【くろうにん】の書(完結)   作:へたペン

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久々のアリス回。


第二話「いつもあなたの側に」

 【ルーラ】で火口まで飛んで『ガイアの剣』を投げ込んだら噴火した。

 

 アリシアの【トラマナ】と俺の【アストロン】がなければ即死だっただろう。

 俺は【アストロン】が解けた瞬間に【ルーラ】で『アリアハン』に逃げ帰った。

 【トラマナ】で通ろうにも一日置いておいた方が安全だろう。

 という訳で今日も休日だ。

 家でのんびりするのはもう飽きた。

 

 

「ヒマだ。付き合え」

 

 

 俺は話しかけてみたが返事は返ってこない。

 

 

「いるんだろ?」

 

 

 もう一度話しかけてきたが反応はない。

 居ないのだろうか。

 いや、居るはずだ。

 

「ほら俺の秘蔵の『Hな本』やるから」

「いらないんですけど。というかなんで話しかけてくるかな君は。実は私の姿見えてたりする?」

「いや、見えないから何度も話しかけてるんだろ。あー、名前もまた思い出した。マリスだったな」

「そんな合体技みたいな名前じゃないんですけど。中途半端な思い出し方しないでよね。私の名前はア・リ・ス」

「はい【緑のボタン】」

 

 これでもう忘れない。

 

「わ、アルス君ひど。それは私の力じゃ消せないんだけど」

「俺が見える分には問題ないだろ。それにアリスはいつも俺のこと見てんだから、この位許せ」

「見られてるって分かってるとついて行きにくいんだけど。ほら、女の子とデートとか」

 

 

 マリアに連れまわされたアレのことだろう。

 というかそういうのまでついてきてたのかこいつは。

 

 

「じゃあ今度はアリスとデートだ」

「わ、軽い。君のその考えなしの言葉はある意味必殺技だね」

「一万年と二千年前から愛してたんだ」

「八千年すぎたらなえてきそうだね」

 

 

 アリスは少し呆れたように溜息をついた。

 

 

「でも私はあまり目立ちたくないし、それに今アルス君は」

「ならアリシアかティナに化けてついて来い」

「それは二人に悪いというか……それって私じゃなくって二人を誘えばいい気がするんだけど気のせいかな?」

「気のせいだ」

 

 きっぱり言ってやった。でもなんかじと目で見られた。

 

「じゃあ姿は消したままでいい。とりあえずたまにはアリスも息抜きしろ」

「またそういうこと言う。アルス君って絶対何人もの女の子を泣かせるよ?」

「そんなに褒めないでくれ」

「褒めてないし」

 

 また溜息をつかれた。

 

「やけに溜息が多いな。やっぱり息抜きは必要だ」

「もう好きにしてよ。ただしアルス君は一人で気ままに散歩してるだけなんだから、独り言はなしだからね」

 

 アリスの姿が消えるが気配はする。

 やっぱり名前と存在を覚えているというのは大きいようだ。

 姿もちゃんと思い出せる。【緑のボタン】ナイスだ。

 

 さて、気配があるとなると触るのも容易だ。

 手でもつないでやるか。

 

 

 

 

「……スケベ」

 

 

 

 

 変なところに触ってしまったようだ。

 だけど何をしようとしていたのかは理解していたのか俺の腕を掴んでついてくる。

 

「アルスちょうどよかった」

 家を出るとアリシアが居た。

「久しぶりに『山彦の笛』の練習に付き合ってくれない?」

「いや、俺は散歩に」

 アリスにすごい握力で腕を潰されかけた。

 

「つき合わさせていただきます」

 いつもの俺なら断らないとでも言いたいのだろうか。

 しょうがないから笛の練習に付き合うとしよう。

 俺がいつもトレーニングをしていた広場に出る。

 

「お、だいぶ上手くなってるな」

「練習してるんだから当たり前じゃない」

 ちゃんとアリシアは笛を吹けている。

 さすが努力家のアリシアだ。

 

