「オリビア」
「ああエリック」
「これからはずっと一緒だ。さあ行こう!」
約二時間ほど上空に巨大スクリーンで甘いラヴロマンスを繰り広げて、オリビアとエリックは成仏して行った。
途中【ライデイン】で打ち落とそうかと思ったのに、ティナとアリシアに止められたのが少し心残りだ。
変なのが投影された後だけど澄み渡る青空で今日の航海は快調。
「アルス」
船の先端で一人タイタニックをしている時にマリアが声をかけてきた。
「なんだ、マリアもタイタニックか?」
「アルスが前なら考えてもいいぞ?」
「いや後ろはゆずれんな」
俺は後ろのポジションに魂をかけているんだ。
簡単には譲れない。
「そうか。まあ真面目な話に移るがしばらく『ロマリア』に帰ることにする」
「また突然だな。前回の手がしびれたのが堪えたのか?」
「いや、ただ長生きをしたくなっただけさ。せめてお前の結婚式くらいは見守りたくなってな」
いつもの茶化す様な言葉なのに、真剣な話をしているのが何となくだがわかってしまった。
「あの【ギガデイン】は私のどの技より威力があった。そして私はアルスにまた守られた。剣の腕も私との特訓でずいぶん伸びた」
潮風がマリアの長い髪をゆらして表情を隠している。
「お前は私を超えたんだ」
表情が見えなくてもなんとなく分かる。
悔しがってはいない。
泣いてもいない。
多分マリアは満足そうに笑っているのだと思う。
「後はその力をものにしろ。【ギガデイン】はきっとアルスの剣になってくれる筈だ。私が教えてあげることはもう、何もない」
風で揺れる中かすかに見えた口元はやっぱり嬉しそうだった。
「最後だ。私を安心して帰らせてくれ」
渡されたのは『ひのきの棒』だった。
マリアも同じ物を持っていて『星降る腕輪』も装備していない。
真剣勝負の模擬戦だ。
先に攻撃に当たった方が負け。
単純なルールだ。
合図は1Gコイン。
マリアがそれを宙に放り投げて、それがチャリンと音を立てて床に落ちた。
同時に地を蹴る。
同時に腕を動かして俺とマリアはすれ違い際に全身全霊の一撃を互いに叩き込んだ。
痛みはない。
そして俺の手に手ごたえがあった。
勝てた。
マリアだけには勝てないと思っていた。
手を抜いていた様子も痛みで剣筋が鈍った様子もなかった。
「もっと長くからかいながら教え続けることが出来ると思ったのだがな。急に成長して……顔つきも少しだけ大人びてきたな。好きな奴でもできたのかこの色男」
からかうように俺の頭をくしゃくしゃとなでまわす。
波がはねて目の前に小さな水滴が落ちる。
波はもう甲板に落ちてきていない筈なのに雫が落ちるのが止まらない。
「さて、ティナとアリシアにはもう話はしてある。これでお別れだ」
マリアは『キメラの翼』を取り出した。
風で揺れる髪からはっきりと表情が見えた。
やっぱり涙一つ見せずに笑っている。
マリアは強い人間だから。
「『幽霊船』で私かティナか。片方だけを選ばずに両方選ぶのも一つの心の強さだ。全てを救うことは難しい。時に失敗することもあるだろうが……ずっとアルスらしい選択をしてくれ。それがアルスの心の強さだと信じている。だから」
マリアの笑顔が眩しく感じた。
「もしも折れそうな時は再びアルスを支える鞘になろう。そのくらいの余命は捧げてやる」
それは約束。
青空の下で交わした小さな約束。
「元気でな、アルス」
いつも見守ってくれていた人は遠くでも俺を見守ってくれる。
『キメラの翼』の光はまるで鳥のように綺麗に羽ばたいていった。
マリアが『ロマリア』に帰っていった。
最初は四人で旅立ったのに今は三人。なんだか船がすごく静かに感じる。
だけどその内みんなひょっこり顔を出してくれるだろう。出さなくっても世界の平和を取り戻した後に遊びに行けばいい。
アルスが幸せに結婚する姿を見届けるか、生涯のパートナーとしてアルスを支え続けるか。
アルスが強くなり、それでいて誰かを好きになっていると何となく悟ったマリアは見届けることを選択しました。