

「こう……かな?」

 

 

 ステラが杖を振っていた。

 【メラ】らしき小さな火が灯っている。

 小さな火はゆっくりと地面に点々と置かれているビンを避けながらジグザグに移動している。

 

 魔法のコントロールをあげるトレーニングだ。

 どうやらそれなりに頑張っているようである。

 

 

 

「え……」

 

 

 

 ステラと目があった。

 その瞬間に気がそれたのか火は爆発してビンがポーンと宙を舞った。

 くるくると回りながら落下するビンはステラの頭にスコーンといい音を立てて当たる。

 

 

 すばらしいコントロールだ。

 

 

「あああアルスさん!?」

 俺のせいで失敗したってことで罰として何かめんどくさい頼みごとしてくるかもしれない。

 今日のところは様子見に来ただけだから『変化の杖』でごまかすとしよう。

 

「姫様。知り合いの男……それもこともあろうことか田舎者の姿をみただけでコントロールを乱すとはまだまだでございますな」

 

 再び似非賢者に化けておいた。

 うむ、なんだかそれっぽい台詞だ。

 

「アルスさんは田舎者じゃありません。立派な勇者です! 先日も『サマンオサ』を救ったと電報が来ていました。あまりアルスさんをバカにしないでください」

 なかなか嬉しいことを言ってくれる。

 

 ここは少しからかってから次の場所にいくとしよう。

 

「だが田舎者は田舎者だ。かつては大国であった『アリアハン』も今や落ち目の田舎の国。それに勇者なぞ盗人とどこが違う」

「アルスさんは人の物を盗ったりしません!」

「やけに田舎者の肩を持ちますな。もしやあの田舎者にっ。いけませぬ姫様。あなたは一国の姫君にございますぞ!」

「――――――――――っ」

 

 ステラが少しほほを赤めて顔をそらした。

 小声で「身分なんて」なんてとんでもないことを呟いている。

 そこは顔を赤めて否定してもらいたかったんだが。

 そうしないと「実は本物だったぜ」と正体を見せてからかえないではないか。

 

 マリアはパーティー全員が俺に骨抜きにされてるって言ってたけど、マジかもしれない。

 本人の前では出てきにくい本心を聞いてしまった気がする。

 『変化の杖』は思った以上に危険なアイテムのようだ。

 

 

「やべ、変化時間が切れる」

 

 

 杖のカラータイマーが赤く点滅し始めた。

 『変化の杖』は三分間しか変化できないらしい。

 

「ぐふ、重度のダンス酔いが! 姫様、男はちゃんと選ぶでござるよ!」

 

 とにかく変化が切れたら気まずいというか後々面倒だ。

 ここはステラに悪いが【ルーラ】で逃げさせてもらおう。

 

 

§

 

 

 次に向かう先は『スー』だ。

 そこでニーナが建てた村の位置を聞いて早速向かってみる。

 

「おお、村だ。村がある」

 小さな村だがちゃんと村として成り立っていた。

 

「あ、アルス君アルス君アルスく~ん! 久しぶりだね。10年ぶりだね。元気にしてた?」

「いや元気ではあるがまだ一ヶ月も経ってないぞ」

「あいやー、細かいことは気にしない気にしない。それよりさそれよりさ、『ヤマタノオロチ』の尻尾何かに使えないかな~って思ってたらこんなの出来たよ。もう効果もすごい【攻撃力】も凄いの凄い武器だからアルス君にぴったりだよ。名づけて『草薙の剣』!」

 

 何か変な剣をもらった。

 こんなの出来たと渡されたものなのに『鋼の剣』の二倍近く【攻撃力】がある。

 ニーナ、お前やっぱり商人か職人としてやっていった方が才能あるぞ。

 

 

「それでアルス君の方はあれからオーブどのくらいあつまった?」

「まだ一つも。ただ『サマンサオ』救って『変化の杖』貰った」

「何だか国一つ救うのは当たり前って感じだねー。こっちのほうも商人ルートでオーブを探してみるから大船に乗った気持ちでいてくださいヨ」

「泥舟の間違いだろ」

「うわ、アルス君らしい辛口だね。うんうん、やる気でてきた。これでオーブ見つけたら“ルイーダの酒場”にある裏メニュー『レッドバッファロー』おごってね。約束だよ」

「見つけられたらな」

 相変わらず騒がしい奴だが話していて楽しい。

 

 例え見つけられなかったとしても戦いが終わったらおごってやるか。

 

「ニーナ様! 木材の輸入の件なんですが」

「あー、それは近くの森から少し木をもらうからペンキを先に発注して。それと釘もきれたからよろしくー」

「ニーナ様! 大工が風邪をこじらせました!」

「あちゃー。無理しないようにって言ったのに。あの家はもうすぐ人が越してくるから私がやるね。大工さんには何か栄養のあるもの食べさせて安静にするよう言っておいて。ごめんねアルス君。仕事しなちゃ。またお話ししようね!」