「ほんじゃあ楽譜。少し俺のヴァイオリンに合わせて合奏してみるぞ」

「え……あ、そうね」

「ゆっくりやるから大丈夫だ。出来ないところは何度でも合わせてやる」

「うん……ありがとう」

 楽譜をまじまじと見ているがたまに俺の顔色を伺っている。

 失敗しても怒りはしないんだからそんなに気にしないでもいいのにな。

 

 

 アリスが離れようとしたからとりあえず足掛けをしてみた。

 

 

 べチンと豪快に音を立ててこけたようだが、アリシアはまったく気にしている様子はない。

 存在がないって言うのはこういうことなのか。

 凄い魔法だ。

 

「うぅ…痛かったんだけど」

「あ、アリシアそこもう一回ゆっくりやるぞ」

「……アルス君のバカ」

 

 俺の背中にアリスの背中らしきものが当たる。

 独り言するなって言ったのはそっちだろ。

 それにしても声もアリシアには届いていない。

 本当に彼女は今ここには居ないことになっているようだ。

 

「アルス~アリシアちゃん~。お昼にしよう」

 ティナが演奏の音でバスケットをもってやってきた。

 ビニールシートを広げてバスケットからサンドイッチを取り出す。

 

「あ、ティナ。ありがとう。ちょうどお腹がすいてきたところなのよね」

 アリシアがビニールシートの上に上がる。

 俺もいつものように上がった。

 

 でもいつもこんなに笑って食事をしているのにアリスはいつも蚊帳の外か。

 きっと今も寂しい思いをしているだろう。

 

「なあ実は」

 

 今度は左腕を握りつぶされた。

 いや、マジで。

 すぐに【ベホマ】だと思われる魔法で治してもらったけど、確かに俺の腕は今ありえない方向にへしゃげた。

 

「どうしたのアルス?」

 ティナが不思議そうに首をかしげる。

 

「私は居ないんだから、ちゃんとそうする。ね?」

 

 穏やかに言ってるけど表情が見えない分マジ怖いから。

 というか握力だけで俺の腕はああなったのか?

 魔法だよな。どうか魔法であってください。

 

 

 

 

 

 

「それに、私のことよりも体調管理はしっかりしようね」

 

 

 

 

 

 アリスが俺から手を離して一歩後ろに下がった。

 

「アルス。顔真っ青だよ? もしかして無理してない?」

 アリシアが突然俺の額に手を当てくる。

「すごい熱じゃない! 何で断らなかったのよ!」

 そういえば『ネクロゴンド』から撤退してから妙に頭が重いと思ったら熱があったのか。

 こいつは気付かなかった。

 アリスは初めから気付いていたっぽいな。

 腕を潰したのは冷や汗を出させるためか?

 にしても少しやりすぎだぞ。

 

 それにしても最近無理ばかりで全然自分のことに気付けないなんて情けないな。

 やばい、ちょっと動けそうにない。

 

「えっと……【ベホイミ】!」

 ティナが回復魔法を掛けてくれるけど怪我や疲労とは少し違う。

 いつもなら多少楽にはなる筈だけど気付いたら手遅れだった。

 

 

 誰かに運ばれている。

 多分アリシアだ。

 気付いたら自宅でアリシアとティナが看病してくれていた。

 母さんがおかゆを作ってくれているらしい。

 

 

「アルス……大丈夫?」

 ティナが頭の濡れタオルを代えてくれる。

「あんたねぇ、ちゃんと寝てる?」

 最近色々あって寝てない気がする。

 でも夜な夜な魔法の練習や笛の練習をするアリシアに言われたくないところだ。

 

「まったく、ニーナもあんたも頑張りすぎ。寝れる時はちゃんと寝る。相談する時はちゃんと相談する。分かった?」

「いや、まあ」

「返事は?」

「はい……」

 

 何だかアリシアが少し怖い。

 迷惑を掛けてしまったか。

 いや、仲間なのに全然頼らなかったのはやっぱり不味かったんだろうな。

 

 

 それからしばらくアリシアとティナが看病をしてくれた。

 アリスの気配はしない。

 部屋にはいないのだろうか。

 

 

 0時をすぎると母さんが「今日はもう遅いから泊まって行きなさい」と隣の空き部屋を用意してくれて二人は泊まることになった。

 

