プロローグ
『ネクロゴンド』に行く前にティナがニーナの作った村を見てみたいと言い出してきた。
ティナが自分からものを言うのは珍しい。
アリシアも乗気だしニーナの村を訪ねるとしよう。
俺は手早く【ルーラ】で村の入り口まで飛んだ。
「これってもう村って言うか街じゃない」
「すごいねニーナちゃん。何だかにぎやかな街だよ」
アリシアはこの光景が信じられないのか少し唖然としていて、ティナは感動で目を輝かせている。
ちなみに俺も唖然としている方だ。
ついこの前までは小さな村だったのに今ではにぎやかな街になっている。
まさかここまで発展しているとは思わなかった。
「とりあえずあれだ。この広い街を地図なしで歩き回るのは辛いな。まずはニーナにタウンマップをもらうか」
「それもそうね。ほらティナ。買い物は後で一緒にしよ」
「あ、うん。ごめんね」
ティナはフリーマーケットの洋服を見ていたようだ。
アリシアの呼びかけで慌ててついてくる。
とにかくニーナの居場所を適当な人に尋ねてみると大きな屋敷を建てているらしい。
それと変な物を大金はたいて買ったと不満そうに呟いていた。
街は笑顔であふれているけど一部の人は少し疲れたような顔をしている。
その理由も知りたいからニーナの館に急いだ。
「あ、アルス君にみんなも! あれ、アネゴも別行動になったの?」
玉座に座っていた。
お前調子乗りすぎだ。
でもそれなりに苦労しているのか書類に目を通しながら話しているし目の下にクマをつくっている。
近くに居る『おしゃれなスーツ』を着た男は、ニーナが読み終わった書類をまとめて整理していた。
「ああ、それにしてもすごい街になったな」
「頑張ったからね。それよりさそれよりさ。なんとなんとなんとなんと『イエローオーブ』高かったけど何とか買えたよ。これで『レッドバッファロー』は確定だね!」
どうやら街の人が行っていた変な物とはこれのことらしい。
「わ、ニーナちゃんすごい!」
「やるわねニーナ。これでオーブも後一つ。『ラーミア』復活はもうすぐね」
ティナとアリシアは喜んでいるけど、ニーナの負担と、この街の負担は大きかった筈だ。
「まったく無茶して」
「大丈夫大丈夫。私は全然平気だから」
「それよりもお前みたいに疲れた顔の奴を何人か見かけたけど休ませてやらないのか?」
「あー。街の見回りをしてもらってる人達か。一応いつでも休んでいいって言ってるんだけどなかなか休暇とろうとしないんだよね」
「それを言うならお前も休めよ」
「私はほら、街の創設者だし町長だしね。私が頑張らないと皆にその分負担が~ありゃりゃ?」
ニーナの手から書類が零れ落ちた。
のど自慢大会という書類だ。
町長とはこんな小さなことも目を通さないといけないとは大変そうだ。
「ニーナちゃん大丈夫?」
「アルスの言うとおりちょっと休んだ方がいいんじゃない? 倒れたらどうするのよ」
「あはははは、それもそうだね。ちょっと部屋で横になる。これオーブとタウンマップね。折角だからゆっくりしていってもらえると嬉しいかな~」
『イエローオーブ』とタウンマップを俺に渡して、ニーナはふらついた足取りで奥の部屋に入っていく。
「後お願い」
「分かりました」
『おしゃれなスーツ』を着た男が代わりに書類に目を通し始める。
補佐役と言ったところか。
「仕事の邪魔ですので出て行っていただけますかな?」
少し感じの悪い男だ。
でも確かにここに居ても邪魔なだけなので館を後にすることにした。
とりあえずアリシアとティナは店を見て周りたそうだったから夜に宿屋に集合。
俺は街の人からニーナの評判を聞き回ることにした。
評判は賛否両論。
誰でも受け入れてくれる優しくて街の人思いのいい町長という意見と、金の為ならなんでもする非情な人間、という意見だ。
何でも休みをくれないらしい。
矛盾している。
にこやかにニーナを評価している人はもちろん、やつれた顔で批判する人も嘘をついているようには見えない。
ニーナが裏では悪い事をしてるとも考えにくい。
あいつはいい事をするにしろ悪いことをするにしろ表裏なく行動する筈だ。
「どこかで情報が捻じ曲がっている?」
そうとしか考えられない。
町外れにいかがわしい店を見つけた。
ニーナからもらったタウンマップを見ると「ちびっ子のど自慢会場」と書かれている。
ご丁寧にニーナの実筆で「もし良かったら演奏してあげてね」と書かれている。
中に入ってどういうことか聞いてみた。
「どういうことも何もここは初めからそういう店ですよ?」
「だけどニーナのくれた地図には……いや、書類には確かにのど自慢と書かれているが」
「そう言われましても補佐の話しでは」
あの補佐か。
おそらくニーナはずっと机の上の仕事をしていて、外のやり取りはあの補佐にまかせっきりにしてたのだろう。
人を信じるのはいい事だけど少しは警戒しろ。
日が暮れてきた。
急いで館に逆走する。
「アルス大変だよ! このままだとニーナちゃんが!」