 

 ニーナが手を元気よく振ってから走っていった。

 ニーナも頑張っているようだ。関心関心。

 次は海賊船について聞くついでにフィリアに会っていこう。

 

 

§

 

 

「きたな変態」

「いや、変態じゃないし」

 いきなりアッシュが出迎えてくれるとはめんどくさい。

 

「訳はしらねぇがカーチスにお前が来たら追っ払うように言われてるんだ。ここは通さないぜ」

「あの親ばかは……。まあいい、フィリアの顔も見たかったけどカーチス呼んで来い。今日は『幽霊船』について聞きに来ただけだ」

「『幽霊船』だと? あいつ知ってて俺に隠してやがったな!」

 アッシュがものすごい勢いでアジトに入っていく。

 

 中で何かが爆発した。

 ボロボロになったアッシュの首根っこを掴んでカーチスが出てくる。

 

「お前かこいつに変なこと吹き込んだのは。さてはお前俺を亡き者にして娘といちゃつく気だっただろ。え、いちゃつく気だったんだろ、こら」

「勘違いするな。俺はあんたに頼みごとがあってだな。つーかアッシュ死にそうだけどいいのか?」

「頼みごとだ? お前まさかフィリアをくれとか言うんじゃないだろうな!? けつの青くせえガキに愛しの娘を渡せるか!」

「話し聞けよ。というか興奮してそんなに振り回すからアッシュ泡ふいてるぞ」

「おっとしまった。俺としたことがつい熱くなっちまったみてぇだ」

 

 アッシュがようやく地面に下ろされた。

 流石親父と戦ったことがあるだけあって強いなこのおっさんは。

 

「で、話しってのはなんだ? いよいよ魔王城に特攻でもする気か?」

「いや、『オリビア海峡』越えたいから『幽霊船』探してるんだ。おっさんは何か知らないか?」

「あーはいはい。そういうことか。確か『船乗りの骨』ってアイテムが『幽霊船』の位置を教えてくれたな。おいマナいるか? あの骨取って来てくれ!」

 

 アジトの方に向かって叫ぶと『浅瀬の祠』でアッシュと一緒に居た少女が出てきた。

 

「あの骨なら『グリンラッド』の魔法使いに博打で負けて取られたじゃない」

「しまった、あれが『船乗りの骨』だったか。俺はてっきり焼き鳥にして食った『ヘルコンドル』の骨だと思って渡しちまったアレか」

 

 重要アイテムをそうほいほい博打で渡さないでもらいたいところだ。

 

「まあそんな訳で『船乗りの骨』手に入れてから出直してくれぃ」

「さいですか」

 まあ重要アイテムの場所は分かったからよしとしよう。

 

 

 

 

「あー、アルスだー」

 

 

 

 フィリアの声がした。

 アジトの屋根をぴょんぴょん猫のように飛び回ってそのまま俺に飛びついてきた。

 顔に抱きつかれた勢いで押し倒される。

 

「アルス元気にしてた?」

 

 むしろ今お前に殺されるかと思った。

 息苦しいからそろそろ放してほしい。

 

「やっぱボウズてめぇーは二度とここにくんな!」

 しかもおっさんに塩をまかれた。

 今の俺に非は全くないだろ、おい。

 

 なんだかんだで結局疲れがたまった休日だった。

 

 ある童話のウサギが「天気のいい日は昼寝にかぎる」と言っていたがまさにその通りだと思う。

 もう今日は家に帰ってゆっくりしよう。

 

 

§

 

 家に帰ると戦いでボロボロになっていた俺の愛用のマントが綺麗に縫い直されていた。

 母さんが縫い直してくれたらしい。

 

「今日はご馳走を作るからお友達も呼びなさいね」

 

 やっぱり家でのんびりするのが一番の休日ということか。

 母さんの料理はとても温かかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書37―アルスの日記―

 今日は久々に休日にした。もちろん俺の思い付きだ。休みたいときに休む。これぞまさに勇者の特権!

 みんなの様子を見に行ってみたけどニーナもステラも頑張っているようだ。それとフィリアはよく笑うようになってた。

 今日しっかり休んだ分これからも頑張っていこう。

 みんなのところに顔出すんなら私達も誘いなさいよ。

 みんな元気でよかったね。            ティナより

 指輪が八つも入っていたが全員にプロポーズをする気かな。なかなかアルスも大胆なことを考えるな。君に「八股のアルス」の称号を称えよう。

 

 




初恋を思い出したアルスはほんの少しだけ乙女心がわかって来たようです。
ただしまだまだニブチン。
【くろうにん】なのに周りの女の子達も苦労して行く事でしょう。
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