「まだふらふらなんだから水分ほしかったら声掛けてよね。持って行ってあげるから」

 とのことだ。

 しかし体の調子が一向によくなる気配がない。

 明日の朝には少し楽になっていればいいのだが多分無理だろう。

 

 目を閉じたらすぐに眠れたが三時頃目が醒めてしまった。

 喉がカラカラだ。

 アリシアを呼ぶか。

 声を出そうとしたけどうまく声が出ない。あー、やばい呼ぶことも出来ないとは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君って本当に鈍感だよね。そうなるまでほったらかしにしてるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 アリスが俺のすぐとなりベッドに腰掛けていた。

 水と粉薬を渡される。

 

「一人で飲めそう?」

「俺、苦いの嫌だ」

「何でそう私の前だと駄々こねるかな~。口開けて」

 

 体を優しく抱き起こされて薬と水を飲ましてもらった。

 見た目ほど苦くはない。それに体もだいぶ楽になった。

 

「すごい効き目だな。なんだこの薬」

「飲みやすいように『世界中の葉』を粉にしてみた。歩いて取りに行くの大変だったんだよ?」

 

 アリスはそう言って笑っていた。

 衣服はボロボロで擦り傷も少し作っている。

 きっと険しい山道を越えてきたのだろう。

 少し申し訳ない。

 

「はい、そこはありがとう、だよ」

 

 謝ろうとしたら口に人差し指を当てられた。

 それも、そうだよな。

 

「ありがとう、アリス」

「どういたしまして」

 

 本当に嬉しそうに笑う奴だ。

 ずっと存在を消し続けて孤独だったのにその笑顔は昔のままだ。

 やっぱり俺はまだアリスのことが好きなんだな。

 

 

「なあアリス。プレゼントがあるんだ」

「人数分買った指輪かな?」

「あ、ああ」

 

 

 やっぱり一つにしておくべきだったか。

 いや、『祈りの指輪』はあそこでしか買えそうにないし【MP】回復は貴重だから……ってそうじゃないだろ。

 

 

「ほら、消えている間もみんな同じ者をつけてれば仲間って感じがするだろ?」

 

 

 何を言っているんだ俺は。

 素直に好きって言ってしまえばいいのに。

 あー、くそ、熱のせいだ。頭がぼーっとする。

 

「そうだね」

 そう言いながらもアリスは受け取ろうとせずに左の手のひらを俺に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでアルス君はどの指にはめてくれるのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして悪戯っぽく笑ってみせる。

 俺は迷わずに薬指に指輪をはめてあげる。

 

「本当に君は……バカだよ」

「バカでいい」

「私よりいい子たくさん居たよ?」

「アリスがいいんだ」

 

 好きになったものはしょうがないだろ。

 

「すぐに私の存在は消えるのに?」

「すぐに『バラモス』を倒せば問題解決だ」

「何でこんな【わがまま】で【あまえんぼう】で【くろうにん】の勇者のこと好きになちゃったんだろ、私」

 

 さりげなくアリスは俺からの返事を返してくれた。

 

「アリシアが言うには【むっつりスケベ】らしいぞ」

「もっと嫌なんですけど」

 アリスは溜息をつきながらも笑っている。

 

「なあアリス。今日の日記に好きな人が出来たって書いていいか?」

「うわー、この人浮かれちゃってるよ。そんなにはしゃぐとまた熱上がるよ?」

「む、そんなにはしゃいでるか?」

「今朝私に声をかけた段階からね」

 

 そんなにはしゃいでいただろうか。記憶にない。

 まあ日記をつけて今日はもう寝るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険の書43―アルスの日記―

 火口に『ガイアの剣』を投げ込んだらとんでもないことになった。それも含めて最近の無理がたたったのか体調がすこぶる悪い。

 アリシアとティナの看病のおかげでずいぶんと楽になった。

 明日こそは『ネクロゴンド』攻略張り切っていくとしよう。

 あ、そうそう。好きな子が出来たから“バラモス”倒したら紹介する。

 性格が【命知らず】になった。

 

 




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