「さっき物陰でニーナを捕まえるとかなんとか……とにかく急いで!」
途中でティナとアリシアと合流できた。
あの補佐、俺の友達をはめようとした罰をしっかり受けてもらおうじゃないか。
館の後ろで煙が上がっていた。
嫌な予感がするから先にそっちに回ると補佐が何かを燃やしている。
燃やしているのは紙のようだ。
「意外と早かったではないか。だがもう遅い。証拠は何も残ってはいない。俺を殺したければ殺せ。あの女に知らせたければ知らせろ。何をやっても罪は消えやしない」
補佐はそう笑った。
「なら貴様の正体を暴いて倒せばいい」
どうせ『エジンベア』や『サマンオサ』と同じように相手は魔物だ。
俺は『ラーの鏡』を男に掲げた。
だけど姿が変わらない。
こいつは紛れもなく人間だ。
それでもアリシアとティナは武器を構えた。
友達が一生懸命頑張っていたのにそれを踏みにじったこいつが許せないんだ。
俺も許せない。
「やめよう、勇者達よ。君の思っている通り私も魔王様の手先だ。だが私が居てもいなくてもいずれ暴動は起きた。全てを受け入れる街がゆえ悪人もたやすく受け入れてしまう」
男は武器を向けられてもまったく動じていない。
「善と悪の対立は必ず起きる。私はそれを少し早めただけだ。街という波はもう私が居ても居なくてももう止まらないのだよ。わざわざ人殺しの罪をお前達まで背負うのは馬鹿げてはいないかね?」
「ふざけないで! そんな理屈こねてニーナの人生無茶苦茶にして!」
「何でこんなことするの。こんなことしたって誰も幸せになんてなれないのに……皆笑ってていい街だと思ってたのに何でっ」
アリシアだけではなくティナまで熱くなっている。
ここで俺まで熱くなったら取り返しのつかないことになる。
落ち着け、俺。冷静になれ。
遠くの方から大勢の足音が聞こえてきた。
証拠がないから今説明したところできっと無駄だ。
目の前の男を殺そうものならそれこそ収集がつかなくなる。
「君は頭がいい。だからいい条件を出そう。君が魔王様に従ってくれるのならこの場で私が真実を話しあの娘を助けてやろう。もちろん君のことだ。答えはNOだろう」
悔しいくらい読まれている。
俺は今にも攻撃しそうなアリシアとティナを抱えて【ルーラ】でいったん離脱した。
離脱するしかなかった。
これ以上あいつと話していると俺も手を出してしまいそうだ。
「アルスなんで!?」
「絶対にニーナは助ける。ニーナの努力を無駄にしてたまるか。努力を無駄にしない為にも……今は耐えろ。俺は耐えた。だからお前らも耐えろ」
今晩はニーナを助ける方法を考えなければならない。
ニーナの街を見に行ったのが今日でよかった。何とか事件現場と真実を知れたのは大きい。さて問題はどうやってつかまったニーナを助けるかだが……まったく方法を思いつかない。
今回の事件はニーナがうまく動いてくれるしか解決方法はない。
俺に出来ることはうまく誤解が解けるようにヒントを与えてあげることくらいか。
今回はアリシアもティナも……特にアリシアは最後の瞬間まで手出ししないように。
一日目:ニーナが牢獄に閉じ込められた。
本人は「いやー、私ってたまにやりすぎちゃうことあるからね。ちょっとここで何がいけなかったのか考えるから鍵開けたりしないでね」なんて笑ってたから「バカ、誰が開けてやるかよ」って返してやった。
本当は開けてやりたい。今すぐにでも連れ出したい。無実だって言ってあげたい。でも無実だと知ったら多分ニーナはこれからきっと頑張らなくなってしまう。頑張った結果が人にはめられたなんて全てを受け入れる街を作ったニーナにとってこれほど辛いものはない。それにこれから先本当にニーナの行動で暴動が起きてしまう事だってありえる。
だからニーナの力で乗り越えてほしい。街をまた束ねてほしい。
アルス君は『レッドバッファロー』をおごる準備をしてくれてればそれでいいよ、と俺を安心させるように最後もやっぱり笑っていた。
ニーナは強い。だからきっと大丈夫。今はそう信じるしかなかった。
二日目:街にごろつきが雇われた。
これ以上面倒ごとが起きないように外から来るものを拒むらしい。もちろんあの男の提案だ。あいつはニーナから街を奪っただけでは飽き足らずに村の存在理由まで変えるつもりだ。前の町長の方がよかったという声もあるが休ませないのは酷すぎると状態は変わらない。
三日目:いかがわしい店がちびっ子のど自慢会場に変わった。ニーナが考えた企画を平然と自分の企画だと言い張っている。
アリシアが今にも殴りこみそうな勢いで抑えるのが大変だった。
だからお前は少し我慢しろ。
四日目:早くもニーナの処刑が決まった。明日の朝に公開処刑をするらしい。
魔王側は本当に公開処刑が好きだな。もしもの時は俺が動くからアリシアとティナは黙ってみているか船か宿で大人しくしているように。
商人が全面的に悪いのではなく、暗躍していた補佐官がいたことになりました。