【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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ニーナが頑張った証と、ニーナがこれからも頑張る為の小さな約束。


この青空に約束を-No.4ニーナ

 ニーナがギロチン台にしっかりと固定されている。

 

 泣いてはいないが笑ってもいない。

 周りの人達はすこしざわついている。

 

 処刑する必要があるのかという疑問を持っているが、働かせすぎで倒れた人も多くて何も言えないでいる。

 

「最後に言い残すことはないか?」

 処刑人をやっているごろつきがニーナに尋ねた。

 

 返事は、ない。

 

 もうどうしようもない。

 悪人になっても構わない。

 俺が動くしかないか。

 

 

 そう思った時ニーナはゆっくりと口を動かした。

 

 

 

 

 

 

 

「私って一人で走っちゃうことがあるし、それで迷惑をかけたこともたくさんあったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 とても穏やかな声だった。

 これから処刑されてるというのに恨み言でも命乞いでもない。

 

 

「でも私は楽しかった。みんなが笑ってくれるのが嬉しかった」

 

 

 昔の思い出を楽しく語っているような穏やかな顔にざわめきは強くなる。

 俺も助けに入るつもりが聞き入っている。

 処刑人のごろつきも聞き入っていた。

 

 

「でも今回はやりすぎちゃったし罰を与えられるのは当然だと思う。処刑も……まあ嫌って言えば嫌だけどありだと思うかな」

 

 

 認めている。

 本当は無罪なのに色々考えた結果間違いがあったのだろう。

 だけど処刑まで認めるなんて思わなかった。

 それも「やっちゃった」みたいに軽く苦笑を浮かべているだけだ。

 だけどすぐにニーナの顔つきが変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「でもね、公開処刑は間違ってる。こんなのを見世物にして、みんなの心に傷を作って、外からの人を拒んで、きつい罰があるって市民を脅して、そんなの全然楽しく無いじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 真剣な顔だ。

 いつの間にかざわめきすらなくなってニーナの声だけが街に響いている。

 この村にいる人はみんなニーナに受け入れられて村に住み着いた。

 村は発展して街になった。

 賑やかになった。

 皆ニーナがどんな人間か本当は分かっていた筈だ。

 

 

「私はここをみんなが笑える場所にしたかった。みんながただいまって言える場所にしたかった。それに対してみんなでお帰りって言える場所にしたかった」

 

 

 全てを受け入れて家族になれる街を作りたかった。

 行き場のない孤児。親を探している子。子を探している親。

 過去に罪を犯してしまったものもみんな幸せに暮らせる、そんな子供だましな理想郷。

 

 

「私を罰するのは構わない。でもこの街をみんなで笑い合えない街にしないで。みんなの家を壊さないで!」

 

 

 自分が死刑される寸前だというのにそれを信じて、人を信じて、自分の為ではなくこの街という家族のためにニーナは泣いている。

 

 

「ええい、早く処刑するのだ」

 

 

 街の沈黙を破ったのは例の補佐をやっていた男だった。

 焦っている。

 街という波がニーナという少女に傾きはじめて処刑中止を恐れている。

 これは致命的なミスだ。

 

「しかし」

「やらぬのならば私が代わりに処刑しよう」

 

 男はごろつきを跳ね飛ばす。

 この街はもうニーナを許している。

 このタイミングなら助けても誰も文句は言わない。

 

「【メラミ】!」

「【バギマ】!」

 

 風がギロチン台を切り刻んで炎が空中でそれを燃やした。

 アリシアもティナもよくこのタイミングまで我慢してくれた。

 

「アリシアちゃんにティナちゃん……どうして?」

「友達が危ないのに黙って見てなんかいられないわよ」

「ニーナちゃんは友達だもん。これからも立派な町長さん頑張ってね」

 

 二人が呆然とするニーナを支える。

 そして俺は補佐だった男の前に立つ。

 

「館の外にニーナの伝言をもって行っていたのはこいつだったな。村を作った大工に聞くがニーナは休みを与えなかったか?」

「あ……いえ、無理をせずに休めと……」

「他のやつに聞くがこいつが休ませずに働かせるような奴だと思うか?」

 誰も何も言わないが多分誰も思っていない。

 

 それにごろつきを雇ったり公開処刑を始めるような補佐だ。

 そしてさっきの行動。

 もう補佐の信頼はゼロだ。

 

 男も言い逃れは出来ないと悟って何も言わない。

 ニーナだけが一人訳も分からずに取り残されている。

 

 

 

 

 

「ニーナを陥れようとした罪、受けてもらうぞ」

 俺の怒りを妨げるものはもうない。俺は剣を――――――――

 

 

 

 

 

「待ってよアルス君。何だかよく分からないけどさ、そういうのってやっぱり笑えないから止めようよ」

 

 

 でもニーナが止めてきた。

 そして補佐に手を伸ばす。

 

 

「私さ、至らないところが多いけどもっと頑張るから。これからも仕事頑張ってくれないかな?」

 

 

 手を差し伸べている。

 本当にこいつはこんな奴まで受け入れるつもりなのか。

 俺以上に自分の意見を曲げないわがままな奴だ。

 

 

 補佐だった男は膝をついていた。

 そして「すまない」と繰り返し小さな声であやまり続けている。

 

 

 後でニーナから聞いた話だがあの男はカーチスと同じように人に家族を奪われて、そして魔王側についたらしい。

 おそらく人が憎かったのだろう。

 

 

 でも多分もう大丈夫だ。

 ニーナが人の可能性を少しだけ見せてくれた。

 

 

「ニーナ様すみません。色々誤解してしまって」

 街の人達が頭を下げている。

「いいのいいの。それよりさ。いつも思ってたんだけどその様っていうのは止めてもらえないかな」

 あんなことがあった後なのにニーナはそう言って笑っていた。

 きっとこの街はいい街になる。そう思った。

 

「あ、そうそう。近いうちに『レッドバッファロー』食べに行くからアルス君はお財布の紐締めておくんだよ」

 

 それはあの日青空の下で交わした小さな約束。

 

「たく、そこまで食いたいか」

「約束は約束だからね。みんなと一緒に食べたいんだ」

 笑顔の似合う少女との約束を俺はこの青空にもう一度刻み込んだ。

 皆で一緒に食べよう、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書42―アルスの日記―

 処刑台にくっつけられて演説をする奴を始めてみた。本当にニーナはよく口が動くものだ。まあこれでニーナの街はしばらく安泰だろう。

 さていよいよ『ネクロゴンド』に行く訳だ。『ラーミア』復活まで残りオーブ一つだけどこのまま『バラモス』を倒してしまっても差し支えはないだろう。

 明日は張り切って『ネクロゴンド』攻略といこうか。

 

 




アルスも補佐官も穴だらけの作戦で、だからこそ町は今まで頑張って来たニーナに傾きました。
皆と笑っていたい、ただそれだけの少女の物語。
なお『レッドバッファロー』は記憶通りなら、1999年のドラマ『君といた未来の為に』のバーに登場した隠しメニューだったと思います。
時間ループ物としての完成度が高く子供の頃の私のお気に入りドラマでした。
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